2013/10/30 00:00

(左から)國崎晋、武田昭彦、浅田陽介、飯田仁一郎

12月4日(水)より渋谷ヒカリエ内で開催される〈DSD SHOP 2013〉。このイントロダクションとして、ここに3人のデジタル・オーディオの識者が集まってスペシャル鼎談をお届けする。その3人の識者とは、日々最新のデジタル・オーディオ情報を伝え、そしてその業界のなかで吹く“風”を熟知するメディアの編集長たち。「サウンド&レコーディング・マガジン」編集長の國崎晋、「Net Audio」編集長の浅田陽介、そして「デジファイ」「ビート・サウンド」編集長の武田昭彦の3人だ。OTOTOY編集長の飯田仁一郎を聞き手に、現在のDSDの状況をはじめ、盛り上がりを見せる“ハイレゾ”オーディオの動向などをじっくり語ってもらいました。

國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン)
浅田陽介(Net Audio)
武田昭彦(DigiFi / BeatSound)

聞き手 : 飯田仁一郎(OTOTOY)

〈DSD SHOP 2013〉開催記念 編集長鼎談

――主題としては、DSD SHOPの第2回もあるので、DSDやハイレゾのこと、どんなふうに捉えてるかっていうことを訊いてみたいなと。ハイレゾ、盛り上がってるっていう実感はありますよね?

國崎晋(以下、國崎) : ありますね。特にDSDに関しては、前は廃れてしまうんじゃないかと、その危機意識だけでやってたんですけど、もう大丈夫だろうと。なので、ここに引退宣言を(笑)。

――引退宣言を(笑)。盛り上がってる感じありますか?

武田昭彦(以下、武田) : そうですね。もともとオーディオやられてる方はハイレゾにすごく可能性を見出してるので、応援していきたいなとは思ってますね。ネット環境も整って、ハイレゾでもかなりズムーズにダウンロードできちゃうんで。MP3のダウンロードとプロセス的にはあまり変らないし、PCオーディオから入った若い人にとってはその辺の敷居の高さはないんじゃないかなって。

浅田陽介(以下、浅田) : ネットオーディオという雑誌自体は創刊号を発売してから3年ぐらい経つんですよ。創刊時のターゲットはオーディオ・ファン。「ダウンロードの手順から再生までいちから教えます」と企画をやって。当時ハイレゾに興味を持った方たちは、どっちかというと年配のオーディオ・ファンで、パソコンはぜんぜんわからないというひと。その人たちが「音がいいんだったら、じゃあ、これからはハイレゾだ」とUSB DACやネットワークプレーヤーを買い始めて。で、今年に入ってからはちょっとしばらく落ち着いてたんですよ、ただこの秋のSONYさんの参入は大きかったですね。ハイレゾ・オーディオと銘打って大々的に発表会やって、そしたらfacebookとかで普通にハイレゾ・ウォークマンの記事とかの話題が千単位で”いいね”がクリックされてるんですよ。それまでのハイレゾの話題だったら数百くらいな感じだったのに。

――逆に制作方面、エンジニアさんとかはどうなんでしょうか? 高音質で録音しようみたいなのは?

國崎 : 24bit/96kHzがほぼほぼデフォルトになってきてますね。過去のことを振り返って、じゃあいまハイレゾの昔のものを引っ張ってこようと思ったときに、80年代と90年代の音源が、みんな困ってるわけですよ。そのころは16bit/44.1~48kHzとかで録られてるんですよね。最終がCDの音質だったんで。これをハイレゾにしようっていったって、無理があると。で、24bit/96kHzでつくっておかないと、これから先にこれをハイレゾとして売れなくなるという危機意識があるんだと思う。

國崎晋(サウンド&レコーディング・マガジン)

――80年代、90年代がロストしていくっていうことですよね、ハイレゾにおいては。

國崎 : 特に90年代ですね。だからと言って、音が悪いってわけじゃないんですよ。16bit/44.1kHzがダメってことじゃなくて、フォーマットよりも、曲がいいとか演奏がいいとか、ミックスがいいとかっていうほうが上回るんです、どっちかっていうと。

浅田 : 特にオーディオの人は数字に左右されちゃうんですけどね(笑)。

國崎 : スペック至上主義的なところがあるんで。「こういうフォーマットです」っていうことのほうが音がいいってなっちゃいますけど、そこは、OTOTOYさんとしても、「器(データ・フォーマット)だけじゃないんだ」ってことをもうちょっとうたっていかれるべきかなあと。

――DSDにいく前に、24bit/96kHzはもう、いろいろ聴けるようになってきました。昔僕らが24bit/48kHzを配信するときにすごい困ったのが…

浅田 : 環境がない?

――そうそう。iPhoneでぎりぎり聴けたのが24bit/48kHzだったんですよ。

浅田 : いまは24bit/96kHzは、iPhoneでもかかっちゃいますからね。で、極端にいえば、PCMで192kHz/24bitまで聴けちゃえば技術的にはDoPでDSDもいけちゃうんで。このあいだiOS7でカメラアダプターを使ってハイレゾを再生することも可能になりました。だから聴ける環境自体はこの数年でかわりましたね。

――いまお客さんは24bit/96kHzのデータを手に入れれば、そんなに苦労せずに?

浅田 : ま、iOSでいえば、カメラアダプターなど多少の出費はありますけど。

國崎 : なにも知らないとなにも聴けないとは思いますけどね。

浅田 : 「こういうふうにやればいいんだ」とわかることが大事で。そこはやっぱりPCオーディオの1番ネックになってた部分なんですよね。「どうしていいかわからない」っていう。だからこそ、うちみたいな雑誌が求められているところはあるんで。

國崎 : 簡単だったらたぶん成立していない…(笑)。

浅田 : ポータブルはずいぶん緩和されましたよね。Astell&Kern(註1)とか出てきて、ファイル・コピーするだけでハイレゾが聴ける、っていうのが出てきて。

――なるほど。そこが出てくると、ほんとにおっきく広がるでしょうね。

國崎 : 1番大きいと思いますよ。だってAstell&Kernとか本当に大きな存在だと思いますよ。だって悩まないですもん。ダウンロードしたら、ほんとぴゅっと入れれば。なにも考えなくていい。しかもめっちゃ音いいじゃないですか、あれ。びっくりですよ。

武田 : あとは新しいウォークマンは別格ですよね。音質的にも。2機種でて、上位機種のやつなんか、Astell&Kernと肩を並べると僕は感じてます(註2)。DSD対応のポータブルは、Astell&Kernが変換で聴けます。あとiBasso(註3)がある。いずれも高いんですけどね。10万とかやっぱしちゃうんで。

――わかりました。DSDの話にいきたいんですが、ハイレゾで盛り上がってるなかで、DSDは… 國崎さんはちょっとあとにしてもらって(笑)。

一同 : (笑)。

――産みの親、というか育ての親ですからね。

浅田 : DSD番長(笑)。

――番長(笑)。浅田さんはどうですか? 僕らとしてはハイレゾが盛り上がったことによって、DSDは各メーカーさん、少しだけ止まったような印象はあるんですよ。去年はDSDいこうぜって感じ、トライしてみようって感じだったんですけど。

浅田 : とまったわけじゃないですね。最近では、BUFFALOがオーディオ用のNASをDSD対応でスタートして(註4)。ほかにもYAMAHAとかMarantzとか、いわゆるオーディオ系のメジャーなブランドがCDプレイヤーにDSD対応のDACを入れ始めたんですよね(註5)。結果的に、ある意味、ハイレゾのなかにDSDも含む、みたいになってきてるんじゃないかな、と思ってて。ただ、これ言っていいのかわかんないですけど、個人的にはPCMの音ってかなり好きなんですよ。

――ぜんぜん! そういうことはがんがん言ってもらっていいです。

浅田 : 僕自身は、いわゆる70年代ぐらい、60年代ぐらいの、ジャズ・ファンクがめちゃくちゃ好きなんですけど。そのへんの音源ってパンチ感みたいなのがあって、それはやっぱりPCMのほうが、ぐっとくる感じはあるんですね。 ただ、たとえばユーロ・ジャズとか、クラシックとか、空間の響きを大事にして音作りをしてる楽曲に関しては、やっぱりDSDのほうがいいのかなあってちょっと思いました。結局広がりとか、全体の空間の感じが、全然DSDのほうがいいんで。最終的にはフォーマットのクセを活かしてレコーディングしてるエンジニアさんとか、ミュージシャンがこの作品だったらこれでいこうっていうチョイスをすればいいだけの話だと思うんです。そういった意味で再生機器側が、なにも考えずに全部聴けるようになったら理想的ですよね。「ハイレゾは特別」っていうよりは普通のものにしたいところが若干あったりします。

浅田陽介(Net Audio)

――それが理想だと思います。DSDも聴けて、24bit/48kHz、24bit/96kHzも聴けて、なんならmp3も聴ける。

國崎 : 気にしないで聴けるのが最高ですね。「なんのファイルかを意識しないで、ダウンロードしてきたものはそこに放り込めば聴ける、以上!」みたいになればいい。いま、そこに近づきつつあるな、と。それが最終形ですよ。そこに至るまでは、「ハイレゾ~!」って盛り上げとかないと誰も作らなくなるから。そこの過程をいまみんな一生懸命がんばってる、ってことだと思いますよ。

浅田 : 結局音好きが反応しなかったらそこには行き着かないんで。

武田 : OPPOという会社が、ユニバーサル・プレイヤーのBDP-105JPを出しています。(註6)。USBメモリも再生できるし、PCに繋いでも、PCM系からDSDまでなんでもできるプレイヤーで、あれは本当にいま國崎さんが言われたような、そういうことを意識させないで、なんでも繋げば聴ける製品です。

國崎 : 持ってるディスクのこと気にしないで、12㎝のディスクだったら、Blue-rayだろうがDVDだろうが、SACDだろうが、CDだろうが、みんなかかるわけですよね。それが最高なんですよ。本当はプレイステーションがそこにいくはずだったんですよ。PS3の初期はSACDもかかったし、初期以外のやつでもDSDディスクがかかった。ある種、回転メディアは全部かかりますっていうのが、プレステの最初のコンセプトだったわけですけど、途中から決定的に違うところにいってしまった。

浅田 : 言われてみればそうですね。OPPOのポジションってPS3がなるはずだったところだ。ネットワークのところも含めて。

――なるほど。ちょっとDSDの話に戻して。武田さんはハイレゾが盛り上がってるなかで、DSDはどういう存在だと捉えてますか?

武田 : CDのフォーマットの上位のもので音を作っていくってのがいままでもあったわけで、それがやっとコンシューマー側に降りてきて。いまの現状、DSDの5.6MHzが最高だって言われてるじゃないですか。5.6MHzで録ったものを僕たちは5.6kHzで聴けるようになっちゃったんですけど、でも、レコーディングの現場は上にいってほしいなって。

――なるほどなるほど。そこで止まってほしくないってことですね。

武田 : だってやっぱりアナログのハーフ・インチのテープで録ったものって、そうじゃない、やっぱ別世界の音だと思うんですよ。

浅田 : わかります。ものすごくわかります。

武田 : CDとかアナログ・レコードって、もっと上のフォーマットでつくられて、それが流通してきたんですよね。だから、DSDの世界も、もっと上の世界から、こっちのほうに下りてきてほしいなって。もっとこれからは上位フォーマットでね、っていう世界も見せてほしいなと。

國崎 : 上を目指すべきだっていうのは本当に賛成ですね。それとともに、コンシューマーが聴くことのできるフォーマットって上げていくべきなのかどうなのかってちょっとわかんない部分もあって。ある種、流通させるフォーマットっていうのは、どこかで、例えば10年ぐらいとか止めておいたほうがいいのかなって気もね、ちょっと思うんです。さっき武田さんが言ってた、録音する側はがんがん先に進めて。それで何年か後に、高いフォーマットでやってたんで、みなさんコンシューマーのフォーマットが高くなったんでそれ版を出しますよ、でもいいと思うんですけど。いまはそういう意味じゃ乱立しすぎ。で、僕がユーザーだったらどうしていいんだかわかんないし、勘弁してくれって言いたくなる。

武田昭彦(DigiFi / Beat Sound)

――なるほど。仕掛け人なのに(笑)。

國崎 : 5.6MHzはファイル容量も大きいし。まあ、ダウンロードは全然ストレスなくなったんですけど、ハードディスクはあっというまにいっぱいになるじゃないですか。きびしいなと思って。そうなると急に、Spotifyでいい気がする、みたいな、そんな感じになったりしますよ。だからでかすぎないほうがいいって。

浅田 : 容量が足りなくなったら外付けで拡張していってくださいとか、結局DVD-Rみたいなディスク・メディアで管理することになっていくのかもしれないですけど。ハード・ディスクごとにジャンル集めて、とかやるのかもしれないし。

國崎 : そう考えると、逆行するようですけど2.8kHzのDSDでダウンロードしたら、DSDディスクを焼いておいて、それを聴くような習慣にしておいたほうが、本当は便利なんですよ。そうしようかと常に思うぐらい。焼くのが面倒くさいからハードディスクに溜まっていって。

武田 : 個人的には、すごく心配性なので、ダウンロードした音源は、ハードディスクにもちろん貯めてるんですけど、なんか… データが消える夢をよく見るんですよ。

一同 : ははははは(笑)!

武田 : なので(笑)、必ず僕は焼いてます。DSDはDSDディスクに焼いてるし、PCM系もFLACもDVD-Rに焼いて、2重にアーカイヴしてますね。

浅田 : 映像って、4K、8Kとか、もっと解像度あげてるのに、音楽ってどっちかっていうと、どんどん容量圧縮していって「音は置いておいて、いっぱい持ち運べるようにしようよ」という側にいったんじゃないかって思っているんです。求める方向が違ったと。でも、”ハイレゾ”って言葉が広がりつつあることって、僕らみたいな音楽好き的には嬉しい方向で。「音のクオリティちゃんとしようよ」とか「もっと音楽のことを考えましょうよ」っていうふうになってるのはすごくいいことだなって思います。最終的にはなんだかんだで、トータルで良い曲を買ってほしいんで。そうじゃないと良いコンテンツがなくなっちゃうと思うんです。

武田 : やっぱり、もっとネイティヴで録ったDSDの楽しい音楽がいっぱい出てくるといいなと思ってて。いままで取材させていただいた感じだと、レコーディング・エンジニアは奥田(泰次)さんか、葛西(敏彦)さん、zAkさん、 そのへんのひとたちしか現状熱心にやられてる方はあんまりいないのかなと。それはミュージシャン側の理解度も含めて、そこをね、変えていかないと、ネイティヴのDSDが作品としてないので。なんちゃってDSDはありますけど。

一同 : なんちゃって(笑)。

國崎 : ほんとですよ。本当にそう思います。

武田 : もしかすると、AudioGateで変換してるだけだったりして。それじゃ、プロ意識が足りないと感じます。

國崎 : いや、アーティストが「僕はこの音が好きなんでこれで聴いてもらいたい」って、確信犯的に変換した音源を配信するのはありですよ。でもそれが、DSDの音だっていうのとはまた違って。

武田 : でもいまの21世紀の音楽を録るのは、やっぱり若い人たちの仕事だと思うんで、奥田さんとかzAkさんとか、葛西さんよりもさらに若い世代の新しいエンジニアの人が、DSDに興味を持ってもらって、それで良い音楽がいっぱい生まれることがみんなの幸せだと思うんですよ。飯田さんもほうぼうを巻き込んでやられてると思うんですけど。

浅田 : 結局コンテンツなんですよね。別に機材を眺めたいから買うってことではなくて、普通にコンテンツを良い音で最高の状態で聴きたいからハード買うんで、やっぱりコンテンツが揃ってくれないと。それをなんとかハード側から後押ししてるきた形がいまのハイレゾの形なのかなって思います。

飯田仁一郎(OTOTOY)

――どうですか? 非常に頭の痛い國崎さん。

國崎 : だから… なんでみんな作んないんですかね。

一同 : (笑)。

國崎 : こんだけ作り方教えてるのに…。そもそもウチは雑誌の編集部で、レーベルは副業なのに(笑)。「マネしてよ!」って思ってるのに、なんでレーベルの人がやらないのか不思議でしょうがない。

――DSDの聴き方のところなんですけど、いまDSDディスク、DSD DAC、ポータブル・プレイヤー、ネットワークとかあるんですけど。なんかオススメというか、どれが良いと思ってます?

國崎 : オススメは、去年からぼくは一貫しててDSDディスク。迷いがない。本当にトラブルが少ない。音楽を聴くっていう意味においては1番楽。最近の2番目の推しは、ポータブル・プレイヤーですね。Astell & Kern AK120は、PCM変換してるけど。DSD音源を外で聴いたりするには便利。それらの手軽さと比べると、USB DACはコンピューターのOSが変わって急に再生できなくなったりと、 「これ買って10年使えるかどうか」という部分でちょっと不安はある。

武田 : 反論ではないですが、いまUSB DACなどは、KORGとか強烈に安いものを出してくださってるんで。デジタルの時代、僕は5年ぐらいが、その製品の寿命じゃないかなと思ってるので、新しいものを買えばいいんじゃないかなという。

國崎 : そこを割り切れば全然問題ないです。僕は古いオーディオ・ファンだから、長く使いたい(笑)。

武田 : あとやっぱりポータブル・プレイヤーですごいのはAstell&Kern。それから、KORGがずっとやっている、録音もできる、あれで聴くDSDが良いと思うんですよね。

Astell&Kern「AK120」

――MR-2(註7)とか?

武田 : はい。ストレスがなくね、きちっと聴けるし。個人的にはディスクですけど(笑)。

――ディスクって大丈夫なんですか? 機材的に今後も出ますか?

國崎 : 大丈夫ですね。

浅田 : DSDディスクの再生に対応したディスクプレーヤーは、最近またちょっと増えました。あと、個人的な意見でもあるんですけど、USB DACってアナログ・レコードに近いところが若干あって。設定ひとつ変えたら全部音変わるってところが。

國崎 : …それがイヤなんだよなあ(笑)。

一同 : (笑)。

浅田 : それが楽しめるか楽しめないかですね。

國崎 : そういう意味ではオーディオ・マニア的な趣味の余地があるからUSB DACっておもしろいとは思うんです。

浅田 : ひとつひとつ積み重ねて音を追い込んでいく、というもの楽しいですからね。

――なるほど。あの、ネットワークのDSDがはじまりそうですけど、どうですか?

浅田 : ひとつの理想っちゃ理想ですよね。パソコンを立ち上げずにして、スマホとかで検索すればで一発で聴きたい曲にアクセスできてフォーマットを気にしないで聴けるようになる。でも、しばらくは複数提案するしかないのかなって。この後、もし仮にどこかの企業や団体が「これからハイレゾはこれで聴け!」って規格を正式に決めた場合、それではじめてひとつの聴き方に統一されるんじゃないかと思います。

國崎 : でももはや決めなくてもいいのかもしれない。さっきは決めてほしいと言いましたが、ユーザーが意識しないような環境ができるんだったら、ばらけてようが、構わないです、って。

浅田 : ただ、本当にみんなにハイレゾで聴いて欲しいと思ったら、まずはなにも考えずになんでもかかるっていう機器のが欲しいんです。

――なるほど。わかりました。じゃあ最後になりますが、DSDは今後どうなっていくかと、ハイレゾはどうなっていくと思うかっていう話をしたいです。この1年先ぐらいで。

浅田 : いまDSDの機器って、ネイティヴで録る場合ですけど、MR-2000Sとか、DA-3000(註8)とかあのへん使わないとダメなんですっけ? 完全にミックスなし?

國崎 : いや、MERGING TECHNOLOGIES Pyramix(註9)だと録音からミックスまでできます。ただ、結局は編集ができない、っていうところで、まったく普及しない。現代的なプロダクションができないっていう。

浅田 : やっぱりまだ編集ってできないんですか… ?

國崎 : まったくできなくはないんですけど、この場合の編集って、「Pro toolsと同じように使えること」だから。それができないと、すごく特殊なレコーダーに見えて特殊な音楽制作にしか向いてないって見えちゃいます。でも、それでいいじゃん、っていうのが僕の考え方です。Pro Tools的なことをやりたいならPro Toolsを使えばいいじゃんって。

――Pyramixは、なにがすごいんでしょうね?

國崎 : ちゃんとマルチで録れる。Clarity(註10)のようなことがもっともっと前に達成できてました。

武田 : ミュージシャン側の緊張感も含めて、新しいDSDって器をきちっと活かすための音楽っていうのが絶対あるわけで。それを先駆けてやってらっしゃるのが國崎さんだったんですけど。やっぱりそれをメジャーの人たちにもやってほしいですね。そこに尽きる。

國崎 : 僕はさっき、「ウチにとってレーベル活動は副業」っていいましたように、趣味でやってるわけでわけではなく、ビジネス的にちゃんと設計して、DSD配信でちゃんと利益を上げているんです。去年から本業が忙しくて、今年はタイトルを出せませんでしたが、引退宣言とか言ってないで、来年はまたやろうかなと(笑)。

武田 : 本当に國崎さんがやられてきたことは、マディー・ウォーターズのアナログ・レコーディングくらい、サウンド的には画期的なことだと思ってて。 それがすごくベーシックなことに戻ってるかもしれないけど、そこから、21世紀の新しい音楽が生まれるんじゃないかなって、可能性をすごく感じるんです。僕たち、マルチ・トラックで録られたものは、それはそれで別に楽しめばいいと思うんですよ。けど、そうじゃないもの、オーガニックっていうと言葉が今風で嫌なんですけど(笑)、自然発生的な音楽が聴きたい。

――なるほど。浅田さんはハイレゾどうなっていくと思います?

浅田 : 誰でもできるっていう方式と、この人じゃなきゃできない、っていう方式が良い感じにできてきたなっていうのがあって。ファーストフードと、一品料理みたいなノリなんですけどね。だから誰でもできることは誰でもやってくれればいい。でも、昔のブルーノートとかにしても、エンジニア・ブランドというのがひとつあったんですよね。で、このあいだおもしろかったのが、 僕は普段日本人のアーティストってあまり聴かないんですけど、いくつか大好きな盤があるんですよね。そのディスク、エンジニアの方の名前を見たら一緒の人だったっていう(笑)。これを踏まえると、最終的にその人がミュージシャンの演奏能力をどうキャプチャーしてくれたかっていうのがすっごい大事だってことなんでしょうね。DSDレコーディングも國崎さんがおっしゃったみたいに、この人じゃなきゃできなかった、っていうのがあると思うんですよね。そういう作品が、何年経っても名盤みたいな感じで残るんだと思います。

――機器としては低価格化が進んで盛り上がっていく感じですかね?

國崎 : レコーディングなんてそんな下がんないと思いますよ。下げても意味がない。SONYさんのハイレゾ対応のウォークマンは売れるけども、じゃあPCM-100がウォークマンぐらい売れるかっていうとそれは違う話。録るまでのひとってそんなにいないし。下げる必要もあんまりないと思うんですよ。

浅田 : 変に低価格化に、特にレコーディングのほうは行ってほしくないなっていうのはありますね。

――聴くほうは下がりそうですもんね。

國崎 : そうそう。それでいいと思うんですよ。

浅田 : 聴くほうはそれでいいと思うんですけど、録るほうは良いものを録ろうと思えば、比例してお金がかかるのは仕方ないと思うんですよ。そうしてできた作品に対して僕らは正統な金額を払って購入する。ハイレゾはこういう健全な方向に向かわせてくれるじゃないかって思っています。誰でもプロみたいなことができるようになったっていうのは可能性でもありますけど、ある意味ではデジタルの最大のミスだったのかな、って感じ始めています。

――ある意味ではね(笑)。わかりました。ありがとうございました!


註1
Astell&Kern:ポータブル・デジタル・オーディオ、iriverのポータブル・ハイレゾ・プレイヤー・ブランド。フラッグ・シップ機、ハイエンド機、AK120と普及版ともいえるAK100の2つがあり、Astell&Kernといえばこの2つを指すことが多い。最近、同ブランドより、スマートフォンに対応したDAC内蔵コンパクト・ヘッドフォン・アンプ、AK10をリリースするなど、ポータブル・ハイレゾ・オーディオに力を入れている。 http://www.iriver.jp/

註2
SONYのオーディオ機器、配信サイト、moraのハイレゾ対応とともに発表されたウォークマンの新機種。現在のハイレゾ対応の上位2機種は、12月7日発売の最上位のNW-ZX1と発売中のNZ-F880。

NW-ZX1
http://www.sony.jp/walkman/lineup/zx1/

NZ-F880
http://www.sony.jp/walkman/lineup/f_series/

註3
iBasso:DSDや24bit/192kHzにまで対応したポータブル・プレイヤー、HDP-R10。Astell&Kernと同様、iBassoにはDAC内蔵のポータブル・ヘッドフォン・アンプなどがある。

iBasso HDP-R10
http://www.hibino-intersound.co.jp/ibasso_audio/3289.html

註4
LS421Dシリーズ:DLNAサーバーを搭載し、DSDの配信にも対応したネットワーク・オーディオに対応したバッファローのNAS(ネットワーク対応HDD)。その他にもネットワーク・オーディオに特化したハブを発表するなど、ネットワーク器機の側からのネットワーク・オーディオの環境整備に力をいれる。

BUFFALOのネットワーク・オーディオ対応機器紹介ページ
http://buffalo.jp/products/digitalkaden/audio/networkaudio/

註5
今年秋に発表されたDENON、MARANTZのさまざまな価格帯のSACDプレイヤーにDSD対応USB-DAC搭載を搭載し、ディスク・ドライヴとUSB-DACの利便性を両立させた。DENON、DCD-SX1やDCD-1500REなど。MARANTZはSA-14S1。どちらもD&M Holdings Inc.のブランド。

DENON
http://www.denon.jp/

MARANTZ
http://www.marantz.jp/

註6
BDP-105JP/BDP-103JP(後継のBDP-103DJPを発売):さまざまな入力/出力に対応し、動画/オーディオどちらも再生できるユニバーサルプレーヤー。Blu-rayディスクなどを再生できるドライブ部を中心に、USB DACとしても使用が可能。

OPPO digital
http://www.oppodigital.jp/

註7
MR-2:SACDクオリティの超高音質DSD、2.8MHzから、PCM24bit/192kHzをレコーディングできる、KORGのモバイル・レコーダー。

MR-2
http://www.korg.co.jp/Product/DRS/MR-2/

註8
MR-2000Sは、DSD5.6MHzに対応したKORGのデジタル・マスター・レコーダー。DA3000は、レコーダーの老舗、TASCAMが発売した、マスター・レコーダー。こちらもDSD5.6MHzのレコーディングに対応。

MR-2000S
http://www.korg.co.jp/Product/DRS/MR-2000S/

DA-3000
http://tascam.jp/product/da-3000/

註9
Pyramix : 大容量のデジタル・オーディオ・データをリアルタイムで処理する専用DSPカードとWindowsで動作するソフトウェアによるDAW。1ビット 2.8MHzのマルチトラック録音/リアルタイム編集が可能。

DSP JAPAN Pylamixページ
http://www.dspj.co.jp/products/Merging/pyramix.htm

註10
Clarity : KORGが開発した、現在、まだ世界に数台しか存在しないDSD対応DAW(オーディオ・ワークステーション)。8チャンネルのマルチ・トラックによるDSDネイティヴ録音、DSDドメインでの編集・ミックスをおこなうことができる。

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