石橋英子 INTERVIEW

「枯れることのない泉のようなものを欲する部分がある」との言葉に集約されるように、未踏のサウンドを追い求め、即興演奏家やプロデューサー、そしてシンガー・ソング・ライターとして、文字通りあらゆる領域で活動する稀有な音楽家、石橋英子。前作『carapace』から約1年半、引き続きジム・オルークのプロデュースのもと、自然と集結したメンバーたちには「もう死んだ人たち」との名が与えられ、彼女の描いた脚本によって自在に舞い踊る。そんな鉄壁の布陣で構築された新作は、プログレッシヴ・ポップとも呼べる未知の世界である。

インタビューでは、新作の制作過程のみならず、「死」や「闇」といったキーワードが頻出する詞の世界観に込められた意外なユーモア性や、即興と作曲の関係性、さらには彼女を音楽に向かわせる原風景についてまで広く語ってもらった。常に新しい音を追い求めるそのミュージシャンズ・ミュージシャンな姿勢に深く感嘆することだろう。

インタビュー&文 : 青野慧志郎

ジム・オルークをプロデューサーに招いた1年半ぶりの4th Album

石橋英子 / imitation of life

3rd Album『carapace』リリース後も自身のバンド「もう死んだ人たち」との精力的なライヴ活動や、前野健太やトンチの作品での客演、そして鍵盤奏者としてジム・オルーク、長谷川健一バンドへの参加など多岐に渡り活躍するシンガー・ソングライター石橋英子。前作に引き続きジム・オルークをプロデューサーに招いた1年半ぶりの4th Album『mitation of life』が完成。 バンド・メンバーであるジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子と、数々のライヴやレコーディングで築きあげたバンド・サウンドにより、彼女のきらびやかな楽曲が、繊細且つユーモラスでドラマティックなプログレッシブ・ポップスとなっています。


【収録曲】
1. introducion / 2. resurrection / 3. long scan of the test tube sea / 4. written in the wind / 5. silent running / 6. fugitive / 7. imitation of life

今って、少しユーモアが足りなくなっている気がしているんです

——今作は、「もう死んだ人たち」というバンドで制作されている点がこれまでと異なりますが、なぜ固定化されたメンバーでやろうと思ったのでしょうか。

前の『carapace』をリリースしてから、バンドで演奏することが多くなっていたんです。(山本)達久くんは前から一緒にやっていたし、須藤(俊明)さんは昔からの知り合いで、ジム(・オルーク)さんのバンドで同じメンバーだったんです。波多野(敦子)さんも前のアルバムで参加してくださったので、自然な流れでそのメンバーになりました。あと、ライヴには新曲を用意していきたいっていう思いが私の中にあって、この人にはこういうフレーズを弾いてほしいとか、こういうものを叩いてほしいとか、先にキャストが決まっていて、後から脚本を書いているような気持ちで曲やアレンジを作っていたところがありました。なので、曲作りの段階でメンバーは決まっていたんです。

——前作から引き続きジムさんがプロデュースしていますが、ジムさんはどういう役割を担っているのでしょうか。

まず、MIDIの使い方を教えてくれたのがジムさんなんですよ。MIDIが使えれば、私が思い描いているようなアレンジもじっくり考えられるってことで。だから、ジムさんは実際にアレンジとかを考えるんじゃなくて、例えば長尺の曲が増えていったときに、「もっとシンプルな曲を作ったほうがいい」と言ってくれたり、そういうディレクションをしていただきましたね。

——石橋さんは、ソロでは即興演奏でライヴをやることが多いと思いますが、アルバムを作るときはある程度デモで作り込んでから制作に入るのでしょうか。それとも、スタジオに入るとアイデアが出てきてどんどん変わっていくのでしょうか。

もちろん変わっていきます。作り込むというより、作曲でも出発点は即興で作っていくし、そこは自分の中では区別していないですね。ただ、今回はキャストが決まっていたので、そういう部分でアレンジを作るのが楽しかったです。同時に楽しみたかった。あと、メンバーのみんなにも、聴く人にも楽しんでもらいたいという気持ちで作りました。

——例えば「ドラムはこの人だから、こういうアレンジをしたらその人らしさが出る」というのは、具体的にはどういった例がありますか。

達久くんは前から一緒に演奏をしているので、その逆というか、「あまり叩いてないだろうな」みたいな、いたずらのような気持ちでお願いしたりはしましたね。

——今回、石橋さんはギターでも作曲されていますよね。過去のお話の中では、「自分を追い込む」とか「やったことがないことに挑戦する」とおっしゃっていたのですが、ギターでの作曲もその一つだったのでしょうか。

そんなに大それたことではないんですけど、ジムさんが買ってきたギターをもらったので、ちょっと弾いてみようかなと思ったら曲が出来たんです。

——印象としては、ピアノでやっているのと違和感がなく、石橋さんらしさが出ているなと感じました。

そうですね。むしろギターの方が、どう押さえたらどういう音が出るか分かってないで弾いているから、楽しんで作っているところがあるかもしれないですね。

——曲名や歌詞についてお聞きします。アルバムは、もう死んだ人たち放送局からの放送という形式で始まり、2曲目の「resurrection」(復活祭)という曲につながります。それは死者の復活という意味があるのでしょうか。

そうですね。死者たちの復活もあるし、みんな日々死んで生き返るみたいな体験があると思うんですね。悲しいことがあったり、身近な人の死とかも、物理的には命は止まってなくても、ほとんど死んじゃったみたいな状態もあるし、そういうものからの復活という部分もあると思ってます。

——全体的にすごくコンセプトがあるアルバムだと感じたのですが、そういったコンセプトは作っている中で見えてきたものなのでしょうか。

曲を作っていくときは、最初はこういう風にしようとか決めていなくて、作っていくときにだんだん自分がどういう気持ちや心情で作っていたかとかがわかってきますね。

——過去の作品にもよく出てきた「死」や「闇」といった歌詞が今回も引き続き現れます。ただ、過去の作品と違い、明るい曲調だったり、歌詞も「伸びる」とか「拡がる」だったり、うちに閉じこもるというより外交的に広がっていく印象があります。

今って、少しユーモアが足りなくなっている気がしているんです。全体的にも世の中的にも。みんなが心を痛めているってことだし、それを否定したいわけじゃないんですけど、人と話したときや自分の生活の中でユーモアが足りないなって思うことがあって、それを突き放したいという気持ちがあるんですね。死とか闇とかを明るい曲調で歌うっていうバランスは自分の中では大事かなって。死って、ちょっと滑稽なところがあると思うんですよね。

一つの感情に支配されない人間の心は一つの希望だと思うんです

——今、バランスという言葉が出ましたが、石橋さんは無人島の10枚という企画に答えてらっしゃっていて、その中でポール・マッカートニーとかジョニ・ミッチェルみたいなポップスの王道がいる中で、ホワイトハウスとかも入れていますね。

(笑)。

——そのバランス感覚は面白いし、すごく納得できるところもありますが、それはご自身で意識して作ろうとしているんですか。

笑うことって大事だなって思うんですね、どんなときでも。例えば、友人をなくしてお葬式に出たことがあるんですけど、そのときもおかしい感情と悲しい感情が同時にやってくるんです。そういうものって誰にでもあるんじゃないかと思うし、ある意味それは一つの希望だと思うんですね。一つの感情に支配されない人間の心というか。

——新作は歌もののポップスに狙いが定まっている気がします。最初のソロ作は即興も歌も、といった感じでしたが、今回、完全にバンドの音になってきたことに、何か心情の変化があるのでしょうか。

演奏の中でチャレンジしていきながら、かつ本当のポップスを作るのは私の中で課題というか、難しいことなんじゃないかなって思うんですね。私が生まれる前から優れたポップミュージックはありましたが、だんだん歌心みたいなものがなくなってきているような気がしています。自分も80年代に育ってきちゃったから、そこらへんが自分が作っていきたいなってものの課題になった気がします。

——以前、自分のヴォーカルに自信がないとおっしゃっていましたが、だんだん歌わなきゃっていう気持ちが出てきたのでしょうか。

「歌わないと」という気持ちが先にしてきたわけではないですけど、作った音楽に対して歌うのは自分しかいないという気持ちはまだどこかにありますけどね。

——長谷川健一さんだったり七尾旅人さんだったり、歌い手の人と一緒にやられることも多いですが、そういうところから歌い手としてのフィードバックというか、学んだことはありますか。

やっぱり、七尾さんとか長谷川さんは、歌い手として学ぼうっていうより、私にとってはうますぎて、どこからマネしていいのか分からない存在ですね。聞くのも恥ずかしいし。時々七尾さんとは話しますけど、「突然石橋さんがマライヤ・キャリーみたいに歌われても困るよ」って(笑)。

——他の方からはどういったところが石橋さんのいいところだと言われますか。

声はおもしろい声をしているって言われるから、それは褒め言葉として頂戴していますけど、力んで歌わないところかな。それがよさでもあり、足りないところでもある気がします。

——ただ、だんだん歌でいくんだってことが明確になっている感じがしますね。

そうですね。でも秋にはピアノだけの作品も出しますし、歌だけじゃなく即興のアルバムとか、いろいろ節操なくやっていきたいですね。

——曲を作るというのは、即興音楽を演奏することとは違う作業という意識なのでしょうか。

即興を曲作りのように扱って、曲作りを即興のように扱っていうのが私の中でテーマなんです。たとえば、実際に作りこんでいくうちにだんだん曲になっていくこともありますけど。曲を作るときはほとんど即興のようにやっていくことが大事じゃないかなと思うんですよね。自由な発想でいろいろ試してみるっていうのかな。

——では、ある意味作曲というのは即興の再現なのでしょうか。

再現じゃなくて、チャレンジの連続ですよね。そのチャレンジの連続をしていくうちに、偶然にも形になったものを重ねていくっていう感じがします。即興は逆に、その場で空間を作り上げるところがあると思いますね。

生きているからには日々チャレンジしないといけないみたいところがある

——即興音楽から学んだことが作曲に還元されることはあるのでしょうか。

それを意識してやっているわけではないですけど、もちろんそれはあると思います。

——それはどういったところが?

即興では、その場で自分が何を演奏するのかわからないので、自分の中から引き出したりとか、チャレンジしたりとか、枯れることのない泉みたいなものを欲する部分ってあるんですね。そういう作業を続けていくと、作曲するときに、たとえば自分が使っている定番みたいなコードを使うと、「それはつまらない」って思える。それって、やっぱり即興をやっているからじゃないかなとは思いますね。

——今までやったことのない新しいものを、と。

そうそう。聴いたことのないものを作りたいって気持ちがすごい強い。

——石橋さんは音楽活動を長いことやってらっしゃいますが、曲を作るときのインスピレーションとなる部分はどこにあるのでしょうか。

原動力…、なんだろうな。やっぱり、作り続けなきゃいけない、自分が生きているからには日々チャレンジしないといけないみたいところがあるんですよね、私の中には。インスピレーションはどこにでも転がっているし、日々いろいろ感じていることが原動力かもしれないですけど、今はもうとにかく作り続けてないと自分の生きている価値がないっていう、そういう強迫観念みたいなところはあるかもしれないですね。

——今までテーマになっている「死」とか、どこかで何か終わってしまうみたいな部分っていうのはすごい意識としてあるのでしょうか。

ありますね、すごく。

——そういう切迫感みたいなものはちっちゃいときから持っていたのでしょうか。

持っていたかもしれないですね。そういう人生の倦怠感みたいなものが子供のときの心象風景にあって、常に死がいろんなところに転がっていて、実際自分が生きている世界が果たして本当に幸せな世界なのか、そういう切迫感みたいなものを感じてたかもしれないですね。

——子供のときに人生の倦怠感を感じたというのは、何か具体的な出来事があったのでしょうか。

具体的な出来事というよりも、干からびた動物の死体とかが転がっているような田舎だったりするので、何かそういうのを感じてたんじゃないですか。そういうものに目が行っちゃう子供だったのかもしれないですね。

——そういうものに対抗するには、常に自分が新しいものを生み出さないと、という意識が作品作りにつながっているのかもしれないですね。

そうかもしれないですね。あまりそこまで日々考えてはいなくて、もっとアホなこと考えて生きてますけど、突き詰めるとそういうことかもしれないですね。

——それが途切れないのがすごいなと思って。何かやりたいって言ってやり始める人はいますけど、なかなか続かないと思うんですね。常にそれを更新し続けていくっていう根源には、そういう倦怠感みたいなものがあるのでしょうか。

というのと、やり続けるというのはある程度やっぱりアホだからやってるところもあると思うんですよ(笑)。音楽って別に全然売れないし、貧乏して電気がとまっちゃったりとか、家賃が払えなくなったりとか、そういうことに耐えられない人は、本当に実際難しいと思いますよ。それでも続けるという意思がないと、できないことかもしれないですね。

LIVE SCHEDULE

2012年9月14日(fri)@新代田FEVER
OPEN 19:00 / START 19:30
石橋英子 with もう死んだ人たち(ジム・オルーク、須藤俊明、山本達久、波多野敦子、坂田明、高岡大祐、千葉広樹)
GUEST : 前野健太とDAVID BOWIEたち

2012年9月28日(fri)@大阪LIVE SPACE CONPASS
OPEN 18:30 / START 19:00
GUEST : 後日発表!

2012年9月29日(sat)@四日市 Frederika
OPEN 19:00 / START 20:00
ワンマン・ライヴ

2012年9月30日(sun)@名古屋 CLUB UPSET
OPEN 17:30 / START 18:00
GUEST : 後日発表!

RECOMMEND

triola / Unstring,string

ジム・オルーク・バンド、石橋英子バンドのメンバーであり、mama!milkやOORUTAICHIなど、数多くの作品にヴァイオリニストとして参加し、広告や映像の音楽制作、ストリングス・アレンジメント等も手がける波多野敦子。2009年より、ヴィオラに手島絵里子を迎え、デュオとして始動した弦楽プロジェクト「triola」の1stアルバム『Unstring,string』が完成。美しい弦楽器の調べを味わえる作品です。

>>>triolaの特集はこちら

スガダイロー vs 山本達久 / 2010.09.06 3rd SET

フリー・ジャズ・ピアニストのスガダイローが、2010年9月3日から9日までの7日間、荻窪velvetsunで開催した「スガダイロー七夜連続七番勝負」。各日、スガダイローと1組のアーティスト(志人、松下敦(ZAZEN BOYS)、U-zhaan、山本達久、本田珠也、七尾旅人、The Sun calls Stars)が、セッションではなく、音楽という武器を持って前代未聞の決闘を繰り広げた。OTOTOYでは、この勝負の模様を、最高音質のDSD+mp3(320k)で販売!

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トンチ / おたから

スティール・パン奏者として自身の活動を続けながら、数々のバンドの作品に参加し、UA、原田郁子(クラムボン)、七尾旅人、知久寿焼(たま)ら著名アーティストともライヴで共演してきたトンチが、フル・アルバム『おたから』をリリース。今作は、なんと初の「うた」のアルバム! 彼女がこつこつ生活して築いてきた人とのつながりによって、石橋英子、オオルタイチ、山本達久ら豪華アーティストが参加したとっておきの一枚が完成しました。

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PROFILE

石橋英子

茂原市出身の音楽家。大学時代よりドラマーとして活動を開始し、いくつかのバンドで活動。映画音楽の制作をきっかけとして数年前よりソロとしての作品を作り始める。その後、2枚のソロ・アルバムをリリース。ピアノをメインとしながらドラム、フルート、ヴィブラフォン等も演奏するマルチ・プレイヤー。シンガー・ソングライターであり、セッション・プレイヤー、プロデューサーと、石橋英子の肩書きでジャンルやフィールドを越え、漂いながら活動中。最近では七尾旅人、Phew、タテタカコ、長谷川健一の作品に参加。

石橋英子 official HP

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