後藤のポップ・ポテンシャルを如何なく発揮する傑作
アルバムは先行シングルである「Wonder Land」から幕を開ける。スネアの音は軽く、ベースラインと絡まり生まれるビートはとてもグルーヴィ。そこに少しばかり不協和音を伴ったギター・ストロークとスクラッチ音が重なる。ヒップホップにフォーク・サウンドを足したスタイルからはベックの姿を連想せずにはいられない。しかしこれだけではない。オアシス直系のブリット・ポップもあれば、スピッツのような爽やかなギター・ポップ、スーパーカーを思い出してしまうようなエレクトロ・ポップまで。『Can't Be Forever Young』には自分の趣向の赴くままに自由に音を鳴らす後藤の姿がある。
そう、このアルバムを特徴づけているのは自由でリラックスしたフィーリングだ。改めてASIAN KUNG-FU GENERATIONの作品を聞きなおしてみるとレスポールでパワー・コードを鳴らすような無骨なバンドサウンドとどこまでもエモーショナルな歌が彼らの特徴であると感じることができる。そのサウンドが多くのリスナーの心をとらえ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの大きな魅力となっているのは間違いない。ただ、バンドが大きくなるにつれそのサウンドは良くも悪くも多くのリスナーに定着し、それによってASIAN KUNG-FU GENERATIONに期待されるサウンドは少しばかり制約されてしまっていたようにもみえる。だが本作ではそのような制約から解放されている。結果として本作は後藤のポップ・ポテンシャルを如何なく発揮する傑作となった。
本作について後藤は次のように述べている。「俺はドヤ顔と決め込みたいところだけれども、そういうアルバムでもない。もっと自然体で、リラックスしたアルバムだから。俺の自己紹介でもなければ、何かのメッセージとかでもない。君や、彼や、彼女の日常を俺の目線から切りとったような、それでいて俺のパーソナルともどこかで繋がっているような作品だと思う」(Vo.ゴッチの日記3月24日)。そう『Can't Be Forever Young』はただ多くのリスナーの日常生活の中で鳴り続けることだけを望んでいる。本作が本名である後藤正文ではなく、あだ名であるGotch名義でリリースされているのもよりリスナーの日常に寄り添いたいという後藤の思いが込められているからだと僕は思う。予定のない休日に一人ゆっくり過ごす、そんな時に聴きたくなる一枚。(Text by 島田和彰)