鈴木慶一(moonriders)、曽我部恵一、渋谷慶一郎で行った『新春ケイイチ対談'2010』は大好評の特集記事となり、OTOTOYもおかげさまで右肩上がりに売り上げを伸ばす事が出来ました。こりゃ福も来るってことで、2011年もやっちゃいますよ。
新春ケイイチ対談'2011
司会は高橋健太郎。GUESTは、鈴木慶一(moonriders)、渋谷慶一郎、蔡忠浩(bonobos)、永井聖一です。えっ? 「ケイイチ対談じゃないじゃん! 」って言う声はひとまず置いといて、2010年のおさらいから、2011年の行く末まで、収録時間100分越えで喋り倒しました。是非とも、じっくり読んでくださいまし! 2011年、福来れ!
2010年を振り返って
——「2010年は、みなさんにとってどんな年でしたか? 」というところから始めたいと思いますが、なんだか2010年って長くなかったですか? ワールドカップってまだ半年前なんですよね。
渋谷慶一郎(以下 渋谷) : サッカーは好きですか? 僕、嫌いなんだけど(笑) 。
蔡忠浩(以下 蔡) : 好きです。ワールドカップは、すごく胸が熱くなった。
永井聖一(以下 永井) : 面白かったですよね。でも渋谷さん、近所のサッカー・バーがうるさいって文句言っていましたよね(笑)。
——(笑)。ワールドカップも2010年だし、USTREAMが流行ったのも2010年ですよ。
渋谷 : すごい覚えているんですけど、2009年の12月24日に1人でコンサートのリハーサルでスタジオに入って、それをUSTREAMをしたんです。その時はただリハを流していたんですけど、その裏で誰かDJの子がUSTREAMをしてて。
——そうそう。クリスマスに急に盛り上がったんだよね。
鈴木慶一(以下 鈴木) : USTREAMが入っていると、リハが早く進むって言っていたよね。
渋谷 : 絶対に間違えないようにするから、最終リハにはいいんですよ(笑)。慶一さんは、USTREAMしていますか?
鈴木 : 最近では、「ほぼ日」での10時間かな。前半は映像ばっかり流していたんだけど、俺は6時間ぐらいいて。後半はLIVEをやったりしてね。USTREAMだと、普通の部屋でも演奏する場所になってしまうわけで、やって感じたのは、もうどこでもTV局だなと。
渋谷 : ですね。去年、あるイベントに出演して、それもUSTREAMでした。東京タワーの展望台にグランド・ピアノを持ち込んで演奏するっていうイベントだったんですけど、その時はUSTREAMをするのにもムービングを使って六本木の夜景と僕のピアノの演奏とミックスしたりしてた。それを弾きながら見ていたら「USTREAMがここまで普及したし、去年とは状況が違うなあ」とか感慨深いものがありました(笑)。
鈴木 : 3月は渋谷のPLEASURE PLEASUREでのLIVEをUSREAMで丸々放送して、それを後でCDにして出したんだけど、こういうのが突然始まったもんね。
渋谷 : パブリックなUSTREAMも個人のものも、それほど映像に差がないじゃないですか。それが面白いんですよね。内容というか濃度が問われてて。
——USTREAMに限らず"どこでもステージになってしまう"というのは、2010年になって世界中で起こっていたんですよね。NPR MUSICというウェブ音楽雑誌の編集部で、みんながデスクで仕事をしている場所にLOS LOBOSが来てライブをやってしまうとか、そういうのを毎週やっていたり。
鈴木 : クオリティが最低だったのは、ロジャー・マッギンのカラオケだね。ベロンベロンに酔っぱらってパーティーで歌っているところを撮られちゃって(笑)。
永井 : あ、俺もそれ見た! とても面白いですよ。YouTubeにアップされています。
——YouTubeで海外のミュージシャンがカラオケをするっていうのが流行っているのかな? Cat Powerとかもやってたし。
渋谷 : バカだなあ(笑)。テクノロジーによって、人々が馬鹿をさらしても平気になっていくっていうのは面白いですね。皆、飲み会とかをUSTREAMしていますもんね。
鈴木 : 2010年の最初のほうだったかな。焼肉屋で焼肉を食べている時に間違えてUSTREAMのボタンを押しちゃって(笑)。肉のアップとか映っちゃったり、俺の声が出ちゃったりで「やばい! 」って(笑)。数人ぐらいは見ていたと思う。
渋谷 : それで言うと、1ヶ月ぐらい前にハードディスクのファイルを整理していたんですよ。2MIXの素材を結構整理しなくちゃいけなくて、これを1人でやるのはしんどいなと思ったんですよね。実際に聞かなきゃならないし。でも、そのファイルを次々と再生して行くと、最近の自分の作った作品の発表になる。だからiPhoneで音だけ生かして、それをUSTREAMして整理してみたんですよね。自分の部屋映すのは嫌だからカメラは伏せて、自分が作った5秒ぐらいのノイズみたいなものまでバンバン流して。そうすると、スピーカーから再生しているだけなのに自宅LIVEみたいになちゃって、夜中の2時ぐらいなんだけど、200人ぐらい聞いてました(笑)。ピアノのソロのあとに10秒ぐらいのノイズが流れて、またピアノとかいうのも、全然アリだなあと思って、今度ソロで、ステージにピアノとラップトップの両方を置いて、こういう自分のリビングを公開するようなコンサートをやるのもアリだなと思ったな。
——USTREAM以外に急展開したものとかありますか?
永井 : なんだろう。でも2010年は、本当に長かったと思いますね。ワールドカップなんて一昨年かと思っていたし。冬季オリンピックも2010年ですしね。
渋谷 : あとはDSDですよね。慶一さんは、DSDを使っていますか?
鈴木 : マスターで何度か使ったことはあるんだけどね。2MIXをアップ・コンバートして、DSDマスターを作ったんだけど、ただ曲によるんだよね。その当時使っていたのはTASCAMで今は飾り物になっている(笑)。曲によるとはどういうことかっていうと、作った人の作品やアレンジメントによってケース・バイ・ケースというか。例えばチェンバーのサウンドだと良いんだけど、ロック的なサウンドだと、どうかなぁと思ってしまって。コンプレッサーを入れて、リミッターがかかったような、全体が詰まっているサウンドだとあんまり向かなかったような気がする。
渋谷 : DSDでも、録音後に処理をしたほうがいい感じはしますね。美人が化粧するともっと可愛くなるのと同じで(笑)、人によっては美人は化粧しないほうがいいというスッピン原理主義みたいな意見もあるけど、美人でも化粧したほうがより良いというのがDSDに関する2010年の僕の結論です(笑)。具体的にはアナログで少しコンプレッションしたりリミッターかけたほうが音に艶がでますね。
鈴木 : 以前は、コンプレッションしてしまったものから、最終のDSDマスターにしてしまったので、考え方を変えないといけないな。今日、また一つ勉強になりました(笑)。
——慶一さんは、リリースが多かったですよね?
渋谷 : ツイッターとか見てると、慶一さんは常にレコーディングしてる印象でしたね。
——めちゃめちゃ夜型ですよね。
鈴木 : 昨日は昼の12:00にご飯食べて酒飲んで寝たとかね(笑)。
渋谷 : それ、やくしまるえつこさんと一緒ですよ。「いつ寝るの? 」って聞いたけど、「『いいとも』が始まる頃」とか言ってた(笑)。
鈴木 : (笑) 。ホント!? 彼女すごいな。でも結局徐々にずれて、ぐるぐる回っているだけだからね。でもほとんど夜中かもな。昔から。渋谷君もつぶやくとだいたいいるよね(笑)。
渋谷 : 僕も3時から4時ぐらいがゴールデン・タイムなんで、その時間帯にツイッター上で活動している人を見ると救われた気分になります(笑)。
鈴木 : 「俺だけじゃないんだ」ってね(笑)。スタジオで寝てしまって、ハッと目が覚めると2時ぐらいで、そこからスタートするからどんどん後ろにずれ込んじゃうんだよね。何も思い浮かばない時は寝ちゃうし。
渋谷 : 自宅と専用スタジオがあるんですか?
鈴木 : 自宅と会社兼スタジオ。自宅だけの時期もあったけど、すっきりしないんだよ。どこかでちょっと境目をつけたほうがいいんだよね。2010年はずっと曲を作っていたっていう感じがあるね。映画、自分の作品、アニメにとやけにいっぱい曲を作ったぞと。調子に乗っちゃいけないとは思うんだけど、「あれ? 俺、絶好調? こんなに絶好調って、ロウソクの最後の瞬間? 」みたいに思うぐらい(笑)。でも「全然、詰まるときなんてないんだな」とタカをくくっていた時に、結局ドシーンと一回詰まって、手も足も出ない感じになっちゃった。
渋谷 : いつ頃ですか?
鈴木 : 割と最近。ソロの最後の方。あと1曲入れなきゃなっていう時に、全く何も出来なくなっちゃった。曲は早く出来る方なんだけどね...
渋谷 : 一日あれば出来るっていう時もありますしね。
鈴木 : 弾いた瞬間に次のコードがでてきたりしたり、あれはなんなんだろうな。やる気だよね、やる気。
渋谷 : 一番いいのは、オファーが来た瞬間に曲が見える場合。例えば「清水靖晃さんとライブお願いします」ってオファーがくると、靖晃さんならこういう音楽でいこうっていうイメージが出てきて、あとはそれを譜面に書けばいいだけっていう時。これは実際にそうだったんですけど。
——皆さん、2010年はわりと好調だったと?
鈴木 : 作ればいいっていうもんじゃないけれど、作る過程においてのスピードと「これはいいな」っていう自分のジャッジを考えてみると、好調だったかな。
渋谷 : 何事も量は質を生むけど、質は量を生まないですからね。ライヴもそうじゃないですか。やればやるほど上手くなる感じがある。スタジオでいくら演奏しても上手くならないけど。
永井 : 僕は、忙しい年でしたね。特に後半が。
鈴木 : 忙しすぎて悩みがあるって言っていたのは、なんだったっけ?
永井 : 「ソフトが追いつかない」って慶一さんに相談したんですよ。CM仕事をしていると「こういう音が欲しい」とか「ああいう音が欲しい」とか色々言われるんですよね。結局、「慶一さん! 一番スタンダードで、とりあえずこれ持っておけば大丈夫みたい音源ソフトがあれば教えて下さい」って聞いたんですよ。
鈴木 : それで結局、「渋谷くんに聞け」って言ったんだっけな(笑)。
よく聞いた音楽
——じゃあ、2010年よく聞いた音楽って何でしたか?
渋谷 : カニエ・ウエストの新曲はクオリティが高かったですねJay Zとやってるやつ。あと2010年じゃないかもしれないけど、シャルロット・ゲンズブールのアルバムは今までのクオリティっていう概念では計れないもので、凄く良いデモ・テープを聞いてるみたいで新鮮でしたね。逆にブライアン・イーノの新譜は、グッと来なかった。
——回顧的な、ある種原点復帰みたいなアルバムでしたね。
鈴木 : 1曲目とか、ほんとに原点回帰の曲だったね。
渋谷 : で、後半になると打ち込み部隊キタッ! みたいな(笑)。
蔡 : これが最後の作品ではないなと思いましたね。一つの流れの中の作品のような気がしています。
渋谷 : あとビートルズがリマスタリングされたじゃないですか? もちろん素晴らしいんですけど、やっぱりビートルズは素晴らしいみたいな風潮はもういいよと思ってしまった。
——そういえば、デヴィッド・リンチは幾つなんでしょうかね?
鈴木 : 60代半ばかな? 新しいの聞いた? デンジャー・マウスとのもたまげたけど、どちらも謎の音楽だね。「ついに歌った! 」ってびっくりしたのと、古くさいなあって(笑)。
渋谷 : ああ、それはちゃんと聴いてないですね。というか最近は"出たら絶対に追う"みたいなアーティストがいなくなったな。僕自身が聴いているというのもそうだけど、これからはいわゆるポップスの大ヒット以外は、小編成がくると思いますね。アコースティック弾き語りとか、ギター・ソロ、ピアノ・ソロとか、ピアノと歌だけとか。これは聴取環境がコンピュータとかの小さいスピーカーになったから。あとダブステップ以降、新しいジャンルが出てこないし、ダンス・ミュージックが飽和しているのがピンチだなあって思っています。つまり家で聴けるものがない。ケミカル・ブラザーズの新譜なんてフロアではよく鳴るように設計されてると思うけど、家で聴いてたら笑っちゃう。なんでこんなに盛り上がってるんだよ的な(笑)。
蔡 : (笑)。アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズの新譜は良かったですよね。
鈴木 : 「ゲゲゲの女房」の映画音楽をやらせてもらったときに、映画のサウンド・デザイナーに菊池信之さんって人がいて、その人が以前関わった「 私は猫ストーカー」っていう映画の時に、音だけのCDを出したんだけど、それがめちゃくちゃ良くて。街の音だけで、ネコが時々鳴いたりするんだけど、それが2010年聞いた中で一番ぶったまげたね。
渋谷 : リアルに録れているってことですか?
鈴木 : うん。その人はサウンド・デザインだから、現場で録った現実音を1ー2ヶ月掛けて再構築するんだよ。それを映画に当てはめていくと、音楽がいらなくなっちゃうんですよね。
渋谷 : それが先にあるんですか?
鈴木 : うん。それがあって、後から音楽をつけようとするんだけど、入る隙がなかなか無い。それでも入れようとすると、気をつけないと相殺しちゃうんだよね。俺の作る音楽も画面の外を喚起させるようなもあーんとした音楽だから。ハイパー現実音を聞くと、うーんいいなって思う。音楽とは対極だった!
——それは現実音を、プロ・ツールスか何かで作るんでしょうか?
鈴木 : うん、現場で録った音と、自分のライブラリの音を合わせたり。2010年は、年上の人と何かをすることが多かったんだよね。三木鶏郎さんのトリビュートとか。俺のソロにはボニー・ジャックスさんとスリー・グレイセスさんが入ってるけど、皆さん70代だもんね。あとたまたま観に行ったノルウェーのインプロの女性、シッツェル・アンドレセンって人。2つ同時に声がでるんだけど。観にいったその場で「明日レコーディングなんだけど、来てくれませんか? 」とは言えず、翌日マーク・ラパポートさんを介して連絡したらスタジオに来てくれた。サックスのホーコン・コルンスタさんもね。ライブを観に行って「あぁいいな! 」って思った人に、すぐ翌日お願いしたのは初めてだね。
——僕個人は2010年はブラジルとアルゼンチンと、イギリスのポスト・ダブ・ステップが大きかったかな。
渋谷 : 去年の春のことですけど、フライング・ロータスの新しいアルバムは良かったですね。
蔡 : 2010年は、ブログとかよりも人のツイッターを見て買うことが多かったですね。
渋谷 : ツイッターって購買促進の効果があるんですよ。これは去年のこの対談でも言いましたけど、配信の話になったじゃないですか? でも結局配信で儲かっているミュージシャンってそんなにいないですよね。別に儲からなくてもいいんだけど、このままだとミュージシャンが配信は「ナシ」っていう結論を出す人もいると思うんですよ。というかリリースしても実際にお金が入ってこないから、現に今でもいます。で、それは結構まずいと思うんです、配信しかないわけだから。論理的に考えて。だから2011年は、配信と課金、報酬に関してなんらかの答えを出す時期になるでしょう。で、配信の何が問題なのかって考えるとそのサービス自体が見えるっていうことだと思うんです。OTOTOYにしてもiTunesにしても存在が見えるメディア、道具ですよね。CDみたいに見えるモノに実際のお金を払うのは普通のことだけど、配信されてるデータみたいな見えないモノを買うのに、見えるサービスを使うっていうことに、僕は限界を感じるんです。つまりiTuneだったらブラウザ立ち上げたりしなくちゃいけない。で、最近、知り合いがLivlis(リブリス)っていう、ツイッター経由でモノの交換とか売り買い出来るソージャルネットワークのサービスを作ったんですね。それの音楽版が出来ないか? なんていうことを最近話してます。例えば、奥さんに楽曲を送る。それがポイントになって、課金されて換金もできるみたいな。で、それがツイッター上で行われるというような。それはiTunesを開くとか、どっかに登録しなきゃっていう手間を省いてくれるんですよね、もちろんTwitterやってるのが前提になってるけど(笑)。ただ、音楽配信を考えるときにサービス自体の形が見えないっていうのは、重要なんじゃないかと思います。SUICAとかみたいに電子マネーをチャージしておいてそこから気づいたら減っていたみたいなほうがいいでしょう。つまり低額でもいいからお金を払うというわずらわしさを無くして行ったほうがいいんじゃないか、というのが僕の意見。音楽配信の状況は、去年と変わっていますか?
——少しずつ良くはなっている。1番大きな動きだったのが、Amazon MP3が始まったことかな。思いのほか注目されていないけど。
渋谷 : すごくサービスもインターフェースも良いんですけどね。
——僕がアルゼンチンとか南米の音楽をどうやって聞いているのかっていうと、海外の配信サイトが主戦場で、そこはブラジルのディストリビューターが直に新譜を出しているので、がんがん新譜を試聴することが出来るんですね。ただしそれをCDでほしいと思っても、まず日本では売ってない。DISK UNIONにたまにある位。あるいは、Amazon MP3とかiTunesにはあったりはするけれども、でも、誰もそれを取り上げない。配信でしか売ってないものは、音楽雑誌では取り上げないし、ネットのブログを書いている人もCDが出ていないから、作品として取り扱ってくれないんですよね。でも、OTOTOYの話をすると、OTOTOYは会員数が倍になって、売り上げは数倍以上になった。それはDSDや24bit/48khzのCDより高音質の音源や、CDになっていないライヴ音源の売れ行きが起爆剤になっていますね。
渋谷 : 24bit/48khzのWAVより、DSD+mp3のセットの方が売れてるらしいですね。
——そうですね。僕個人としては24/48はすでにスタンダードだなと思っていて、ただ、DSDを始めたことによって、96khzとかは意味あるんだろうか? と思うようになった。24/96とDSDから320kbpsで落としたMP3だと、どっちがいいか分からないですよね。
渋谷 : 元がDSDでMP3の方が全然いいですよ(笑)。96khzは、僕はあんまり好きじゃないんです。配信オンリーの音源とかありますか?
鈴木 : 去年の前半やりましたね。それをパッケージにして、ライヴ会場で1000枚限定で売ったりしました。24bit/48khzのアルバムは、OTOTOYで配信させてもらいましたし。
渋谷 : 僕もやってみて、ライヴ音源なんて一生出さないと思っていましたけど、DSDで録るならアリになりましたね。
——リスナーのライヴ版を聞く感覚が変わった気がしますね。1年という時間が長くて以前のことのように思うっていうのは、人のモノに対する思いが短くなっているのが関係している気がします。ツイッターのレスポンスが盛り上がる旬な時間帯は15分なんだそうです。それで、その瞬間だけAmazonで売れたりするんですって(笑)。4時間経つと、ほぼレスポンスが無くなる。そのサイクルに慣れてきた人達がいる。
渋谷 : 盛り上がるだけいいですけど(笑)。
全曲試聴について
——あと、海外を見ていると、全曲を試聴させる傾向が強まった。AOLがやっているSPINNERっていうウェブ雑誌上で、ノラ・ジョーンズ、エリック・クラプトン、ニール・ヤングとか、ビッグ・アーティストの新譜もどんどん聞かせていた。そのへん、発売日前から評論家以外にも聞かせるって、アーティスト的にはどうなんでしょう?
渋谷 : 良いと思いますよ。聞かないで買うっていうのは、本来ファン投票なんですよ。ウェブ世代というか25歳より下の子たちは、YouTubeにもアップされていないものなんて怖くて買えないって言うのが普通で、それが正常な感覚だという気もします。ウェブで聞いて、見て、良かったら買う。聞けないからしょうがなく買うっていうのは、もう厳しいかなって思いますね。
蔡 : 買わないですよね。YouTubeへのアップ待ちだったりしますもんね。
渋谷 : それで済めばいいけど、もっとまずいファイル送信で交換してしまう可能性もあるでしょ? だったら、公開した方がいいと思う。
蔡 : 事前に全曲配信っていうのはケース・バイ・ケースだと思いますけどね。Sound cloudって使っていますか? 僕のソロの時に使ったんですけど、そのままMP3にコンバートしてくれるんです。後は、自分の好きな箇所にコメントを入れることが出来たりするんですよ。更にそこにshareボタンがあったり、iTunesのリンクをはったりすることも出来るんです。
——それはストリーミング?
蔡:はい。中で誰もがダウンロードできるようにも設定できるんですよね。上手くやれば、投げ銭みたいな事もできる。口座だけ載せといてみたいな。
鈴木 : 俺は、ソロ・アルバムを作り終わったばかりだけど、そのアルバムは、パッケージを見ないと意味がくっきりと理解できないようにしているのね。例えばこの曲に何故高橋幸宏が参加しているのかとか、日本語タイトルと英語タイトルの両方を見てはじめて意図が伝わる様にしたりしている。タイトル、曲、歌詞、バッキング・トラックがあって、説明しきれないようなサウンドだったり歌詞だったりするんだよ。本で言う脚注があちこちに散りばめられているので、文字を見て音を聞かないと分からない。パッケージだからっていう発想なんだよね。写真含めて、パッケージあってこその意味の受け取られ方を構築したいなって思ったんだよね。三部作、結局全部そうだけど。
渋谷 : ATAKでもそういうリリースが今年の最初にあって。NYに住んでいる刀根康尚さんっていう75歳の電子音楽のアーティストがいて、フルクサスの創立メンバーだったりするんですが、その人の作品をリリースするんですね。それは、万葉集4500首全てをノイズにソフトで変換して全部聴くと2000時間かかるっていう作品で(笑)。CD-ROMでテクストをクリックすると曲が聞けるっていうもので平均すると5分くらいのノイズというか曲が4000くらい入ってる。ホント大変(笑)。それはCD-ROMなので、そこから僕が12曲位抜粋して、完全にフル・マスタリングした音楽CDと、40ページ超えるの本人の解説もついてる。それを世界500部限定で一箱一万円でリリースするんです、3月頃に。で、いまATAKのweb shopで予約受け付けてるんだけどほぼ予約で完売しそう。ただ、一万円っていう値段が音楽につくのはいいことだと思っていて、せっかく配信の値段のつけ方って自由なのに、みんな似た様な値段になっているでしょ。言ってしまえば1曲一万円でもいいわけですよね。値段の自由度を持たせるっていう意味でも、一つのパッケージ一万円で売り切るようなものを作れば、少し活性化するし自由度が上がるかなって思ったんです。