「共感」の先に「共鳴」が出て来る
ーー高野さんと音楽業界の関わりってどんな所から始まったんですか?
高野 : いま僕は「トライバルメディアハウス」というデジタルマーケティングの会社にいるんですけど、シンプルに言うと僕は音楽が好きで人生ずっと音楽に救われてきていたんでソーシャルメディアマーケティングの側面から音楽に少しでも恩返しができればなと思ってブログを書きだしたのがきっかけなんです。そうしたらありがたいことにいろんな方から反響があって、音楽業界の方々と接するようになりました。だから実質まだ「トライバルメディアハウス」に入社で丸3年なので、音楽業界との関わりも音楽リスナーという立場を除けば、同じくらいの期間になります。最初は「アワワワ… 音楽業界の人だ!」って感じでした(笑)。
森 : ははははは!
高野 : 音楽マーケティングで人生は変わらないけど、音楽こそが人生を変えるし生き方を変えるということをまざまざと自分が感じていて。その気持ちはすごく大事にしたいんです。頭でっかちな机上のマーケティングを語るつもりはさらさらないですし、いち音楽ファンというのが僕のベースだし一番大事にしているところなんです。この本も音楽への愛があってのものってところを大事したいし、そう感じていただけたらいいなと思っています。それくらい僕の人生に息づいているのが、音楽なんです。
森 : そうですよね。音楽ビジネス本とかにありがちなのが、うちみたいなインディーズ音楽に置き換えたときにはあてはまらないポップ・ミュージック視点でしか書いてなかったりするんですけど、この本はまさにこれだよっていう。
高野 : 本当ですか(笑)? そんなに誉めていただいて恐縮です。でも確かに僕が意識していることに、特に1冊目にも書いた「共有→共感→共鳴のサイクル」っていうのがあるんですけど、「ソーシャルメディアマーケティング」っていうと「共感」が大事というところで、止まっていたんですよ。だけどそれを音楽にあてはめると、それだけでは成立しないような気がしたんです。
森 : ええ、確かに。
高野 : 音楽はライヴっていう生の体験以上のものはないと思うんです。そうすると「共感」の先に「共鳴」が出て来るんですよね。それをソーシャルでサイクルを回すことによってファンを作ったりとかマーケティングに上手く使ったりとかできるはずだと思ったんです。
森 : 僕がヒソミネを作ったのも「共鳴」の部分が大きかったんです。多分時代が変わってもライヴというものの魅力は変わらないと思って。
高野 : ヒソミネを作られたのはすごくいまを見据えているというか。昔みたいにデモテープを送ってメジャー・デビューしてタイアップがあってみたいなルートって現在ではそう簡単ではないですし、それに仮に乗れたとしても厳しいですよね。そういう意味ではどんどん新しいうねりって始まってると思うんですけど、そんな中で自らもアーティストでありヒソミネを作られたりレーベルをやったりという森さんの存在は貴重だと思います。
森 : ありがとうございます。
高野 : 僕はこれからもっとアーティスト主導でマーケティングをやっていく方向ってあっていいと思うんです。そうなってくるような気もしますし。そういう意味で先進的だし未来が詰まっている場所なんだなってことはヒソミネに感じていて、本当にすごいなと思います。自分にはそういうことはできないですし、僕はただのヒゲの音楽バカなんで(笑)。
一同 : (笑)。
森 : いやいや、そんな(笑)。
高野 : 音楽が作品であるのは間違いないですけど、売るんだったら商品でもあるわけですから、その思考を持てるかですよね。それは迎合しろということではなくて。自分が最高だと思う音楽をどういう方法で伝えたら買ってくれるのかというのを考えてる人が勝つと思いますし、そういう人には自然とそういう各自の得意領域を作れるチームができてくると思うんですよね。
森 : そうですね、そういう気がしますね。
高野 : もったいないなと思っちゃうんですよね。いい音楽がいっぱいあるのに。届け方を描かないっていうことは。
どれだけ戦略的に音楽を解放できるか
ーーマーケティング以前の話でソーシャルメディアとの関わり方について伺いたいのですが、森さんはアーティストとしてTwitterやfacebookをどのように活用しようと考えていますか?
森 : 高野さんの本に「facebookは音楽に向かない」ってキッパリ書いてあったことが新鮮でおもしろかったんですけど、意識はしていなかったんですが確かに僕もレーベルのアカウントで使う時はfacebookよりTwitterの方が多いですね。あとは強いて言うなら自分基準で客観的に見てカッコ悪いツイートになっていないかだけは意識するようにしています。ただ僕はもっと戦略を考えなきゃいけないなとは本を読んで反省しましたけど(苦笑)。
ーー高野さんはご自分の好きなアーティストのSNSの使い方を見てどんなことを考えますか?
高野 : この手の話って、結構「戦術論」に陥りがちなんですよ。どうTwitterでつぶやくのか、プライベートを出したほうがいいのかそうじゃないほうがいいのかとか。それは僕はどっちも間違いではないと思うんですけど、その前の「戦略」があるかどうかだと思うんです。良い意味で近寄りがたいアーティストが例えば「ラーメンを食べた」っていうつぶやきを投げることで距離が近くに感じる人もいると思うし、逆にそんな姿は見たくない人もいるだろうし、それは戦略次第だと思うんです。
森 : なるほど。
高野 : ソーシャルでは「Talk-able」「Shar-able」「Buzz-able」って3つ大事なことがあるんですけど、インディーズで一番大事なのは「Talk-able」(話したくなる要素)だと思っていて、どれだけ語りたくなるかなんですよね。それがジャケットでもライヴ・パフォーマンスでもいいんですけど、語られない時点で広がるわけがないですからね。
森 : ええ、それは僕も本の中ですごく印象的でした。あと、フリーミアムについて「やみくもにやってもしょうがない」というようなことが書かれていますけど、インディーズ・アーティストがフリーミアムを実行する時にあまりよくない実例ってありますか?
高野 : まず前提として、買わない人はフリーだろうがなんだろうが買わないと思うんですよ。
森 : そうですよね、僕もそれは同じ考えです(笑)。
高野 : フリー・ダウンロードを実行する場合は、目的をまず明確に決める必要があります。その上で、まさに戦術論的な話になっていくと思います。例えば、時間軸で切るというのが大事かなと思います。その中でも個人的感覚としては(音源をフリーDLするとして)最長3日だなと。1週間とか2週間やっても垂れ流してるだけだし、フリーとフリーミアムは違うので。どれだけ戦略的に音楽を解放できるか。それはフリー・ダウンロードやYouTubeも踏まえての話になりますが。
森 : なるほど。
「世の中を変えたい」という気持ちは持っている
高野 : ところで森さんはkilk recordsやヒソミネを今後どうして行きたいとお考えですか? 僕はそこに凄く興味があるんです。
森 : 僕は実はバンドもレーベルもヒソミネも、結構ひとつのテーマでやっているんです。レーベルのオフィシャルサイトに“精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い”って書いてあるんですけど、僕はできれば高野さんで言うところの「世の中ゴト化」して行きたいと考えていて。僕が好きな音楽がすべてではないんですけど、僕がこれだけいいと思っている音楽をみんなが知らないのがもったいない、くらいの気持ちがあって。
高野 : うん、うん。
森 : 流行とか世の中の流れでみんながいいと思わされる空気で売れてる音楽もあると思うんですけど、僕が好きな音楽もそこに混じって公平にみんな好きになってくれたらいいなと思っていて。高野さんの本を読むまでは「世の中ゴト化」というのは意識していなかったんですけど、「世の中を変えたい」という気持ちは持っていて、それはレーベルもヒソミネも全部共通なんです。その為には影響力を持つ必要がありますけど、僕個人が影響力を持つのではなくて、ひとつのトライブで変えていく力が欲しいなと思うんです。
高野 : 僕はいろんな音源を聴いたりインタヴューを読ませて頂いて森さんは大きな夢を持っていると思っていたんですけど、いまのお話を聞いてすごく腑に落ちました。最終ゴールがイメージできているから、逆算していろんなことがブレないでできてるんですよね。例えば坂本龍馬とか高杉晋作もそうだと思うんです。壮大な話になりますけど(笑)。「日本を変える」っていう超デカい野望があって、その逆算で亀山社中とか海援隊、薩長同盟とかがあったりするわけじゃないですか? 別に海援隊を作るのが目的じゃないと思うんです。
森 : ええ、そうですねまさに。
高野 : 日本を変える為の手段として作っただけで。まあ彼は暗殺されましたけど(笑)。
森 : (笑)。
高野 : 結局なにかしら事を成す人ってすごくクリアに野望が見えていてそれを逆算軸でやって行ってるんで、森さんも同じ考えだから素晴らしいしすごいなと思います。
森 : いや~、ありがとうございます、今日はお会いできてよかったです。ぜひ今後ともよろしくお願いします。
高野 : こちらこそです! インタヴューとしては一旦ここでって感じで(笑)。
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