桜井まみ『寝耳に銀の刺繍』配信開始

audio safariのヴォーカリスト、桜井まみ。コンピレーション・アルバム『みやこ音楽』への参加、フル・アルバム発表、国内外のアーティストとのコラボレーションや共演を果たし、2010年にソロ活動を開始した彼女のソロ初作品が到着しました。エレクトロニカ、バンド・サウンドを経て辿り着いたのは、ウクレレやカリンバを鳴らしながら歌う、ナチュラルで温かなうたの数々。ゲスト・ミュージシャンに土持悠孝、惠森さわ、外山素子(middle9)を迎え、たおやかな歌声に彩りを加えています。彼女が紡ぎ出す繊細で豊かな音の響きを、どうぞその耳で体感してみてください。


桜井まみ / 寝耳に銀の刺繍

1. 粒子はいつも笑ってる / 2. 咲いた / 3. 歌達が出会う / 4. ムーミンみたいに / 5. 今日 / 6. ここもかしこも / 7. 小舟 / 8. 森にて / 9. 雨乞い踊歌 / 10. 山から彼方 / 11. 枇杷の実 / 12. 寝耳に銀の刺繍

販売形式 : mp3 / wav

桜井まみ INTERVIEW

京都のエレクトロニカ・バンド"audio safari"が突然解散を発表してから2年。ボーカルである桜井まみのふわりとした声は、楽器の一部としてバンドに息吹を与えていたように感じていた。そして桜井まみはソロとして初のフル・アルバム『寝耳に銀の刺繍』を完成させ、姫路・神戸のDig upからリリースする。

この作品を聞いたとき、どことなく「民謡」の雰囲気が漂っていたことに驚いた。エレクトロニカから、どの様にして「民謡」にたどり着いたのか。彼女にインタビューをすると、出身地の岐阜県から大きく影響を受けていると言う。幼い頃は自然が当たり前だったという彼女の話は、都会暮らしをする自分にとって、どこか憧れのような情景を思い起こさせてくれた。今作は、2012年におけるシンガー・ソングライターの作品の中でも、かなり特異とも言える部類に入るが、シンプルで根源的である。どうか心を静かにし、作品に身を委ねて聞いて欲しい。すると、なつかしくも美しい田舎の風景がどことなく広がるだろう。

インタビュー&文 : 山田慎(sweet music)
写真 : 松本亮太
撮影場所 : 京都生ショコラ
アクセサリー制作 : SAWA

音自体もシンプルに、言葉も素直にしたい

――セカンド・アルバム誠意作成中でのaudio safariの解散にはかなり驚きました。

桜井まみ(以下 桜井) : 大変申し訳ないと思っているんですけど…。作っている段階で、今の自分が100%出せることができないなと思って、一旦、自分をクリアにしたいと考えて、メンバーにワガママを言って抜けさせてもらいました。作品を待っていてくれた人たちや、いつもライブに来てくれていた人たちには本当に申し訳なかったです。ですが、完全に自分が納得できるものでないと、形にして人に渡すってことができないと思っていました。自分の中ですごく作りたいものがあって、それが今回の作品だったんです。

――バンド脱退を伝えた日のことを話せます?

桜井 : やめることを決めたときはとっても辛かったんです。実際にやめるって言った日は、号泣しながら西大路通りを歩いて家まで帰ったんですけど…。帰り道に自分用にホールケーキを1個買ってきて、カレースプーンで食べたんですね(笑)。

――ええ! それは…すごいですね。

桜井 : そして家に帰ってから「エルメート・パスコアール」というブラジルの ミュージシャンのYouTube動画をずっと見ていたんです。最初はなぜそんな事をしているか解らなかったのですが、以前彼が来日した際にライブを見て感動した感覚が蘇ってきて、 そのとき「私はこっちに行くんだ」と感じたんです。

――それは面白いですね。

桜井 : 彼はブラジルの土地を全部吸い込んだような音楽をするんですよ。私は岐阜県で産まれたんですけど、自分の根本的なところにある「土地に根付いた感覚」みたいな一番コアな部分を音楽で出したいなと思って。それを実現するには、音自体もシンプルに、言葉も素直にしたい。歌っている範囲は狭くてちっちゃいんですけど、強いものを出したいなと思ったんですよね。

――ひとりとバンドでの活動の違いは?

桜井 : バンドの時はまわりのメンバーがしっかりしていたので、だいぶ甘やかされていたと思います(笑)。深夜のスタジオ練習で、疲れすぎて2時間寝ていたことがあるんですよ。終わったら「終わったで」と起こしてくれたので…。今考えたらめっちゃ優しいなって。

――確かに(笑)。

桜井 : ソロになってからですが、バンドのときと比べたら活動ペースは遅いし、ライブも声をかけてもらったら出るという感じでやっていました。今回、自分で作品を出してレコ発をするというわけですが、自分なりのペースでいいと思える空間で、いい音楽を出していけているので、そういう面では恵まれていると思います。

――ひとりでもいいペースなんですね。ではバンド・サウンドから今作の様な音にどうやって変化していったのですか?

桜井 : バンドのときには、私自身は音を作ってなかったので、ひとりになると必然的に歌中心になるんですよ。音としては色んなことができないけれども、逆に「歌そのもの」だったり、「言葉そのもの」、そして「間の取り方」だとか、それらに体が向くようになったというか。

ストレートエッジだと思ってる(笑)

――Dig upからのリリース経緯についてお尋ねします。

桜井 : Dig upの長谷川信也さんは、audio safariの頃からイベンターとしてお世話になっている方です。音楽好きで、特にインディーズの音楽に興味を持っている方で、ずっと私の歌が好きだと話してくれていました。バンドの時からイベントに呼んでいただいていましたね。彼がレーベルを立ち上げる時に、第一弾として「桜井まみさんの作品を出したい」と言ってくれました。すごく嬉しくて光栄なことだと思いました。

――なぜソロ・アルバムをリリースしようと考えたのでしょうか?

桜井 : 今回の作品『寝耳に銀の刺繍』の題名自体は5、6年くらい前から頭の中にイメージがあって、コンセプトもぼんやりとありました。それを人に話せば話す程、やっぱり作るしかないなぁという確信にかわっていったというか。すごくささやかな活動だけど、私ができることはこれだと思ったんです。音は最小限にしつつも、よく聞いているとその小さな音の中に広い世界がひろがっているようなものが作れたらいいなぁと思っていたのですが、歌でそれができるというのは、自分の中では革新的です。

――なるほど、歌ありきなんですね。

桜井 : 今回録音にはかなりこだわろうと思っていて、エンジニアや録音環境をものすごく模索しました。奈良に「sonilhouse」という工房があるんですけど、そちらの方達の音に関する考え方やアプローチがとても先進的で良いな、と思っていて、彼らに相談した所、 赤川新一さんというエンジニアがすごい!ということで、だめもとでお願いしてみたら奇跡的にOKを貰えました。本当にラッキーだったと思います。赤川さんは熟練のエンジニアで、声の中に含まれているちょっとした緊張感とか、微妙な変化もすぐわかる方です。あまりにも細かい感覚的な所まで筒抜けなので(笑)録音は楽しい発見の連続でした。考えて歌うよりも、何も思ってなくて身体が先に動くくらいの歌を録音してもらうことができたと思います。「身体が素直に出す音」をこの録音で掬いとることができましたね。

――聞いてみると民謡の雰囲気がありますね。例えば2曲目「咲いた」とか。エレクトロニカ・バンドだったのに、すごく変化したなと思って。どうしてこうなったんですか?

桜井 : 意識的に「民謡っぽくしよう」って思っていたわけではなくて、作ったあとに気付いたんです。私が歌を作るとすごく民謡っぽくなるんですよね。それはaudio safariのときからそうだったんですよ。

――周りの人から「民謡っぽさ」を指摘されました?

桜井 : メロディーとかが「意外と和風ですよね」と言われていましたね。今回はソロになったので、余計に際立ったのかなと思います。おばあちゃんが民謡をよく歌っていたので、民謡のメロディーが好きだったんですよね。メロディーが民謡っぽいのとか、音が小さいのとか、間がたくさんあるのとかって、わりと私のクセやと思うんですけど、とても日本的でもあると思います。民謡、面白いですよね。

――アルバム9曲目「雨乞い踊唄」は岐阜県の民謡なんですよね。

桜井 : NHKの「日本民謡大観」っていう昔の民謡を大量に集めた資料の中に、私の出身地である岐阜県美濃地方の曲が何十曲と入っているアルバムを友達がくれたんですね。その中に入っていた「雨乞い踊唄」のメロディーに心惹かれて。原曲はおじさんたちが太鼓を叩きながら歌っているんですけど、それを静かにひとりで歌ってみたら、みんなでワイワイと雨乞いをしているわけではないけど、村のひとりの娘が「雨降ってないけど、みんな困っているし、降ったらいいな」というささやかな祈りの歌のように聞こえたんですよ。そこがいいなと思って。ビブラフォンでmiddle9の外山素子さんが入ってくれているんですけど、それでリズムがついて、ゆらゆらできる感じになって、色づいたのもよかったです。

――岐阜県出身ということなんですけど、これは作品に深く関わっていますか?

桜井 : 山があって川があって、その間に住んでいたんですね。みんな家にはそれぞれ畑があって。小学校くらいのときに「なんでスーパーに野菜が売っているんだろう?」って思ったんですよ。それくらい、自分たちで育てて食べるということが当たり前のことでした。そのことが大事な部分になっている気がするんですね。山間の町なので、自然がすごく近くにあって、親しい気持ちで接していたんですね。11曲目の「枇杷の実」は実家の近くにある枇杷(ビワ)の木の歌なんですよ。普段生活している中で、色んな木だとか野菜とか植物がすごく近かったので、それぞれとうまく関わっていたというか。枇杷の木に関しても毎日通る道にあったので、すごく親しい感じがしていたんです。京都に来て、5・6年くらいが過ぎて、実家に帰ったときにたまたま枇杷の木の近くを通ったときに、すごく感動して、その気持をもとに「枇杷の実」という曲ができたんですね。生まれ育ったところの環境というのは、今回の作品にすごく影響していると思うし、自分が大事にしているところでもあります。

――7曲目「小舟」という歌のたゆたう感じがすごくいいですね。岐阜には長良川があって、水の街というイメージもあります。鮎も名産品として有名ですね。

桜井 : 岐阜県と京都市には海がないんですけど、「小舟」は海のイメージで書いたんですよね。長良川とかの大きい川ではなく、小さい頃に家の近くにある小川で、葉っぱとか雑草を流して遊んでいたんですよ。それがいつか海に流れ着いて行くって考えていたんですよ。

――学生時代から京都生活が続いて長いかと思いますが、暮らしていてどのような影響を受けていますか?

桜井 : いろんな人にあったことが大きかったと思います。大学生活の中でもいろんな所から来た人と話しましたし、卒業してからもバンドをやっていく中で、海外の人とも会うこともありますしね。京都という街には世界中から人が来ますし、世界の広さを感じましたね。音楽的には学生の時にいろんな音楽を聞いている人がまわりにいたので、幅広い影響を受けていると思います。

――中高生の時にはどの様な音楽を聞いていましたか?

桜井 : 中学生の時にはNIRVANA、VELVET UNDERGROUND、SONIC YOUTHなどを聞いていました。高校までは洋楽好きでした。実は結構激しいのも聞いていて、BLACK FLAG、FUGAZI、MINOR THREATなども。

――ええ! それはびっくりしました。

桜井 : 私はボーッとしていて、ほんわかした音楽が好きなのかなって思われるんですけど、割とバキッとした音楽も好きなんです。今回のアルバムもストレートエッジだと思ってるし(笑)すごく小さいハードコアというか。パンキッシュな鈴虫みたいなもんです。

――2曲目「咲いた」では鳥の鳴き声が入っていますね。

桜井 : あれは鳥笛なんですよ。立命館大学のフェアトレードをしている学生の団体が、タイの山岳民族の支援のために作ってもらって、フェアトレードをしているものなんです。その鳥笛を二条カフェパランで買ったんですよね。音もすごく良くて。遠くのタイの山に住んでいる人たちが作ったものを、私が音を鳴らしているって言うこと自体が、アルバムのコンセプトにも繋がるなと思って。鳥笛を制作をされて、それをカフェでフェアトレードしようと思った人たちがいて、カフェに来た人がそれを買って、レコーディング制作で使って、そしてアルバムを聞く人がいて。普段なかなか意識できないですけど、一連の流れの思いを巡らせたら、これはきれいだなって。有機的とか自然のものも流れがありますよね。土から木が栄養を吸って、果物が実って、そしてそれを食べる動物がいて、動物は土に帰っていく。有機的な流れをしっかり感じた状態でいたいなって。

――なるほど。循環するイメージですね。自然の中で録音したような感覚もあります。

桜井 : 今回2曲、千葉の山の中でフィールド・レコーディングした音が入っているんですね。ランダムに録音した自然の音でも、鳥とか虫とか草が風に揺れる音とか、水の音とか、それが折り重なって、それだけで交響曲のように感じられることがあるんですよ。あと視覚的にも、蝶蝶などが飛んでいたり虫が歩いていたり。全てにリズムを感じ取れる。それが交響楽団のように見えて、私にとっては心地いいことなんですよ。でも、それらは落ち着かないと気づかないんです。今回録音した静かな音にも注目して聞いてもらえたらなと思います。

目覚めた時に世界が美しくあるように

――アルバム・ラストの12曲目「寝耳に銀の刺繍」について教えてください。

桜井 : この曲では、誰かが眠っているときに、その眠っている人を想って他の誰かが起こす行動の事を歌っています。寝ているときって記憶とかないじゃないですか。自分は寝ているけど、起きたら掃除してあったとか。そういうささやかなことでもあるんですけど。誰かのために行動を起こすときに、経緯だったり結果だったりとかが、はっきりとわからないものとかも多いと思うんです。でもはっきりとわからなくてもその“気持ちの向き”を肯定したいというか。あと、みんな寝ている時間に動いてる、パン屋さんとか豆腐屋さんとか、医療関係、介護関係の人で、そんな気持ちを持って働いている人達を知っているので、それを讃えたい。それとはまた別で蜘蛛が夜中に糸をはっているイメージもあると言われた事があって、朝目覚めたら蜘蛛の巣に水滴がかかって朝日に照らされてて、自分じゃない生き物の世界を感じるのも楽しいなぁと思います。蜘蛛がこの曲の歌詞みたいな気持ちで動いてると想像するのも面白い。

このアルバムのタイトルにもなっているんですが、「寝耳に銀の刺繍」って見ての通り造語で「寝耳に水」という諺からとっています。寝ている時に耳に水がばしゃっとかかって驚いて起きるイメージと、遠くの小川がさらさら流れる音が夢うつつの中聞こえてきて、うっすら起きていくイメージと2つのイメージがあるんですが、どちらであっても、“目覚めた時に世界が美しくあればいいな”という思いがあって、その美しいものが「銀の刺繍」という言葉で表されています。銀って透明に近い銀で、見えそうで見えない、か、見えなさそうで見える色。光があたってうっすら見える、みたいな。空気の綺麗な早朝に、耳元に銀の刺繍が添えられて起きる、ってなんか気持ち良さそう。その銀の刺繍は、たぶんみんな知らず知らずのうちに作って、添えあっているものな気がするんです。あとは、自分の身体が空間を占有している針だとして、時間が布だとしたら、自分の軌跡が見えない刺繍になって、誰かが起きる時に世界が綺麗だなぁと思える要因になれたらいいな、という、ミュージシャンとしての思いがあります。これは曲というより、アルバム全体のコンセプトですね。本当に色んな思いがありますが、人それぞれ好きに解釈してもらえると思うので、今後は「寝耳に銀の刺繍」という言葉と音からイメージが増えていくのも楽しみです。

――最後の12曲目「寝耳に銀の刺繍」は1曲目「粒子はいつも笑ってる」に戻って行くような感覚ですよね。

桜井 : 面白い意見ですね。循環するというか。それも本当に有機的だなと思います。

――どんな場所で聞いてほしいですか?

桜井 : こちらから「この場所で」というのはないんですけど… 断食したあとに(笑)。ちょっとだけ断食したことがあるんですけど、そのあとに食べた玄米粥って、すごく美味しいんですよ。普段気にならなかった水の味の違いとかも分かるんです。そういうときに聞いても安全なアルバムなんですよ(笑)。食べ物で言うと、オーガニックな野菜みたいに、弱っているときとか、体調が繊細なときにも大丈夫な音楽というか。でも思い思いに聞いていただいて、その感想を教えてもらえたら面白いです。いろんな場所で聞いてもらえたら嬉しいですね。

――今後の活動について何か考えていますか?

桜井 : 今回、ひとりで色濃い世界を出せたので、今後はコラボレーションがしたいですね。音楽もそうですけど、例えば料理とか、絵とか。今回も「寝耳に銀の刺繍」というアルバムのコンセプトをもとに、アクセサリー作家さんとのコラボ展をするのですが、そうゆう事が凄く楽しくて。あと、10月17日にアルバムをリリースするhydrand house purport rife on sleepyとのコラボも楽しかった。今後は違ジャンルとのコラボもたくさんしていきたいです。

桜井まみ1st Album『寝耳に銀の刺繍』リリースツアー

2012年10月20日(土)@東京渋谷 TOWER RECORDS 渋谷店1F イベントスペース
2012年10月21日(日)@東京下北沢 mona records 3F LIVE SPACE
2012年10月23日(火)@京都四条烏丸 京都芸術センター ミーティングルーム2
2012年10月28日(日)@京都岡崎 京都生ショコラ
2012年11月10日(土)@京都岡崎 京都生ショコラ
2012年11月17日(土)@大分別府 ベップ・アート・マンス2012 長覚寺
2012年12月01日(土)@名古屋大須 モノコト
2012年12月02日(日)@京都岡崎 京都生ショコラ
2012年12月07日(金)@神戸元町 space eauuu

PROFILE

岐阜県出身京都府在住。audio safariのヴォーカリストとして、1枚のコンピレーションに参加、1枚のフル・アルバムを発表。国内外のアーティストとのコラボレーションや共演を経て、2010年にソロ活動を開始する。ウクレレ、カリンバを鳴らしながら歌う歌は、シンプルで、根源的。 本人としてはとても和風だと思っている。聞いた人の栄養になるように、ちょっといいことがたくさん起こるように、ささやかに軽やかに、歌を歌う。

>>桜井まみ official WEB

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インタヴュー

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