ANIMAが持ってるポテンシャルをちゃんと記録したかった
――益子さんは一部の曲で演奏もされていますが、アレンジには直接的に関わっているんですか?
M : リハを何回か見てはいるけど、細かくここをこうしようとかああしようとかっていう話はしてないですよ。大枠でいい感じだねっていうものはもうそれでいいと思うし、俺がやったのは流れのこととかだよね。
倉田ミロ(以下、KM) : あと、テンポとか。
K : 「ハイウェイノイズ」は益子さんの存在がでかいなと思いますよ。益子さんを含めて5人でスタジオで曲を仕上げたので。
M : 演奏に関しては、基本的にはバンドから生まれてくるものを受け取った上で、その世界をより濃くしたりできるんだったら自分の音を入れるっていう感じです。入れなくても成り立ってるものに関しては無理矢理入れる必要は絶対ない。そういう場合はエンジニアとしてレコーディングやミックスの作業で彼らの音の中に入ってる要素をちゃんと味がするように出してあげればいいだけで、そこにもう一品入ってた方がいいんじゃないかってものがあればやるだけです。
――レコーディングは前回と同じ益子さんのスタジオでやられたんですよね。2回目のスタジオだとレコーディングはスムーズですか?
K : それはかなり。精神的な安心感が本当に大きかった。
M : 前回の『月も見えない五つの窓で』の時にはじめてこのバンドのレコーディングがあって、色々レコーディングの中でやり取りもあったりして、そういう意味では2回目だからできたことっていうのはあると思いますよ。レコーディングに関して言うと、うちのスタジオはブースがひとつしかないので、基本的に一緒に音を出したら全部かぶるんです。かぶるっていうことは、もし誰かが間違ったらもう一回みんなでやらないといけない。そういうリスクを踏まえた上でレコーディングするんだったら全然いいんだけど、もしそこでやり直すっていうことになった場合に、全員でやり直すよりも個別にパートでやり直した方が効率はいい。効率をとったのが『月も見えない五つの窓で』のレコーディングですけど、今回はあえてかぶらせちゃってるんですよね。それはリスクがあっても一緒にその時に音を出すことで匂いや生命力みたいなものが得られるからですね。効率や単にきれいな音よりはそっちを優先させました。
――益子さんも録り方やミックスに関して色々と工夫をされてるんですね。
M : 今回のANIMAだからってことじゃなくても、ここ何年か色んなレコーディングをやってくる中で、自分の中で得たノウハウやこうすると楽しいんだなっていう音の捉え方を含めて、今できることは全部やってると思います。“生け捕り”にするっていう言い方をするけど、バンドって人がやってるものだし、本当に生きてるものだと思うんですよ。録音って、間違うと生き生きとしない精彩を欠いた音になってしまうんです。それは誰もそういう音にしようと思ってるんじゃないんだけど、結果そうなっちゃうっていうこともあるんですよ。ライブでダイレクトに音を聴けるんだったらいいけど、レコーディング、ミックス、マスタリングという行程、例えば一旦冷凍保存をして解凍するっていうような作業があるわけだけど、その行程で間違うと本当に生き生きとしてないものができてしまう。絶対それは避けたかったし、コンセプトやキーワードはありながらも、最終的には今ANIMAっていうバンドが持ってるポテンシャルをちゃんと記録したかった。テーマやコンセプトももちろん大事だけど、何よりも今しか出せない音をその瞬間記録したものをアルバムという形にして出せればいいなという思いがあったんです。それはできたかなと感じてます。いわゆるライブとは違うんだけどちゃんと人がやってるというか、手作り感覚を出すということではないんだけど、機械に頼ってるものではなくて人間が汗かいて出してる音だっていうのを記録したかったっていう思いは大きいですね。レコーディングはどう“生け捕り”にするかなんですよ。それが録ってる側からするとすごく楽しい。
――では、今回のプロデュースっていうのはそういう役割なんですね。
M : そういう大枠の部分だと思う。それが出てればいいやっていうのはあったから。今時なので、「レコーディングで音が入ればあとはどうにかなるでしょ」って考え方もあると思うんですよ。そういう考え方は絶対したくない。
メンバー全員が全速力だけど走ってる方向が違う
――それでは、パートごとに質問させてください。ギター・ノイズの入り方がすごく気持ちいいですが、音作りに苦労されましたか?
I : ギターのアレンジも全部作れてなかったですからね。(レコーディングの)その場で弾いていいものが出てきちゃったりもするので。
M : というか、そういうタイプのギタリストですよ。石川くんは直感的なプレイが素晴らしい。
I : ひとつのセクションに対して毎回違うものを弾きたいので、その時に出てくるものを大事にしたいっていうのは、やっぱりありますね。そんなに自分の中でフレーズを決めきりたくなかった曲もあります。ハウリングとかノイズの音程に関しては出してみないとわからないところがあるんですけど、なんとなく自分の鳴らしたいハウリングとかノイズとかのイメージを持って(エフェクターを)踏むなり(アンプに楽器を)向けるなりはしてます。
――何度も試行錯誤されたんですね。
I : 想像以上のノイズが出たところもありましたし、自分の中で狙って出してるところもあります。
――リズム隊のお二人も色々と試したりされたんですか?
KM : 一緒にリズムの感覚を合わせるのは結構重点的にやってきましたね。二人でスタジオに練習に入って、メトロノームを鳴らしてそのテンポでどういうノリにしていくかっていう話をしました。このアルバムの制作に取り掛かるちょっと前から毎週水曜日に入るようにして。
O) : まあ、やっぱり、そういうことはやったほうがいいなと思います。リズム隊に限った話じゃないですけど、ANIMAはメンバー全員が「全速力だけど走ってる方向が違う」みたいなとこでやってるバンドでもあるので、それがいい方向にいくときはいいんですけど、そうもいかないときもあるんです。そういう部分はベースとドラムに如実に出るので、意識して取り組みました。おかげで個人的にも前よりベースっていう楽器の捉え方が広がったとは思います。
M : 前より低音あるしね。
KM : (笑)。
O : そうですね。『月も見えない五つの窓で』の時と明らかに音が違うんですよ。ANIMAが出してる音源を続けて聴いてもらえればわかると思うんですけど、毎回音にその時の僕の趣味が反映されてるんです。
K : 『ナイトサファリ』はLUNA SEAのJでしょ?
O : 『ナイトサファリ』に関してはJをそのままに作りたかったんですけど。でも、『月も見えない五つの窓で』でセッティングというかシステムを変えて、自分の中でのベースを、「ポコポコしちゃってて安っぽい、かわいいけど変なイメージでやったんです。でも、益子さんに「低音が足りないから足そう」って言われて、「あ、やっぱりそうっすか?」って(笑)。でも、今回は陶酔感やサイケデリックっていうものを自分なりに考えたら、やっぱり、もっとロー・エンドをしっかり出したほうがいいなって思いましたし、自分が思うベースで“陶酔感”っていうと、ドンシャリでギャリギャリしてるものより低音が膨らんでるっていうものが自分の中であったので、そういうラインで考えつつそれだけのものでもないようにバランスを考えました。
――小島さんは情景が見えるような音楽っていうところで歌い方を工夫されたりしましたか?
K : 『月も見えない五つの窓で』とちょっと変えてますね。特に「バレーボール」とか、「夏祭り」は結構変わってますね。
M : そうだね。
――前より声に広がるような感じが出ていると感じました。
K : そうかもしれないですね。気持ち的にも伸びやかに歌ってます。あと、漂うような感じも意識してます。
M : 小島くんの声への俺の理解力も前回よりは高まってるので、『月も見えない五つの窓で』の時より録り方を変えるようにしました。小島くんの不思議な独特の倍音を持ってる声をどうやったらよりよく録れるかっていうところを考えてレコーディングしましたね。それもあると思います。
K : 今回そういうこともあって、自分の倍音を聞きながら歌ったので、やってる最中に別の人の声が聞こえてくる感じがしたんですよ。
M : 女の人が大体一緒に歌ってる。もう一人いたよねって(笑)。
K : 自分だけの幻聴じゃなくて、本当に聞こえるんですよ。たぶん、自分の声の中にはそういう要素があって、今までそれに気づかなかったのが、今回顔を出したって感じですね。それは結構びっくりしました。
異世界とつながるアンテナ。そのつながる瞬間を書きたい
――小島さんの歌詞は今回特に意識されたところはあるでしょうか? 「バレーボール」のつきゆび、「サウスポー」のハンド、「おしり物語」のおしり、あと弾き語りでやられていたおっぱいについての曲など、体のパーツを印象的に使ってますよね。
K : おっぱいについての曲はたくさんあって(笑)。
M : 候補曲の中にもあったしね。
K : 弾き語りだとおっぱいだけで30分できるぐらいの曲数があるんですよ。
KM : おっぱいシリーズ(笑)。
K : でも、言われてみると、体のパーツは入ってることが多いですね。別に意識はしてないですけど。体は指とか特に気になりますよね。指って外部と接触する部分じゃないですか。異世界とつながるアンテナみたいな。そういうつながる瞬間を歌詞で書きたいなと思ってるので、必然的に歌詞に指とかでちゃうんですよね。下ネタの部分も唐突に聞こえるかもしれないですけど、必然性はあるんですよ。歌詞を作るときは、その曲が呼んでる言葉をひたすら探して。適当な感じでパッと見、きれいなようにまとめることはできるんですけど、そうしないでもっと曲と向き合おうかなと思って。
――異世界とつながるっていうところは確かにサイケデリックと共通する部分ですね。
K : そうかもしれないですね。狭間を書きたかったんですよね。今自分は起きてるのか寝てるのかとか、死んでるのか生きてるのかとか、昼なのか夜なのかとか。それで、聞くときの状況や心境によって感じ方がどっちにも変わっていくようなものにしたかった。そういう危うげなものというか、ぎりぎりのバランスで踏みとどまってるようなものが書きたかったんです。
――アルバム全体の話ですが、全体を通してひとつのストーリーがあるような感覚を受けました。そうなるように意識されましたか?
M : アルバムが一個の装置のようになって、その人なりにストーリーを思い浮かべたり想いを巡らすっていうのをやってもらえるのはすごくうれしいことですね。
K : 逆に限定したくないとも思います。これはこういうものでしょ? って言い切れない、どうとでも取れるようなものを作りたかった。
M : そこはすごく微妙で、限定したくないんだけど、だからって野放しにはしたくないんですよ。聴く人にきっかけは作ってあげたいから。これを言葉で説明するのはすごく難しいんですけどね。
K : あと、どこから聴いてもいいアルバムになったと思うんですよ。僕は夏目漱石の「草枕」って小説がすごく好きなんですけど、その中で漱石が言ってたのは、どこから読んでもいいしどこから出て行ってもいいみたいな、そういういつでも帰って来れる無限ループのような「草枕」的な世界観っていうのが『シャガール』にもあるような気がしてます。
M : 一枚のアルバムの中で完結するっていうか、何回も聞けるようなアルバムってないかなってよく思うんですよ。一曲目に戻って聴いたときにまた新鮮な気持ちで聴けるっていうのはいいよ。
ポップ? サイケデリック?
人気電子書籍『ヌカカの結婚の音楽』、『テロメアの帽子の音楽』ののサウンド・トラックを手掛けた戸田誠司率いるアブストラクト・ポップ・ユニットkappaのオリジナル・シングル。作詞とラップでいとうせいこう(口口口)が参加!
耳に残る旋律と新しい言語感覚は、気がつけば口ずさんでしまうポップ・ミュージック! 脳が教えてくれた音楽! ハッピーな音楽! いろいろなものに虜にされたあげくにできた音楽! 楽しく歌い楽しく演奏。ときにバキバキときにゆるゆる。聴く時の気分や場所によって、万華鏡のようにくるくると変化するきらびやかな作品です。
ウリチパン郡のギタリスト、ボーカリストであるOORUTAICHIの2002年に発売されたアルバム。ヴァイナルレコードで発表され現在では入手困難になっている曲を含めた6曲から構成されており、初期のトラックから最新の曲までを網羅したベスト・アルバム的な内容。
LIVE SCHEDULE
2011/4/9(sat)@ 渋谷 O-nest
HEADZ presents ANIMA『シャガール』release party
“CHAGALL & oomagatime!”
OPEN 17:30 / START 18:00 ADV¥2000(+1drink) / DOOR¥2500(+1drink)
Live : ANIMA with special guest : 益子樹(rovo)
THIS IS PANIC
小島ケイタニーラブ×南波一海
蓮沼執太チーム ※追加決定
DJ : 佐々木敦(WEATHERMAN)※追加決定
※延期になりました3月13日の公演の出演予定者から一部変更になっております。予めご了承下さい。
PROFILE
オギノ祥弌 : Ba.
小島ケイタニーラブ : Vo.
倉田ミロ : Dr.Cho.
石川ユウイチ : Gt.
2006年夏結成。渋谷など、都内でライヴ活動を始める。10月に1st デモCD『インベーダー ~たんぽぽ星からの侵略者~ / シーラカンス』を制作。
2007年になり、東京・ 下北沢のライヴ・ハウスを中心に活動するようになる。4月に2nd デモ『どうしようもない夕焼けのグルーヴ』制作。10月、下北沢CLUB QueにてオールナイトLIVE&DJ イベント"ラブ サイケデリック"を開催。3rd デモ『swimmin'GR / サマーライト』、4th デモ『チーズがとけるときのうた / アンダーグランドスーパーマン』を制作し、勢いのまま転がるようにライヴをしていく。
2008年6月に下北沢5つのライヴ・ハウスで行われたイベント"wild gun crazy"では、初めての入場規制状態を経験。9月、1st Album『ナイトサファリ』を自主制作。代々木Zher the ZOOでのレコ発イベントは150人を動員する。
音楽批評家・佐々木敦に送った『ナイトサファリ』収録の「シーラカンス」がきっかけとなりHEADZと出会い、2009年より音源制作を開始。ROVO益子樹氏をエンジニアに迎え、浮遊感漂う新たなANIMAサウンドを構築していった。
そして7月、HEADZ内レーベルWEATHERより1st mini Album『月も見えない五つの窓で』をリリース。渋谷O-NESTでのレコ発イベントは、作家・古川日出男氏、空間現代、シャムキャッツをゲストに呼び、大盛況のうちに終了。
快快・篠田千明が制作した「シーラカンス」のPVも大きな反響を得た。
その後のツアーなどを経て、「SKIP」「おしり物語」などのライブ感溢れる曲が人気曲へと成長していく。
2010年、年始のライヴ・ラッシュの後、少しの間ライブ活動を休む。スタジオではしばらく曲が生まれない日々が続いたが、ある日のセッションにて突然、新曲「バレーボール」が生まれる。3月、自主企画"金曜日のライオンハート"で始めて披露した「バレーボール」に益子氏が共鳴、バンドの持つ陶酔感を軸とした2nd Albumの構想に取り掛かる。
この年はほとんどをライブと楽曲制作に費やし、益子氏プロデュースのもと、ANIMAの新章に相応しい曲たちを選び抜いていった。そして12月、レコーディング着手。年が明けた2011年、2nd Album『シャガール』完成!