「隣の騒音」~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド 第4回 Seuss――初作品を先行配信&フル試聴!!
いちライターとして、いちリスナーとして、関西シーンの渦中にいる田中亮太が、すぐ隣で鳴っている騒音――今この瞬間、どうしても耳に入ってきて、耳を奪われてしまうサウンドを月1で紹介する連載「隣の騒音 ~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド」。第4回はSeuss――あなたが第一人者となるだろう、本当にここからというバンドです。今回の特集にあたって、初作品となる『Melancholia/Little Boy』の先行配信とともに、2曲目の「Little Boy」をフル試聴で届けます。
「Little Boy」をフル試聴スタート!!
CDから先行配信&ハイレゾでもリリース!!
Seuss / Melancholia/Little Boy
【配信価格】
【左】WAV / ALAC / FLAC(24bit/48kHz)
単曲 200円 アルバム 400円
【右】WAV / ALAC / FLAC(16bit/44.1kHz)
単曲 150円 アルバム 300円
【Track List】
01. Melancholia
02. Little Boy
第4回 : Seuss
実を言えば、この取材の時点で、まだ配信音源はありませんでした。さらに言うなら、作られる予定さえも。インタヴュー時、手元にあったのは、現在もSoundcloudにアップされているデモ「Not Well」と「Melancholia」、そして宅録で録られようとしていた「Little Boy」含む2曲の、しかもドラムとベースだけのトラックのみ。つまり、このSeuss、『隣の騒音』連載史上、もっとも活動初期のタイミングでご紹介させていだくバンドなわけです。
それでも、この4人組、幾度かライヴを見るたびに、気にならずにはいられなくなってしまいました。まず、気だるいサイケデリアを醸し出すソングライティングの魅力。アンサンブルにはまだまだ発展途上な面がありますが、それを差し置いての、キャラも身丈もそれぞれ違ったタイプの男前なメンバー4人が、ステージに並んだ時のかっこよさに、すでにバンド・マジックが垣間見えます。周囲に聞くところでは、メンバーのYumaとRyoは10年代初頭、高校生にして類まれないセンスを持ったバンドとして、インディ・シーンにちょっとしたセンセーションを巻き起こしていたTHE DIMの残党であるそう。彼ら2人が中心となり、当時THE DIMのスタッフであったKaneko、つい先日までTHE FULL TEENZのベースでもあったOkuhataが加わった4ピース・バンドとしてSeussは誕生しました。
メンバー4人全員に集まってもらったインタヴュー。やはりスタートはTHE DIMの解散についてからとなりました。
最初は諦めたんです。もうバンドはやらんぞって (Yuma)
Ryo : もともと僕とYumaでバンドやってたんです。高校が一緒で彼が後輩なんですけど。ギターのKanekoも同じく後輩で前のバンドのスタッフをやってて。Okuhataは2年くらい前にTHE FULL TEENZのベースとして知りました。僕、実は一時期THE FULL TEENZでも叩いてたんですよ。で、そのうちYumaと「またバンドやろうか」って話になって。
――一緒にやられてたのはTHE DIMですよね。2011年5月に解散となりました。ホームページ上にはメンバー間での音楽性の違いとありますが、具体的にどんなズレが生じていたのでしょう?
Yuma : メンバーそれぞれが思い描いてるバンド像とか、大人から求められるもの、自分らがしたいものがバラバラになってしまって。
Ryo : 特に僕ら2人がバチバチ。
Kaneko : 僕はスタッフとして完全にハサミ打ち状態でした。
Ryo : 一応メジャーなところから誘いがかかってて、僕はそれを受け入れるしかないなってスタンスやったんやけど、
Yuma : 僕はもっとやりたいことをやってみていいんちゃうかなって思ってて。
――OkuhataさんはTHE DIMの外側にいたかと思うんですが、リスナーとしては知ってました?
Okuhata : 高2の時にTHE FULL TEENZの伊藤と同じクラスになったんですよ。僕はTHE DIMのこととか知らなかったんだけど、伊藤から「今日THE DIMってバンドのライヴがあるから行こうよ」って言われて。休み時間にYouTubeで聴きました。THE DIMとかA MAD TEA PARTYとかは、洋楽掘るきっかけになったような存在ですね。ただのファンでした。
――2010~11年頃はTHE DIMやA MAD TEA PARTYなど、神戸の若い世代の台頭が印象強かった時期でした、今振り返ってみて、あのあたりのシーンはどんなものだったか教えてくれませんか?
Ryo : めっちゃおもしろかったです。黒猫チェルシー、踊ってばかりの国、女王蜂とかが、ばーんて出て、注目されるようになってたし。
Yuma : 黒猫が少し上で、僕らがやりはじめたころにメジャーに行って。
Ryo : 女王蜂は完全に同期みたいなもの。同じくらいの時期からバンドはじめたので、めっちゃ仲良くて。なんでもありやったな、神戸は。全部許してくれて。いろんなバンドがいた。僕らやA MADみたいなのだけじゃなくてサイケとかオールジャンルで同じイベントに出たし、それがすごい刺激的やった。それで感化されたってのはないんやけど、自由にやっていいんやなってのは思った。負けてられないなとも。
――Seussも神戸のバンドって自覚はあるんでしょうか?
Yuma : それは全然ないです。どこのバンドってイメージをつける気がない。京都のイメージが強いかもだけど。
Okuhata : 住んでるとこもみんなバラバラだし。
――THE DIM解散後、Seussの結成までは2年を経ています。その2年間はYumaさんとRyoさん、それぞれどんな期間だったのでしょう?
Ryo : 僕はずっとバンドやりたいなーと思ってたんですけど、THE DIMのこともあるし、びびってしまって。たぶんYumaもそうなんですけど。なんかどこかで一歩踏み出せへんところがあった。スタジオで遊んだりとかそういうのはしてたんですけど。気持ちを高めてた時期かもしれないです。
Yuma : 僕も一緒で、最初は諦めたんです。もうバンドはやらんぞって。僕は2ヶ月海外に旅行に行って、そこでお菓子やろうって決めて製菓の学校に行って。で、周りのみんなが就職活動するぞってなったときに、Ryoが声かけてくれて。それが、やっぱりこれに絞るぞってきっかけでした。でも、ずっとギターは弾いてました。昔は曲が作れなかったので、曲を作れるようになりたいと思って。あと、すごいオタク的なところがあるので、パソコンで昔の音楽や、新しい音楽を調べたりってのはしてました。それはずっと変わらないことですけど。
大前提で楽しいもの。それがルールというかポリシー (Yuma)
――Ryoさんが一度は仲違いしたYumaさんを誘った理由は?
Ryo : バンドやりたいって高まったときに、共通の友だちからYumaも「バンドやりたい」って言ってたって教えられて。で、酔っ払ってたときにメール送りました。
――それまで連絡とりづらい空気もあったんでしょうか?
Yuma : ありましたね。だって電話番号も知らんかったし。
Ryo : しかも、それわかったのつい1週間前やしな。知らん番号で「誰ですか?」って言ったらYumaで(笑)。だからLINE知ってたのが奇跡やったよね。
――Ryoさん的にはYumaさんの持つ何に惹かれて声をかけたのでしょうか?
Ryo : 単純に、前バンドやってたから、彼とやりやすいのはわかってましたし。やりやすくないと楽しくない。あとは、こいつは音楽好きでめっちゃ聴いてて、僕はあんまり聴きこんだりしないタイプ。自分にないものがあるから、そこはうまいこと合うんじゃないかなって。
――じゃあ、ふたりがKanekoさんとOkuhataさんを誘った意図は?
Yuma : それはギター弾ける人、ベース弾ける人ってだけ(笑)。
Ryo : ちょうどタイミングよくスタジオ入れた人(笑)。
Okuhata : 僕はYumaさんと1、2回会ったくらいで、仲良いわけでもなかったし。僕とKanekoさんが友だちと天神祭に行ってたときに、KanekoさんにRyoさんからメールがきて「2人で鴨川来い」って言ってるって。で、行ったら「今からスタジオ入るぞ」って言われて。もう終電とかない時間にスタジオ行ったらYumaさんが曲作ってて、それをやるみたいな。
――そのとき、この4人でなにがしかの手応えがあったんですか?
Yuma : いや、手応えとかは特になかったですね。
Ryo : これでいけるぞって思ったことはないし。バンドを本気でやろうっていうか、どちらかと言えば楽しくやろうみたいなことを思ってて。最初にYumaと話したときも、「これは絶対心底楽しめるようなバンドにしよう」って。
Yuma : もちろん本気やけど、絶対的に楽しいってのは忘れないように。結局楽しくない状態で本気でやっても、見てる人も楽しまれへんし。だから、大前提で楽しいもの。それがルールというかポリシー。
――それは前のバンドから学んだ教訓みたいなものですか?
Ryo : そうです。売れるためにどうしようぜってこととかを、深く考えない。
Yuma : どんな状況でもおもしろがれるようにしようって思ってますね。
――Yumaさんの曲をみんなが聴いたのはこのバンドがはじめて?
Ryo : 何曲かはTHE DIMの時にもあったんですよね。あいもかわらずどインディな、でもポップで良い曲を書くな~と思いました。
Kaneko : 僕はSeuss始める前にちょくちょく曲を聴かせてもらってて。ずっと良いなとは思ってました。
Okuhata : 僕はそもそもTHE DIMが憧れやったから、その人とバンドできるんかって、
Ryo : 僕のファンやったらしいです(笑)。
Okuhata : 曲良いな、新鮮だなって思いましたけど、それよりもちゃんと弾けるかなってのがあった。
――最初に形になった曲はSoundcloudにデモをあげてる「Not Well」ですか?
Yuma : そうですね。
Ryo : 一番最初にスタジオ入ったときに作った。
――なにかモデルとしてイメージを共有していたような音楽はありますか?
Yuma : うーん、あんまり狙ってはいかないようにしてますね。そもそも、いろいろやりたいってのもあるし、自分のなかの流行もあるし。
Ryo : ギターとかはYumaのイメージに忠実じゃない? 俺は好き勝手叩かせてもらったけど。
Okuhata : ベースに関しては、最初はもっとたくさん弾いてたんですけど、「もっと音数減らして」とは言われましたね。
――この曲に限らず、Seussの音楽にはまどろみや酩酊の感覚がありますが、それはどこから発せられてるものなのでしょう?
Ryo : 60年代のサイケが昔から好きやから、そういう要素は出てしまってると思います。
Yuma : 音作りですかね。リヴァーブをがんがんにかけて、そこは狙ってやってる。ディアハンターの音作りとかがすごい好きですね。あとメロディとかはほんまに60年代のいろんなのを聴いて考えたり。真似してるで言ったらいっぱい真似してますし。
明るいのに陰がある曲をやっていきたい (Yuma)
――Yumaさんは今回はフロントマンでもあるわけですが、ステージの真ん中に立つ人間として心がけていることはありますか?
Yuma : 最初はどうしても意識してしまってたんですけど、最近はあんまり意識してないですね。楽しませよう、自分が楽しもうってスタンスでやってるので。
――バンドとしては、ライヴでフロアをどんなムードにしたいと考えていますか?
Yuma : それが難しいところで、どうなっても楽しいから。めちゃくちゃシーンとしてても「全然あがってへんやん~」っておもしろくなるし(笑)。どうするかはお客さんが決めることなので、僕らがそれをどうしたいって言うのは媚を売ってるだけに思える。自分らがまず楽しくなる、それだけです。
――では、これまでライヴ中に楽しいと感じた瞬間は?
Ryo : メトロでめっちゃミスこいて、Aメロくらいまでずっとミスってたときにすごいテンション上がって。こいつらも爆笑してるし。
Yuma : こいつ何やっとんねんって。ちょっと怒りながら、それもおもしろい。
Ryo : でもあんときに、これでいいんやって思った。音もひどかったし演奏もくそやったけど、「良い」って言ってくれる人がけっこういて。そういうときも落ち込んだりせず、それを楽しめてるのは伝わるんやなとも思って。
Okuhata : 僕もあの日以降だいぶ変わった。それまではミスしたら殺されるとも思ってたから(笑)。
――もちろん演奏がばっちり合ったっていう気持ちよさもあるじゃないですか?
Yuma : ありますね。でも、まだ無理かなって思います。技術的なことは時間が経てばいくらでもついていく。でもテンションの掴み方ってそれより難しいから。
――バンド活動を楽しんでるって意味で近しいヴァイブのバンドは?
Yuma : あんまりそういう話はしないですね。The fin.とかも似てるところはあると思うけど、違うし。
Ryo : 自分が良いと思えるものを聴かせて評価されるかどうかってのは似てる。でも、ライヴは誰よりも俺らが絶対楽しんでると思う。
Okuhata : HAPPYは近いかなと思う。なんかみんなで遊んだりする感じとか。僕はバンド・メンバーってよりも友だちってのが強いから。彼らもそうかなって気がする。
――Seussというバンドが今抱えている野心について教えてください。
Yuma : あるけど、そういうのは言わないんです。一番近いところで言えば音源を作ることやけど、それをどうするかって話なので。音源作ってリリースするだけやったら何もならない。その先にしたいことをみんなで擦り合わせていけたらなって思ってます。レーベルと事務所に入って、動ける場所を広くして、もっとたくさんの人に聴いてもらいたいってのが一番。
――一方で、状況が大きくなればなるほど、外の人間からの意見も増えてきますよね。前のバンドと同じ轍を踏むのではという不安はないですか?
Yuma : 僕は我が強いので、「こうする」って言ったらこうするしかない。だから、そこに付いてきてくれるかどうかだけやと思う。僕が良いものを作ってたら、メンバーはみんな付いてきてくれるし。僕が流されたりとか、全然良くないものを作ってたら付いてこないだろうし。それがわかりやすくていいなと思います。
Ryo : 俺は前失敗してるトラウマみたいなものもあるんで、外野の意見は半分程度に聞いてて。あとはこいつに付いていく。
――じゃあ、音楽的な面でトライしたいことは?
Yuma : 山ほどあります。ソフト・ロックも好きだから、ああいうコーラスワークとかもやりたい。もっとサイケ色を強くして、最終的にはアモン・デュールみたいな気持ち悪いやつもやりたいし。10分くらいの曲やったりとか。でも、それは今やらんでもいいかなって気持ちもある。今はできることをやっていきます。
――Seussは良いポップ・ソングを書けるバンドでありつつ、ぶっとんだサイケデリックな演奏もできるバンドだと思います。自分たちにとって今のSeussをもっとも表現できている曲は?
Yuma : 一番やりたいイメージができてるのは「Melancholia」かな。あれはこのバンドでしか出せないものやと思う。ああいう「何これ?」ってなるような、明るいのに陰がある曲をやっていきたいですね。
後記
そもそもは今回の配信、Soundcloudの音源に、新しい宅録デモを加えたものとなるはずでした。が、バンドになにがしかの火がついたのか、取材終了直後ににちゃんとしたスタジオでのレコーディングが急遽決定。ようやく昨日、完パケした2曲「Melancholia」「Little Boy」が届きました。デモ時よりも格段にすっきり整理されたプロダクションのもと、各楽器のアレンジの妙が際立つミッドテンポの佳曲「Melancholia」。マシーンのごときタイトなスタックス・ビートが配されたダンサブルなガレージ・ロック「Little Boy」。どちらの曲とも、Yumaの歌声から匂い立つ、ルーズな色気がしかと収められていることも特筆すべきでしょう。輸入レコード店で、素性の知らない海外のバンドのなにやら良さげなデビュー・7インチを見つけたときの興奮、今回の2曲はそんな出会いを与えてくれます。ぜひご試聴あれ。
インタヴュー&文 : 田中亮太
「隣の騒音 ~2014年の関西インディ・ミュージック・ガイド」Archives
第1弾は京都で暮らす若干20歳過ぎの男の子たち3人が始めたインディ・レーベル"生き埋めレコーズ"。彼らにとって初のリリースとなるコンピレーション『生き埋めVA』(左)と、主宰の1人が率いるTHE FULL TEENZのファースト・アルバム『魔法はとけた』(右)を配信中。
第2回 : 本日休演
第2弾は現役京大生の4人バンド"本日休演"。"猥雑なパワーと前衛的な音作り、歴史をふまえての豊穣さをもったポップ・ソング。そこにボ・ガンボスからくるりにいたるまでの、京都ならではの濃ゆいブルースが息づいている"――そのサウンドを収めたセルフ・タイトル・アルバムとなる『本日休演』を配信中。
第3回 : その他の短編ズ
第3弾は森脇ひとみと板村瞳によるデュオ"その他の短編ズ"。音色もアンサンブルも定形から解き放たれ、奔放な創作マインドがさらなる爆発を遂げた最新作『3』をはじめ、ゆっくりとした演奏が穏やかなアンビエンスを醸し出しているファースト『その他の短編ズ』、よりソリッドに削ぎ落とされ、どこかポストパンク期のアコースティック作品との趣もあるセカンド『B』を3作同時配信。