2016/02/12 21:31

洗練された電子音の世界に酔いしれるーー大学生の私が影響を受けた、エレクトロニカ / テクノ・ミュージック3選!!

情報が多く飛び交う今の時代、誰にでも分かりやすく、伝わりやすいものが話題になり、そういうものに人は目がない。そして、流行りは瞬く間に変わっていく。そんな時代の中で、決して華やかとは言えないが、息の長いものの一つとして、私は、エレクトロニカ / テクノ・ミュージックが好きだ。大学生の私の周りで、それらを聴いている人はほとんどいない。ものすごく好きだと言う人はかなり少数派である。正直、"なぜ、こんなにかっこいい音楽を聴かないの?"と、言いたいぐらい(苦笑)。聴けば聴くほどに深淵を見るような圧倒的な世界観で人間の感情を揺さぶる。決して表向きではなくアンダーグラウンドを生きるディープさは、人間の心底に通ずるもので、聴く者の探究心を掻き立てる。正直、気分を高めたり、声を上げて盛り上がる音楽とは言えない。しかし、その”静なる高揚”こそが無限の遊び要素と揺るぎなさを持つ。聴く場所や環境によって、気分を高めたり、逆に心を落ち着かせ集中力を高める面白さも魅力だ。そんなエレクトロニカ / テクノ・ミュージックから、大学生の私が影響を受けた名盤3枚を紹介する。一貫した繊細な音色と緻密なリズムによって織り成される、美しいサウンドスケープを体感して欲しい。そして、この3枚を入り口に独自の遊びを深めて、エレクトロニカ / テクノ・ミュージックの奥深さにはまって欲しいと思う。

選・文 : 木本日菜乃

「洗練された電子音の世界に酔いしれる」

Ametsub

日本人エレクトロニカアーティスト、Ametsubの3rdアルバム。2009年にリリースした『The Nothings of The North』は、世界中の幅広いリスナーから大きな評価を獲得し、坂本龍一の2009年ベスト・ディスクに選ばれるなど、現在のシーンに揺るぎない独特の地位を築き上げた。
人間や自然、生きるものの内側にある”静”を思わせるサウンドスケープは、感動的な美しさと儚さを感じる。これまでの作品は、そんな決して外からは見えない、内に流れるものの印象を受けたが、本作には圧倒的な広がりが存在し、たちまち見えてくる雄大な大自然を描いた世界観に、心を奪われる。ただ、美しい自然の中にたたずむのは自分一人。冷たく孤独な世界である。しかし、そこには確かな温かさを感じる。それは淡い光で優しく包み込むような、そんな温かさ。川のせせらぎや鳥の鳴き声、それらの自然界の音と、それに相反する電子音。違和感を与えず、楽曲に自然な響きと生命力を宿し身体に染み込む。

PROFILE

Ametsub
東京を拠点に活動する音楽家。現在までにFLUSSI(イタリア)、STROM(デンマーク)、MIND CAMP(オランダ)、MIRA(スペイン)、Fuji Rock(日本)、Sonar Reykjavik(アイスランド)などの大型フェスへも出演し、ウクライナやベトナムでの演奏も行う。アルバム"The Nothings of The North"は世界中の幅広いリスナーから大きな評価を獲得し、坂本龍一「2009年のベストディスク」や、YELLOのボリス・ブランクによる"10 Favorite Electronic Records"にも選出される。スペインのL.E.V. Festivalに招聘され、Apparat/Johann Johannson/Jon Hopkinsらと共演し大きな話題を呼ぶ。最新作"All is Silence"は新宿タワーレコードでSigur Rosやマイブラなどと並び、洋楽チャート5位に入り込むなど、いまだに大きなセールスを記録中。2016年、Ninja Tune所属FaltyDLのセルフレーベルから12インチ EPをリリース、EU諸国でのライブも予定している。北極圏など、極地への探究に尽きることのない愛情を注ぐバックパッカーでもある。
>>Ametsub Official HP

AOKI takamasa

2006年に発売されたコンピレーション『HUB SOLO & COLLABO 2004-2005』を経て、初のアーティスト・アルバムとしてリリースされたのが本作。『PARABOLICA』はイタリア語で放物線。F1などに使用される高速サーキットの難易度の高い最終コーナーの名前でもあり、あえて避けていたという4/4のリズムを多様した、”大きなチャレンジ”と語る作品である。音色や音の数、ありとあらゆるものを使うことで、楽曲は華やかにもできるが、あえて音の最小限を思わせるような電子音や、声をあげて、飛び跳ねたくなるような盛り上げ方を求めていないところに、引き算の美学を感じる。そして、ミニマルなサウンドから展開される緻密なリズムに、体の細胞までもが騒ぎ出すようだ。電子音や金属音のような無機質な音色は、彼の手によって操られ、美しい曲線を描きながら脈打つ。粒子のようなサウンドがおりなす緻密なビートプロセスは、音と音の隙間を埋めるだけでなく、その隙間にも命を吹き込み、生命力を宿す。サウンドへのこだわり、音が影響させる空間の立体感、そして根底に流れる重低音への追求さが美しい。

PROFILE

AOKI takamasa
1976年生まれ、大阪府出身。自身にとってのファースト・アルバム「SILICOM」をリリースして以来、自らの方法論を常に冷静に見つめ続け、独自の音楽表現の領域を力強く押し拡げる気鋭のアーティスト。2004年~2011年はヨーロッパに拠点に制作活動、世界各国でのライブ活動を行い、国際的に非常に高い評価を受けている。2011年に帰国し、現在は大阪在住。 これまでにPROGRESSIVE FOrM、op.disc、fatcat、raster-noton、commmons、国内外の人気レーベルからのソロ作品や、過去には高木正勝との ユニットSILICOM、Tujiko Norikoとのコラボレーション・アルバムもリリース。また、坂本龍一、半野喜弘、サカナクション等のリミックスやエンジニアとしてBUN / Fumitake Tamuraらのミックスも手掛けている。音楽活動の他、写真家としても精力的に活動中。2013年より『A.M.』を始動。
>>AOKI takamasa Official HP

GONNO

日本の次世代ハウス/テクノを代表する旗手として活躍する、GONNOのワールドワイド・リリースとしてはデビュー・アルバムとなる2015年リリースの作品。
2011年にウルグアイの〈International Feel〉からリリースされた『Acdise #2』を筆頭に、一躍国際的に注目されることとなったGONNOは、世界でのプレイや楽曲提供など、幅広い活動を通して着実にキャリアを重ねてきた。そんな彼に集まる注目や期待を裏切らない一作となっている。
1曲目からリスナーは幻想的な世界へと引き込まれ、やがて万華鏡のように視界と空間が揺らめくサウンドスケープに体を委ねる。暗闇の中の孤独と探検心、探るようにして進み、ダンス・トラックにうつると視界の開けた空間に放り出される。今作にはインナー・サイエンス、クリスタル(Traks Boys/(((さらうんど))))の参加した楽曲もあり、色彩豊かな仕上がりになっている。じっくり、ディープなうねりと抑揚感が心地よく、まさに夜を深く潜れる。そして朝日が昇るその瞬間までを楽しめるモダンエレクトロニックなアルバムである。

PROFILE

GONNO
日本の次世代ハウス/テクノを代表する旗手として、アシッドかつメロディック、幅広くストーリー性溢れるプレイで各地で活躍。2011年にInternational Feel Recordingsからリリースされたシングル"Acdise #2"が、ロラン・ガルニエ やジェームス・ホールデン、フランソワ・ケヴォーキアンやDJエンマ等にプレイ され、2011年のベストテクノレコードと言えるヒットを記録。 2013年にはジェ フ・ミルズ "Where Light Ends" のリミックス提供を初め、NYのBeats In Space Recordsからの"The Noughties EP"、ALTZとのスプリットシングル、Calm別名義 K.F.のリミックス等を次々と発表、海外公演も数年に渡り行い、同年にはロンド ンBoiler Roomに初出演も果たした。 2015年には4年ぶりにInternational Feel より新作"Obscurant"を発表。従来のアシッド/メロディックな要素を残しなが ら、スローモーかつポストクラシカルなアプローチを意欲的に取り入れた本作 も、収録曲"A LIfe With Cralinet"はVice Magazine UKの音楽チャンネル "THUMP"の2015上半期において4位に取り上げられている。 8月には自身10年振り の、ワールドワイドではデビュー作となるアルバム "Remember The Life Is Beautiful"を発表、PitchforkやResident Advisorなど海外各メディアで賛辞を得る。毎年恒例の欧州ツアーも2015年秋にはベルリンPanorama Barやグラス ゴーSub Clubをはじめとした各国で大盛況に終わり、最近ではBoiler Roomの5周 年にも出演し話題となった。
>>GONNO

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