編集部が注目する今週のリリース作品

ソウル／R&Bを取り入れた、The fin.新作

ドリーム・ポップやチルウェーブの文脈で語られ、国内よりも海外のバンドを引き合いにされるthe fin.。今作においてはソウル／R&Bのエッセンスを取り入れることで、新たな質感を手にしたようだ。ゆったりとしながらもタイトに波打つドラムが全体を掌握し、ゆらぎとリバーブを湛えたサウンドは、滑らかな膜となって耳を包み込む。タイトル『Somewhere Between』には、世界に対する驚きや憧れをもう一度つかみ直すというYuto Uchinoの意志が込められているという。まっさらな心で、世界と再び出会いなおす。その瞬間のきらめきが、この作品の核として貫かれている。(石川)

Rachel、パーソナリティーが垣間見得るソロ作品

Podcast番組「我々は安心してリアリティーショーが見たい」を毎週聴いているんだけど、chelmicoのRachelのバランス感や切り口がいつも面白い。そんな彼女のパーソナリティーが垣間見得る、ソロプロジェクト"ohayoumadayarou"の1st EP。サウンドプロデューサーのESME MORIが手がけたミニマルに構築されたトラックは、シンプルでそして余白が大きい。だからこそ、まっすぐにリリックが、歌が、優しく心を撫でていく。14分という長さも、らしくて良い。(西田)

「ちょっと絶望、でもちょっと希望」な感覚を呼び起こす初ソロ作

クリープハイプのベーシストである長谷川カオナシが、初のソロ・フル・アルバムをリリース。ヒトリエ・ゆーまお、KEYTALK・小野武正、Official髭男dism・楢崎誠、矢尾拓也といった豪華なゲスト・ミュージシャンを迎え、彼らしい「ちょっと絶望、でもちょっと希望」を感じさせる唯一無二の楽曲を奏でます。個人的大ヒットは、アレンジを「組曲『ニコニコ動画』」作者のsimoyuki、コーラスをゲーム実況者集団の亀戸組の面々が担当した"恋する千羽鶴"。16bitのゲーム・ミュージックを想起させるオケと亀戸組の楽しげなガヤ、そして長谷川の織りなす歌詞とメイン・ボーカルが重なり、エモーショナルな感情を揺さぶる名曲です。(藤田)

2人組ユニット、NaNoMoRaLのミニ・アルバム

雨宮未來と梶原パセリちゃんからなる2人組ユニットNaNoMoRaLの7曲入り、5thミニ・アルバム。この数年バンドセットでのライブも経験を重ねてきたうえで、「バンドサウンド」の呪縛からも一歩離れ、ふたりの歌を存分に活かすトラックが印象深い。いまの切なさを否定するでもなく肯定するでもなく、だが希望は確実にあることを歌う歌詞たち。最強にポップでハッピーなサウンド。それはこれまでとこれからのNaNoMoRaLの音楽活動そのものでもある。12月1日には新宿LOFTにてワンマン開催。(高田)

雪国、京 英一協力のもと生まれたメグミによる作品

永福町の〈22 CAFÉ〉で行われた「あくびの周波数 6」にてO.Aをつとめたメグミが、突如フル・アルバムをリリースした。京 英一がレコーダーとマイクを貸し出し、KenseiOgataがミックスを務め、凄まじいスピードで制作されたであろう本作。鮮度を保ちながら、適切なアプローチで彼女のもつ世界観と歌のパワーを最大限に引き出しパッケージングした見事な一枚。繊細なタッチのギター、織り交ぜられる不穏なコード、巧みな歌い分け...。ぜひハイレゾで聴いてほしい作品です。(菅家)

グラムロックの亡霊が宿る、Tarah Kikuchiの新AL

2021年リリースの『Science』にざわつかされたTarah Kikuchiの最新アルバムが来ました。サイケデリック・フォーク・ロックの煌めきと退廃を映し出した前作に対して、今回はT. Rexの『Electric Warrior』を起点に制作されたという、ある意味でグラムロック的な作品。歪んだブルージーなギターやコンガの使い方には確かにその影響がみられる。一方でやはり、いま1971年リリースの作品を影を辿るということで生まれる、現代への忌避感みたいなものが常に漂っている。それは同じくグラム・ロックを参照したという、安島夕貴のアルバムにもあった何かに近しい。どちらも囁くような歌い方だというのもあるかも? こうした作品は現実からのシェルターとなってくれる。そして、なんだかバーボンの香りがする…と言いたくなる色気もある。お酒でも飲んで、色々なことをもう忘れたい。こんな気持ちになれて嬉しいです。(津田)