2014/02/08 00:00

客席とステージが反転して、笑っていたはずの僕らが笑われている

きゅーん、きゅーん、きゅーん。幻覚的にループするギターのチョーキングに、いつか週刊誌の裏表紙で見たようなフレーズ。トリプルファイヤーのニューアルバム『スキルアップ』に収録されている「本物のキーホルダー」はこんなふうにはじまる。“電通社員の10人に7人が覗いています”なんて、心の綺麗な人が信じてしまいそうなフレーズを残響感のあるヴォーカルに乗せて曲は進行し、歌の主人公はついに穴を覗く。キーホルダーの中身がどのようなものだったかはお察しの通りだ。

『スキルアップ』に収録された9曲は、このように現代に溢れるキャッチコピーをパロディ化した物語を持っている。それらはややもすれば痛烈な風刺になりかねないが、彼らがその方向へ傾きすぎることはない。それはニューウェーヴ~ポスト・パンクの要素を感じさせるしっかりとした演奏力と、全曲の作詞を担当し、その詞世界を体現する吉田靖直の道化めいた歌の絶妙な組み合わせからなる低体温のサウンドによるものだろう。彼らの音楽にはクリティカルな視点こそあるが批判精神を掲げているわけではなく、ゆるいギャグマンガのようなテンションさえ漂う。事実彼らのライヴにあるのはストイックな熱狂ではなくお笑い的な賑やかさだ。そしてそれゆえに、ガードがらあきの僕らはふとした拍子に胸を突かれてしまう。紋切型の煽りで笑いを誘いつつ、コーラスではファンキーなギターとともにこちらの自意識に切り込んでくる「カモン」の歌詞で冷や汗をかく人も多いのではないだろうか。

聴く側にいた人間がいつのまにか聴かれている。客席とステージが反転して、笑っていたはずの僕らが笑われている。「ニセモノの」キーホルダーのなかを覗きこむように、本物ぶったダンスの底をじっと見つめられている、そんな気味の悪い脅威がここにはある。さあ、僕らはどんなふうに踊ろうか?(Text by 小沼理)

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[レヴュー] トリプルファイヤー

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