アルバム『The Movie』がジワジワと話題を呼び、08年の年間ベストに選ぶ人も続出した、クレア&ザ・リーズンズ。待望の来日公演は、期待を裏切らない内容だった。いや、期待以上だったと言うべきか。素晴らしい演奏に加え、気取りのないクレアの佇まいやパートナーであるオリヴィエの剽軽さが、リラックスした空気を作り出し、彼等の音楽をより親しみやすく楽しませてくれた。

 ご存知の通りクレアは、アメリカを代表するミュージシャンの一人、ジェフ・マルダーを父に持つ。音楽の道に進んだのは自然だったのだろうが、このユニークで素晴らしい作品の完成には、どのように至ったのだろう。クレアとオリヴィエは、ステージと同じく気さくに話を聞かせてくれた。

インタビュー & 文 : 今井智子

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—アルバムにはメンバーとして6人の名前がクレジットされていますが、今回の来日公演は5人編成でしたね。

クレア : バンドのメンバーは、フレキシブルにしているんです。本当は固定メンバーでツアーもやれたら良いんだけど、それぞれのスケジュールもあるから、2ヶ月もツアーに参加できない人とかいるしね。みんな仲良しのミュージシャンだから、調整してやってるの。

オリヴィエ : 今回のはトラヴェル・ヴァージョンなんだよ。

—でもアルバムと比べて遜色のない、素晴らしい演奏でした。

クレア : チェンバー・ミュージック(室内楽)というところに重きを置いた、コンパクトな編成でやってるから。ドラムも入れたいところだけど、それなしでも十分に自分たちの表現したい事は出来てると思います。

—最初に『The Movie』を聴いた時には、ライヴよりもスタジオで制作するのが好きなのかと思ったんですが、ヨーロッパもツアーしてるし、けっこうライヴにも熱心なんですね。

クレア : レコーディングはしっかりやったし、作品はみんなに聴いてほしいけど、リスナーは作品にはライヴと同じものを求めるものでしょ? だからレコーディングとライヴと、両方を満たさなきゃいけないと思う。

—でもスタジオが楽しかったと想像できるサウンドですよね。

クレア : アレンジはしっかりやったけど、録音作業はスムーズで自然だったわね。曲が出来た順番に録音してって、そのままの曲順でアルバムに入ってるの。

—アレンジはクレアとオリヴィエと二人で考えて?

オリヴィエ : アレンジは僕が中心だった。

—この作品のアレンジで意識したところは?

オリヴィエ : 二つの要素があって、一つはコーラスを沢山入れたかった。どうしてかって言うと、演奏しながら歌うのは楽しいじゃない? もう一つは、僕はバイオリニストだから、ストリングスを中心にしたかった。つまり、この作品でやりたかったのは、チェンバー・ミュージックとコーラスとをひとつにまとめること。バイオリン弾きながら歌うのは大変だけど(笑)。

—それは、クレアのヴォーカルを考えての事ですか?

オリヴィエ : そうだね。演奏として成立すると同時に、歌のためのものでもあるから、それは考えたよ。声と歌のために作るのが大事だよね。

クレア : 曲を作る過程で、ずいぶん意見交換はしたわよ。家で、私はキッチンで曲を書いていて、彼はリヴィングでアレンジを考えていて、何かアイディアが出ると、「ねえ、ちょっと〜」って声をかけて(笑)。

—キッチンで曲を書くんですか?

クレア : そう、ギターを弾きながらね(笑)。作業する場所を家の中で決めてるわけじゃないから、思いついたらそこで曲にしていくの。散歩の途中でもね。

オリヴィエ : そういう時は、自分ちに電話して、留守番電話に思いついたメロディを録音しておくんだ。

—生活に密着した作品なんですね(笑)。

クレア : そう(笑)。そうやって互いの呼吸を感じながら作ってく感じ。

—クレアの父上は著名なギタリストですが、ギターは彼から教わったんですか?

クレア : いいえ。独学よ。恥ずかしいけどギターのレッスンはしたことなくて。しなきゃいけないことリストには入ってるんだけどね。でも自分の限界はわかるから、それを味にして行くしかないんだけど。

—そんな風に思うのは、やはりジェフのプレイを身近に育ったからでしょうか?

クレア : どうかしら。意識した事はないけど、小さい頃からミュージシャンの子供だという目で見られるし、自分でも皆の期待に応えたいと思う反面、反抗心みたいなものもある。どんな人でもそうだと思うけど。

—バークリーでは楽器を勉強しなかったんですか?

クレア : 私の楽器は、声。それに鍵盤とアレンジ、作曲の勉強をしました。

—以前のソロ作と現在の違いは?

クレア : EVOLUTION(進化) ! 。時間が経てば物事は変わるものでしょ。今ならもっとうまくできると思っちゃう。アルバムは、ひとつのプロダクトだけど、ドキュメントみたいなものよね。2枚のソロは、自分の成果とかいうより、ある時期のプロセスだったと、今は思う。『The Movie』は、すごくクリアなヴィジョンがあって制作してた。それも、過去の2作があったからだと思う。最初の『Sweetheart』の時は、1枚のアルバムにあれもこれも、いろんなスタイルを詰め込もうとしてた。そういう経験が生かされてると思う。

—『The Movie』は、現在のクレアが表されている、と。

クレア : そうね。『The Movie』は、父の事を思い出させるようなサウンドではないと思う。これを聴いて父は、他のバンドでは聴けない音、すごいオリジナリティがあるって言ってくれた。父自身も、自分の音楽にそういう自負を持っていると思う。父の素晴らしさは、70年代にとても冒険的な音楽を作ってたこと。沢山の楽器を使ったり、オーケストラを使ったり。私と父とでは、やってることは全く違うけど、大きく捉えたら共通点もあるわね。でも、実際に表現としてでてくるものは、全然違うということもわかったわ。

—同じミュージシャンとしてジェフをどう見ていますか?

クレア : 偉大だと思うし、尊敬してます。大変な状況を切り抜けてきた事を知っているしね。彼が作ってきた、すべてのものをリスペクトしてるわ。

—またアルバム『The Movie』の話になりますが、「This Record was made without glockenspiel or melodica」と書いてあるのは何故?

クレア : (笑)ニューヨークのジョークなのよ。最近は、どんなバンドもグロッケン(鉄琴)とメロディカ(ピアニカなどの鍵盤ハーモニカ)を使ってる。私たちも使ってたけど、このアルバムでは使わないことにして、それをウリにしようかと思ったわけ。すごいでしょ(笑)。

オリヴィエ : でも今回のツアーには持ってきてるけどね(笑)

—ニューヨークには、あなたたちのようなバンドが沢山いるんですか?

オリヴィエ : 僕らみたいなのは、いないよ(笑)

クレア : でも、楽器編成とかで似たバンドはいるわね。

オリヴィエ : いろんなバンドが、弦楽器を使いたいと思ってると思うけど、そんなにいいバンドはいないな。弦楽器は弦楽器でしかないというような使い方をしているバンドが多いね。弦楽器は、声みたいに使えるんだよ。バックグラウンドじゃなくてね。もっともっと可能性を持っていると思う。

クレア : ポピュラーなのは、弦を後で入れるアレンジだけど、私たちのはぜんっぜん違う。弦楽器に対するプライオリティが違うから。「Pluto」とか聴いてもらうとわかると思うんだけど、弦がちゃんと生きていて、曲の流れを作ってる。

—クラシックが基本の人とは、そういうところでビート感の解釈が違ったりするんじゃないかと思うんですけど?

クレア : ニューヨークでは、クラシックのプレイヤーで他のジャンルに進出する人が増えてるけど、そういうひとたちは感覚的に違いを掴むのに苦労してるみたい。

オリヴィエ : 確かに、クラシック側からポピュラー・ミュージックへのアプローチは難しいけど、ポップスはリズムとかがそんなに複雑なわけじゃない。その両方を融合する可能性は、もっとあると思うんだよ。僕の友達でも、いいプレイヤーは一杯いるし、その連中はいろんなことにトライしている。弦楽器だけじゃなくて、管楽器でもね。

クレア : そう、次の作品には管楽器も入れたいのよね。

—次作の計画が?

クレア : ええ、今月後半にはレコーディングに入る予定。

—どんな内容になりそうですか。

クレア : もっとアッパーなエネルギーがあるものになるかな。テンポが早い曲や、明るい感じの曲が多いかも。言ってみればフラッシュメタルね(笑)。エレクトロニックとオーケストラと、両方入ったものにしたい。蜂をテーマに曲を書いてるのよ。メタファーとしてね。母が養蜂をやってるんだけど、北米の蜂の間に悪い病気が流行っていて、絶滅しそうなんですって。

—それは大変。ところで、『The Movie』に参加しているスフィアン・スティーヴンスは親しいんですか?

クレア : レコーディングを始めた頃、私は面識がなかったんだけど、オリヴィエが彼のレコーディングに参加して、すぐ近所に住んでるってわかってね。話したら考え方も似てるのよ。彼はしっかりしたコンセプトを持ってる人ね。一緒にやってて楽しいし、刺激を与えてくれる。尊敬してるわ。

—昨年、彼とルーファス・ウェインライトが同時に来日してるんです。

オリヴィエ : 知ってる。両方のバンドに僕の友達が参加してて、話を聞いたよ。

—ルーファスも共感できる人かと?

クレア : 彼とは家族ぐるみの友達よ。すごいパフォーマーだと思う。彼にしか出来ない事をやってるでしょ。"ファビュラス"よ(笑)

—(笑)彼などもそうですけど、いわゆるメイン・ストリームになるようなロックではないものが、広がっている手応えはありますか?

クレア : どうかな。いわゆるメイン・ストリームの音楽のペースは、私には速すぎる。私たちの音楽を気に入ってくれるひとたちにも、そうだと思う。

—それでアルバムも2、3年に1枚ぐらいのペースがいい、と?

クレア : 本当はもっとアルバムを作りたいんだけど(笑)、時間がかかるしね。ツアーももっとやりたいし。

オリヴィエ : 音楽は演奏しなくちゃ意味ないからね。スタジオだけじゃ楽しくない。

クレア : ライヴで演奏しなくて許されるのは、ビートルズぐらいでしょ(笑)


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About “Clare Muldaur”

あのジェフ・マルダーを父に持つ音楽セレブ。NYブルックリン在住で映画と博物館が大好き。トリュフォー、ヒチコック、ジャック・タチ、ペドロ・アルモドヴァル等のファン。アルバムのビジュアルもトリュフォーの映画でジャン=ピエール・レオ扮する主人公がやっていたダメな私立探偵のイメージだそうだ。ソロアルバム2枚をリリース後、クレア&ザ・リーズンズ名義で発表したアルバム「The Movie」(ヴァン・ダイク・パークス、スフィアン・スティーブンスも参加!)のノスタルジックでかつ都会的でドリーミーでポップな音楽性と超スィートボイスがイギリス、フランスから火が付き世界中で大注目。

About “The Reasons”

ニューヨーク・ブルックリンをベースとするリーズンズ。クレアが作った楽曲が彼らのもとに届けられると、リーズンズの手によって、瑞々しく、罪つくりなほど美しい音楽となって生れ落ちることになる。優れたクリエイティヴィティを発揮するそんな彼らだが、普段はブルックリンでコーラスのリハーサルをやっているか、6人のうち3人のストリングスはオーケストラのフリをしているか、またはプロスペクト・パークでサッカーまがいのフットボールをやっているか。ゲームの最中には、大手スポーツメーカーのスポンサードを取りつける方法について作戦会議もやっているという噂もある、へんてこりんな6人組である。

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