◎ 音楽とコピーと著作権

JASRACがリリースしている『音楽利用の手引き』には「ご注意」として以下のような文章があります。

音楽を使うこと、それは音楽を作った作詞家、作曲家の財産を、持ち主であるその人の許諾を得て使うこと。音楽を黙って使ったら罰せられるのは他人の財産を黙って盗んではいけないのと同じことだからです。
音楽は、みんなが楽しめる世界共通の言葉ですが、そうした音楽が長く親しまれ、また次々に生まれてくるのは、著作権制度のおかげなのです。あなたの好きな音楽を大切にしてください。

なるほどごもっともですが、よく考えると音楽を使うのと他人の財産を盗むのは同じなのかなぁ、という疑問が湧いてきます。そして違いがあることに気づくはずです。他人の財産は許諾を得て盗むわけにいかないでしょ、ということです。
この違いはおもに音楽には形がない、というところからきています。

CDやMDにはもちろん形がありますが、それは容器だけ。音楽は……耳には聴こえても決して見ることができません。そしてCDやMDなどの形をしてくれているうちはよかったのですが、音楽配信というものが始まって、音楽がデジタルデータの姿になると、文字通り形のないものになってしまいました。

おまけに音楽は簡単に複製を作ることができます。
形のないしかも複製をたやすく作れるものに、人があまりありがたみを感じないのはムリもありません。
友達がドライブによく合う曲ばかり集めたカセットテープをくれた。ダビングしてくれた手間に感謝をしても、
その曲はタダで当然と思いますよね。
友達が私の好きなAのニューアルバムをCDRに焼いてくれた。もはや手間にも感謝しないですよね。

これが友達にそっとあげるくらいならいいんですが、困ったことに圧縮技術で軽くなった音楽データはインターネットを通じてあっというまに世界中にばらまくことだってできてしまう。これが90年代のナップスターですね。
商品として売られているものが中味は同じでタダでばらまかれたら、これは商売上がったりです。
ところが、こんな場合もあげるほうももらうほうもあまり罪の意識がない。

ここが音楽の著作権のむずかしいところで、罪の意識のないものを法で規制しようとしてもなかなかうまくいかない。そこで冒頭のJASRACの文章のように、盗みと同じなんですよ、てなことをわざわざ言わなければならなくなる。でも人のモノを盗ってはいけないことくらい小学一年生でも感覚として解りますが、音楽をタダでコピーすることが悪いとはなかなか思えないんですね。

そこで権利者側は技術的にコピーできない手段で対抗する。
これがデジタル・ファイルのDRM(Digital Rights Management=著作権保護機能)やCCCDです。
盗むヤツがいるなら鍵をかけるしかない、というわけです。
しかし、悪いことだという自覚もちゃんとないところへ、いきなり鍵をかけたり、法律違反だからダメなんだと杓子定規に言うことがほんとうの解決になるのでしょうか?
それよりもまずは著作権の意味をしっかり知ってもらうことがだいじなのではないかと思います。

「コピーだからいいじゃん」じゃないんです。著作権のことを英語でなんというか知ってますか?
「copyright」。そうです、コピーの権利なんです。

著作権の考え方はまず楽譜の出版から始まったのですが(だから音楽出版社というのですね)、基本は同じ、それ以前はパトロンがいたり、演奏会でギャラを得たり、そういう直接的な収入しかなかったのですが、楽譜のコピー(印刷物)を販売することによって少しずつたくさんの人から印税(権利料)を得るというビジネスモデルが生まれたのです。それがレコードの発明により、音源そのもののコピーを販売できるようになるとそこから印税を得る。
あとはCDもデジタル配信も同じことです。

ひとつの音楽を作るのに、たくさんの人が関わっています。作詞家、作曲家、編曲家、シンガー、ミュージシャン、プロデューサー、ディレクター、レコーディング・エンジニア、アシスタントエンジニア、マスタリング・エンジニア、以上の人々のマネージャーなど関連する人々……音楽はそれら多くの人々の才能と労力の結晶です。
そのうち作詞家、作曲家が著作権、それ以外の人々およびスタジオ代などの経費が著作隣接権でカバーされるのです。
そして著作権および著作隣接権は「コピー」の売上から回収されます。

CDも1コピーならダウンロード音源も1コピーです。そのコピーの売上から少しずつ集められたお金が、その音楽に関わっているたくさんの人々に分配されていく。あなたの支払うお金はわずかでもそのわずかが積み重なって、すばらしい音楽を作ってくれた人たちに還元され、また新しい音楽を生む原動力となる。

音楽の喜びに対するお礼、そして将来の楽しみのための投資、それは音楽ファンの最小限の義務なのです。
ototoyの一員となったみなさまにはぜひそのことだけは理解していただきたいと思います。