2014/11/21 18:54

無意識に溢れ出た、飾り気のないチルアウト・サウンド——インディー・シーンに毅然と輝くJappersの初フル・アルバム

ギター・ポップ、ネオアコのきらびやかさから、はたまたトラッド・フォークな土臭さまでを、バンド独自の色彩感覚で行き来するロック・バンド、Jappers。2009年の結成初期からのパワーポップ・サウンドを下地にしつつ、キーボーディスト岡上大樹の加入以降、実験的な音像とあらゆるジャンルを咀嚼したスタイルに変化していった彼ら。その自由な空気感をパッケージングしたかのような初のフル・アルバムをオトトイだけのハイレゾでお届け。また本作の発売を記念して、6人全員へのインタヴューを敢行。自分達から無意識に溢れ出た音たちを、無意識に紡いだかのような、飾り気のないチルアウト・サウンドとともにお楽しみあれ。

Jappersによる、初のフル・アルバム
Jappers / Imaginary Friend
【配信フォーマット / 価格】
【左】ALAC / FLAC / WAV(24bit/44.1kHz) :
単曲 154円 / まとめ購入 1,540円
【右】ALAC / FLAC / WAV(16bit/44.1kHz)、mp3 :
単曲 154円 / まとめ購入 1,540円

【Track List】
01. The City
02. Keep On
03. I Wanna Know That
04. Golden Stone
05. Shelter From The Sun
06. Railway
07. Leave Them All Behind
08. Passing Phrases
09. For Tomorrow
10. House On The Wheel
2012年発売のファースト・EPはこちら
Jappers / lately EP
【配信フォーマット / 価格】
mp3 : 単曲 154円 / まとめ購入 926円

【Track List】
01. In Da Club
02. Lately
03. Heaven’s Door
04. Settle Down
05. Something I Say
06. The Singer in Late Show

>>Japper『lately EP』特集ページはこちら

INTERVIEW : Jappers

「日本にも本格的サイケデリック・エラ到来」——先日そんな謳い文句の記事を見かけましたが、このバンドをピック・アップできてなかったのは致命的じゃないでしょうか。アーシーな演奏、奥まで響くエコー。東京は高幡不動を拠点に活動する6人組、Jappersも間違いなくサイケを探求する一組です。デビュー作にあたる前作『lately EP』から2年以上、ついにファースト・アルバムが完成しました。昨年には新曲7インチを3ヶ月連続でリリースしていましたが、なんとそこからは1曲も収録なし。全て新曲で固められた、今のバンドの姿をパッケージした1枚となっています。

『lately EP』以降オリジナル・メンバーであった岡上大樹が加入し、ヴォーカル、ツイン・ギター、ベース、ドラムに鍵盤を加えた6人編成が完成したことにより、音の深みは段違い。ロックンロール・マナーを踏まえた上でのギター・ポップといった趣だった前作と比して、今アルバムはよりルーツを掘り下げて肥沃なるアメリカ音楽へと向き合った作品になりました。スティール・ギターの音色が醸すレイドバックしたムード、幾層にも重なるハーモニーが導くサイケデリア。そして、アルペジオを多用した緻密なギター・アンサンブルは、海を越えブリティッシュ・トラッドを思わせる瞬間があります。スタックス・ビートから一転メロウネス溢れるバラッドへと展開するPV曲「I Wanna Know That」が代表するように、6分強の曲が並ぶ今作。メロディや歌声からはフォーキーなおおらかさが耳を引きますが、1曲のなかの細かな展開の多さ、情報量に何度聴いても、いま自分がアルバムのどの位置にいるのかわからなくなるほど。時間感覚を平常とは違う場所へと解き放たれてくれるような、そんな体験をさせる10篇の物語です。これは絶対、曲単位でなくアルバム作品として味わうべき。完成まで少なからぬ時間がかかった理由、サイケでメロウな志向を強めた経緯について、メンバー全員に話を訊きました。

インタヴュー&文 : 田中亮太

Jappers - I Wanna Know That
Jappers - I Wanna Know That

ネオアコって言われたのは不本意でしたね(榊原)

——『lately EP』(2012年8月)以降2年以上かかってのフル・アルバムですが、バンド活動という意味では、あのEPを出したときのヴィジョンに沿って動けていたのでしょうか? それとも若干逸れたものになりました?

榊原聖也(Vo) : ヴィジョンはなかったですね。1回も決めてない。どうなりたいかが明確にはなかった。
上野恒星(Ba) : もちろん作品を次から次にたくさん出したいなとは思ってたけど、具体的に次の作品はいつころで、どういう内容でどう展開していくかってのを考えたことはなかったです。

——EPの反応で印象的だったものは?

榊原 : ネオアコってよく言われたんですけど、それは不本意に感じてましたね。

——なるほど。では、あえて既存のジャンルになぞるなら、なんて言われるのがしっくりきました?

榊原 : うーん… ロック(笑)。
全員 : (笑)。
上野 : でも内容的に言えば、ざっくりギター・ポップなのかな。前のEPに関しては客観的に見ると。

——僕はオーセンティックなロックンロールのように感じました。

榊原 : そうですね。ロックンロールだと思ってやってたからネオアコって言われたのはちょっとどうかなって。
岡上大樹(Key) : ネオアコ= 日和ったイメージがあって。そういう日和った音楽として当てはめられるのは嫌でしたね。
上野 : バンドをやりはじめたときの音楽と、『lately EP』の音楽、今回のアルバムの内容、それぞれ違ってて。そのなかで共通して言えることは、メンバー全員が好きな王道ロックの良さがあることだと思ってる。
榊原 : ネオアコのバンドとなればネオアコしかやらないんだけど、俺らはもともとバズ・コックスみたいなパンクやってて、そっからアレンジが変わっていっただけの問題だったので、それがネオアコ的な盛り上がりの1つとして見られるのがちょっとイラッとするなって(笑)。
武藤英成(Dr) : 今のインディ・ロック・バンドの参照元で、ネオアコとか挙がりやすいと思うんですけど、それよりはパンクよりも前の、80年代のネオアコのバンドが参照元としたような音楽とか、そっち側のほうを聴いていて。

——確かに、今回の作品は60年代のブリティッシュ・フォークとかトラッドの影響も色濃く出ています。その路線が明確に出てきたのは、2013年に連続リリースされた3枚の7インチからのように思いますが、そもそも3ヶ月連続での7インチ・リリース企画の意図は?

3ヶ月連続リリースの7インチ音源はこちら
>>soundcloud Jappers - harvest song

>>soundcloud Jappers - Im Not Amazed

>>soundcloud Jappers - Praise The Moon

上野 : それに関して言えば、自分たちで主体的にやったというよりも、下北沢シェルターでブッキングをやってた峯崎さんが、Jappersを気に入ってくれて、7インチを作ろうよって話がまず最初にあって。その当時アルバムの先駆けとして、3曲くらいのCD-Rを定期的にリリースしたいなって話をしてたんですけど、その考えとうまいことはまった。逆にその話がなかったらアルバムの時期も変わってて、あの7インチの6曲もアルバムに入ってたかも。

——立て続けに作品を出す、自分たちの音楽が絶えず世の中に発信されているといったダイナミズムはありましたか?

全員 : うーん。
上野 : いや〜、感じたことないですね(笑)。7インチは比較的流通も小規模だったので、そういう実感は少なかったと思います。7インチに関しては作ったものをレコ発で売って、お客さんに直接に近い形で届けるってのがあったので。それはダイナミズム的なものではなかったと思います。
榊原 : 3ヶ月連続で自分たちの企画っていう感じでライヴできたのは良かったね。自分たちが好きなバンドばかり呼んで。誰かを呼んでそれで状況を盛り上げようっていうのよりも、どちらかと言えば自分たちが聴きたい、一緒にやりたいと思うバンドを呼んで自分たちで楽しみたいってのが強かったのかなって思います。それはたぶん今も変わらない。バンド活動自体にはあんまりモチベーションはないよね、音楽そのものくらいにしか、実際のところは。
上野 : 東京にはいろんなバンドがいて、いろんなシーン的なものもたくさんあると思うんですけど、僕らとしてはどこかに属したいとか、どういうバンドと一緒にやっていきたいとか、そういう目標とか展開の仕方とか、そういったことは本当に全然考えてなくて。僕らとして集中して他とは関係なくやっていきたい。

寝るときに聴けるような作品にしたかった(榊原)

——アルバムの話を聞いて、てっきり7インチ曲をまとめて収録した作品を出されるのかと思いきや、7インチから1曲も収録されませんでしたね。その理由は?

榊原 : はじめは入れるつもりだったんですけど、なんか飽きたみたいな。
上野 : アルバムのレコーディングであがってくるものを聴いてみると、7インチの曲は別にして、10曲にまとめて1枚のアルバムにしてたほうがいいんじゃないかと。
武藤 : そもそも榊原は1人でものすごいスピードで曲を作っていて、Jappersとして出しているものって10分の1以下だと思うんですよ。ただ、それをバンドで形にするのには少し時間がかかる。でも榊原としては次から次に曲を持ってこれる状態なので。あんまりアルバムに収録するために前録ったものにまた戻って録り直してって発想はないんだと思う。

——なるほど。では、榊原さん自身で7インチ時と今アルバム時で作曲モードに変化はありましたか?

榊原 : 一時期、高尾に引っ越してたんですよね。すごい山の方。それがでかかったなって最近気づいた。ギターの竹川(天志郎)とあと1人いて、3人で住んでたんですけど、そこでサイモン&ガーファンクルとかやっぱり良いよねって感じになって。風景に合う音楽を聴いてたら、それに感化されたような曲ができていった感じですかね。もともとニール・ヤングだったりそういうのは好きでみんな聴いてる音楽だけど、その要素が強くなったかなって思いますね。今はまた引っ越しちゃったんですけど、京浜工業地帯に。今度はそこでロックンロール聴いてる(笑)。

——では榊原さんの高尾時代を象徴する曲といえば?

榊原 : 「Sheler from the Sun」ですかね。もともと高尾って名前の曲だったんですよ。山に合うなって。

——多くのボップソングにおいては“Sun”は、ポジティヴな捉え方がされる場合が多く、理想や希望、高揚の象徴だったりするんですけど、ここでは避難するべき対象となっています。この曲での太陽はどんな災厄をさしているのでしょう?

榊原 : うーん、それはちょっとわからないですね。じっくり考えて曲を作るのはすごい苦手で。もうできるかぎり直感でいきたい。実際これはこうして、ここはこのコードでって、順だてて作っていく感じじゃなくて、気づいたらできてるんで。歌詞とかも吟味せずそれにあわせて乗っけていく。そのせいで粗い部分ってむっちゃあるんですけど、それをわざわざ添削して添削してってタイプでもないので。自分でも考えたことがない。今まで聴いてきた曲の歌詞やコード、自分のなかに入ってきたそれらが、どういう風に自分から出るかってだけで。

——今回のアルバム自体、着地点が見つからないまま流れていく感覚です。通して聴いてても、自分がアルバムのどの位置にいるのかわからなくなる。時間感覚がずれていく体験というか。

榊原 : それは良いですね。
竹川天志郎(Gt) : 僕が今回ミキシングしたんですけど、ミックスについての学も経験もないから、とりあえず聴いてて気持ち良いよう気持ち良いように、それのみを考えながらやってたんですよね。
榊原 : 彼が気持ち良いって音は信用できるんですよ。
竹川 : はったりでもいいんで、とにかく気持ち良く。ミックスとしてはすごく個性的になってると思いますね。Kurt Vileの『Wakin on a Pretty Daze』を意識しました。あの感じを出したいなって。無理なくゆったりしてる感じ。自然体なところがすごい好きで。

Kurt Vile - Wakin on a Pretty Day
Kurt Vile - Wakin on a Pretty Day

榊原 : ゆっくり寝るときに聴けるような作品にしたいってのは話してましたね。

——曲展開もいわゆるポップ・ソング・マナーから外れたものが多いように思いました。それがもっともわかりやすく出てるのが「I Wanna Know That」。イントロは軽快なスタックスビートで始まったかと思うと突如メロウになります。

榊原 : あの曲は武藤さんが作ったやつなんですけど、最初の時点で俺は純粋に良い曲だと思った。拍子が変わったりするけど、どうだ! ユニークだろ? って思ってはないですね。
上野 : 他の曲にもそれぞれ工夫してる点というか、おもしろいんじゃないかって思う点がいくつもあるし、僕たちとしては特別ってわけではないかな。
榊原 : 変化がわかりやすいって意味ではユニークに聴こえるのかなとも思うけど。

——確かに「Railway」あたりもどこに連れて行かれるんだろうみたいな感覚になります。

武藤 : あれは確かに。タイトルがぴったりの曲だね。
榊原 : 途中夜空が広がりますからね。
武藤 : あの曲は榊原がはじめてバンドで切迫感を出してきた曲だよね。サビのところとか。
上野 : 「Railway」では僕がドラムを叩いてて、岡上(大樹)くんが僕のかわりにベースを弾いてて、武藤さんはシンセを弾いてるんですね。各人が普段のパートとは別の楽器を使ってるから、気分やモードが他の曲とは変わってるなって気がする。
榊原 : 曲の構成に関しては基本的に僕が作って、それをバンドで修正してもらいます。垂れ流しの状態からみんなで形にしてもらう。だから、自分たちにもどういうふうになるのかわからないまま作ってる。
上野 : さっきからそういう話になってばっかりだよね。活動についても制作についても。考えがあって進んでるわけじゃなくて、とりあえずやる。
榊原 : でも、そのほうがおもしろいんじゃないかなって思います。

ロード・ムーヴィーみたいなアルバムだと思う(上野)

——では、流れるままに作ったというこの『Imaginary Friend』というアルバムは、結果的にはバンドのどういう面がもっとも刻まれた作品になったと思いますか?

榊原 : 僕の意見では墓掘り的な一面かな。自分たちが好きなアーティストとかミュージシャンとかから影響を取り込んで、それを呼び出すみたいな。シャーマンみたいな。
上野 : それは特に今回に限ったことではないですけどね。
榊原 : そうだね。自分たちのロックな一面を出そうとか、ドリーミーな一面を出そうとか、そういう感じともまた違って。なすがままにって感じ。
豊永康平(Gt) : 曲によって参照点が違うから、アルバム単位でこんなものにしたいとは考えてなかった。いろんな側面がつまってる。
上野 : 僕らがバンドを結成した時はバズコックスみたいな感じの音楽をやってて。そこからちょっと変わって『Lately EP』のような感じになって。そこからまただいぶ変わって今回のアルバムがあって。それからまた今新しい曲を作ってるんですけど、それもまた今回のアルバムとも雰囲気が違っていて。そういったものを並べて聴いたときに今回のアルバムの曲に関しては、わりとメロウというかソフトな僕らの一面があるかと思います。今作ってるものはかなりガレージ。今回はフォークとかトラディショナルなものからの影響が多く出てるかなって思うかな。
岡上 : 高尾時代の締めくくりって感じ。
榊原 : それを統一してるのが武川のミックスだと思う。曲自体は統一感ないかもね。
上野 : でもアルバムを通してすごい一貫性はあるように感じるよ。

——いわゆるポップ・ソング・アルバムではない。アルバム・トータルで聴くことによって、旨味がちゃんと理解できる作品ですね。

榊原 : そう自分たちでも思えるよね。アルバムとして良いなって。
岡上 : こういう風にしようと決めて作ったアルバムじゃないので、そういう感想は嬉しいですね。
上野 : びっくりするくらい結果的にできたアルバムだよね。なにも考えないで作ってたから。

——どういうロケーション、どういう時間帯で聴くのに適したアルバムだと思いますか?

上野 : 俺ちょっとあるから言っていい? 友達に言われてすごい納得したのが、なんかロード・ムーヴィーみたいなアルバムだって言ってて。言われて気づいたんですけど、ほんとにそうだなって思って。1曲目も旅が始まるっぽい感じだったりとか、2曲目のちょっと明るい感じ、楽しい感じだったりとか。そういうのも含めて。僕の中では「Railway」なんかは旅の盛り上がりの部分というか。そういう風に自分は勝手に思ってて。

——確かにヴィム・ベンダース作品の雰囲気というか。スティール・ギターがライ・クーダーを思わせてるかもしれないですけど。じゃあ最後の質問です。リリース・パーティなどの予定は決まってるんでしょうか?

上野 : やりたいなーとは話してるんですけど、まだはっきりとは。でも良い内容のアルバム、長く聴いてもらえる作品になったと思うので、今急がずにゆっくり準備してできればいいかなと思ってます。でもね、これまでに具体的に何も決めずににやってきたけど、現状でも何も決まってないっていう(笑)。

RECOMMEND

Vampire Weekend / Modern Vampires Of The City

国内外の、ありとあらゆるシーンの話題をかっさらった、2013年作。サイケ、ガレージ、トラッド・フォークなどあらゆるジャンルを咀嚼したこの音は、まさに現ロック・シーンの頂点であると言える。

Kurt Vile / Wakin On A Pretty Daze

アメリカはフィラデルフィアの若きシンガー・ソングライター、カート・ヴァイルによる5枚目のアルバム。ソニック・ユースの一同、パンダ・ベアなど、名だたるアーティストに絶賛されたこの作品は、アメリカ、または日本のインディーズ・シーンを象徴するかのようなサウンド、アレンジに溢れている。

PROFILE

Jappers

Jappersは、2009年頃高幡不動で結成、東京で活動中のロック・バンドである。2012年初頭にリリースした自主制作のデモを経て、同年夏にDead Funny Recordより『Lately EP』をリリース。70年代パワー・ポップにインスパイアされたサウンドは評論家やブロガーの間で話題となり、全国区に知名度を上げた。

2013年春より現メンバー6人組で活動を再開すると、サウンドはより実験的に。オルタナ期のUSカントリー・ミュージック・サウンドを核に、ジャンルを越えたサウンド・ワークを展開。同年秋にMINE Recordsより3ヶ月連続で7inchシングルをリリースする等、精力的な活動が続いている。

2014年秋には待望の1stアルバムをリリースすることが決定した。

>>Japper Official HP

[インタヴュー] Jappers

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