2016/05/11 17:39

ART-SCHOOLがあの脆くも苛烈なデビュー・イメージをやり直す─原点回帰の8thアルバムを先行配信

「今のメンバーで、今の状態でデビューアルバムをもう一度作ろう」というテーマで制作された、ART-SCHOOLの8thアルバム『Hello darkness, my dear friend』。先行配信がスタートした。

2012年に木下理樹(Vo, Gt)、戸高賢史(Gt)に加えて、中尾憲太郎(Ba)と藤田勇(Dr / MO'SOME TONEBENDER)がサポート・メンバーとして加入し「第3期 ART-SCHOOL」として確立して4年。そして2015年に一時活動休止を発表、木下が自身主宰のレーベル〈Warszawa-Label〉を立ち上げて1年。"今のメンバーで、今の状態で"成熟を迎え、ART-SCHOOLが自身を更新した一作を作りあげた。作品には書き下ろしの新曲10曲に加え、約17年前にリリースされた木下理樹名義の初音源『TEENAGE LAST』に収録されていた「NORTH MARINE DRIVE」をリメイクし収録。特集では木下理樹のインタヴューをお届けする。

ART-SCHOOL復活作、1週間先行配信スタート!!

ART-SCHOOL / Hello darkness, my dear friend
【Track List】
01. android and i
02. broken eyes
03. Ghost Town Music
04. Melt
05. Julien
06. Paint a Rainbow
07. R.I.P
08. TIMELESS TIME
09. Luka
10. Supernova
11. NORTH MARINE DRIVE

【配信形態】
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / MP3

【価格】
単曲 205円(税込) / アルバム 1,851円(税込)

INTERVIEW : 木下理樹(ART-SCHOOL)

活動休止から1年、アルバムとしては前作『YOU』から2年の月日を経て、ART-SCHOOLの待望のニュー・アルバム『Hello darkness, my dear friend』がリリースされる。〈Warszawa-Label〉からの音源リリース第1弾となる本作は原点回帰を感じさせながら、ART-SCHOOLの果敢な挑戦を象徴する内容になっている。木下が活動休止期間中に考えたこと、ART-SCHOOLがART-SCHOOLである理由、変わっていくこと・変わらないもの。静謐ながらも熱く激しい、これぞオルタナティヴ・ロックという傑作を木下理樹自身の言葉で語ってもらった。

インタヴュー&文 : 小田部仁
写真 : 関口佳代

あまり潜りすぎるとねぇ、ブライアン・ウィルソンみたいに帰ってこれなくなっちゃうんですよ(笑)

──今回のアルバムの制作自体は、いつごろから行われたのでしょうか?

今回の場合は、夏ぐらいに自分でレコーディングに入って、だいたい18曲ぐらいひとりでレコーディングしました。それをバンドのみんなに送って、意見を聞いて。そこから進めていきました。

──オルタナティヴ・ロックのゴッド・ファーザー、あるいは異端児としても名高いスティーヴ・アルビニのスタジオで作り上げた前々作『BABY ACID BABY』は大変挑戦的なアルバムで、それに続く前作『YOU』は現在のメンバーでの集大成的なアルバムでしたが、今回のアルバムはどのようなコンセプトで作られたのでしょうか?

『YOU』はART-SCHOOLの集大成だと自分では思っていて。本当にいいアルバムを作れた、という手応えがあったんですね。チャートのリアクションも良かったですし。でも、いわゆる、メジャーというシステムの中で、理想のエンジニアさんと理想のスタジオに入って集大成の作品を作ったバンドっていうのはその先がないんですよ。冷静に考えたら、あとは惰性になっていくだけ。だから、今回に関しては、静と動だったら静の方に振り切った。繊細なイメージや、切なさを意識しました。それと、今のバンド・メンバーでそういうアルバムを作ったらどうなるんだろうという思いもあって。

木下理樹

──確かに前作は「ART-SCHOOLってこんなことできるんだ」って思うような作品で。今回は静かに熱くなっていくような…… 初期のART-SCHOOLの作品、例えば「サッドマシーン」なんかを思い起こさせるような質感があると思いました。そのあたりは、何か意識されたんですか?

ファースト・アルバムと音像を似せようとは全く思ってなかったんですけど、意識の中で、新鮮な風の中でやりたいって思いはあったので、そういう初期衝動みたいなものが「サッドマシーン」を思い起こさせるのかもしれないですね。でも、今回は作り方が今までとは全く違うんですよ。だいたいの音像やイメージみたいな楽曲の核になるものは完全にひとりで作ったんですね。レコーディングはメンバーにそれを渡して、あとは自分の頭の中にある不明瞭なものを探し当てて埋め込んでいくって作業でした。

──その制作過程の変化はどこからもたらされたんでしょうか?

うーん、聴く音楽が変わったからかな。とにかく、休んでいる間に聴く音楽が変わって。そんなに踏み込んで聴いていなかったものを聴くようになったんですよね。例えば、クラシックとか…… ジョン・フルシアンテの近年のソロとか。あと、ザ・ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』は取り憑かれたように聴いてたな。

──なるほど。先ほど、「静の方向に今回のアルバムは向かった」とおっしゃっていましたが、活動休止期間を経て「ART-SCHOOLとは何か?」見つめ直したという言い方もできる作品でしょうか?

自分の内側により深く潜っていく作業でした。どのアーティストもそうだと思うんですけど、あまり潜りすぎるとねぇ、ブライアン・ウィルソンみたいに帰ってこれなくなっちゃうんですよ(笑)。ジョン・フルシアンテも一時期帰ってこれなくなったでしょ。そこが今回、苦労したところかもしれないです。イっちゃわないようにすること……(笑)。

──木下さん自身も、今回の制作ではその正気と狂気の間に近づいたんでしょうか?

キング・クリムゾンのロバート・フリップ先生も、だいぶイっちゃってるじゃないですか。……そうそう、彼の話で好きなエピソードがあって。あるとき、インタビュアーが「あなたの人生を一言で言うと、どんなものでしたか?」って聞いたんですって。そしたら、ロバート・フリップは「本当に悲惨だった。悲惨そのものだった。その一言に尽きるよ」って答えて。で、またインタビュアーが「じゃあ、なんで音楽なんてやるんだ?」って質問したそうなんです。そしたら、ロバートは一言、「やらざるをえない」と答えたらしい。ちょっと記憶は曖昧ですけど。僕はこの話がすごく好きなんです。

──やっぱり、わかるところがありますか?

共感するところはあります。僕はロバート・フリップをとても尊敬しているんですが、やっぱり潜りすぎると取り込まれてしまいますからね。「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」というニーチェの言葉がありますけど、そうならないように本当に注意しました。本当にイっちゃうかもなぁ、って思いながらのダイヴですから。ただ、制作し終わった後、気づいてみると意外と余力は残っていたので「よかった」と思ったんですけど。

そういう青臭い部分を残してるのは、かつて自分がそういう子どもだったからです

──木下さんとしては、このアルバムにおけるチャレンジや到達点ってどのように考えているんでしょうか?

僕らがART-SCHOOLとして最初に出てきた時は、メロディの綺麗さとかアルペジオの美しさとか、あるいは内省的な歌詞の部分がフィーチャーされていたと思うんですけど。一回、今の自分の環境で、今のメンバーで、その感覚を丁寧にやってみたらどうなのかなと思って、試してみたんです。あとは、僕がひとりで作ってきたデモをバンドで超えるという挑戦。そうしないと、ART-SCHOOLとしてリリースする意味がないですから。出来上がった作品を今聴いてみると、もっともっといきたかったなっていう思いはありますけどね。現状、自分ができるマックスだったかなって思います。

──歌詞についても伺いたいのですが、ART-SCHOOLは「孤独」との向き合い方について、ずっと歌っているバンドだと自分としては感じていて。

そうですね。常々、自分の音楽は、家に帰ってひとりで聴いてくれればいいやって思っていて。「ちょっと生きづらいな」って悩んでる少年少女たちに聴いてもらいたいなと思ってますからね。そうじゃないと僕は、ART-SCHOOLをやっていないし。そうじゃなければ、もっと音楽的に完璧に成熟したものを追求していると思う。そういう青臭い部分を残してるのは、かつて自分がそういう子どもだったからです。その頃は、音楽が勝手に守ってくれてるような気がしていて。海外の知らない音楽家たちの作品を聴いて、「この人たちは、なんで僕のことを守ってくれてるんだろう?」って本気で思っていたし、救われていたから。で、自分がプロになったときに「これを一生やり続けるんだ」ってことは思ってましたね。

──なるほど。最初の頃は孤独への寄り添い方っていうのが「俺も苦しいよ」って言い方だったと思うんですよ。例えば「サッドマシーン」では〈灰になる前に 助けて 助けてよ〉と、歌ってらして。でも、今回大きく変化を感じたのは「NORTH MARINE DRIVE」がようやくART-SCHOOLの楽曲として収録されたことで。〈君を抱きしめてたい ブルーがグレーに変わるまで 誰かに笑われたっていい それだけを信じていたい〉。この「孤独」を包み込むような優しさを今、歌えたのは「変化」があったのかなと思って。

それは感じますね。さすがにねぇ、成熟することを諦めるという意味ではなくて「俺も苦しい俺も苦しい」って歌ってるアーティストって、30代も半ばになってくると、魅力を感じないんですよ。だから、今はどっちかっていうと、「ちゃんと逃げ場所はあるよ、シェルターはあるよ」って歌ってる感じです。

──その表現の変化を潔く選べたっていうのも、ART-SCHOOLの凄みだな、と思います。ナイーヴな表現を一途に愛し続けているファンの方もいらっしゃると思いますし。下手するとそっぽを向かれてしまう可能性もあったわけで。

でも、ファンの方はわかってくれてるはずだと思いますけどね。だって、バンドっていうのは流動的だし、言ったら生き物ですから。生まれて成長して死んでゆく。固体として固まってしまったら、それは生き物ではない、別のものだと思うんで。そこには、僕の表現したいことは何もないし。固まった状態は死んでる状態だし、感情が溢れない。

──常にバンドというもののイメージを刷新していきたいと思いながら、アルバムのラストにデビュー当時から披露していたソロ曲の「NORTH MARINE DRIVE」を入れた理由を伺いたいです。

今のこういう心境だから、ようやくこの歌を歌えるなって思ったんですね。で、エンディングにちょうど良い曲だなって思って。「これで、この1枚のアルバムの旅が終わります」って感じですね。

──今の心境って、具体的にはどういう気持ちなんでしょうか?

誰かのためのシェルターを作りたいって思いながら音楽をやってきて、それが音楽的に少し達成できたかなって気がしていて。だから、「もう、これ歌っていいよね?」ってことですね(笑)。昔の日記とかを読むと「当時こんな想いだったの?」って。「こんなにピュアだったんだ」って思うことあるじゃないですか。そういう気持ちもあって。過去を見たときに、襟を正すような想いですね。

僕にとっての死ぬ覚悟っていうのは音楽を作ることなんだと思う

──全然話が変わってしまうんですけど、木下さんが今1番楽しい瞬間ってなんですか?

楽しい瞬間? やっぱり、お笑いも好きだから、昔の『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』とか観ながら、缶チューハイを飲みながら、「ははっ……!」って言ってるとき。

──その小声な感じが迫るものがありますね…(笑)。

え、俺、もうイってるのかな……?

──ちょっとギリギリだと思いますけどね(笑)。

小声ですよ。爆笑してたら、それはもうイってると思うから。ギリのところで。「ははっ……」ぐらい。

──逆に「辛いな」とか「周りの人が辛そうだな」って思えることあります?

子どもたちについては思うところはあります。今ある社会の問題を結局、10年後、20年後の子どもたちが背負っていくわけですから。今のままだと「これどうする?」っていうのは山積みですよね。本当に子どもたちに逃げ場がない。それは、今の大人が死ぬ覚悟で守らなきゃいけないと思うんですよ。自分だってそうだった。子供だった頃の自分は、それを音楽や映画に見出していて。だから、自分としても音楽をやっている理由っていうのはそこにしかないです。僕にとっての死ぬ覚悟っていうのは音楽を作ることなんだと思う。

──このアルバムに対するリスナーの反応は楽しみですか?

楽しみですね。音楽的にね、ちゃんと高いクオリティのまま、いわゆるART-SCHOOLってバンドを維持できたと思うんで。自分の中でホッとしてるし。リスナーも聴いてホッとするんじゃないかなって思ってます。「こんな風になって残念だなぁ」って思うことはあんまりないんじゃないかな。

──将来的には、ニール・ヤングではないですが、ある意味で、リスナーから「残念だな」って思われるような作品も作ってみたいですか?

ドイツに拠点を移して、カンみたいな作品を作るとか……(笑)。いや、でも、極論を言うと、それこそ『ペット・サウンズ』とかになっちゃうからね。本当にイくまで潜っていかなきゃいけない。彼らが追い求める意味は僕にもわかるんですよ。彼らは芸術に迫りたかっただけで。でも、音楽というもはあまりにも巨大すぎる…… 僕なんてヒヨッコもいいところですからね。偉大な指揮者の方こそ、音楽に対して、謙虚ですよね。

──でも、いつかは高みまでたどり着いてみたいと思いますか?

そうですね。「ビートルズの音は言語として語れる」って、ジョン・フルシアンテが言ってますけど、「あぁ、イっちゃってるな……」って思いますもんね(笑)。「え?」って、インタヴューを二度見しちゃいましたもん。僕もそういう高みまで達していきたいですよね。なんだかんだモノを作ってますから。飛び込んで、ゴーっといった先にあるのは、天国なのか何なのか。深い海の底だったら半端ないですよ。死にます。

──今回のアルバムも、そのギリギリ感はかなりあると思います。

ねぇ。「ぎりぎりまでイってごめんなさい」って感じですけどね(笑)。

LIVE INFORMATION

東京キネマ倶楽部プレゼンツ 〜ヨカノスゴシカタ 3〜
2016年5月12日(木)@キネマ倶楽部
出演 : ART-SCHOOL / フルカワユタカバンド

モルタルレコードpresents 木下理樹 単独公演『NEW ALBUM「Hello darkness, my dear friend」発売記念弾き語り』
2016年5月22日(日)@埼玉熊谷モルタルレコード2階

ART-SCHOOL『Hello darkness, my dear friend』発売記念インストアイベント
2016年5月29日(日)@大阪FLAKE RECORDS
時間 : OPEN/START 20:00
イベント内容 : ミニ・ライヴ&サイン会
出演 : 木下理樹(ART-SCHOOL)
配券対象店 : FLAKE RECORDS

2016年6月4日(土)@タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
時間 : START 15:00 ※イベント開始30分前(14:30)に7Fエレベーター横階段にご集合ください
イベント内容 : トーク&サイン会
出演 : 木下理樹(ART-SCHOOL) / 小野島大(音楽評論家)
配券対象店舗 : タワーレコード新宿店・渋谷店

※インストアイベントの参加方法の詳細はオフィシャル・サイトをご確認ください

ART-SCHOOL TOUR 2016/Hello darkness, my dear friend
2016年6月11日(土)@千葉LOOK
2016年6月14日(火)@京都MOJO
2016年6月16日(木)@岡山IMAGE
2016年6月17日(金)@福岡THE Voodoo Lounge
2016年6月21日(火)@さいたまHEAVEN'S ROCK 新都心
2016年6月23日(木)@新潟CLUB RIVERST
2016年6月24日(金)@仙台enn 2nd
2016年6月26日(日)@札幌COLONY
2016年7月1日(金)@梅田Shangri-La
2016年7月3日(日)@名古屋ell.FITS ALL
2016年7月9日(土)@恵比寿LIQUIDROOM

UKFC on the Road 2016
2016年8月16日(火)@新木場STUDIO COAST
出演 : ART-SCHOOL / BIGMAMA / lovefilm / MO'SOME TONEBENDER / POLYSICS / TOTALFAT / and more…

PROFILE

ART-SCHOOL

2000年、ART-SCHOOL結成。

同年9月、1stアルバム『SONIC DEAD KIDS』をリリース。この頃より全国区でのライヴを展開するようになり、美しく純度の高いポップな局長と轟音ギター、そして木下のあどけなく危うげでヴォーカルで表現する独特の"うた"の世界観を多数のオーディエンスに印象づけ、話題となる。何度かのメンバー・チェンジや活動休止を乗り越え、2012年、現在の「第3期 ART-SCHOOL」としての活動を開始。

2015年2月、新木場スタジオコーストのでのライヴをもって「これからの未来への準備期間の為」活動を休止。同年5月、木下理樹が音楽、ライヴ制作、アートワーク・デザイン、フォトグラフ、アパレルなどクリエイティブで柔軟な発想を持った各ジャンルのスペシャリストが集結したチーム「Warzawa-Label」の設立を発表する。

2015年12月31日〈COUNT DOWN JAPAN 15/16〉のステージで復活ライヴ、2016年2月13日の新木場スタジオコーストでのワンマンライヴ「Easter」で本格的に活動を再開した。2016年5月18日に8thアルバム『Hello darkness, my dear friend』をリリース、6月から全国ツアーを開催する。

>>ART-SCHOOL Official HP

[インタヴュー] ART-SCHOOL

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