高橋健太郎のOTO-TOY-LAB ――ハイレゾ/PCオーディオ研究室――

【第6回】M2TECH「YOUNG DSD」

YOUNG DSD

しばらく連載の間が空いてしまったが、そのあいだにスタジオのメインのAD / DAコンバータを替えた。PRO TOOLS HD用のインターフェイスをAPOGEE SYMPHONYに替えたのだ。APOGEEのコンバータはスタジオではAD8000SEやTRAK2、デスクトップではMINI DACを使っていた時期もあるので、親しみ深い。SYMPHONYはDACチップにESSサブレのES9018を使っているせいか、音場の見渡しが良く、音色的には少しクールになった気はするが、ゾクっとするような艶やかさも秘めている感じで、すごく気に入っている。

下から3段目がAPOGEE SYMPHONY

加えて、SYMPHONYには音質面以外でも、非常に好都合なことがある。PRO TOOLS HDのインターフェイスであると同時に、USB DACにもなってくれるのだ。だから、PRO TOOLS HDで作業していた曲を2ミックスにバウンスした後、別のアプリケーションで聴こうというときも、前面パネルでUSB DACモードに切り替えるだけで、同じAPOGEE SYMPHONYをモニター用のDAコンバーターにできる。この状態でPRO TOOLS HDを閉じたあとのファイル変換や映像編集、CDオーサリングの作業などもできるようになったのは快適だ。

おかげで、スタジオではほぼ、お役御免になった機材がひとつある。それはM2TECHのHiFace EvoというDDコンバーターだ。僕のスタジオではこれまでAvid、Apogee、LavryなどのAD / DAコンバーターを使ってきたが、プロ・オーディオ用のこうしたコンバーターは、USB入力を備えていないことが多い。このため、高価なコンバーターが何台もあるのに、USB DACとしては使うことができなかった。が、ある日、そこにソリューションを与えてくれたのが、M2TECHのHiface Evoだ。

M2TECH「Hiface Evo」
DDコンバータというのは、“Digital To Digital”のコンバーターである。PCからのUSB出力をSPDIFやAES / EBUといったデジタル出力に変換する。それだけのことなのだが、実はここでサンプル・クロックを打ちなおし、ジッターを低減するなどの工夫がされると、音質面にも大きく寄与する。M2TECHのHiface Evoは同社のDDコンバーターのフラッグシップ・モデルで、信頼性が高く、かつ、プロ機器との接続がしやすいAES / EBU出力を備えていた。このため、HiFace Evoの導入によって、僕のスタジオではマスタリング用のコンバーターだったLavryの4496をPCオーディオの再生用にも使うことができたのだった。

イタリア新興オーディオ・メーカー、M2TECH

M2TECHというメーカーはご存知ないか方も多いかもしれないが、イタリアの新興オーディオ・メーカーだ。最初に注目されたのは2009年に発売されたHifaceというDDコンバーター。24bit/192kHzまで対応する高性能なDDコンバーターながら、USBコネクターと一体型になった10センチほどのペンのような形をしているということで、一躍、ヒット商品になった。続いて、2010年に発表されたのが、僕が愛用している据え置き型のDDコンバーター、Hiface Evoだ。さらに2010年には、据え置き型のUSB DACであるYoung DACが登場。32bit/384kHzのPCMまで対応した驚きのスペックで、注目を浴びた。

その後、2012年にHifaceがHiface2に進化、2013年にはHiface2と変らないサイズながら、アナログ出力を備えたUSB DAC~ヘッドフォンアンプであるHiface DAが登場する。Hiface DAも最大32bit/384kHzで、ASIOやWASAPIにも対応するなど、サイズからは考えられないスーパー・プロダクツだった。これらの製品は世界中でかなりのヒットを記録したようだ。

そして、2014年、ついに同社からDSDにも対応する製品が出た。それがYOUNG DACの進化版である据え置き型のDACプリアンプ、YOUNG DSDだ。個人的にもかなり気になる製品だったので、今回はこれを輸入元からお借りして、テストしてみた。

イタリア発のDACプリアンプ、YOUNG DSD

HiFace Evoを使用していて、M2TECHというメーカーはオーディオに対して、妥協のない思想を持っていると確信できた。例えば、MACとのUSB接続にもあえて自社開発の専用ドライバーを使用する点であるとか、オプションで専用電源や専用の外部クロックを用意している点であるとか。それだけに、DSDにも対応し、M2TECHのフラッグシップ機として満を持して登場した感のあるYOUNG DSDには、強い興味を惹かれた。

DACプリアンプ——YOUNG DSD

初代のYOUNG DACは純粋なUSB DACだったが、YOUNG DSDはユーザーの使い勝手も考え練られたリモコン付きのDACプリアンプであり、その点では製品コンセプトも完全に異なっている。ボディは20cm×20cm×5cmで、ハーフラックのエフェクターぐらい。サイズ的にはデスクトップに置いて、手元で操作することもできるが、ただ、フロントパネルのヴォリューム兼スイッチは操作しやすいとは言いがたい。ヴォリュームとして回すには奥行きが無さ過ぎるし、DACプリとしての細かい設定もリモコンを使わないと難しい。オーディオラックに入れても十分に高級感のあるデザインなので、手元に置くよりは少し離れたラックに入れて、リモコン操作するのが良い機材には思われる。

DACプリアンプとして特筆すべき点は、アナログアウトがキャノン出力になり(Young DACはRCA出力)、かつ出力レベルが変えられる点だ。出力は2.5Vから最大10Vまで。10Vというのはかなりのハイアウトプットで、我が家のオーディオセットに組み入れるには高過ぎるが、環境によっては、この高出力が有利に働く場合も多いだろう。また、一定時間、信号のインプットがないと、電源がオフになるモードが備えられているのも、PCオーディオ用には好ましい機能だ。常時通電でPCに接続していても、使わない時間帯は省エネ・モードになるのだ。ただし、休眠した後に信号がインプットされても、自動的に立ち上がる訳ではない。ここは自動復帰する機能があると、さらに良いようには思われた。

アナログ / デジタル、豊富な入出力

DACとしてのスペックは、PCMが32bit/384kHzまで、DSDが5.6MHzまでの対応。DSDはDoP転送を採用。DACチップはバー・ブラウンの1795で、これは初代のYOUNG DACとも共通する。フロントパネルには液晶のインジケーターがあり、ヴォリューム・レベルやサンプルレートなどを表示する。USB DACのなかにはこうした表示機能がないものもあるが、サンプルレートの表示があるのは、精神衛生上、好ましい。というのも、音源のファイル・フォーマットとDACの動作フォーマットは常に一致しているとは限らないからだ。PC側の設定によっては。再生ソフトウェアでアップサンプリングあるいはダウンサンプリングしていることもある。あるいは、DSDをPCMに変換して出力していることもある。機材をパッと繋いだだけの状態で、とりあえず音が出ているのだが、実はファイル・フォーマットとDACの動作フォーマットが一致していなかった、ということをイヴェント会場で経験したこともあるので、一目でDACの動作が確認できるインジケーターがあるのは心強い。

日本製品ではなかなか得られない魅力的な“鳴り”

さて、原稿書きの仕事をするデスクトップのiMacにYoung DSDをUSB接続してみると、それだけでPCMもDSDも難なく音が出た。Young DSDは、MACの場合は専用ドライバーは必要なくなったのだ。音源試聴はまずはPCMを聴くところからはじめた。ヴァージョンが2.0に上がって、ユーザー・インターフェイスも大きく変わったAudirvanaで、高野寛の『TRIO』のハイレゾ版を聴いてみる。このアルバムは高野寛のデビュー25周年を記念するブラジル録音の新作。OTOTOYでは24bit/96kHzのフォーマットで配信されている。といっても、音源自体はハイファイ感を強調したところはなく、リオ・デ・ジャネイロで行われた気心知れたミュージシャンたちとのセッションの空気感をナチュラルに伝えてくれる。すでに複数のDACで試聴したことがある音源だが、Young DSDで音を出した瞬間に、サウンドが少し明るくなった気がした。木造りの部屋を思わすアンビエンスの中に、柔らかい陽光が差し込んできたような、そんな感覚だ。

明るいと言っても、ハイ上がりのきらびやかな音という訳ではない。ハイローのバランスはフラットなのだが、中域から中高域にかけて少しだけ艶やかさが乗っていて、それがヴォーカルや楽器の表情に影響している。あるいはそれは、イタリア的と言ってもいい個性かもしれない。少なくとも、日本製品ではなかなか得られない魅力だ。イギリス製のCHORDのDACなどは少しだけダークな陰影があって、クラブ・サウンドなどを聴くと、そこがとても魅力的に響いたりするし、DACという新しい分野でも、国の伝統が音に出ているように感じられるのはおもしろい。

僕の最近のデスクトップのオーディオセットは、PS AUDIOのデジタル・アンプでEclipseのTD307MK2を鳴らし、サブウーハーにFOSTEXのPM-SUBminiを加えた形になっている。ここにDACプリとしてYOUNG DSDを組み込んだ環境は快適で、このままキープしたくなってしまった。価格的には20万円を少し切るくらい。国産のDACプリアンプならば、同じバー・ブラウンの1795を使い、PCMが32bit/384kHzまで、DSDが5.6MHzまでというスペックのTEACのUD-501が半分の価格で手に入る。しかし、イタリアン・デザインの魅力やリモコンによる操作性を考えれば、Young DSDも十分にコンペティティヴだと思う。日本製品らしい質実剛健なサウンドのUD-501に対して、デザインにもサウンドにも個性が強いイタリア製品のYoung DSDと言えばいいだろうか。

DSDの再生や、いかに

続いて、DSDでは畠山美由紀の新作『歌で逢いましょう』を聴いた。沢田譲二プロデュースによる歌謡曲&演歌のカヴァー集。5.6MHzのDSDで聴くサウンドは各楽器の定位、遠近感が饒舌に表現され、空間が立体的な上に、そこに漂う濃密な空気が肌身に感じられるような音だ。そして、中央にぽっと歌手が浮かび上がる。PCMでの印象と同じく、Young DSDはその歌声に少しだけ艶を乗せて、魅力的に響かせるように感じられた。

試しにAudiravanaの設定を変えて、DSDを32bit/352.8kHzのPCMに変換して再生もしてみた。DSDに比べると、すっきりした現代的なサウンドになり、ドラムのシンバルやサックスの響きはこちらの方がハイファイ的だ。逆に言えば、DSDでの再生の方がアナログ・レコード的で、少し古めかしいムードが出る。DSDの方が声もふくよかで、かつ細かい息づかいなどが情に訴えかける感じ。比較試聴しなければ分からない微細なニュアンスの差には違いないのだが、しかし、PCMで聴くか、DSDで聴くかで、アルバムの狙いが変って聞こえるくらいの印象差があると感じた。音源によっては、32bit/352.8kHzへのPCM変換のほうがキレがあって、良い場合もあるかもしれないとも思った。

デスクトップでのリスニングに使って、非常に快適だったので、リヴィングのオーディオ・セットでもYoung DSDを試してみた。リヴィングでは僕はATCのSCM100ASLをスピーカーに使っているが、これはパワードなので、Young DSDのキャノン出力をスピーカーに繋ぐだけでセットアップ完了する。リヴィングのPCオーディオ専用機になっているMAC mini内の音源をいくつか聴いてみたが、広々とした音場感がある一方で、音色的にはクール過ぎず、中域~中高域に魅力的な艶を乗せて聴かせるという印象は共通。様々なタイプの音楽をどれも楽しく聴けた。もう少し低域の骨格の太さや塊感、音圧感といったものがあっても良いとは感じたが、輸入元によれば、Young DSDにはオプションの専用電源が開発されているということで、その専用電源を加えれば、さらにポテンシャル・アップが計られそう。その組み合わせで、もう一度、シビアに聴いててみたいとも思った。

(text by 高橋健太郎)

高橋健太郎のOTO-TOY-LAB アーカイヴス
第1回 iFI-Audio「nano iDSD」
第2回 AMI「MUSIK DS5」
第3回 Astell&Kern「AK240」(前編)
第4回 Astell&Kern「AK240」(後編)
第5回 KORG「AudioGate3」+「DS-DAC-100」
第6回 M2TECH「YOUNG DSD」
第7回 YAMAHA「A-S801」
第8回 OPPO Digital「HA-1」
第9回 Lynx Studio Technology「HILO」
番外編 Lynx「HILO」で聴く、ECMレコードの世界

YOUNG DSDで聴いてみよう

高野寛 / TRIO (24bit/96kHz)

新曲とセルフ・カヴァーを織り交ぜた16曲入りのアルバム。自身初となるリオ・デ・ジャネイロでの録音に挑戦した意欲作であり、ブラジリアン・ミュージシャンたちのグルーヴを随所に感じられる1作だ。とはいえ、「ブラジルに行ったのは、ブラジル音楽をやりたかったからじゃない」という高野の言葉からもわかるように、ボサノヴァやサンバといった要素を安易に取り入れようという姿勢は少しも感じられない。にもかかわらず、ブラジルの大地に降り注ぐ太陽の光、そしてそこに暮らすミュージシャンたちが持つ天性の陽気さが、音のひとつひとつから滲み出している。

畠山美由紀 / 歌で逢いましょう (5.6MHz dsd + mp3)

心に響く、歌の力。畠山美由紀の最新作は、布施明、ちあきなおみ、テレサ・テン、八代亜紀、藤圭子、美空ひばり、森昌子、研ナオコといった昭和のスタンダードを収録したカヴァー集。全曲「せーの!」で1発録りされた、瑞々しくも生命感溢れる歌声に酔いしれることのできる、最高のヴォーカル・アルバム。OTOTOYではオノセイゲンのリマスタリングによるDSDヴァージョンを配信中。誰もが耳にしたことのある日本のスタンダードも、彼女の声で歌われた瞬間、今まで見えなかった情景が浮かんできます。

仕様

■Inputs
AES/EBU on female XLR socket
S/PDIF on female RCA & female BNC socket
Optical on Toslink connector
Async USB compatible with USB Audio Class 2/1 “B” female connector

■Outputs
Balanced analog on gold-plated male XLR connectors

■Power input
5.5/2.1mm jack with positive on tip

■Output voltage
2.7Vrms @0dBFS (single-ended with adaptors, “normal”)
5.4Vrms @0dBFS (single-ended with adaptors, “high”)
5.4Vrms @0dBFS (balanced, “normal”)
10.8Vrms @0dBFS (balanced, “high”)

■Output impedance
100Ω (single ended with adaptors) 200Ω(bilanciato)

■Signal-to-noise ratio
118dB (0dBFS, balanced, “A”-weighted)
114dB (0dBFS, single-ended, “A”-weighted)

■THD+N
0.0008% (-3dBFS, balanced, 1kHz)
0.003% (-3dBFS, single-ended, 1kHz)

■Sampling frequency (PCM)
44.1, 48, 88.2, 96, 176.4※, 192※, 352.8※※, 384※※kHz

■DSD formats ※※
64x, 128x

■PCM resolution
16 to 32 bit (USB)
16 to 24 bit (other inputs)

■Volume setting
0dB to -96dB in 0.5dB steps
Muting -20dB

■Balance setting
+/−6dB in 1dB steps

■Phase
0°, 180°

■Automatic switch-off
10 to 240 minutes in 10 minutes steps, disabled

■Supply
15VDC 300mA

■Power consumption
4.5VA

■Size
200x50x200mm (WxHxD)

■Weight
1.7kg (device only)
2.5kg (packed)

※ Not on Toslink™
※※ USB Only

>>YOUNG DSD 製品ページ (zionote)

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