『triology』をめぐる”話題”の発言も総括、クラムボン・ミトが語る新たな地平
本当に流されるままに活動しているけど、それが私たちにとっては必要
――もともと、アルバムのコンセプトはあったのでしょうか?
ここ最近ずっとそうですけど、テーマなんて全くないですよ。全部出てきた後にそれこそインタヴューで考えるくらい。それがどういうきっかけで出てきたんだろうって話をインタヴュアーやライターの人たちとするから問題提起の話が出てくるだけで、私は別にアルバムを出す度に問題提起をしようだなんてひとつも思ってないんですよ。ただ、時代を反映したものにはなっていると思います。
――時代の流れに対して、クラムボンは合わせていこうと思うんですか? それとも無視する?
その全部をやってもいいのがクラムボンっていうバンドなのかなって思う。止まってもいいし、進んでもいい。『ドラマチック』から『id』への移行がファースト・インパクトだったら、今回はセカンド・インパクトだと思っていて、それも時代が反映されてると思うんですね。『ドラマチック』から『id』のときは9.11があって、『2010』と『triology』の間には3.11があった。世界的にとてつもなく大きな何かがあって、そこで人間って何かを変えていきたいと思う本能が生まれるんじゃないかな。私たちはそういうところに影響を受けやすいバンドなので。本当に流されるままに活動しているけど、それが私たちにとっては必要なんです。
――ミトさんはバンドに、クラムボンにこだわっているんですよね。
そのつもりですよ。3人が大変だと思うのであれば、クラムボンとしての活動を止める方法もあると思うんですけど、今回のようなやりとりは毎度何百回と行なわれているクラムボンの出来事のひとつであって。周りからみたら殺伐としているのかもしれないですけど、僕らとしては自然なことなんです。苛立つこともありますけど、それでもう終わらせてしまおうという気にはならない。ぶっちゃけ、20年一緒にやってると家族より長くいますから。家族じゃないものが家族化しているから、「しょうがないな」って思っちゃうところがあるんです。そんなお互いの性格も変わるものじゃないし、親だって子供だってそうでしょ、微妙に変わったかもなってくらい。
――バンドの強度を上げたいという思いは、単純にこの作品をいいものにするためなのか、クラムボンというバンドの未来を考えてのことなのか、どちらなのでしょう。
どちらもですね。どのタイミングでも、クラムボンのなかで強度を上げていかなきゃいけないという思いはあって、今作も元々はアニソンやアイドル・ソングのエッセンスを取り入れようっていうのは考えていなかったので。
――でも今作は、アニソンに随分寄っている気もします。
それは僕がやっているから先入観じゃない? あと「Rough & Laugh」と「はなさくいろは」は、そもそもアニソンだしね。大概「アニソンやアイドル・ソングみたいだ」って言う人はアニメを見ていない。声優のアルバムやキャラソン等いろんなものがあることさえよくわかってなくて、全てアニソンだと思っていたりする。となると、アニソンっぽさの判断基準は知識量と読解力の違いだと思うんです。
――なるほど。アイドルとバンドはもうだいぶ邂逅したと思うんですけど、アニメとバンドはまだ随分距離があるなと思っていて。
アイドルとバンドは、ライヴハウスっていう現場があるからじゃないですか。アニメとバンドって、アニクラ(アニソンDJイベント)が限度で、ライヴハウスで繋がることがないでしょ。単純にミーティングできる場所がない。あと、無理に縮まる必要はないと思いますけど、監督とか制作の人ってアーティストだから、音楽もすごく聴いているんですよ。空気公団とかマニュエラ(マニュアル・オブ・エラーズ)とかもアニソンをやってるし、NARASAKI(COALTAR OF THE DEEPERS)さんだってそう。アニメとの間に違和感を感じるのであれば、それはバンドだからじゃなくて、単純に曲がそのコンテンツに見合っていないだけなんですよ。
――「Scene 3」では、MOROHAが参加していますね。
ツアーに遊びにきてくれて、貰ったCDを聴いたらすごくよかったんです。この曲は、「マイバックページ」の劇伴をやったときに作ってたデモの中のひとつだったんです。これをクラムボンでやる上でもうひとつフックがほしいと思ったときに、郁子さんとは別に、もうひとり、ストーリーテリングができたらおもしろいなと思って。ジャズ・トラックみたいなものにラップがのるっていうのは、個人的にはビート・ジェネレーション時代の、バロウズやギンズバーグがジャズをバックに詩を朗読するみたいな、あのストイックな感じが出るかなと。それが今にアップデートされた感じがいいかなって。
――おもしろかったです。
これ僕だと思ってる人いますけどね。この感じはさすがに無理ですよ。彼らも非常に真面目でいい子でした。
ハイレゾでも目に見える物を買えるっていうのはすごく安心感があるだろうし、聴いて確実に違うのがハイレゾだから、聴いてもらうしかない
――今作を24bit/96kHzのハイレゾで配信しますが、本当に違いますね。
ね、びっくりですよね。
――今回ブルーレイ・オーディオ(※2)でも出そうと思ったのは?
単純に、民生機でハイレゾが聴けるって意味ではブルーレイ・オーディオが1番いいわけですよ。ブルーレイ・プレーヤーかプレイステーション®があれば聴けるので。いま1番ハイレゾを売るために、パッケージとしてわかりやすく、シンプルな方法だと思ったんです。皆「再生機がないんです」って言うけど、「ブルーレイなら見れない?」って。すごくカジュアルにハイレゾが聴けて、自分の家の大したことのないTVのスピーカーからでさえも全然違うんだって言うのが確認できればいいなと。
※2 : ブルーレイ・ディスクの規格(BD-MV:読み出し専用BD-ROMの記録フォーマット)を全く変えず、最小限の画を入れ、25GBの大容量(1層)をほとんど音声の収録に使ったメディア。ブルーレイ・プレーヤー / レコーダーで再生可能。(参照 : Phie-web 『元日本コロムビアの本間孝男氏が解説 なぜヨーロッパではBlu-ray Audioが好調なのか? 元洋楽ディレクターが分析する世界のハイレゾ事情』)
――やってみて、可能性は感じていますか?
まだまだ第1歩。でも、ハイレゾでも目に見える物を買えるっていうのはすごく安心感があるだろうし、聴いて確実に違うのがハイレゾだから、聴いてもらうしかないというかね。
――ベースの鳴りが全然違いました。
ニュアンスも輪郭もサイズ感も違うし。ハイレゾって、映画のサラウンドみたいな発想を持つ人もいるかもしれないんですけど、そうじゃなくて、よりリアルに近くなる。CDって二次元に聴こえるんです。でも三次元に聴こえていくべきなのが音楽で、アナログはそれにかなり近しいところにある。アナログを開発したときって、再生して皆と同じ現場を共有できるっていうのが前提で作られていたから、実はすごく発想が高尚だったんです。CDは音楽が聴ければいいっていう利便的なものだから、アナログの考えからは相対的に外れていて。あと実はブルーレイのタイムコードとCDのタイムコードは違うので、マスタリングも違うんですよ。もっというとアナログも。全部規格が違う。全部ゼロからやったので、Tuckey(滝口博達)さんは大変だったと思います。コンマ何千分の一、タイムコードが違うだけなんですけど。
――配信用のハイレゾは?
それもまた違うんです。ブルーレイはビデオの規格なので、ハイレゾはCDと同じタイムコードで24bit/96kHz。
――じゃあマスタリングは4回やったんですか?!
そう。大変ですよ。よくつき合ってくれたなと思います。
――岡本司さん、井上勝己(TuneStudio)さん、滝口さんはどんな方なんでしょう。
岡本さんは、Studio Dedeっていう池袋にあるアナログ機材やビンテージ機材がすごくしっかりしたレコーディング・スタジオのエンジニアさんで、彼はジャズのレコードとかを作っている人なんですけど、プラス劇伴もやっていて、「坂の上のアポロン」の劇伴を作っていたりします。井上さんは「けいおん!」とか、キャラソンまわりのミックスをしています。彼がやっていないアニメ会社の音源ってほとんどないんじゃないかな。Tuckeyさんは元ビクター、parasight masteringの方ですね。
――このお三方とは、どこで知り合ったんですか?
仕事の現場で会ったりとかして、その頃から音質的な部分も含めお互い良く理解していたんです。そこがありがたかったので一緒にやろうと思ったのと、とくに井上さんは、アーティスト感のあるミックスじゃないんですよ。波形をみて、特定の周波数にこの音が入れられるとか、引き立てるためにはこの機材が帯域的に立ち上がるとか。
――それをミックスでやるんですか?
そうそう。科学者みたいなんですよ。だからとても分業的なんです。例えば美濃(隆章)君と僕でやると、お互いアーティスト的だから、こっちがいい、あっちがいい、ってことになるんですけど、井上さんと僕だと、僕がやりたいことに対して、数学的に、科学的な実証を兼ねた上でそう聴こえるように作ってくれる。だから位相とかも彼がやるとばっちり合う。すべてが最先端の技術で、PCベースでものづくりをする人とやっているんです。
――なるほど。
僕と井上さんで最初に作ったバンドの音源がテスラは泣かない。の『TESLA doesn't know how to cry.』なんですけど、めちゃめちゃ馬力もあって音も大きいけど、透明感があるんですよ。これはすごいわ!と。僕らの作っている曲がオルタナ的な編成のものでも、ものすごいクリアに純度の高い状態で、レベルもしっかりあって、かつ潰れることなく聴ける。これめちゃくちゃおもしろいじゃないかと。
――じゃあ今作は、クラムボンの意識改革に加えて、科学によって新たな地平を開いたものだったんですね。
そうですね。今作の細部にわたるテクノロジーは凄まじいものがありますよ。是非その辺りも気にして聴いてもらえれば嬉しいですね。
クラムボン過去作
先行シングルはアルバム収録曲とは異なる菅野よう子アレンジ!!
今作は菅野よう子と再びのコラボレーション。アニメ「カウボーイビバップ」や「マクロス」シリーズの名曲をはじめ、ゲーム、CM、ドラマ、そしてさまざまなアーティストへの楽曲提供、プロデュース・ワークで知られる菅野が魔法のように鮮やかなストリングス・アレンジを施した。カップリングにはその菅野がアレンジした「サラウンド」を新たにミトがフルRemixした「サラウンド-出戻Re-mix-」、そして「yet」のインスト音源を収録。
結成20周年アニバーサリー・イヤー記念作品!!
ストレイテナー、蓮沼執太フィル、salyu × salyu、レキシ、ハナレグミ、NONA REEVES、Buffalo Daughter、downy、GREAT3、TOKYO No.1 SOUL SET、HUSKING BEE、青葉市子、マイス・パレード、そして最後に小室哲哉。結成20周年を記念した総勢14組による豪華すぎるトリビュート・アルバム。
OTOTOYがハイレゾをはじめるきっかけとなった作品!!
2009年、OTOTOYの前身"レコミュニ"時代、高音質配信を検討していた我々とクラムボンより高音質で出したいという希望が合致し実現。24bit/48kHzのミックス・マスターをノン・マスタリングで配信。8ビートで刻まれるピアノが鼓動を高め、クラムボンとしては類を見ないほどアップ・テンポな曲に仕上がっている。
クラムボン他過去作
原田郁子 Works
原田郁子(クラムボン)と、タムくんの愛称でお馴染み、タイの人気漫画家ウィスット・ポンニミットによるコラボレーション・アルバム。かねてより競演を重ねてきた2人による今回のアルバムは、タイのタム宅で録音され、ピアノ、アコースティック・ギター、ドラムによるシンプルな演奏に、やわらかく響く歌声で構成されている。ライヴで数回披露された曲と書き下ろしの新曲ばかり。
原田郁子 / 「cocoon」サウンドトラック
マンガ家・今日マチ子の「cocoon」を原作に藤田貴大が主催する演劇団体「マームとジプシー」によって舞台化。舞台の音楽を手掛けたのはクラムボン、原田郁子。舞台のために書き下ろされた新曲「とぅ まぁ でぃ」をはじめ、ソロ曲「青い闇~」や「風色夏恋」の新録、フィッシュマンズやbloodthirsty butchers、ニール・ヤングなどのカヴァー曲を含む、全32曲。
原田郁子+高木正勝 / TO NA RI (2.8MHz dsd + mp3)
レコーディング・スタジオでの一発録りをライヴとして公開し、そこでDSD収録した音源を配信するイベント“Premium Studio Live"。その第2弾として、クラムボンの原田郁子と、映像作家としても活躍する高木正勝の2人を招いて行われた際の記録。天井高のあるスタジオに2台のグランド・ピアノ… STEINWAYのフル・コンサート・サイズとセミコンサート・サイズを設置。良質な響きの中で、原田と高木がそれぞれ自由にピアノを弾きながら、お互いの作品を変奏し合うようなセッションが繰り広げられる。原田の力強いボーカル、高木の繊細なボーカルそれぞれの魅力を存分に味わうことができるほか、飛び入りで参加したOLAibiを交えてのリズミックなパートも聴きもの。
ミト Works
田上トパーズ! オリジナル・サウンドトラック
NHK-BSプレミアムで全国放映された滋賀発の地域ドラマ「田上トパーズ!」(たなかみトパーズ)。大人気アニメ「けいおん!」のモデル地である滋賀県・豊郷を舞台としたガールズ・バンドの物語であり、"リアル「けいおん!」"とも呼ばれるこの物語の音楽を担当するのがクラムボンのベーシスト、ミト。アニメ好きのミトが作り上げた珠玉のサウンドトラックがが配信限定リリース。
mito / DAWNS
ソロ3部作を発表した前作からは、5年ぶりの新作。初となるmito名義の『DAWNS』は共同レコーディングに美濃隆章(toe)、マスタリングに砂原良徳、演奏他参加では柏倉隆史(toe)、徳澤青弦カルテット、コトリンゴ、Ametsub、agraph、haruka nakamura、Uyama Hiroto、益子樹(ROVO)、斉藤哲也(UooB)が参加。さらに、作詞では盟友である磯部正文(ex HUSKING BEE)、細美武士(the HIATUS)、 中川翔子や平野綾などの作詞・楽曲提供で活躍中のmeg rock(メグロック)、 そして、対訳にパーソナリティのクリス智子が参加。
伊藤大助 Works
太陽と月、ひとつになるとき -EP(24bit/48kHz)
2012年の1月に高野寛とクラムボン伊藤大助で新結成された2人組バンドの音源が到着。バンド名も決まらぬうちに始まったツアーのライヴ会場で限定販売していた音源3曲に、新曲「太陽と月、ひとつになるとき」の新録が加わった4曲入りEP。
LIVE INFORMATION
clammbon 20th Anniversary 『tour triology』
2015年6月11日(木)@仙台Rensa
2015年6月12日(金)@新潟LOTS
2015年6月19日(金)@名古屋市公会堂
2015年6月21日(日)@金沢EIGHT HALL
2015年6月26日(金)@オリックス劇場
2015年7月02日(木)@福岡市民会館
2015年7月04日(土)@高松オリーブホール
2015年7月11日(土)@札幌PENNY LANE 24
2015年8月1日(土)@広島CLUB QUATTRO
2015年11月6日(金)@日本武道館
PROFILE
クラムボン
福岡出身の原田郁子(Vo, Key)、東京出身のミト(Ba)、北海道出身の伊藤大助(Dr)が専門学校で出会い、1995年に結成。シングル『はなれ ばなれ』で、1999年にメジャー・デビュー。当初よりライヴやレコーディングなどにおいて様々なアーティストとのコラボレーションを重ね、楽曲提供、プロデュース、執筆活動など多岐に渡る活動を続けながら、バンドとして独自のスタンスを築き上げている。2011年4月には2枚のベスト・アルバムをリリース。来年で結成20周年を迎えるにあたり、2014年よりさまざまなアニバーサリー企画を予定している。第1弾に初のPV集、第2弾にメンバー監修のバンドスコアを発売。12月3日にトリビュート・アルバム『Why not Clammbon!?~クラムボン・トリビュート』を発売し、2015年3月に5年ぶりとなるオリジナル・アルバムをリリース。