曲とともに自分の心臓や血液の巡る音も一緒に聴こえてくる
ふかふかした土壌の中に包まれているようなやさしい感覚の中で、曲とともに自分の心臓や血液の巡る音も一緒に聴こえてくる… Gotchのニュー・アルバムは、そんな手触りやぬくもりと一緒に、生身の人間の熱いものが感じられるアルバムだ。とは言っても、普段アジカンで見せるような衝動のかぎり叫ぶなんてスタイルは見られず、アコースティックな曲が多く、体を横にゆらゆらさせながらゆったり聴くことができる。特に私が注目したのは、TurntableFilmsの井上陽介が参加している楽曲の中で最初に登場する曲「stray cats in the rain/野良猫たちは雨の中」である。井上ならではのカントリー調のギターが印象的なのだが、私がぐっときたのは、この曲で何度も出てくる〈雨振りの日も濡れたからだ寄せ合って / さあ生きよう〉というフレーズだ。アメリカのルーツ・ミュージックを愛し京都という土地でそれを追求し実践している井上のギター が、Gotchの弾き語りに加わると、〈さあ生きよう〉というなんともストレートすぎて下手すれば恥ずかしくもなってしまうフレーズがこんなにもやさしく心の中に響いてきてしまうのか、と思わず唸ってしまった。
井上をはじめ、今回のアルバムに参加したアーティストは関西在住の人が多い、というのも特徴的だ。Turntable Filmsに限ると、音楽はアメリカ・オルタナがどう… とか言われているが、あくまで京都を拠点として関西のシーンを牽引しているバンドであり、今、日本のインディーズ・シーンではこのような「音楽の懐が深く、かつ自分たちが住んでいる場所でそこにいる人たちに向けて音楽を発信している」アーティストが全国各地で着実に日本の音楽シーンを盛り上げている。もちろん、Gotchと井上にアメリカ・オルタナという共通項があったのは前提にあるが、場所はどこでも、そんな土地に根付いたアーティストたちと組むことによって作られたアルバムだからこそ、Gotchのパーソナルな視点にふかふかしたやさしい土壌を感じさせる所以なのではなかろうか。
今やGotchは、ちょっとした発言でも炎上しかねないほどのフォロワーを抱え、手がけた楽曲や歌詞に対して、メディアを含め私たちは社会的意味や説明を大きく求めようとする。今回のアルバムも例外ではないのだが、単純に生きることや死ぬことを少しパーソナルな視点で歌っているに尽き、このアルバムを通して、それが私たちの心にそっとやさしく寄り添う、そんな一枚である。(Text by 藤森未起)