2013/01/09 00:00

3年振りの来日を果たしたヨ・ラ・テンゴが、2012年11月6日に『THE FREEWHEELING YO LA TENGO』と題された一夜限りのスペシャル・ライヴを行った。これは会場のお客さんからの質問を受け付け、その内容から受けたインスピレーションでその場で曲を決めて演奏するというユニークな企画。しかしそんなライヴは余程の音楽知識や技量が無ければできる事ではない。それをさりげなくやってしまえるのが、ヨ・ラ・テンゴの凄い所。当日は沢山の熱心なファンからのマニアックな質問に一つひとつ丁寧に答え、瞬時に曲を決定し演奏していくという、ベテラン・バンドの凄味を見せると同時に、ある種ファン・ミーティングのようなアットホームなライヴでもあった。今回OTOTOYでは、ライヴ翌日にベース・ヴォーカルのジェームズ・マクニューにインタビューをおこなった。今回の来日公演の話からニュー・アルバム『FADE』の話まで、実に穏やかにユーモアを交えて答えてくれたジェームズ。そして取材時はまさにアメリカ大統領選挙開票直後。オバマ政権継続についてもコメントしてくれた。

インタビュ―&文 : 岡本貴之

YO LA TENGO / Fade

USインディー界のカリスマとして世界中の音楽ファンから熱い支持を受けるスリーピース・バンド、ヨ・ラ・テンゴ。前作『ポピュラー・ソングス』以来約3年強ぶり、通算13作目スタジオ・アルバムとなるニュー・アルバムが日本先行リリース。長年の友人でもあるトータスの中心人物ジョン・マッケンタイア(ティーンエイジ・ファンクラブ、ブライト・アイズ他)をプロデューサーに迎えて完成させた、ヨ・ラ・テンゴの新たな傑作が完成!

販売形式 : mp3 / wav
販売価格 : 1500円

ステージに上がる5分前に最初に演奏する2曲だけ決める

――本日はライヴ翌日ということでお疲れだと思いますが、よろしくお願いします。

James McNew(以下James) : 大丈夫!(笑)

――ありがとうございます。昨日(11月6日)のライヴを拝見させて頂いたんですが、通訳の方がヨ・ラ・テンゴのみなさんと同じ格好で出てきましたが…。

James : (笑)(隣の通訳さんを指さす)

――ああ、昨夜Jamesのコスプレでステージにいた通訳さんですか!?

通訳者 : はい(笑)。

――そうでしたか(笑)。昨日、3人のメンバーのコスプレをした通訳の方が出てきた時は本当に面白かったです! あれはどなたのアイデアなんですか?

James : Ira(Vo,GのIra Kaplan)かなぁ…それかSMASHの人のアイデアだね。でも僕もこうした方が良い、って参加したよ。ドン・キホーテで色々指示したり(笑)。

――あのカツラはドン・キホーテで買ったんですね(笑)。本当に楽しませてもらいました。通訳さんにコスプレをしてもらうのは日本以外の通訳が必要な国でもやったことがあるんですか?

James : スペインでやったことがあるよ。でも通訳が1人しかいなかったんで最後の方は疲れちゃったみたいだったけど(笑)。

photo by Tadamasa Iguchi (IN FOCUS)

――1人じゃ大変ですよね(笑)。今回のライヴは日本で初めて行われる『THE FREEWHEELING YO LA TENGO』と題したスペシャルなライヴでしたが、実際にやってみてどんな感想をお持ちですか?

James : 自分達にとってもスペシャルな夜だったよ。とても素晴らしかった。みんなの質問も真剣な内容だったし、みんながヨ・ラ・テンゴの事を本当に考えてくれている事に、正直感動した。 本当に良い質問をしてくれるから、日本のオーディエンスの為に僕も本当に良い答えを返すように心掛けたよ。

――確かに熱心なファンの方ばかりでしたね。その中で印象に残った質問やファンの方はいましたか?

James : 大林宣彦監督の映画『ハウス』の企画者の方が会場にいたのはサプライズだったね! 素晴らしかったよ。

――そういったお客さんとのやりとりの中から、すぐに曲を考えて完璧な演奏をしていましたよね。それはとても凄い事だと思うんですが、いつもどんな準備をしているんですか?

James : そんなにパーフェクトじゃないけど(笑)。ステージに上がる5分前に最初に演奏する2曲だけ決めてるんだよ。それ以外は何も決めてないし、準備もしてないよ。ライヴが始まっちゃったら後はわからない(笑)。

――そうなんですか(笑)。じゃあIraが「この曲をやろう」って言ったときにJamesが曲をわからないこともあるんですか?

James : 時々あるよ。

――昨夜のライヴではそういうことは無かったですか?

James : 「Gimme Some Lovin’」は今まで一回も演奏したことが無かったね。曲は有名だから知ってたんで適当にやったんだけど(笑)。

――適当には見えない見事な演奏でしたよ(笑)。あの曲はIraがアコースティック・ギターを歪ませて激しいアレンジで歌っていましたけど、ああいう古いR&Bの曲も元々ヨ・ラ・テンゴのルーツにはあるんですか?

James : 60年代・70年代のR&Bやファンク系も大好きだし、ヨ・ラ・テンゴが作る音楽からは隠れているかもしれないけど、いつもそういう音楽が好きな気持ちは心の中にあるからね。

一つの言葉にも色んな意味がある事に魅力を感じてる

――昨日のファンからの質問に答えて、来日してから、はっぴいえんどや非常階段、SalyuのレコードやCDを買ったと言っていましたけど、日本のアーティストの情報はいつもどこで知ることが多いんですか?

James : 「wfmu.org」っていうストリーミング放送をしているニュージャージーのラジオ局が最高なんだよ。そこでいつも聴いてる。あとは日本の友達からも教えてもらうしね。坂本慎太郎さんとか。彼から教えてもらったLes Rallizes Dénudés(裸のラリーズのフランス語名)も好きだよ。

――昨日は会場に坂本慎太郎さんとコーネリアスもいらっしゃいましたけど、お会いになりましたか?

James : もちろん。もう長い友達だから。

photo by Tadamasa Iguchi (IN FOCUS)

――どんなお話をされたんですか?

James : ドラム・マシンの話とか(笑)。本当はサカモトサンとはライヴの会場で会うのが一番自然だけど、彼は最近ライヴをやらないでしょ? だから会えて嬉しかったよ。

――それはファンにとっても嬉しいです。では、ニュー・アルバムについてお聞きしますけど、今回の『FADE』というアルバム・タイトルにはどんな意味がこめられているんでしょうか?

James : 色んな意味があるんだ。僕らは一つの言葉にも色んな意味があるっていう事に魅力を感じてるんだよ。例えば、日本の音楽を聴いていても歌詞は全然わからないんだけど、そのメロディのラインに自分の感情を移入して勝手にどんな歌なのかを解釈するんだ。そうすると本当に歌われている曲の内容と僕が勝手に想像した曲の内容、2つの意味が曲に生まれるだろ? そういうダブル・ミーニングが僕は好きなんだよ。

――今回のアルバムでは全体的にどんな事が歌われているのでしょう?

James : メッセージ性は特に無いよ。ただ、” LOST ”が沢山歌われているかもしれないね。家族や友達を失う、という意味の内容が多いね。

――” LOST ”ですか。日本では昨年の震災で多くの人が家族や友達を失いました。

James : うん、もちろん知っているよ。

――そういった傷ついた沢山の人々に音楽がエネルギーを与えたと思うんです。音楽という物の素晴らしさが再認識されたというか。

James : その通りだよ。音楽が人々にエネルギーを与えるのは万国共通だよね。音楽は、人々を助けるものだと思うよ。

――ですから、今回ヨ・ラ・テンゴのみなさんが再び日本に来てライヴを行うという事が、以前よりも特別な事だと感じられて嬉しかったファンが多いと思いますよ。

James : それは嬉しいね! 僕らももちろんテレビで震災の様子を見ていて、心配で友達に連絡を取ったし、日本のみんなのことを本当に心配してたよ。

ソフトな面とハードな面、両面があるのがヨ・ラ・テンゴの音楽のパーソナリティー

――新しいアルバムもファンは楽しみにしています。今回のアルバムは柔らかくてメロディアスな曲調の裏にノイズや激しさが隠されている印象を受けました。

James : そうだね。ソフトな面とハードな面、両面があるのがヨ・ラ・テンゴの音楽のパーソナリティーなんだよ。

――トータスのジョン・マッケンタイアが今作のプロデューサーを務めていますね? これまでヨ・ラ・テンゴのアルバムを聴いてきたファンは少し意外に感じていると思います。

James : うん、そうだね(笑)。

――ジョンとは以前から交流があって必然的にプロデューサーとして参加することになったんでしょうか?

James : そう、ジョンとは1992年からの付き合いだからね。もうずっと仲良くしているよ。実は前からジョンのバンドの曲を一緒にやったりはしていたんだよ。でも何故だかわからないけど、今まで録音したことがなかったんだ。やっと今回実現することができたよ。

――ジョンのプロデュースは今回のサウンドにどんな影響を及ぼしていますか?

James : 彼の音楽に対する理解の仕方が凄く好きなんだよ。曲に対して、ジョンが良いと感じる部分と、ヨ・ラ・テンゴのメンバー自身が良いと感じる部分。その中間を取って作品に出来たと思うから、良いコラボレーションだったと思っているよ。

――ではとても満足する作品になりましたか?

James : もちろん! 凄く満足してるよ。今の時点ではね(笑)。だって例えば前回のアルバムをしばらくしてから聴いてみると「ん? 本当にこれで良かったのか? 」って思うこともあるし。でも今の段階では満足だよ。とても短いアルバムだしね(笑)。

――全部で42分のアルバムですね。

James : いつもより短いからね。僕らにとってはシングルみたいなものかな(笑)。一曲で45分っていうのもあるからさ(笑)。それに比べたら今回はポップでコンパクトだよ。

――昨夜のライヴではIraが「See You Next Year! 」と言っていましたけど、来年また日本に来てくれるんですね?

James : そのつもりだよ。まだハッキリはしていないけど、僕らもまた2013年に日本に戻って来たいと思っているよ。

――最後に、先程ニュースでオバマ大統領の再選が報じられていましたけど、どう感じていますか?

James : ベリー・ハッピー! 今回は結構選挙がギリギリの線だったから意外だったけどね。でもアメリカ人は昔に比べると大分頭が良くなったと思うよ。まあ僕は違うけどさ(笑)。

――(笑)そんなことないです。来年また日本に来てくれることを楽しみにしています!

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PROFILE

ニュージャージー州ホーボーケンにて1984年に結成。当時音楽ターをしていたアイラ・カプラン(Vo.Guitar)とジョージア・ハブレー(Vo. Drums)を中心に結成される。91年にジェームズ・マクニュー(Vo. Bass)が加入し、現在のスリーピースの形となる。ライヴやアルバムのリリースを着々と重ね、ついにオリジナル8枚目である97年発表の『I Can Hear the Heart Beating as One』で世界中に大ブレイク、CMJチャート1位を獲得し日本でもその名前を知らしめ、高い評価をうける。 芳醇な音楽的知識に裏づけされながらも自由な音楽精神、ノイズあり、サイケあり、ドリーミー・ポップあり、彼らの音楽を一言で表すことは大変難しく、その音楽的姿勢は現代のヴェルヴェット・アンダーグラウンドとも評されることも。2013年1月にはニューアルバム『フェイド』をリリース。

[インタヴュー] YO LA TENGO

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