2021/08/20 18:00

OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.130

毎週金曜日に編集部がセレクトするプレイリストをお届けする『OTOTOY EDITOR'S CHOICE』。8月は恒例のゲスト月間、今年はOTOTOY Contributorsスペシャルです。3回目となる今週は、『岡村詩野ライター講座』卒業生で、最近はOTOTOYで“REVIEWS”など、エレクトロニック・ダンス・ミュージックを中心に原稿を書いてもらっている佐藤遥です。自身の特別な音楽体験であり日常であった、アルバイト先のジャズ喫茶でのリスニング体験をテーマに。


2021 CONTRIBUTORS SPECIAL

喫茶店のアルバイト

留年したのが3年前の夏で、これといってやることもなく平日の昼間からバイトに行くようになった。バイト先はビルの7階と6階にあるジャズ喫茶で、6階はカウンター席だけのお店。昼でも電気をつけないと暗くて、カルトーラの大きなポスターが貼ってあって、植物がテーブルを区切っている。混まない日にそこで働くのが好きだった。

やることは掃除、接客、ケーキ作りなど。たまにコーヒーを落とすこともあった。どれも楽しかったけれど、壁一面の棚にぎっしり詰まったレコードと、積み上げられた崩れそうで崩れない大量のCDから、自分では到底買えないオーディオでかける曲を選ぶのがいちばん楽しかったし嬉しかった。ジャズ喫茶ではあるけれど何をかけてもよくて、教えてもらったりたまたまかけたりして当時から気に入っている曲を今回プレイリストにした。その頃を思い出して、かけていた時間帯の順に並べてある。

開けてすぐのお店で初めてBibioの『Ribbons』をかけたときは、新学期みたいな清々しさで、自分が木になって風にそよいでいる気持ちになったことを今でも鮮明に覚えている。ほかにもTom Misch『Beat Tape 2』やUlrich Schnauss『Far Away Trains Passing By』、Gigi Masin『Talk To The Sea』など挙げたらきりがないが、ここでかけた曲、聴いた曲が趣味嗜好のルーツそのものと言ってもいいのかもしれない。

かつての〈ロトンド〉のような文字どおりそこに行くほかない人々が集まる喫茶店ではないけれど、宙ぶらりんな属性の自分がここに避難できたのは、喫茶店という空間がかねてから持っている性質のおかげなのだろう。(佐藤 遥)

REVIEWS : 024 ダンス〜エレクトロニック(2021年6月)──佐藤 遥

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