2012/04/17 00:00

美島豊明のソロ・プロジェクトが始動! … と言っても、その名を知っている人は、たとえコーネリアスのファンであっても、それほど多くはないだろう。だが彼が長年に渡ってコーネリアスの音楽の制作面のほぼすべてに大きく関わってきたサウンド・プログラマだと知れば、その彼がソロ活動で作り出し、聞かせてくれるサウンドがどんなものなのか、俄然興味を沸き立てられる人々は多いに違いない。

そして、このプロジェクトをプロデュースするのが、マスヤマコム。この男もまた謎である。ある時は大学講師、ある時はゲーム・ソフトのプロデューサー、ある時は漫画原作者、ある時は現代アートのキュレーター…。そんな彼の次の一手が何故インディーズの音楽活動だったのか? この2人による音楽ユニットの呼称がmishmash*。*の後に続くのはフィーチャリングされるヴォーカリストの名。mishmash*の初代ヴォーカリストとして起用されたのは、ジュリワタイだ。全世界で写真集を120万部売上げる写真家でありながらモデル。架空のアイドル天野あいでありながらガチの二次元ヲタ。これだけですでに頭が混乱し、軽く眩暈がしてくる。一体全体mishmash*Julie Wataiは、何を始めようというのだ!? それを確かめるべく、初ライヴを目前に控えリハーサル真っ最中の3人に会いに目黒某所のスタジオを訪問した。

インタビュー&文 : 菅原英吾(ブリジニア)

音質の違う6ヴァージョンで、新曲を楽しもう!

mishmash*Julie Watai全世界デビュー曲は「Roll of Love」。「恋のタマシイ」はその日本語ヴァージョン。編みぐるみのジュリワタイが歌ってリッケンバッカーを演奏するミュージック・ビデオはケロケロキングの木原庸佐が手がけた。そして、今回はmp3に加え、24bit/48kHz、24bit/96kHzの2通りの高音質音源を配信!

mishmash*Julie Watai / 恋のタマシイ

mishmash*Julie Watai / Roll of Love


グラドルを撃たないで

——「サウンド&レコーディング・マガジン」2012年5月号の表紙に、「5人の売れっ子アレンジャーに、ボーカル・トラック(=歌)だけを渡して"チャートのトップ10に入るような曲にしてください!"とお願いしてみました。」とありますが、このボーカル・トラックというのはmishmash*Julie Wataiの「Don't shoot me, I'm only the pinup girl」なんですよね。

マスヤマコム(以下、マスヤマ) : そう。初ライヴもデビュー曲「Roll of Love」の配信もまだなのに、いきなり表紙(笑)。「Don't shoot me, I'm only the pinup girl」は英語版のタイトルで、日本語版のタイトルは「グラドルを撃たないで」です。

——ではその日本語版タイトルに因んで、皆さんにとって「元祖グラビアアイドル」って誰ですか、ということを尋ねてもよいですか。

美島豊明(以下、美島) : そう来たか!
ジュリワタイ(以下、ジュリ) : そこから!?
美島 : この質問の回答で大体の年齢がわかるよね。

——mishmash*Julie Wataiをやっている人たちはどんな人たちなのかということを、まずは世代的なところから探っていこうと。

マスヤマ : なるほどね。
美島 : オレはアグネス・ラムかなあ。

左からマスヤマコム、ジュリワタイ、美島豊明

——アグネス・ラム! 子供の頃、名前はよく聞いた覚えがありますが、活躍したのはいつ頃だったのでしょうか。

マスヤマ : (ググりながら)1975年に初代クラリオンガールに選ばれてるね。
ジュリ : 私、生まれる前だ…。
美島 : 元祖といえば多分そこですよね。この人は最初、歌ってなかったし、女優でもないし、「え? 写真だけでアイドル? 」みたいな。

——当時の日本ではアイドル=歌手という感じでしたもんね。ところでその頃はグラビアというと、どんな雑誌に掲載されていたのでしょう?

マスヤマ : 「平凡パンチ」「週刊プレイボーイ」「GORO」あたりかな。
ジュリ : 「週刊プレイボーイ」ってそんな昔から続いているんですね!

——マスヤマさんはいかがですか?

マスヤマ : (ググりながら)ちょっと待って…。あ、この人。知ってる? 栗田ひろみ。
美島 : ああ、なんか覚えてるような…。
マスヤマ : アイドルというより女優さんで。清純派だったんだけど「プレイガール」っていう大判グラビア誌の表紙を、篠山紀信撮影の大胆な写真で飾って、話題になったんですよ。それが1974年。僕は美島さんより年齢的にはちょっと上ってことで、この人を選んでみました。

——なるほど。では、ジュリさんは?

ジュリ : 私は、一番めっちゃハマったグラドルは釈由美子さんで。
マスヤマ : ずいぶん最近じゃない?

——釈由美子さん頃から「グラビア・アイドル」じゃなくて「グラドル」という言葉に変わっていきましたよね。他にも人気グラドルは大勢いたと思うんですが、釈由美子さんの魅力ってどんなところにあったんですか?

ジュリ : 私は昔から二次元のガチヲタだったんですけど、釈由美子さんを最初に見たとき、「あっ、アニメみたいな顔の女の子が出てきた、完璧すぎる! 」と思って。これが三次元で有り得るのか! って感動したんです。

——ジュリさんの場合、なんでもまず、二次元ありき、なんですね。

ジュリ : その感動を手元に残しておきたくて、私、釈由美子さんのトレーディング・カード(トレカ)をコンプリートしたんですよ!
美島 : すごいなあ!
ジュリ : 私、コレクション… モノを集めることが好きなんです。アイドルのトレカが出回り始めた頃、これはすごいコレクション・アイテムだ! って思って夢中になったんです。だって、こんな小さなカードのなかに、こんなに可愛い水着の女の子が収まっているなんて!

——でもアイドルのトレカって、普通、男の子が集めるものなんじゃないですか…?

ジュリ : アイドルを好きというか、カードのコレクターズ・アイテムとしてのガジェット感とか、グラフィック・デザイン的な部分が好きだったんだと思います。

——なるほど。やっぱり二次元ヲタだったこともあって、印刷物への偏愛があったんでしょうかね。ジュリさんは写真家としても活動していますが、その活動の原点も二次元ヲタというところにあるんでしょうか?

ジュリ : そうですね、アニメ、漫画が好きで、そういったコスプレを小学生の頃からやっていまして…。
美島 : え! そんな年齢からコスプレ?
ジュリ : はい。母親が作ってくれた衣装を着て、友達同士で使い捨てカメラで撮りあったりして。

——「写ルンです」とか。

ジュリ : ええ。それで「カシャッ」と。でも使い捨てカメラってなかなか可愛く撮れないんです。ところが高校生の頃に何故か家にミノルタの一眼レフがあって。みんなが「写ルンです」を使ってる中、一眼レフを抱えたオレが登場ですよ。
一同 : (笑)。
ジュリ : もうモテモテなオレがいて。皆が「お願い! 撮って! 撮って!」と。それでコスプレイヤーの子たちを撮りまくるようになりました。可愛く撮れると喜ばれるし。それが人物撮影って面白いな、楽しいな、と思うきっかけでしたね。

——それで写真家を志すようになったわけですね。目標にしていた写真家、好きな写真家はいましたか?

ジュリ : 私、とある写真集を見て泣いたことがあったんです。それはアラーキーさんの『センチメンタルな旅・冬の旅』だったんですが。

——荒木経惟さんが奥さんの死顔を掲載したことで大きな話題になった写真集ですね。

ジュリ : その写真集を見て以来、アラーキーさんのことをずっと尊敬していたんですが、ある時、会う機会があって、私の写真を見てもらったら、とても褒めてくれて。当時唯一私の写真を褒めてくれた人だったんです。それで「お前面白いな。オレの周りウロウロしてみるか」と誘っていただいたんです。
美島 : ウロウロ(笑)。それはアシスタントとして?
ジュリ : いえ、アシスタントというより、付き人ですね。半年間くらいです。

——ジュリさんは、撮るだけではなく、撮られる側、モデルとしても並行して活動しているわけですが、写真を撮るときと撮られるときの心の持ちようって、違うものですか?

ジュリ : うーん… 違う。全然違う。今、質問されて初めて考えてみたんですけど。撮られるときは撮る人が表現したいことをまず理解して、それを演じられるように頑張ります。自分は素材になるんですね。

——『グラドルを撃たないで』は、そんな撮られる側の気持ちを表しているのですか?

マスヤマ : 歌詞は、ジュリちゃんに取材して僕が書きました。グラドルというと、一見華やかに見えるだろうけど実はガテン系、見えない苦労がたくさんあるんだな、と。
ジュリ : 聞く人によってはグラドルの仕事を否定しているように解釈してしまう人もいると思うんですけど、決してそういうことではないんですよ。写真を撮ってもらうことは基本的に嬉しいし楽しいし。
マスヤマ : 英語だと「撮る」は「shoot」で、「撃つ」の「shoot」と同じですよね。タイトルの元ネタは、エルトン・ジョンのアルバム『ピアニストを撃つな!』(1973)や、トリュフォー監督の映画『ピアニストを撃て』(1960)です。

イタリア、トスカーナで秋葉原を憂う

——マスヤマさんがジュリさんに、mishmash*のヴォーカルを依頼したいきさつは?

マスヤマ : 僕には、ものすごく親しいイタリア人の友人が居て、年に数回、ローマに行ったりトスカーナの彼らのワイナリーに行ったりしてます。それで、もう5〜6年前かな? トスカーナのワイナリーでそこにあった新聞を見たら、何かのコスプレしてる日本人の女の子が載っていて。

——それがジュリさんだったわけですね。

マスヤマ : 僕はイタリア語は読めないので友達に「これ、何て書いてあるの? 」って尋ねたら「日本は面白い国だね」って言われて。「いや、日本のなかでもこの人は、特殊中の特殊なんだ」って、何故か、日本の擁護をするハメに(笑)。まぁ、正直いって「最近の若者はよくわからんなあ」という印象でしたよ。

——そのイタリアの新聞の記事というのは、どんなものだったんですか?

ジュリ : 今でも連載は続いているんですけど、最近だと日本の缶詰文化、自販機文化についてとりあげました。ラーメン缶とか。そういう海外には無い、日本独特の面白い文化を紹介するというコラムなんですけど、それに何故か毎回私の写真も載っているという(笑)。
マスヤマ : 実際に会ったのは、その後何年かして、秋葉原の居酒屋でイタリア人を含めて、大勢で飲んでいたときで。でも、そのときは、あまり話さなかったですね。
ジュリ : あの時はいっぱい人がいましたからね。
マスヤマ : 美島さんとの音楽プロジェクトを女性ヴォーカルものにしたいな、と思ったとき、そういえば面白い子がいたな、と、ふと思い出して。歌もやってるということを知っていたので、できるかな、と思って軽い気持ちで連絡してみたんですが、今にして思えばこれは大胆すぎる決断だった(笑)。

渋谷系クエスチョン・アワード

——さて一方、美島さんの出会いは、マスヤマさんが運営していたサイト「The man behind Cornelius」に既に詳しく書かれていますね。

マスヤマ : はい。コーネリアスのサウンド・プログラマーと言ったら、ファンにとっては、もう神ですよね。その神と仕事をしている自分、ポジションとしては小山田圭吾さんと同じ! みたいな(笑)。

——渋谷系音楽全盛期に青春時代をおくった者としては、ぜひ一度立ってみたいそのポジション! 今日はもうただのコーネリアス・ファンによる質問大会になってしまいそうなのですが、よろしいでしょうか、美島さん…。

美島 : はい、どうぞ。

——最初に小山田圭吾さんと仕事をされたのはフリッパーズ・ギターの『GROOVE TUBE』だったんですよね?

美島 : そうだと思うんだけど、定かではない。『ヘッド博士の世界塔』のなかのどれかということは確かだけど。

——その後、美島さんはずっと小山田さんとの仕事を手がけていくことになるわけですが、当時、その予感はありましたか?

美島 : うーん。あまり。どちらかというと事務所の社長と親しくて、それでコーネリアスの仕事の依頼が来るようになったという感じでした。

——そうだったんですね。コーネリアスのファースト・アルバム『THE FIRST QUESTION AWARD』はシングル曲が5曲も含まれていて、ある意味シングル・コレクション的なアルバムだったと思うのですが。

美島 : うーん、そうかな。

——そこから一転して、セカンド・アルバム『69/96』からは、一枚のCDアルバムというメディアをフルに使って、膨大な情報量を詰め込んだ、トータル・アルバムを作っていこうという志向が伺えると思うのですが、いかがですか?

美島 : 『69/96』の頃はまだ小山田君のメンタルな部分のことはわからなかったですね。トータル・アルバムにしたい、と言いはじめたのは次の『FANTASMA』からですね。

——当時小山田さんは、『69/96』はヘビメタなんだ、ということを強調されていたと思うのですが、今聞いてみると、ヘビメタ色よりもドラムやベースのグルーヴィさや、ファンキーな感覚のほうがアルバム全体のサウンドを特徴付けていたと思いますが。

美島 : それはループを多用してるからでしょうね。
マスヤマ : 当時の機材はサンプリングできる時間が短かったんじゃないですか。それで独特のノリが生まれていたのでは?

——『69/96』の頃の小山田さんは音楽誌だけでなく、ファッション誌等にも沢山登場していましたよね。そういうメディア戦略的なことは、やはり意図的にやっていたんですか。

美島 : そうですね。ちょうど裏原系のファッション・ブランドのA BATHING APEをガンガン盛り上げていこうっていう時期で。
マスヤマ : まだ日本にバブルの残り香があった頃ですね。

——千葉在住の私には、コーネリアスに代表される渋谷系音楽、裏原系ファッションというのは、強烈な憧れの対象でした。小山田圭吾さんは、ものすごいカリスマでした。

マスヤマ : そうだったんだ……。僕は音楽そのものにしか興味が無かったから、そういうことは知らなかったなあ…。

後半に続く

[インタヴュー] mishmash*Juile Watai

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