とにかくミュージシャン目線で経営もやろうと考えている(森)
——森さん自身も、今の海保さんのお話にあったような、ライヴハウスのあり方に疑問を感じていらっしゃったんでしょうか?
森 : そうですね。すべてが悪循環なんですよね。ライヴハウスのブッキングというのが、なんでも良いから寄せ集めで出演させているようなものもあって。お客さんも目当てのバンドだけ観て帰るとか、対バンの意味もなくて。完全に負のスパイラルですよね。だから誰かが大きくなにかを変えなきゃいけないということで、僕らでやろうって言っているんです。
海保 : そうなんです。もちろん、完全趣味なバンドは別ですけど、ミュージシャンがビジネスとしてやっていこうとするのなら、ノルマを払ってやっているようなライヴは、自分が負のスパイラルに加担してると思ってほしいです。
森 : もしも自分たちの音楽性を変えずに売りたいんだったら、自分たちでバンドの経営面を考えなきゃいけないですよね。本当に自分の音楽が最高で、多くの人に感動してもらいたいと思っているのであれば、そっちのほうに労力を割いても、音楽自体の美しさが壊れるわけじゃないし、むしろやらなければダメなんですよね。
海保 : フリクルは音楽で食べて行こうよっていうことを内包しているサービスなので、普段からミュージシャンに対してそういう話をすることが多いんですが、すごく思うのが、そういうことをまったく考えられない人たちもいるんですよ。すごくカッコいい音楽をやっているのに。「あ、パソコンとか誰も持ってないんで、ウチ」とか。もともと興味もないし、苦手意識があったり。「やらなきゃいけないとは思ってるんだけど、Twitterも登録してみたけどなにをつぶやいたら良いかわからないし」みたいな。
——そこからですか(笑)。
海保 : そうそう(笑)。別に馬鹿にしているわけじゃなくて、どうしてもそういう層はいるんで。でも僕はこれからのミュージシャンはビジネスのことも考えられなきゃ駄目だぞって言ってて。でもそれでも駄目な人たちには、せめてビジネス面を担当できる人間を1人引き入れろって言ってるんですよ。そういう人をみつけられれば、「俺らは音楽しかできないから」っていう人たちでもそこは解決するんじゃないかと思うんで。
森 : 僕の場合は、とにかくミュージシャン目線で経営もやろうと考えているんです。経営者目線で売ろう、売ろうってなっちゃうと、既存の音楽システム側になってしまうというか。たまにぼ~っとしてると、「ヤバイヤバイ、あっち側になるところだった」ってなるんですよ(笑)。
海保 : あはははは! あ~わかる。
森 : 「あ、こういう気持ちで売ろうとしてた、危なかった」みたいな感じで。初心のミュージシャン目線を忘れたらいけないな、って思うんですよ。
海保 : もう、本当完全に同意です。フリクルをやる上で僕もそうですから。逆に言うと、僕が現役でバンドを続けている限りは大きく足を踏み外さずに済むかなと思ってます。僕も、経営者的な目線に寄っちゃうのは危ないと思っていて。「ミュージシャン的にはこのサービスはどうなの?」っていうことは常に考えてます。僕は森さんとゆっくり話をできたのが1ヶ月くらい前だったんですけど、ここまで思想が近い方だとは思いませんでした。
森 : いや、僕もそうでした。
海保 : パっと見、僕とは全然違うことをやっていると思ったんですよ。でもお話を聞いてみると、すごく納得がいくことばかりで。結局同じことをやろうとしているんだなって凄く思いました。森さんと話していると、音楽業界って逆に今チャンスだなって思うことが多くて。世間的には崩壊の危機みたいに言われているんですけど。
森 : そうなんですよね。変化のチャンスなんですよね。
海保 : 今、崩壊の危機なのって音楽業界じゃなくてCD業界だと思っていて。今までがCD業界イコール音楽業界って感じだっただけで。だから音楽業界を盛り上げる方法ってまだあると思うんですよ。ここ数年で“新・音楽業界”みたいなものが作られていく気がするんです。それでそこに僕もバッチリ、ハマりたいなと思っていまして(笑)。
ライヴハウスがメディアみたいになれたら良いと思う(海保)
森 : いや~いいですね。以前、海保さんにお会いした時に、やりたいっておっしゃっていたことが似ていてビックリしたんですよね。それを今度一緒にやらせて頂くんです。具体的なことは今の時点ではまだ発表できないんですけど。
海保 : そうなんです。あと、これは5年10年先の話なんですけど、音楽ビジネスといわれている部分を、可能な範囲で「自動化」したいと思ってるんです。簡単にいうと、ミュージシャンがフリクルに新曲が出来るたびにアップする、と。そうしたらそれが何かしらの形でその音楽が好きそうな人のところに自動的に届いていくっていう。それがライヴとかファンクラブの動員に自動的に繋がっていって、気が付いたら翌月ミュージシャンにお金が振り込まれている、とか。もちろん音楽とかどういうビジュアル・イメージを持っているのかというところ、コンテンツ部分は作らなければいけないですけど。それ以外は極限まで自動化できるんじゃないかと思うんです。海外でも「PANDORA」とか、好みの音楽を入れれば自動で好みの音楽を探して流してくれるサービスとかが出てきてるじゃないですか? そんな感じで、例えば僕のバンドの新曲がフリクルにアップされたときに、その音楽が素晴らしければ、その音楽が好きそうな人に勝手に流れていくことってできないかなって。もうテクノロジーの話になっちゃいますけど。逆にしょぼい曲をアップしてもどこにも流れないとか(笑)。
森 : ああ~(笑)。
海保 : そういうのができたらおもしろいなって。今の音楽業界の人たちも、いかに素晴らしいコンテンツを作るかっていう所に集中できると思うんです。あとはシステムが自動で公平に世界中からファン取ってきてくれるからっていう。それをフリクルみたいなマネタイズのエンジンと、PANDORAみたいな新規開拓するためのエンジンとの合体で実現できないかなって思っているんです。まあ、テクノロジー的にどこまでできるのかはわからないですけど。でもPANDORAも、社内で100人くらいの音楽マニアがひたすらタグ付けしてるっていう噂とかあるんですよ(笑)。だから新曲の反映が遅いらしいとか。
森 : へぇ~! でも逆になんかいいですね(笑)。
海保 : そうなんですよ(笑)。だから結局そこなのかもしれないっていう気もしているんですよ。人間が判断するしかないっていう。でもそれはそれで全然ありだなって思っていて。
森 : それがヒソミネでもできればいいですよね。もちろん手動になりますけど(笑)。このバンドが好きな人にはこれもっていう、ブッキングができて、毎回自分が好きなバンドが出てるからこのハコは間違いないっていうふうになれば。PANDRAの現場ヴァージョンになればいいですよね。
海保 : そうですね。ライヴハウスがメディアみたいになれたら良いと思うんですよね。「これ系ならヒソミネだよね」っていう。もしくは「この感じヒソミネの火曜日だよね」とか(笑)。それがライヴハウスとして一番強いですよね。
森 : そうですね。そうなれば海保さんが仰った、昔のライヴハウスの良い部分っていうものも取り戻せるでしょうし、そうすると所謂、音楽シーンができてきて盛り上がるんですよね。
現場とツールとメディアが三位一体となってやれば、音楽産業が大きく動き出す(森)
海保 : おっしゃる通りです。そういうライヴハウスは増えてほしいと思いますし、ネット上のメディアもそうあってほしいんですよね。もう、人に依存していてもいいと思うんですよ。「この人がレコメンドするアルバムはほぼ好きだな」、とか。だからキュレーターですよね。キュレーターにファンがついてくると良いと思うんですよ。
森 : それは昔、レコード屋の店員さんから教えてもらった音楽が自分の人生にとって大事な1枚になるっていうようなことと一緒ですよね。
海保 : 僕はツールであるかメディアであるかっていうのは区別されるべきだと思っていて。例えば音楽情報ならなんでも手に入るっていうのはもはやツールだと思うんですよ。で、メディアっていうのはキュレーションが重要で、そこにファンが付くっていうことだと思うんです。フリクルはメディアにならないようにしていて、どんな人にも公平に提供して行こうというツールです、うちは。その中で、それぞれが有効活用してくださいっていうことなんで。それが曲がって行くと、フリクルって面白そうなサイトだけど結局、海保けんたろーに気に入られた奴が勝つサイトじゃん、みたいな感じになるとやりたいことと全然違ってきちゃうんで。
森 : なるほど。
海保 : だからそれは結構意識してますね。うちはメディアじゃなくてツールだと。で、最終的にはむしろ音楽ならなんでも揃うというサイトにしたいんです。キュレーションは、OTOTOYさんをはじめとしたメディアで取り上げてほしいという気持ちです。
森 : いやぁ、本当、現場とツールとメディアが三位一体となってやれば、音楽産業が大きく動き出しますね。
海保 : いや、本当、完成しますよ!
——おふたりが活動するモチベーションって、音楽ファンとして音楽界がこうあってほしいという気持ちから来てるんですか?
森 : もちろんそれが大前提なんですけど、今のこの時期にやらなきゃ、っていう気持ちが強いんですよね。それは自分の年齢的なものなのか(笑)。音楽業界の変化のときだからなのかはわからないんですけど。とにかくいまはできることをすべてやりたいですね。
海保 : 僕のモチベーションって、「英雄になりたい」っていうことなんですよ。自分のためなんです、基本的に(笑)。でもそれにはめちゃめちゃ尊敬されてて、愛されていて、ものすごい数の人たちを幸せにしなくちゃいけないですよね。だから結果的に人のために動くことになるんですけど(笑)。最初のステップとして世界中の音楽業界の構造をひっくり返して、CD販売ビジネスから、例えば「PANDORA&フリクル」みたいな形に転換することによって、音楽業界が潤う形に収まったねっていう状態を作る、しかもバンドでも売れる(笑)。そうなったら音楽的にも企業家としても成功ですから、そうなったときにじゃあ次に何をやるか考えると、僕は音楽から離れるかもしれないですね。その時に自分がやりたいと思うことをやろうと思います。それは世界平和かもしれないですし(笑)。いまはまずフリクルで日本の音楽業界の構造を変えていきたいです。森さんは、これからどうなりたいっていうのはなにかありますか?
森 : 当面の目標は、自分がこうなるべきだっていう音楽業界になるように、力を持つことですね。権力という悪い意味でなく、モノを変えるための必要な力として。経営面でも音楽面でも。きっとそうなったら新しいものが見えてくるんじゃないかと思うんですよね。
海保 : 僕は森さんに対して前提としてあるのが、森さんのバンド、Aureoleを初めて見たときに、すごくかっこいいバンドだなって思ったんです。実はそれは僕にすごく影響を与えていて、森さんのビジネスがよくてもバンドがしょぼかったら、僕はここまでモチベーション上がってないと思うんですよ。
森 : はははは!
海保 : でもミュージシャンとしての森さんをリスペクトしているんで、そういう気持ちになったんです。
森 : ああ~それはうれしいな~! ありがとうございます。
海保 : 近々、僕のバンドも観にいらっしゃって下さい!
森 : はい、もちろん! 是非!
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