2010/03/05 00:00

旅に出ると、普段はなかなか接する機会のない人々に出会う。彼らとの出会いは、普段の悩みや喧噪を忘れるほど特別で、新鮮な気持ちになれる。そして、旅というのはそれが当たり前のように毎日起こるのだ。

エミ・マイヤーの新作『パスポート』は、その名の通り旅に出た時のように驚きがつまったアルバム。ワールド・ミュージックのエッセンスをふんだんに取り入れ、全編日本語によって作詞されたアルバムは、異国情緒を漂わせながらも特定のイメージに縛られない、自由な空気に満ちている。今作はJazztronik、Shing02など多くのアーティストとのコミュニケーションによって完成したアルバムだと語るエミ・マイヤー。彼女にとって音楽は国と国とを行き来する『パスポート』なのだ。

インタビュー & 文 : 池田義文

普通の会話で伝えられない時に曲を書く

——エミ・マイヤーさんはどんな時に音楽を作るのでしょうか? また、いつ頃からご自身で作曲をするようになったのですか?

何かを感じてその気持ちを残したい時、それを普通の会話で伝えられない時に曲を書きます。作曲に関しては、ピアノだけの作曲は幼い頃からしていましたが、弾き語りの曲は大学に入る少し前くらいから始めました。

——日本の大学への留学経験があるとお聞きしました。

カリフォルニアの大学に所属していたのですが、三年目だけ京都に留学しました。なぜ京都の大学に留学したのかというと、京都のジャズ・シーンと日本の伝統音楽についてもっと詳しくなりたかったからです。あと実は私、京都生まれなんですよ。1歳でシアトルに引っ越したので、ほとんど記憶はないんですけど(笑)。

——今作では、なぜ全て日本語で作詞をしようと思ったのでしょうか?

日本にいるからというのが、一番大きな理由。あとは日本のリスナーに自然と耳に入る曲を作りたかった。それに日本に住んでいたら、日本詞の楽曲が5、6曲自然と出来てきたので、どうせなら全編日本語のアルバムにしようと思ったんです。

——日本詞を作る時に苦労した点を教えてください。

最初は譜割に苦労しました。後は英語と日本語の間にある表現方法の差。それについては、一番最初に書いた日本語の歌である「君に伝えたい」という楽曲から、作曲しながら徐々に学んでいきました。今回は、曲ごとに変化を付けることを意識して、常に新しいことにチャレンジしました。試行錯誤しながらも、一歩ずつ進むことを楽しんで出来たと思います。

——日本語が非常に堪能ですが、2カ国語を話せることによる音楽的な利点はありますか?

様々な国の新聞や本を読んだりすることで、文化を色々な方向から捉えることができ、それが曲を書く時にも強く反映されていると思います。国の中にいてカルチャーを捉えるだけでなく、外から見ることができたということは大きな経験になっていると思います。

人間が作った気持ちのよい“間”

——前作での70年代シンガー・ソング・ライター的なアプローチから、今作では大胆にワールド・ミュージックの手法を取り入れています。前作から今作までの間にどのような変化があったのでしょう?

ブラジルでレコーディングをしたこと、さらに日本で色んなジャンルのアーティストと共演した影響が非常に大きかったと思います。今作は、様々なアーティストとの交流から生まれた作品なんです。

——今作のクレジットに、Shingo Annen (=Shing02)さんとの共作と明記していますね。彼は、どのような部分で参加されたのでしょうか?

ほぼ全てに渡って参加してくれました。日本語の歌詞を書き始める所から、アレンジ、ハーモニーやメロディまで全て二人で。「どんな曲にするのか?」というトピックの部分でも協力してくれましたよ。お互い意見を出し合ってとても楽しく出来たんです。

——レコーディング期間はどのくらいでしたか?

録音時期はバラバラです。去年の夏に『キュリアス・クリーチャー』を出した時に、ボーナス・トラックとして、日本語の楽曲を2曲収録したんです。それから何ヶ月かおきにスタジオに入って、少しずつ始めていった感じです。3分の2はサンフランシスコ、3分の1は日本で録音しました。後はオーヴァー・ダヴィングを日本とブラジルでやりました。録音場所を分けたのはスケジュールの問題なんですけど、そのことがかえって気分をリフレッシュできて、いい方向に進んだと思います。

——楽曲には、エミ・マイヤーさん特有の間があると感じています。今回のアルバムには、特に顕著に現れていると思うのですが、その間は意識して作っているのでしょうか?

クリックは一切使っていないので、ブレイクや曲が変わる瞬間のちょっとした“間”や“ため”は、次のラインへの自然な流れだと思います。でも特に意識したりはしていないですよ。その“間”は、機械的なものではなく、人間が作ったものなので結果的に気持ちのよい“間”になったと思います。

——海外でも日本語の楽曲を演奏しているとのことですが、反応はどうですか?

すごく反応がいいです。歌詞の内容は解らないけれど、その分曲の雰囲気とメロディに集中できて、想像力をかき立てられると言ってくれました。

——話を聞いていて、今作は「コミュニケーション」が一つのキーワードなのかなと思いました。楽曲における歌詞の役割に関してはどのようにお考えですか?

イメージや世界観を作る一つのツールだと思います。自分の描いたイメージを言葉で伝えることで、相手の中にそれを作ることができる重要な手段だと思います。さらに面白いのが、言葉って反対の意味に捉える人もいて、解釈は十人十色なんですよね。その自由な広がりもすごく良いことだと思います。だから歌詞にしても、遊びがあるということがとても重要だと思います。Xを伝えようとしてYやZが伝わることはよくあって、その反応で今度は自分自身が新しい発見をすることもあるから、面白いですよね。

アメリカや日本とは全く別の視線があることが解った

——元々ワールド・ミュージックに興味をお持ちとのことですが、最近特に注目している音楽はありますか?

デンマークで開催されたWOMEX(World Music Expo)に行って、ガーナの音楽やノルディック・エレクトロニカなど、多くの面白い音楽に接してきました。King Ayisobaというエキセントリックな演奏をする、弾き語りのアーティストは特に面白かったです。声を2トーン使い分けて歌うんですけど、ジャズ・ミュージシャンとのジャム・セッションが非常に素晴らしかったです。そこでは音楽だけじゃなくて、人間としての刺激も受けました。色々な場所に行くことで、アメリカや日本とは全く別の視線があることが解って、自分には何が見えてないか解りました。全てが違うから、新しい考えも生まれたし、勘も磨かれましたね。

——そういう違いが音楽性を形作っていくのでしょうか?

そうですね。いい例が、オーヴァー・ダブでブラジルに行ったのですが、英語もほぼ通じなくて、音だけでコミュニケーションをとらなくてはいけなかったんです。それがものすごく新鮮でしたね。難しい言語が通じない分、シンプルなコミュニケーションになるんです。それがいい意味で子供のように、お互い素直になれたと思います。

——普段ではなかなか体験できませんね。

そういう環境に自分を置いたり、出会いを求めて魅力的なことを探すのは非常に楽しい体験でした。ブラジルで紹介してもらったアーティストの曲に参加する話もあって、そうやって繋がっていくことは本当に嬉しいです。それに全く私のことを知らない人たちと共演することで、自分自身を枠にはめなくなりましたね。

——これから更に音楽性も広がっていきそうですね。

是非そうなりたいですね。でも、そう言いながら純ジャズに行くかもしれないし、その時になってみないと解らないですね(笑)。

——最後に今後の予定を教えてください。

実はもう出来ているんですが、次回作は全編英語のアルバムなんです。『キュリアス・クリーチャー』みたいに、作曲は全部1人でしました。色々なミュージシャンとセッションでアレンジした楽曲もあります。実は既にその次のアルバムをどうしようかって考えているんですよ(笑)。後は世界中のミュージシャンとコラボレーションしてセッションしたりして、より音楽性を深めていけたらといいと思いますね。

ワールド・ミュージックとポップ・ミュージックを融合!!

地球をとってよ! / マイア・バルー
プロデューサーは、マイア・バルーのサポートも務める佐藤タイジ。「ongaku」「ル・ロマン」の先行配信に引き続き、全曲高音質のHQDでお楽しみいただけます。幼い時から両親と共に世界中を旅し、舞台を遊び場にさまざまな音楽を肌で吸収し、15才の時、ブラジル遊学中に聴いた美しい音色に感銘を受け始めたフルートを筆頭に、ギター、ピアノ、パーカッション、メガホンやサックス等を手がける彼女の、類い稀な経験と圧倒的な実力、そして音楽への限りない愛をひしひしと感じ取ることができる、日本発のワールド・ミュージックを体感してみてください。

TROPICAL JAPONESQUE / キウイとパパイヤ、マンゴーズ
アメリカ、ジャマイカ、インド、ジプシー、ノルデスチ、チャイナに台湾、チベットなど、世界一周さながらのワールド・ワイドなテイストの全12曲を収録。自宅スタジオと公民館、様々な〈現地〉で録音された、正真正銘のmade in 下町レア・グルーヴ。これぞありそうでなかった〈21世紀〉の東京スタイルです!!

AMANDA BRECKER / Brazilian Passion
大ヒット作『ヒア・アイ・アム』から1年。ボサ・ノヴァ、ブラジリアン・ポップをメイン・テーマに、アコースティックでジャズ・フィーリング溢れる待望のセカンド・アルバム。透明感と艶やかさが混在したアマンダの歌声が心を揺さぶりNY発インターナショナルなブラジリアン・ジャズの系譜を示す意欲作!!

LIVE SHEDULE

  • 3/8(月)GOWEST STORE presents S.O.N 34 Emi Meyer with friends (album release & birthday double celebration!)@ebisu NOS
OPEN 19:00 / START 20:30
着席 ミュージック・チャージ¥2,000+¥3,000以上のご飲食代が必要となります。
立ち見 ¥2,500 with 1drink
  • 3/13(土)Emi Meyer with Shing02@旭川 LA FORESTA ANGELO
OPEN 20:00
adv ¥4,000 / door ¥4,500
  • 5/23(日)Emi Meyer "Tour PASSPORT"@焼津市文化会館・小ホール
OPEN 17:00 / START 18:00
adv ¥3,000 / door 3,500
  • 5/24(月)Emi Meyer "Tour PASSPORT"@名古屋クラブクアトロ
OPEN 18:30 / START 19:30
adv ¥3,500 / door ¥4,000
  • 5/26(水)Emi Meyer "Tour PASSPORT"@大阪 シャングリ・ラ
OPEN 19:00 / START 20:00
adv ¥3,500 / door ¥4,000
  • 5/27(木)Emi Meyer "Tour PASSPORT"@福岡 Gate's7 (*弾き語りライヴ)
OPEN 18:30 / START 19:30
adv ¥3,500 / door ¥4,000
  • 5/31(月)Emi Meyer "Tour PASSPORT"@東京 晴れたら空に豆まいて
OPEN 19:00 / START 20:00
adv ¥3,500 / door ¥4,000

PROFILE

アメリカ(L.A.)を拠点に活動するシンガー・ソング・ライター。日本人の母親とアメリカ人の父親の間に京都で生まれる。1才になる前にアメリカのシアトルに移住。幼い頃よりクラシック・ピアノを学び友人と共演したいとの理由でジャズ・ピアノも学ぶ。18才で曲を書き出し、L.A.と東京でヴォーカリストとしての活動を始める。07年にシアトルー神戸ジャズ・ボーカリスト・コンペティションで優勝。その後、Jazztronik、Shing02など数々の著名アーティストと共演を重ね、その歌声と存在感で多くの聴衆を魅了している。2010年3月に、Shingo Annen (=Shing02)との共作による、全曲日本語歌詞の2ndソロ・アルバム『パスポート』をリリース。

この記事の筆者
池田 社長 (tripxtrip)

ミュージャン、DJ、ライター、ライブ録音エンジニア、肉体労働者。あなたが望めば、何にでもなります。陰核御殿というハードコアバンドでギター弾いています。ミジンコ大好き。チャリが好きで、5月に東京から屋久島までママチャリで遊びに行きました。それだけでイイです。だふにあというダブバンドも始めました。万歳。 twitterアカウント: http://twitter.com/tripxikeda

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