tamamix INTERVIEW
不思議なゆらぎを感じる作品だ。視点をぼやかしたようなアルバム・ジャケットが示唆しているように、ウクレレを手にした女性シンガー、tamamixのデビュー作『u・ku・lu』に込められた、このどこか漠然とした空気感。これは、たとえば昨今のJポップに求められがちな生々しい表現とはなかなか相成らないものかもしれない。ここで聴けるリヴァーブを効かせた音響は、たとえば彼女がカヴァーしている昭和のフォーク・ソングや歌謡曲が備えていたものと近いように感じるのだ。おそらくこの作品には、かつて日本の歌謡曲にあった空気感をtamamixというシンガーを通して現代にアップデートしようという狙いもあったのだろう。ウクレレによる軽い音色もそうした雰囲気と合うし、彼女自身の作詞による楽曲もそこと矛盾せずに同居している。なにより彼女の穏やかな歌声は魅力的だ。選曲に気にかかるものがあれば、まず一聴をおすすめしたい。
インタビュー&文 : 渡辺裕也
tamamix / u・ku・lu ウクレレの音色と懐かしいメロディで過去と未来を繋ぐ、魔法のウクリストtamamixの1st.アルバム。
【TRACKLIST】
1. 珈琲不演唱 / 2. ハリケーンドロシー / 3. なんとなくなんとなく / 4. いつもの珈琲 / 5. くらげの女 / 6. こっそりねこ / 7. 蛸の女 / 8. プカプカ / 9. そして僕は途方に暮れる / 10. スーダラ節 / 11. むりしない / 12. 上を向いて歩こう / 13. いかれたBaby※
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期間 : 3/8〜3/15
「これじゃなきゃいけない」みたいなものをあまり持ちたくない
――ジャケットに掲載されている、大きな絵の前で膝を抱えている写真が印象的だったんですが、あの絵は?
あの写真は幼馴染の松本直也君が撮ってくれたもので。絵は私が高校生の頃に描いたものですね。20代前半くらいまでは画家になりたいと思っていたんです。ちなみにこの絵は『18歳の自画像』という題名なんですけど、この絵を描いた頃って、いわゆる思春期特有の、なにをやっていいのかわからなくてぼうっと日々を過ごしていた感じだったんです(笑)。思いをぶつけるものがなくて、ただひたすら大きなキャンバスに向かっていました。当時のわたしが感じていた、若さ故の鬱憤や不安がこの作品には表れていて。
――当時はまだ音楽活動に打ち込んでいたわけではなかったんですね。
そうですね。聴くのは好きでした。当時は、キャロル・キングとかリッキー・リー・ジョーンズなんかをよく聴いてたかな。特にルイ・アームストロングの曲は今でも強く残っていて、そこは父親からの影響が大きいのかもしれません。その頃は興味を持って聴いていたわけではなかったんですけど、なにかのきっかけでまた耳にした時に「あ、お父さんがよく聴いていた曲だ」と思って。そこから調べていくうちに、その時代の音楽を漁って聴くようになったり。でも、今回の選曲は20代の中盤あたりから興味を持ったものが大きく反映されていると思います。わたし、みんなが家族みたいに呑んでる居酒屋に行くのが好きなんですけど、おじさんに囲まれて呑んでいたりしながら、懐かしいフォーク・ソングを聴く機会がけっこうあったんですよね。それで「いいなぁ」と思って。どちらかというと、女性より男性のうたの方が好きなのかもしれません。カヴァーする時も、なぜか男性のうたの方が歌いやすくて。
――今回カヴァーされている高田渡さんや細野晴臣さんの書くリリックを、tamamixさんはどのように捉えて歌っていらっしゃるのですか。おそらく、共感とかではないと思うのですが(笑)。
メッセージ性をつよく持ったものよりも、聴く側が勝手に想像できる余白のあるものが好きなんですよね。ここは意識的に取り組んでいるところなんですけど、その時々の自分の環境に応じて、自由なイメージを広げてもらえるようなうたにしたいんです。わたし、自分の思いをわかってほしくて表現しているつもりはまったくなくて。もちろん自分の思いを乗せて歌っているんですけど、それがストレートに伝わらなくてもいいと思っているんです。聴いてくれる人にはなにも強制したくないから。
――どんなきっかけでウクレレを演奏し始めたのでしょうか。
絵描きを目指していた時に個展をやったことがあって。そのオープニング・パーティで友達に演奏をお願いして、どうせなら1曲くらい自分も演奏に参加したいなと思って、その時にウクレレを手にしたのがはじまりです。
――ウクレレという楽器の気楽な雰囲気がtamamixさんのスタンスと合っていたのかもしれませんね。
確かにそうですね。「これじゃなきゃいけない」みたいなものをあまり持ちたくないんです。こだわりが増えると頑固になったり、視野が狭くなっちゃうと思うので。それよりも直感や自由さを大切にしたいですね。なんとなく手にとったウクレレで歌い始めた、好きだから歌ってるっていう、そういうスタンスのままこれからも行けたらいいなと思っています。これからも「こだわらない事」には精一杯、こだわりたいです。
2年間の山篭り生活
――こうして作品を出すことになるまで、音楽活動に力を入れ始めたのはなにかきっかけがあったんでしょうか。
2007年くらいからYouTubeで動画を公開し始めたんです。それの登録者数が少しずつ増えていって、ライヴをやる機会も増えていって。だからきっかけというより、そういうちょっとしたことが重なっていって、いまの形になったような感じですね。だからなにかが劇的に変わったという実感はないんですけど、確かに何年か前の自分が今のわたしを見たらびっくりするでしょうね(笑)。
――YouTubeを通して弾き語りを披露していくというアイデアはどんなところから生まれたのでしょうか。
当時WEB制作会社に勤めていたんですけど、そこで携帯電話から30秒間の動画をメールに添付してYouTubeに送ると、その動画が公開されるという機能をクライアント先にプレゼンすることになって。そのテスト・トークをするために実際になにかを撮ろうと思ったときに、ちょうど30秒で収まるウクレレの曲があったので、それを撮って公開したのが最初です。実際にそのYouTubeを見ながらプレゼンを始めたら、いつの間にか再生回数が伸びていることにその場で気づいて、自分でもびっくりしちゃったんですよね。それで調子に乗って、そのあとも動画を撮ってアップするようになったんです(笑)。
――ちなみにそのプレゼンではどんな曲を披露していたんですか。
3コードの本当に簡単な曲です。「ウクレレ 3Codes King」というサイトがあるんですけど、そこに載っていた譜面を見て演奏しました。その頃はまだ楽器のこともあまりよくわかっていなかったので、コードの少ない曲を練習して演奏していました。
――では、ウクレレの演奏家、あるいはミュージシャンとして特定のだれかを目標としたり、影響を受けたことはあまりない?
それはないかなぁ。少なくともウクレレの演奏に関しては、誰かの影響を受けたということはないと思います。ただ、歌い手としては、それこそ高田渡さんとかおおはた雄一さんは大きいと思う。詩を読んでいるような感じといえばいいかな。ぶつぶつと話しているように歌う人が好きなんです。
――今回のアルバムだと、それこそYouTubeで聴かせていたシンプルな弾き語りとは違った、作り込んだ演奏が聴けますね。プロデューサーの沢田穣治さんとはどのようにサウンドのイメージを決めていったのでしょう。
沢田さんはここまでのわたしの活動というか、スタンスをすごく尊重してくれて、いつものようにやってくれればいいとおっしゃってくれました。そこに沢田さんが持っていたイメージが加わってこういう世界になりました。
――ご自身で作詞された楽曲もありますね。
うたに乗せるためのものではなければ、これまでも書いていましたけど、曲を意識して詞を書いたのは、実は今回が初めてのことで。沢田さんと出会ってから初めて作った曲が「くらげの女」なんですけど、これは沢田さんの失恋話をもとに書いたものですね(笑)。その沢田さんが話してくれた女性から私とすごく似たところがあるように感じて、それをくらげの人生と交えて書いてみたのがこの曲です。他の曲にしてもそうなんですけど、作詞に関してもさっきまでの話と同じで、説明的にはならないようにしようと心がけています。
――この選曲を見ていると、tamamixさんはかつての音楽にはあった粋な男性像に惹かれているのかなと思ったんですが。
(笑)。確かにそうかもしれないです。風情のあるものが好きなんですよね。中途半端に無機質なものは苦手で。それよりも人情のあるものや人、場所に惹かれるんです。 カバーしたスーダラ節には、本当の意味での男らしさとか、強さを感じます。
――お話を伺っていると、あくまでも自分の価値観を大事にしているようですね。そうなると、同世代との付き合いに息苦しさを感じることもありそうですが、どうですか。
たしかに、流行りものには鈍感なので、そういった話は合わないかもしれないです(笑)。ライヴに来てくださる方も、年上の男性が多いですね。ただ、学生の時は美術系の学校に行っていたので、感覚の合う友達もいましたよ。でも、やっぱりその友人たちとの会話も、画家の話だったり、その年齢相応の内容ではなかったと思います(笑)。
――学生の頃は鬱屈とした時期を送っていたとおっしゃっていましたが、そうした状態はどのようにして抜け出したのでしょう。
絵を描く学校に行きだしたんですけど、すぐに辞めたんです。高校がけっこう伝統あるデザインの学校だったのもあって、同じことの繰り返しというか、あまり面白くなかったというか。それだったら、アトリエを借りて山篭りしながら絵を描いて過ごそうと思って。それから住み込みのアルバイトを始めながら人生の構想を練っていくうちに、それまでのモヤモヤしたものがちょっとずつ抜けていったんです。19歳くらいの時に死生観というものを初めて持って、死ぬということをポジティヴに意識するようになりました。それから22歳くらいまでお金を貯めて、個展を開いたあとから、実際に2年間の山篭り生活が始まるんです(笑)。
――絵描きとしての活動にはもう一区切り入れているんですか。
はい。もうほとんど描いていませんね。山篭りしているうちにだんだんと欲がなくなってきて。絵もそれほど描きたいと思わなくなってしまったんですよね。山篭り生活の後半は、朝起きて薪を割ったり、畑を耕したりっていう、ただ生きるために生きているという感じだった。そうするとだんだん焦ってくるんですよ(笑)。世の中のいろはも知らないくせに、こんな悟りを開いたようなことをやっていていいのかって。絵を描かない自分にも焦りを感じましたね。それで山を降りて東京に来ました。
――それがこうしてミュージシャンとして活動するところに至るというのもすごいですね。
でも、積極的になにかをやろうとしてこうなったというより、流れのままにしていたらこうなったという意味では、私は昔からなにも変わっていないんです。その時々に感じたことを大事にしているので。だから、これからの出会いがいまはすごく楽しみなんです。
tamamix SCHEDULE
mini LIVE決定!
第43回パイオニアAVセミナー『Let's Enjoy! ネットワークオーディオ Ⅱ ~with tamamix Special mini LIVE~』
2012年4月14日(土)@PIONEER PLAZA GINZA B1F視聴ルーム
15:00~17:00
講演者 : 高橋健太郎(OTOTOY チーフ・プロデューサー) / 小谷野進司(パイオニア オーディオ活性担当)
ゲスト : tamamix
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RECOMMEND
V.A. / 武満徹ソングブック
本作の主人公のひとり作曲家・武満徹を、「日本が世界に誇る現代音楽家」という肩書きで呼ぶのはふさわしくない。ブラジル音楽をベースに唯一無二の響きを奏でる弦楽トリオ「ショーロクラブ」の精緻にして伸びやかな演奏と、7 人の歌手によって、新たな生命を吹き込まれた歌を聴くにつけ、20 世紀音楽の巨匠を親愛を込めて「ソングライター」と呼びたくなってしまう。バンドリン、ギター、コントラバスの涼やかな音色にのせて、アン・サリー、沢知恵、おおたか静流、おおはた雄一、松平敬、松田美緒、tamamix が歌い継ぐ全15 曲。異ジャンルで活動する美しき「ヴォーカリスタス」の声をまとって、タケミツ・メロディが2011 年の「今」を生きはじめる。かつて、これほどまでに、その歌が近しく感じられたことがあっただろうか。新たなスタンダードとなるべき、これからの「タケミツ・ソングブック」。
CHOCOLATE GENIUS INCORPORATED / SWANSONGS
ここに収録された11曲を録音するのに彼が必要としたのは、ロサンジェルスのスタジオでのわずか9日ばかりのセッションだった。個々の歌は、明瞭かつ痛みを伴った知性をもって彩られているが、その奥底には、人生は喪失と欠如、そして失ったものの幻影によって作り上げられているとする認識が横たわったいる。マンハッタンを遠く離れ、これまでのパートナーであったマーク・リボーでさえわずか1曲(Enough For/Of You)にしか参加していない本作で、トンプソンは、近年気脈を通じてきたパートナーたちと共演をしている。彼らのさながら重力から解放されたかのような演奏は、本作の意図を理想的なかたちで具現化している。過去の作品において、ときにエレガンスを損なう要因ともなった細かい砂利を取り除いたことで、本作での彼の歌、歌唱は曲から曲へと、目を瞠るほどの滑らかさをもって流れてゆく。美しく響き渡るブルーズ「Enough For/Of You」から、ピアノと声が愛撫しあうかのような「Like a Nurse」や「Sit & Spin」、ねじれてはうねる「Lump」、心地よく寄せてはかえす「When I Lay You Down」と「Ready Now」。あるいは、「Kiss Me」における肉感的な告白、「Mr, Wonderful」での幽玄な歌詞(電子的な残響のなかへと、亡き父の声がフェイドアウトしてゆく)など、いずれの楽曲も、ジャンルやスタイルに規制されることのない、自由なインスピレーションによってもたらされたものだ。
tamamix PROFILE
静岡県浜松市生まれ。ウクレレの音色と懐かしいメロディで過去と未来を繋ぐ、魔法の「ウクリスト」 YouTube "tamamix channel"での再生回数が合計110万回を超え、全国から熱い注目を浴びる「声とウクレレ」のソロ・ユニット。2011年にショーロクラブの沢田穣治を迎えて贈る待望の1st.アルバム『u.ku.lu』を発表。