2010/08/12 00:00

音楽配信の新しい1ページが始まる(text by 高橋健太郎)

撮影 : 新津保建秀

OTOTOYが高音質音楽配信をスタートさせたのが2009年の8月。ようやく一年が過ぎただけなのに、今や、24bit/48kHzや24bit/96kHzでの音楽配信は当たり前のものになってきました。もともと、レコーディング・スタジオではずっと以前から、24bit/48kHzなどの高いレートでのオーディオを扱っていたのに、CDにする時にわざわざ16bit/44.1kHzという低いレートの、窮屈な世界に音を押し込めていたのです。そういう意味では、OTOTOYがHQDと呼んでいる24bit/48kHzや24bit/96kHzのWAVファイルでの音楽配信は、特別に高音質なものではありません、レコーディング・スタジオでミュージシャン達が普通に聞いている良い音をそのまま届ける。ただ、それだけのことと言ってもいいのです。

ところで、みなさんはSACD(Super Audio CD)というディスクがあることもご存知かもしれません。1999年にソニーとフィリップスが開発したこのSACDは、DSD(Direct Stream Digital)と呼ばれる録音方式を用いた高音質のオーディオ・ディスクでした。DSDは通常のCDのPCM方式とはまったく違う1bitのレコーディング形式で、サンプリング周波数は2.8224MHz(CDの44.1kHzの64倍)にも及びます。

残念ながら、発売から10年以上を経ても、SACDはそれほど普及したとは言い難く、限られたカタログしかSACDとして発売されていないのが現状です。が、その音質はアナログ・レコードのような滑らかさと、デジタルならではの透明度を合わせ持った素晴らしいものです。SACDで発売されるカタログが少ないのは、一つにはその生産コストが高いことがあるようですが、音楽配信ならば、DSD形式のマスター音源をそのまま届けることも可能なのは、お分かりでしょう。今日からOTOTOYでそれが始まります。

撮影 : 新津保建秀

清水靖晃+渋谷慶一郎のアルバム「FELT」がその第一弾です。商用音楽配信サイトで、新作音源をDSD配信でリリースするのは、世界初の試みになります。これはサウンド&レコーディング・レーベルの第一弾にもなります。2010年3月8日、東京芸術劇場中ホールで行なわれた二人のコンサートを収録したものです。この日が初顔合わせだった二人のデュオでの演奏が6曲。それぞれのソロ・パフォーマンスが1曲づつ。アコースティック・ピアノとサックスのみのアコースティックな演奏ですが、Evalaによるサウンド・プロセッシングが加えられています。

清水靖晃、渋谷慶一郎それぞれの培ってきた音楽性をベースにしつつも、型にはまらない音の会話が花咲いていく。そんなコンサートの記憶がそのまま蘇る、会場の空気の震えを全て再現するようなライヴ・レコーディング音源です。

OTOTOYではこの「FELT」を二つのダウンロード・パッケージで配信します。一つは24bit/48kHzのHQD。それがCDを越える高音質なのは、多くの方がすでにご存知でしょう。もう一つのパッケージにはSACD同等の2.8224MHzのDSDファイルが(正確にはDSF形式のDSDファイル)。といっても、そのファイルをダウンロードして、PCオーディオなどで聞く方法は、ほとんどの人がまだ知らないでしょう。なにしろ、これが世界初の試みなのですから。が、そのためのハードが揃っていなくても、すぐに曲を聞くことが出来るように、256kbpsのmp3もこちらのパッケージには同梱されます。そして、今日から音楽配信の新しい1ページが始まるのです。(text by 高橋健太郎)

清水靖晃+渋谷慶一郎『FELT』 1.Kiwa / 2.フーガの技法 コントラプンクトゥス 第1番 / 3.パルティータ 第4番 アルマンド / 4.無伴奏チェロ組曲 第2番 サラバンド / 5.Dolomiti Spring / 6.Samayoe Renga / 7.Ida / 8.Stardust

販売形態
1.『FELT』DSD+mp3 Ver.(※1.16GB)
DSDの聞き方は、本ページ『How to enjoy DSD?』を参考にしてください。
2.『FELT』HQD(24bit/48kHzのWAV) Ver.(※654MB)

※ダウンロードしたファイルに不備や不明点がありましたら、info(at)ototoy.jpまでお問い合わせください。

ミュージシャンが語るDSDの魅力

「ピアノのフェルトの音が良い感じで聴こえてくるところが好き。その柔らかい音がとても色っぽいんです。色っぽい音の象徴とも言えますね。何の楽器でもこの色っぽさを出せると思っていて、奏法や録音方法を探ってきたわけですが、DSDだとかつてアナログ録音で表現しやすかったその色っぽさプラス、空間の奥行きが出てくる感じがします。」(清水靖晃)

「柔らかいけどニュアンスがあって、音の核が伝わりやすい感じがする。レコーディングで使っていると、それこそ記憶が逆戻りするくらい再現性が高いんです。あとピアノを録るとアタックが本当に違う。PCMだとハイが強くて“キン”という音になるけど、一番高いところの音域ではない、ミッドの部分がちゃんと立ち上がってきますよね。」(渋谷慶一郎)

清水靖晃+渋谷慶一郎のインタビューはサウンド&レコーディング・マガジンのサイトに全文が掲載されています。
>>インタビューはこちらから

清水靖晃(しみずやすあき)
作曲家/サキソフォン奏者。1980年代始めに「マライア」の活動で広く知られた彼は、自身の作品のみならず、プロデューサー、作曲家、編曲家として、映画やテレビ、アート・インスタレーション、ダンスなど多様な音楽制作に関わる。83年に開始した「清水靖晃&サキソフォネッツ」プロジェクトでは、90年代後半にバッハの「無伴奏チェロ組曲」を世界で初めてテナー・サキソフォンの為に編曲・録音したアルバムを2枚発表し大きな反響を呼ぶ(2007年に『チェロ・スウィーツ』として全曲収録)。97年発表の『バッハ・ボックス』ではレコード大賞企画賞も受賞。2007年、サキソフォネッツはクインテットとして生まれ変わり、清水作曲の5音音階作品を収めた『ペンタトニカ』を発表。最近はバッハの「ゴルトベルク変奏曲」をサキソフォン、コントラバスのために独自解釈で編曲するプロジェクトをスタートし、2010年早春、すみだトリフォニー・ホールにて初演している。

渋谷慶一郎(しぶやけいいちろう)
音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。2004年にリリースしたソロ・アルバム『ATAK000 keiichiro shibuya』が「電子音楽の歴史のすべてを統べる完璧な作品」と話題となる。2006年には三次元立体音響とLEDを駆使したサウンド・インスタレーション“filmachine”を山口情報芸術センター(YCAM)で発表、翌年にはそのCDバージョンとして、音像の縦移動を含む世界初のヘッドフォン専用作品『ATAK010 filmachine phonics』をリリース。これらにより2007年度アルス・エレクトロニカ・デジタル・ミュージック部門でHonorary mention受賞。2009年には初のピアノ・ソロ・アルバム『ATAK015 for maria』を発表。2010年には相対性理論とのコラボレーション『アワーミュージック 相対性理論+渋谷慶一郎』をリリース。その後も荒川修作のドキュメンタリー映画のサウンドトラックを手がけるなど旺盛な活動を行う。また自身の活動のみならずレーベルATAKの運営でも知られる。

How to enjoy DSD?

KORG MR-2を使用して鑑賞する

KORG MR-2は、mp3、WAV、そしてDSDといった幅広いフォーマットで録音・再生ができる小型レコーダー。ダウンロードしたDSDファイルをSD/SDHCカードにコピーし、それをMR-2に挿入すれば、即座にヘッドフォンで聞くことができます。(注 : SD/SDHCカードをあらかじめMR-2でフォーマットした上で、“Playback”というフォルダーにコピーしてください。)


KORG MR-2000Sを使用して鑑賞する


KORG MR-2000Sは、プロのスタジオでも使用されているラック型DSDレコーダー。内蔵されているハードディスクにダウンロードしたDSDファイルをUSB経由でコピーすれば、ヘッドフォンもしくはオーディオ・セットにつないで聞くことができます。


SONY SCD-XA5400ES、SONY SCD-XE800を使用して鑑賞する

SONY SCD-XA5400ESは、オーディオ・マニアも認める高品位なSACD/CDプレーヤー、SCD-XE800は、実売価格が3万円台とは思えない高音質なSACD/CDプレーヤー。ダウンロードしたDSDファイルを、DVD-ROMと互換性のあるDVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RWのいずれかに記録すれば、再生することが可能になります。(注 : ダウンロードしたDSDファイルを、“DSD_DISC”というフォルダーごと記録してください。)


PlayStation 3を使用して鑑賞する

「PlayStation」は株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントの登録商標です。

SONY PlayStation 3は、どの時期に発売されたモデルにもDSDファイルをPCMにコンバートし、HDMI経由で再生する機能が搭載されています。ダウンロードしたDSDファイルを、DVD-ROMと互換性のあるDVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RWのいずれかに記録すれば、HDMI入力を持ったAVアンプとの組み合わせで再生が可能になります。(注 : ダウンロードしたDSDファイルを、“DSD_DISC”というフォルダーごと記録してください。)

今後のDSD音源配信スケジュール

次回の配信は、サウンド&レコーディング・マガジンが展開するライブ・レコーディング・イベント「Premium Studio Live」の第一回として8月27日に開催される「Premium Studio Live Vol.1」大友良英+高田漣のライブ音源を9月15日に行う予定です!

イベント詳細はこちら

この記事の筆者
高橋 健太郎 (Reviewed by Kentaro Takahashi)

本名:高橋健太郎 プロデューサー、ジャーナリスト、選曲家など。高橋健太郎 文筆家/音楽制作者 評論集「ポップミュージックのゆくえ〜音楽の未来に蘇るもの」がアルテスパブリッシングから発売中。http://tinyurl.com/2g72u5e twitterアカウントは@kentarotakahash

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