2015/06/06 15:44

「皆、希望を持とうよ」——LOST IN TIME、バンドとしての新機軸が詰まった9thアルバム『DOORS』に迫る

海北大輔(LOST IN TIME)

2001年の結成から現在まで、止まることなく積極的な活動を見せてきたロック・バンド、LOST IN TIME。これまで8つのアルバムを発表してきた彼らが今回、2年ぶりの新作『DOORS』をリリース。シンプルな楽器構成の上で練りに練られたアレンジ、バンドとして新機軸であるインスト・ナンバーなど、大変聴きごたえのある作品を生み出したメンバーの1人、海北大輔(Vo, Ba, Pf)へインタヴューを行った。海北自身、「今まで作ってきたどのアルバムにも負けない足跡、レコードを残せた」と語る本作は、どのように生み出され、そしてどのようなメッセージが込められているのだろうか。未来への希望を込められた新作と、彼の声にぜひ耳を傾けていただきたい。


LOST IN TIME / DOORS
【Track List】
01. 366
02. Synthese
03. 燈る街
04. No caster
05. 小さな隣人
06. ligarse
07. 予知夢
08. 22世紀
09. 呼ぶ
10. hurry
11. home
12. 明け星

【価格】
単曲 205円(税込) / アルバム 1,851円(税込)

【配信形態】
WAV / ALAC / FLAC / AAC(16bit/44.1kHz) / mp3

LOST IN TIME - 366
LOST IN TIME - 366

INTERVIEW : 海北大輔(LOST IN TIME)

3人で作れた

——今回のアルバム『DOORS』は、前に進もうとする力と、ここに留まろうとする力がビシビシ伝わってきました。手応えはありますか?

今までと1番違うところは、思いが強すぎて情念めいた「すげぇの出来たから聴いてくれ!」っていうのがなくてもうちょっと「サラッと流れ聞きでもいいから聴いてよー」っていう感じなんです。その代わり、聴いてもらえたら、耳を持っていける自信はすごいあるけどね。リリースの時点で、曲と僕たちの間にいい距離感が出来上がっている感じなんですよ。

——具体的にそれはどういうことでしょうか?

今までは、「これが俺の曲だ!」という主観的なビジョンがあって、過保護なくらい1曲1曲を丁寧に説明したい欲があったのが、今回はそれがないんですよね。皆に聴いてもらう前の段階で、曲自体が自立した状態でいてくれているのか、俺の過保護なところがなくなったのか。

——それはなぜですか?

このアルバム1枚に自信があるからだと思うんです。売れる、売れないってことじゃなくて、手に取ってくれたお客さんが、間違いなく良いものって思ってくれる確信があるからかな。

——今までのアルバムとどこが違うんですか?

誤解を恐れなくなったんですかね。自分の思うところと違う捉えられ方をされたらどうしようっていう不安みたいなものがなくなりました。

——それは歌詞の部分?

そうですね。今は歌詞の部分で話をしましたが、オケに関して言うと、今の三井君(Gt / 三井律郎)を交えた3人編成になってからのサウンドに、また一つ自信が持てたというか。

——サウンドに関しては、どんなことをしようと思いましたか?

サウンドに関しては、三井君と源ちゃん(Dr, Vo / 大岡源一郎)の意見も大きくて、2人とたくさんディスカッションしました。それぞれの到達したい目標がわかったし、アルバムが出来てから2人とも達成感を感じてるようでもあったから、それに関しては俺も2人にインタヴューしたいなって気持ちもあるんです。それくらい3人で作れた。

——三井さん、今回のギター良いっていうか、すごいですよね。

彼は人間的にも素晴らしい男だし、プレイヤーとしてもめちゃめちゃいい。それでいて三井君は変人だわ(笑)、っていうような感性が今までで1番出てますよね。三井君は何でも出来るから、時にどんどん整えてお行儀よくなりすぎちゃう節があって。音楽の知識がいっぱいあるし、テクニックもあるから、整頓しつつもいびつさをちゃんと残してやって欲しいっていう注文を出し続けていたんです。それに対して三井君が出してくれた答えが、今までとは違う風通しになってる。

——なるほど。

三井君が「ligarse」っていうインスト曲のトラックを作ってくれたのも今までと違うところで、あれは僕は完全にノータッチなんです。「小さな隣人」と「予知夢」が繋がるようなストーリーになったらいいねって話の時に、三井君が「繋ぎになるようなインストを作ってみるわ」ってあの曲を持ってきてくれて。それが、本当に素晴らしくて。タイトルは皆で決めたんですけど「ligarse」ってのはスペイン語で「繋ぐ」って意味みたいですね。

——同じくインストの「hurry」も面白い曲ですよね。

「hurry」は「home」と合わせて「hurry home 家路を急ぐ」って意味にもなるねって。この「hurry」は面白いですよね。全員で“わー”って作った感じです(笑)。三井君がピロピロしまくってる。

——すごく広がった感じがありますよね。初期のアルバムとは随分スケールが違うように感じます。

うーん、僕自身は狙っていないですけど、もしかしたら三井君、源ちゃんは狙っていたかも。最近思ってるのは、LOST IN TIMEと俺の間にいい意味で距離感が出てきていて、そういうバランス感覚でやっと作れるようになってきたのかなって。つまり、LOST IN TIME=俺じゃなくて、俺=LOST IN TIMEだし、三井君=LOST IN TIME、源ちゃん=LOST IN TIMEというか。

——それはソロをやった影響ですか?

僕にとってはそうですね。僕自身moke(s)って別プロジェクトでベースを弾くバンドに加入したり。源ちゃんも外仕事をやってて、三井君もあちこちでギター一本で食べてる人間ですから。ソロワークや別々の活動っていう、昔の僕らがやってたら色んな人を不安にさせていたことが、良い結果を生む大事な動きの一つになってますね。

孤独と仲良くなる発想

——ライヴは、バンドとしてはやりやすくなった?

ものすごくやりやすいし、すごく楽しい。今作は僕のわがまま放題なところがほぼないから例えば僕がへまをすると、三井君も源ちゃんも怒るんですよ(笑)。そのバランスがすげぇいいなーって思ってて。僕が今一生懸命やるってことは、三井君と源ちゃんの期待に答えられる僕でいるってことです。

——1曲1曲を扉に例えると、『DOORS』はそれぞれの曲の持つ鍵の形がそれぞれ違うと、資料に書いていました。これを詳しく聞きたいです。

僕の中では結構矛盾してる気持ちを1枚の盤に落とし込めた感じがするんですよね。今までそういう作品を作ったことがないような気がしてるんです。

——それはなぜですか?

1つ1つのものにこだわるようになって、全体のこだわりはあんまりなくなったんです。この曲は歌詞にこだわり抜いたってのもあれば、この曲はバンドとしてのアンサンブルに特化してて歌詞はどうでもいいんだよねっていうのもある。

——海北さんがこの全12曲に込めたメッセージはあるんですか? 1番メッセージの強い曲ってなんですか?

どの曲もメッセージがあって、どの曲にもそれぞれの曲の強さがあるような気がしてるんです。それは「ligarse」っていう三井君が作ったインスト曲にも感じてるんですよね。この言葉のない、俺がほとんど携わらないっていうのが、強烈なメッセージだと思うんですよ。三井君に全てを委ねてるっていう。今までなら、多分どっかしらに僕の影響を出したかったと思うんですよね。そういうのが、この曲には一切ないんですよ。三井君に全てお任せします、みたいな。確認のジャッジで、これいいよって言うは言うんだけど… って考えると1番メッセージが強いのは「ligarse」かもしれないですね。逆転の発想じゃないけど、僕の歌詞とかそういうことじゃなくて、LOST IN TIMEで俺が全くノータッチな曲がアルバムに入れられてるって時点で、すごいメッセージじゃない? っていう。

——この曲のシンセはどっちが弾いてるんですか?

シンセも全部三井君です。あれは三井君と源ちゃんが打ち合わせたりしながら作ったんです。

——全部ですか? 海北さんは?

ライヴではおそらく僕が弾きますけど、本当にノータッチです。ミックス・ルームの方で録り音を、気持ちいいなーって思いながら聴いているだけ(笑)。「予知夢」のエフェクトなんかも源ちゃんのアイデアで。どんどんそうやって、みんなそれぞれがアイディアを持ち寄って。

——「燈る街」は震災のことを歌っているんですか?

震災の3.11でもあり、阪神淡路大震災の1.17でもあります。今年の正月に実家にいる時に、テレビかウェブか忘れたんですけど、若い男の子や女の子が自分の赤ん坊だった頃の写真を持ちながらニコニコしているのがずっと続く映像を見たんです。それは震災から20年経った神戸の街のハタチの子たちなんですよ。震災があってその年に生まれた子供たちが今大人になって笑いながら神戸の街並みと一緒に昔を振り返っているのを見た時に、すげぇ胸が熱くなって。福島の沿岸部の、今帰ることが難しくなってしまった街の人たちにも、こういうシーンがいつかもしかしたら訪れるかもしれないって思って、ものすごく自分の胸に火がパッとついたような感動を覚えたんです。それで、何が大事なのかなって思った時に、イメージすることからじゃないと世界って絶対よくならないなーと。そういうみんなの心に良いイメージの火が燈るような曲が作りたいと思って作ったのが「燈る街」ですね。だから、この曲で歌われている“あの日”が3.11の人もいれば1.17の人もいて、例えば事故や病気で大切な誰かを亡くしてしまった人だったり、もっと別の災害とか、災害じゃなく自分の過ちでっていうこともあるかもしれない。その悲しみの中からでさえ、僕らは希望を見出して新たな一歩を進んでいこうって。悲しいこともいっぱいあるけど、そんな毎日の中でどっかしらで何度かは笑いあえることもあるじゃないっていう思いで。20年経っても神戸での傷がまだ癒えてない人もいるかもしれない。そういう世の中だからこそ、まずは心に火が燈るような目印が大事で、そういう未来を皆で描いていかないかい? って。

——海北さんの中に孤独とか不安があると思いますが、このアルバムにおいて希望という力が強くなってきたのかなと感じました。

人間、皆根っこに寂しさってのは絶対あるんですよ。それは絶対にいなくならないってのが年齢としてもいい加減わかってきたし、いなくならないのだとしたら、仲良くなるしかないと思ったんです。孤独と仲良くなる発想っていうか… そう考えると、もはや孤独ですらないなって思えて。

——孤独と仲良くなる。

孤独とか、緊張とかネガティブな感情です。ライヴの前は未だに緊張するし、でも緊張との付き合い方が分かってきて、緊張していてもステージ上で胸は張れるようになって、時にその緊張感が練習の時以上のミラクルを生んでくれたりもするから、決して嫌な奴でもないんですよ。

未来ってものに対してあまり恐れがない状態

——吉野さん(吉野寿 / イースタンユース)や吉村さん(吉村秀樹 / ブラッドサースティ・ブッチャーズ)さんの域に達してきている気がします。

それはめちゃめちゃ光栄ですよ(笑)。まだまだ全然です。まだまだ(笑)。

——あの人たちは孤独で寂しいというのをわかってるから、ギターを鳴らしたら「うぉー」って言うしかない。

闇の深い孤独に感動することもあるし、燃え上がるような情熱に焦がされて心が動くってのもいい。イースタンにしてもブッチャーズにしても両方があると思うんです。僕は今までどっちかだけの評価を求めていたから、自分が求めてる反対側の評価ってなかなか受け入れられなかったんです。だけど、今は個人的には両方大歓迎。LOST IN TIMEとしてもどっちも受け入れられるくらい器が深くなってきたかなって思います。決して広くはないんですけどね(笑)。

——このアルバムのメッセージは、“希望を持てよお前たち”なんだと思いました。

なるほど。でも、確かにそうですね。今まではきっと、希望を持ちたいって歌ってたんです。それが今作では希望を持ってみようよ。未来ってそんな悪いもんじゃないぞって言えるようになったのが1番変わったとこかもしれないですね。僕自身、人生を謳歌出来てると思います。今の自分がネガティヴかポジティヴかって聞かれたら間違いなくポジティブなんです。でもネガティブな自分ももちろんいる訳で、両方で心のバランスをとっているんで、そのアウトプットの仕方がちゃんと出来てきた気がします。

——ソロ活動は、どう返ってきました?

自分の歌を客観的に見られるようになってきたかもしれないですね。バンドの楽しさも再確認したし。

——次のヴィジョンは、もう見えてる?

見えてるというか、見ようとしてるって言い方の方が正しいかもしれないです。今までアルバム出来たらもう、出来たー! って大の字で寝ちゃうように曲作りから離れることが多かったんですけど、最近はアルバムが完成してもまたすぐに、次はどんなものを作ろうかなーってなりますね。それは『( )トラスト オーバー サーティー』作った時から続いていて。『( )トラスト オーバー サーティー』作った年に『LIFE IS WONDER』ってアルバムを出して、1年間で2タイトル出したっていうのが初めての経験で、その反動として去年は割とソロ・ワークやりたいなと思ってやってたら、あれよあれよってバンドがよくなってきたんです。これソロとか言ってる場合じゃねえなってなって(笑)。そこから曲作りを始めて出来たのが今作なんです。

——LOST IN TIMEっていう音楽は確信に変わりつつあると思いますが、その中で変化するか構築するか、どちらにいきますか?

どんどん変化し続けますね。構築すら変化の一つというか。きっとこの次の作品も変わると思うし、そのまた次も変わるだろうし。変わるっていうのは、昔に戻るっていうのも一つだし、そうやって戻ることも含めて色んなところにチャレンジしながらやっていくと思います。未来ってものに対して恐れよりも好奇心が勝っている状態。つまりそれが、皆、希望を持とうよってことだと思いますね。

インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
写真 : 大橋祐希

海北大輔による講座を開講!!

【オトトイの学校×ミューズ音楽院】『MUSIC IS THIS~海北大輔の、今まだ俺たち音楽で食っています!~』


【講座概要】
LOST IN TIMEの海北大輔(Vo, Ba)と共に行っている公開講座「MUSIC IS THIS〜海北大輔の、今まだ俺たち音楽で食っています! 〜」のvol.4。結成14年を迎えたLOST IN TIMEは、6月3日に通算9枚目の『DOORS』を発表。「今まで作ってきたどのアルバムにも負けない足跡、レコードを残せたと自負しています」と語った海北のその想いは? 前作『LIFE IS WONDER』から1年半の間に何があったのか? そして結成14年を迎え、今彼は何を思う?

※皆様から質問を募集します。この講座に参加予定の方で、海北大輔に聞いてみたいことがあるかたは、事前に、school-info@ototoy.jpに、その疑問を送ってください。出来るだけお答えします。

【日時】
2015年6月29日 19時30分〜

【受講料】
無料(要予約)

【会場】
〒151-0053 東京都渋谷区代々木1-31-2
ミューズ音楽院本館 1Fホール

>>講座の詳細 / ご予約はこちらから


過去作品

LIVE INFORMATION

LOST IN TIME 9th album『DOORS』Release tour『TOURS』

2015年9月19日(土)千葉LOOK
2015年9月20日(日)仙台PARK SQUARE
2015年9月22日(火・祝)福島Player’s Cafe※
2015年9月25日(金)横浜F.A.D YOKOHAMA
2015年9月27日(日)水戸LIGHT HOUSE
2015年9月29日(火)八戸ROXX※
2015年9月30日(水)宮古KLUB COUNTER ACTION MIYAKO※
2015年10月1日(木)久慈LIVE HOUSE UNITY※
2015年10月2日(金)大船渡LIVE HOUSE FREAKS OFUNATO※
2015年10月3日(土)いわきburrows※
2015年10月4日(日)川越トライシクルカフェ※
2015年10月9日(金)金沢GATE BLACK
2015年10月10日(土)神戸太陽と虎
2015年10月11日(日)岡山CRAZYMAMA 2nd Room
2015年10月12日(月・祝)松山WstudioRED
2015年10月14日(水)鹿児島SR HALL
2015年10月15日(木)福岡INSA
2015年10月17日(土)大阪・梅田シャングリラ
2015年10月18日(日)名古屋APPOLO BASE
2015年10月23日(金)札幌Sound Lab mole
2015年10月25日(日)東京・恵比寿LIQUID ROOM
ツアー・ファイナル・ワンマン・ライヴ

PROFILE

LOST IN TIME

海北大輔(Vocal, Bass, Piano)

大岡源一郎(Drums, Tambourine, Bell, Chorus)

三井律郎(Guitar, AcousticGuitar, Bouzouki, ElectricSitar, Chorus)

海北大輔が生み出す独特な歌詞の世界とメロディと圧倒的な歌声。タイトな大岡源一郎のドラム、三井律郎のソリッドなギターによって研ぎすまされたサウンドは感情の奥深くに染み込んで心を揺さぶる。バンド編成やアコースティック編成、海北ソロでの弾き語りなどさまざまなスタイルでライヴを行い、音楽を発信している。

>>LOST IN TIME OFFICIAL HP

[インタヴュー] LOST IN TIME

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