生まれてきた時点で、自分にしかできないことって8割くらい終わっている
ーー今作はいろんなことに挑戦していますが、「ひとりごと」に関しては、ラップというよりメロディがある歌になっていますよね。
まくら : 料理をしたり街を歩いてる時とか頭の中でいつも歌っているんですよ。この歌詞は大阪に行った時に「地下鉄の風がすごくて飛ぶ!!」と思ったんですよ(笑)。それを思い出して〈地下鉄の突風〉っていうのを歌詞に出したんです。
ーー同じ曲のなかに出てくる〈尊さなんていらない〉っていうのは?
まくら : そのフレーズを入れたくて、ずっととってあったんです。つながりとしてはちぐはぐですけど、歌詞だから意味がなんとなく通じることってあると思うんです。メロディにのってるから、意味はあると思ってそのままのせました。
ーー〈尊さなんていらない〉っていう言葉は、すごく意味のある歌詞だと思うんですけど、まくらさんの何かしらの経験だったり日々思ってることの現れなんですか?
まくら : 基本的に自分のポリシーのようなものが現れている曲は「枕」の歌詞なんですけど、「生まれてきた時点で、自分にしかできないことって8割くらい終わっている」と思っているんです。最近は9割なんじゃないかって思うくらい実感していて(笑)。だからこそ、自分ってどうなりたいんだろうとか、何に憧れてるんだろうとか、そういうことを考えるようになったし、「さよなら、青春」の歌詞で〈持ってるものを数えて自分に言い聞かすより / ないもの数えて欲するほうが自然だ〉って言っていて。自分を肯定するのに「あなたこういうところがいいよ」っていうのは、私の自信に直結しないんですよ。それよりも「私はこれもない、あれもない、こんなことも本当はしたいのにできない」って確認作業の方が、自分を知ることに繋がるというか。私にしかできないってことを尊さだとしたら、そんなもの全然いらない。〈尊さなんていらない〉っていうのは自分にとってはそういう意味なんです。
ーーなんで、そういうふうに思うようになったんでしょうね。
まくら : たぶん自分に自信がないからだと思います。
ーー今も自信ないですか?
まくら : 自信ない… ですね。
ーーこれだけ作品を残して、それに対しての反響もあるわけじゃないですか。
まくら : いやー、まだまだです。今までの自分の作品を聴いてうらやましい部分もあるんです。これは今だったらしないなとか、できないなとか。でも、これからできることの方が多いから。あと何年かかるんだろうって思いながらやってます。
ーーまだまだやりたいことがたくさんあるんですね。
まくら : 例えば今回は発声方法でもわざと音域を低めにまとめて歌ったりとかしているんですけど、それも自分の声が嫌いだったからっていうのが元にあって。それこそ、声がいいって言ってもらっても自分がちょっと違うと思っていたら、違うところに向かうべきだと思って挑戦していて。
ーーたしかにヴォーカルの印象が違いますよね。意識的にそういう歌い方をしてたんですね。
まくら : 今自分がかっこいいと思っていることを、その時その時ちゃんとやりたいなと思っているんです。『アイデンティティー』ってタイトルがついていたり、核みたいな部分がちょいちょい出ているアルバムなんですけど、意外とそんな固い感じで作られているわけでもないです(笑)。
普通にラップしているだけじゃ太刀打ちできないと私は思っている
ーーそれこそ「さよなら、青春」には、ストイックにラップしているバースが出てきますよね。そこにも意図があったのかなと思ったんですけど。
まくら : 基本的に今までの曲もラップをやってるつもりだったんですけど、曲によってどんなラップが1番いいのか、どんなふうに乗っていたら1番いいのかを考えていて、そこはずっと変わらず作っていたので、どうだろう。
ーーいわゆるラップらしいラップというか、まさにヒップホップという感じがしたんですよね。
まくら : それはやっぱり1番やりたいことですよね。nagacoさんの曲だと、普通にラップしているだけじゃ太刀打ちできないと私は思っているんです。nagacoに負けちゃうみたいな(笑)。
ーー負けちゃう?
まくら : nagacoさんのトラックがいいから。きっちりリズムを揃えた抑揚がないラップはめっちゃハマると思うしかっこいいと思うんですけど、もっとできることがあるでしょって。それは『愛ならば知っている』の時くらいから漠然と自分の中にあって、一旦自分の中で考えが落ち着きそうになったときがあるんですけど、いやもっとでしょ!! って気持ちで、そういう想いも入っていると思います。
ーーおもしろいですね。nagacoさんに負けるっていう気持ちがあるというのは。
まくら : nagacoさんのトラックって、聴く人によってどんなふうに聴こえてるのかわからないですけど、綺麗じゃないですか? どんな景色にも合うというか。優しさみたいな要素があると思うんですけど、私には「さあ来い!!」みたいに聴こえるし、見透かされてる感じもする。すごい冷たく聴こえる時もあって、だからそれに負けられないなと思って。勝負じゃないですけど、気合いが必要というか。
ーーnagacoさんが最高のもの投げてきたら、それを越えるようなものを返さなければという気持ちに近いのかなと思うんですけど、それは今作でできましたか?
まくら : まだ全然できていないと思います。でも『アイデンティティー』はいいアルバムです(笑)。3日前から落ち着いて聴き返しているんですけど、いいなあと思って。nagacoさんも言っていたんですけど、2周聴いて1回くらいの気持ちで聴いていただけたら、だいぶしっくりくると思います。時間も短いですし。
別に青春が終わってもいいのにって思う
ーーあらためて聴いてみて、「さよなら、青春」は震災後に作ってよかったなと思いますか?
まくら : すごく思います。
ーー自分のどういう部分がこの曲には残っていると思いますか?
まくら : 震災があったことで新しい考えが生まれたというよりは、それまで考えて途切れてしまっていたことを取り戻したという感覚なんですね。それが何かっていうと、大人になってからのおセンチって許容してもらえない時があるじゃないですか? そうじゃないのに「何落ち込んでるんだ?」って変に励まされたり。大人になって無駄に励まされません(笑)?
ーー無駄に(笑)? どうかな。
まくら : 落ち込んでるように見えたら、本当は違うのに「飲みに行こう」とか言われたり。青春っていう言葉で連想されるのって10代くらいのことですよね。それをみんなはよかったって言うけど、よくなかったなと思う人も絶対いると思って。大人になったら大人になったで一生青春とか言ってる人もいるし、それが嫌なんです。別に青春が終わってもいいのにって思う。やっと終わったと思ったら一生青春とか言われて、ちょっと疲れるというか。だって、カンカン照りの2時3時がいいって言われているような感じじゃないですか? もうちょっと夕暮れがいいなって人もいるはずなんです。だから〈光は静かに強さを変える〉っていう歌詞を入れていて。その時その時をちゃんとそれらしくいたいというか、輝いてた時は輝いてた時でいいけど、輝くことを強要されたくない。大人のおセンチを許容しあうということを描きたかった。しんみりするような曲なんですけど、本当はそんな感じでもなくて。
ーーもうちょっと攻撃的というか主張がちゃんと入っている?
まくら : 主張も入っているし、私なりに同じことを思っている人に最大限優しくした気持ちも入っています。
ーーじゃあ「さよなら、青春」っていうのは、郷愁的なものとは違うんですね。
まくら : 全然違う。「おつかれー!!」みたいな(笑)。そんな感じ。
ーーあはははは。
まくら : 夕暮れは夕暮れでいいじゃんって思うんです。この後、夜がくることがわかっているけど、この夕暮れは夕暮れでいいじゃんって。それをわかるようになったことが、自分としては人生において嬉しいことの上位に入っているんです。
ーーありのままを許容することの大切さが要所要所に入っていたり、泉まくらのポリシーが反映されたアルバムなんですね。
まくら : になったと思います。あと、「かげろう」の歌詞を書く時に季節を連想させる言葉を入れたくて。タイトルからして思いっきし夏になっていたり、そういうのがちょいちょいあります。「日々にゆられて」も海が出てきたりとか、「通学路」も天候とか温度とかがなんとなく散りばめてるので、そういうの気づいてもらえたら嬉しいな。
ーー季語が入るって、俳句みたいですね。
まくら : そう! 俳句を習いたくて今教室を探しているんです。俳句の本も最近何冊か買いました。
ーー俳句こそリズムの芸術ですから。
まくら : 韻を踏むし、ダブル・ミーニングみたいな手法もあるし、季節も入っている。短い言葉の中で人と人の関係も見えたり、いろんなことが想像できるんですよね。かっこいい!! と思って。
ーーもしかしたら、泉まくらの行き着く先は俳句なのかもしれないですね。
まくら : かもしれないです、もしかしたら(笑)。
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『UMA』とは謎の未確認動物を意味する「Unidentified Mysterious Animal」の頭文字。アルバム・タイトルの通り未確認動物を冠した7曲が収録されており、メンバーでサウンド・プロデューサーであるケンモチヒデフミの楽曲のほかに、アメリカ・ロサンゼルスで活躍するMUST DIE!、フランスのコンポ―ザー / プロデューサーMyd、フライング・ロータス主宰〈BRAINFEEDER〉の所属アーティストでもあるMatthewdavid、ドイツのミニマル・バンドBrandt Brauer Frickが作曲を担当。
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PROFILE
泉まくら
福岡県在住。2012年、術ノ穴へ所属し同年発表されたデビュー音源『卒業と、それまでのうとうと』が各メディアで話題となり、くるり主催〈WHOLE LOVE KYOTO〉出演やパスピエとのコラボ音源『最終電車』リリースなど大きな注目を集める。2013年10月には待望の1stアルバム『マイルーム・マイステージ』が各媒体でBEST DISCに選ばれる。2014年公開TVアニメ『スペース☆ダンディ』では菅野よう子とのコラボ楽曲を提供。