その2 ヘッドフォンでDSDを聴いてみる
聞いたDSD音源はこちら
原田郁子+高木正勝
TO NA RI(DSD+mp3 Ver.)より「TO NA RI - op.26」
清水靖晃+渋谷慶一郎の『FELT』、 大友良英+高田漣の『BOW』に続く、OTOTOYとサウンド&レコーディング・マガジンのDSD配信企画の第3弾。10月31日に東京・サウンドインスタジオにて行われた、クラムボンの原田郁子と映像作家でもある高木正勝の夢の共演の模様をDSDで配信。初共演となる2人が、レコーディング・スタジオでの一発録り、そして2台のグランド・ピアノを通してどのような化学反応を起こしたのか? 3時間にも及んだ共演の贅沢な一夜の模様をお届け。
——お疲れさまです。ヘッドフォンは、どうでしたか?
葛西 : ヘッドフォンになると、急に自分で欲しいものとか、仕事で使えるものって感じで聞いちゃいますね(笑)。仕事でもよく使う分、急に聞き方が変わる感じがあるなぁ。
Azumi : イヤフォンはやっぱり普段使いって感覚なんですよね。
葛西 : そうですね。普段の事も考えつつ、仕事の事も考えつつなんですよね。
——お二人は仕事でヘッドフォンを使う事が多いと思いますが、イヤフォンとは違い、ヘッドフォンでは、音の分離が良くて判断しやすいものを求めますか?
葛西 : 僕は録音でもミックスでもヘッドフォンはかなり使うので、仕事用と割り切ると結構極端な選び方をしています。このヘッドフォンは低音確認用、これは音像確認用、とか。今回のセレクションも、そういう意味ではどれもそれぞれの良さがあると思います。例えば、普段使いのヘッドフォンでおすすめだと「FOSTEX TH-7B」とか.. OTOTOYで使ってる「DENON AH-G300」も良かったですよ(笑)。気持ちよく聴けました。
Azumi : そうですよね! OTOTOYが使ってるヘッドフォン良かった(笑)。
——あれは... 1980円くらいだそうです...(笑)。
葛西、Azumi : (笑)。
——ちなみに今回のもう一つのDENON、「DENON AH-A100」は47,250円しますけど。
Azumi : あー、高い音してたもんねぇ...。
——お二人は、仕事でヘッドフォンを使う事が多いと思うんですけど、お二人のヘッドフォンを選ぶ基準やこだわりはどこにありますか?
Azumi : 私はバランスかな。ちゃんと低音も出て、高音がキツくなく、分離もしっかりしてるもの。でも普段の耳と仕事の耳は違いますし、聞く音楽だったり、使う用途が違えばおすすめするヘッドフォンも変わってくるかなぁ。
——難しい所ではありますよね。ヘッドフォンを外で着けて音楽を聞いてる方もいますしね。
Azumi : 女子はヘッドフォンを着けてると、顔が小さく見えるからいいんですって(笑)
葛西 : なるほどー。確かに着けてる人多いかも... ずるいなぁー(笑)。そういう意味では「FOSTEX TH-7B」がおすすめです。
Azumi : 私はこの「FOSTEX TH-7B」と「FISCHER AUDIO FA-004」は全くだめでした...。判断するのも、音楽を楽しむという意味でも。今回聞いた原田郁子+高木正勝さんの「TO NA RI - op.26」はピアノの曲だったんですが、ピアノのダイナミクスが全然なくて。
葛西 : ダイナミックさがよく出ているもので言ったら、僕は「SENHEISER HD25-1 」が一番良かったかな。音がインパクトがある聴こえ方がしました。躍動感がある聴こえ方がするというか、音の立ち上がりが早く、粒立ちがいいと思います。装着した時に少し圧迫感があって苦しいんですけど、ダイナミックレンジが広くて下のレンジの聴こえ方もタイトだし、上のレンジも音色の違いや定位といったところでも分かりやすい。楽しくも聴けるし仕事でも使える感じがすごく良かったかな。ちっちゃくて持ち運びもできるしね。二万円でこの音で、使い勝手も考えたら一番おすすめしやすいヘッドフォンですね。
——じゃあ、ヘッドフォンをして顔が小さく見える女子達には、「FOSTEX TH-7B」と「SENHEISER HD25-1 II」のどちらを着けて欲しいですか?
葛西 : うーん... 「FOSTEX TH-7B」でいいんじゃないかな(笑)。
Azumi : いや! 私は「SENHEISER HD25-1 II」を着けて欲しい!!(笑)良い音を感じて欲しいです。
葛西 : そうかぁ。僕は意外とFOSTEX嫌いじゃなんですよ。このプラモデルみたいなルックスが好きなんですよね(笑)。使ってるうちに愛着湧きそうな愛嬌のある感じがね。音でいうと、立体感はないけど、上下のバランスはすごくいい。ミックスもできるかなって思えるし、普段使いもできるかなって思う。意外とフラットな音が出てますね。まぁロー・エンドはいないですけどね。始めはこのルックスに「何だ?」って思ったんだけど、使ってるうちに愛着がわいてきて。
Azumi : そうかぁ。私はこのルックスがおもちゃみたいでだめかな。ルックスでいうなら「beyerdynamic T50p」です。音も結構良かった。
葛西 : なるほどー。僕は「beyerdynamic T50p」は見た目はいいんだけど、音が全然分からなくって... 点数付けれなかった。
Azumi : えっ!? うそ!? 私、嫌いじゃない...。
葛西 : 判断つかなかった。下がすごいもわっとしていて、ローの輪郭がわからなくて…。
Azumi : 完全にミックスしてますね... (笑)。
葛西 : でもハイ・エンドはすごくきれいだった。ルックスいいんだけど、ルックスも音ももう少しフラットな感じだったらいいかな。
——なるほど。ミックスするなら、比較的フラットなものを選ぶんですね?
葛西 : 「beyerdynamic T50p」は、結構ローにクセのある音をしていたので、ひょっとしたら今回聴いたようなピアノの音よりも打ち込みの音に合うのかもしれないですね。そういう曲でまた聴いてみたいです。
Azumi : ルックスはすごく好きなんですけど少しだけ軽さがありました。少々危なっかしい感じが。でもピアノの上の部分の伸びがすごくきれいに聴こえたんです。そこがポイント。
——ちなみに定番の「SONY MDR-CD900ST」はいかがでしたか?
Azumi : ど定番な音(笑)。バランスはいいし、平均値はかなり高いのですが、仕事で使ってるし別にいいやって感じですね。
葛西 : きれいだしバランスいいし分かりやすい。ただハイ・エンドとロー・エンドがいないんですよね。例えばハイについてだと、声の実音部分はよく聞こえるんですけど、倍音成分であったりブレスの感じとか息の感じはあまり聞こえない。音像として歌は前に出てくるから、ピッチとかは判断しやすいんだけど、音や音色全体として存在感を見ようとするとわかりにくいかなと思うんです。
——だとするとDSDを聞く時には、この定番といわれてる「SONY MDR-CD900ST」はそぐわないって事になりますね。
葛西 : 好みにもよりますが、僕はDSDを聞くなら違うヘッドフォンでもいいかなって思いますね。
——葛西さんが普段使われてるヘッドフォンはなんですか?
葛西 : 僕がヘッドフォンに一番求めるものはフル・レンジなものがマストなんです。何個か使い分けてるんですけど、メインはULTRASONE Proline750とSennheiser HD580、それにさっき話していたイヤモニのMonster tourを使ってます。ロー・エンドはHD580がわかりやすくて、全体の音像確認用としてはULTRASONEがわかりやすいですね。Monsterは全体のバランスが非常に良くて、ローの輪郭も捉えやすくて好きです。
——Azumiさんは、普段はどういったヘッドフォンを使ってますか?
Azumi : 私は録音の時は定番のSONYを使ってますね。慣れてしまって、判断基準がその音になってしまった。DJ用はまだ使い慣れてないんですけどaudio technicaを使おうかと思ってますね。DJの時だから、音質が固めでやりやすいんですよ。密閉度もあって、分離もしっかりしてる。
葛西 : DJの時は硬めの方がやりやすいよね。それとは別だけども、友達のディープ・ミニマルのDJにULTRASONEを薦めたらすごく気に入ってた。ディープ・ミニマルみたいな音像全体の印象を捉えたいDJにはULTRASONEは合うんだなぁって。
AZUMI :そうですね。DJで使ってみたいかも。 この「ULTRASONE HFI-780」は、バランスもいいし堅さとかレンジ、分離もしっかりしててすごくいいんですけど... この曲に対してはあんまり好きではなかったんですよね。なんかよく分からないんだけど、ピアノには適していない気がする。私はやっぱり「SENHEISER HD25-1 II」が好き。
葛西 : 「SENHEISER HD25-1 II」 はよくできてるなぁって思う。誰にもおすすめできるし、ジャンルも問わない感じ。
Azumi : ローがすごく気持ちよく聴こえたんですよね。ピアノを聞くなら、やっぱりローが聴こえないと気持ちよくないんだなって思った。
葛西 : そうですね。特にローに対して輪郭がどれだけわかりやすいか、質感や量感の捉えやすさという点が、メーカーによってほんとうに様々だなと思います。もちろん価格帯にもよると思うんだけど。
——一般の人に、おすすめできるものはどれですか?
葛西 : やっぱり「SENHEISER HD25-1 」はおすすめしやすいですね。もしくは、「ULTRASONE HFI-780」辺りかな。まぁ一番気軽に日常でも仕事でも使えるものとして考えたら「SENHEISER HD25-1 」なのかな。ULTRASONEについては、個人的に好きというのもあるんですけどね。DENONは、高いのも安いのも良かったですね。たのしく聴けました。後... 「FOSTEX TH-7B」は女の子に着けてて欲しい!(笑)
——Azumiさんは?
Azumi : 私は価格的な所も、音の感じも含めて「SENHEISER HD25-1 II」が一番おすすめかな。「beyerdynamic T50p」は、ルックスと値段含めて若い子におすすめ。「ULTRASONE HFI-780」も音はいいけど、音楽を選びそう。DENONは確かに良かった。あっ! これロゴも好き!(笑)
ヘッドフォンを用意していただいたフジヤエービック石曽根Pより、アドヴァイス!
ステレオ・コンポで聞くヘッドフォンと、外に持ち歩いて聞くポータブル・タイプのヘッドフォンは全然違うんです。「beyerdynamic T50p」なんかは完全にポータブル。プラグの所を見てもらうと分かるんですけど、外に持ち歩くのに便利なジャックと、もっと大きくてMR-2000とかのホーン・ジャックに差し込めるタイプの大まかに二つあって、先を見ていただければ、ポータブル向きなのか、そうじゃないかが分かるようになってますね。
音傾向も違うのでポータブル向きのヘッドフォンは当然iPodとかのポータブル・プレイヤー向きの音になります。そうではないタイプだと、逆に器が足りない場合があるかなって思いますね。ULTRASONEは特殊な技術を使ってまして、ヘッドフォンですと、頭の中に音像が残るんですけど、その定位が前に出るようになっているんです。ロックとか好きな方は、ULTRASONEの音の出かたは好きなんじゃないかなって思いますね。逆にピアノとかの曲には合わないって言われてます。SENNHEISERは、スタジオの人やDJで使う人が増えてきていますね。
各商品の詳細はこちら
1) FOSTEX TH-7B
2) FISCHER AUDIO FA-004
3) SONY MDR-CD900ST
4) beyerdynamic T50p
5) TDK TH-ST800
6) SENNHEISER HD25-1II
7) ULTRASONE HFI-780
8) SONY MDR-Z1000
その3 スピーカーでDSDを聴いてみる
上段 : メーカー製作のスピーカー / 下段 : ハンス・シュミット氏による手作りスピーカー
聞いたDSD音源は、ヘッドフォンに引き続き原田郁子+高木正勝『TO NA RI(DSD+mp3 Ver.)』より「TO NA RI - op.26」です。
——今回は、市販のものと手作りのもので違いはありましたか?
葛西 : そもそも狙いが全く違いますよね。どう使うかという事。ホーム・リスニング用とスタジオっぽい感じの違いですね。手作りのスピーカー(Bas Reflex Speaker、Back loaded Horn Speaker、2 Way Separate Speaker)は家で聞いたり静かにご飯が食べれるようなお店に向いている気がしますね。単純に比較はできないものですよね。「QUAD 11L2」のスピーカーは良かったですね。すごいなぁって思った。
Azumi : 私もそれ好きかな。
——それは自宅用? それともスタジオ用として?
葛西 : スタジオよりは、家などで使った方が気持ちいいんでしょうね。
——スピーカーも、お二人にとっては仕事としてと、リスナーとしての選び方があると思います。例えば今からスピーカーを選ぼう、探そうとしてるリスナーの方に薦めるのであれば、どれをおすすめしますか?
葛西 : 家の6畳とか10畳位だったら、一番小さな「FOSTEX GX100」でもいいんじゃないかな。
Azumi : うん。お家の大きさとか、出せる音量の環境によると思う。マンションの壁が薄かったり、近所の家が近くにあってあまり大きい音が出せなくても、小さい音でちゃんと聞こえるから。
葛西 : そういう意味では、「FOSTEX GX100」は日本の住宅に合っていると思う(笑)。モニタースピーカーは物によってちょうどいいバランスで聴ける音量というのがあるので、スピーカーによっては小さい音だとそのスペックをフルに出せないんですよね。だから、家で楽しむのであれば、小さくても、しっかり音が聞こえるものがいいと思いますね。
——一般の方が家でいい音質で聞くために選ぶ基準はなんでしょう?
Azumi : 例えば私は女性なので、20代の女性がお家に帰った時にリラックスする為に聞く用のスピーカーだったら... って考えると「FOSTEX GX100」か「QUAD 11L2」かな。小さくてもはっきりちゃんと聞こえるスピーカーって感じ。重厚感もあるしね。PCでばっかり音楽聞いてる人に、こういうスピーカーでちゃんと音楽を聞いて欲しい。
葛西 : 僕は家で音楽を聞く時はあまり音量は出さないんです。さっき話したようにリラックスして聞いたりBGMをかけたりする感じだと、やっぱり「FOSTEX GX100」位の大きさがちょうどいいなって思いますね。「Bas Reflex Speaker」もいいんですけど、家だとデカイなぁって。お店とかイベント・スペースであれば使いやすいし面白いと思いますけど、これだけ大きいのを家で聞くとなると、リスニング・ルーム組まないと無理ですね。音はいいんですけど、手軽ではないかもなぁ。「Bas Reflex Speaker」と「Back loaded Horn Speaker」は両方結構好きで、聞こえ方がすごく独特で楽器みたいな感じ。一般的なモニタースピーカのように直線的に音がくるんじゃなくて、モワッと音がそこにいるみたいな感じがいいなって思いましたね。今回の原田郁子+高木正勝の「TO NA RI - op.26」にも合うなって思いました。ただ打ち込みとかには向かないかもしれないです...(笑)。そういう意味で、「FOSTEX GX100」はジャンルを選ばないでいいかなって。意外と今の人はスピーカーを持ってない人が多くて、スピーカーのセットを一つ持ってるだけで、音楽の楽しみ方も、色々広がって楽しいと思います。
Azumi : そうなんですよね。スピーカーを持って欲しいですよね。是非スピーカーで音楽を体験して欲しいです。
葛西 : うん。そういう体験できるスペースやワーク・ショップとかがあればいいなって思う。
あとがき
今回、様々なイヤフォン、ヘッドフォン、スピーカーを聞いて、予想以上の音の違いに驚きました。いやはや、音源のファイルの種類も重要ですが、『何で音楽を聞くか!』も良い音で音楽を聞くためのとても大事な要素なんですね。これは面白いってことで、次回は、スピーカーに焦点を当てて、スペシャル企画『DSDを、様々なスピーカーで聞いてみよう』を開催します。ご期待ください。ちなみにこの収録後すぐにフジヤエービックにて「PHILIPS SHE9800」を購入してしまいました。(飯田仁一郎)
OTOTOYで販売中のDSD音源