2022/07/22 19:00

ハイレゾ / ロスレス・データを売る理由──利便性と敬意の間で

さて、ここまではサブスクリプション・サービスと、ダウンロード・ストアの違いを軸に書いてきましたが、ここからは少し視点を変えて、サブスクリプション・サービス、そしてOTOTOY以外のダウンロード・ストアも含めた、現在インターネットで流通している音源データの音質という視点を通して、現在OTOTOYがダウンロード・ストアでやろうとしていることを説明していければと思います。

OTOTOYは2010年より、ハイレゾ音源(24bit/44.1kHz以上のスペックを持つ音源、もしくはDSD)を販売しています。また2018年にユニバーサルと、2020年にワーナー音源と、ほぼ世界初とも言えるメジャーレコード会社のロスレス(CDスペック並=16bit/44.1kHz)の配信をスタートさせるなど(インディ音源はそれ以前から)、基本的にダウンロードでの音源販売の、そのデータのスタンダードを、ロスレス以上の品質というのを目指しています。

配信環境で取り残されるロスレス(CD音質)

現在、サブスクリプション、ダウンロードともに、そのサービスの多くは一部のハイレゾを除き、その主たる配信は圧縮音源(ファイル形式ではAACやMP3など)の配信がほとんどです。最近ではApple MusicやAmazon Music HD、海外ではTIDALなど、サブスクリプションサービスでもロスレスやハイレゾ音源の視聴が可能になってきましたが、なぜかダウンロード・ストアの方は、OTOTOY以外のストアでは、ハイレゾか圧縮音源かという2択での販売がほとんどです。

こうした圧縮音源中心の状態は、もともとインターネット上の音楽サービスが、いまよりもインターネット回線の速度が貧弱で、パソコンなどのデバイスの記憶容量が低容量だった2000年代初頭に設計されたことにひとつ基因します。よくよく考えれば、インターネットを介して音楽を入手する以前は、CDの音質がスタンダードだったのに対して、当時のインターネットのスペック上での利便性を確保するため、データ容量の少ない圧縮音源、いわば音質的にそれ以前(CD / ロスレス)よりも劣化した音楽データの流通が主流となり、いまでもスタンダードになっているということです。

また2000年末にスタートした、各種のサブスクリプション・サービスも、基本的にはその路線を引き継ぎ、インターネットを介して「いつでもどこでも」聴くことを主眼とした利便性を謳歌するために、ストリーミングでは圧縮音源の配信がまだまだ一般的です。

進化したネット環境のなか、劣化させられたままの音質

言うまでも無く、私たちをとりまくインターネットのテクノロジーは、多くのダウンロード・サービスが企画されスタートした2000年代初頭とは全く違った速度の環境にいます。しかも、当時から言って、そんな未来において、アーティストやエンジニアがCDの音質を基準として作った大事な作品を劣化させて販売してるとも言えます。このことはOTOTOYではとても不幸なことと考えています。それがハイレゾやロスレスの配信などを進めている理由です。

前述の様に数年前からハイレゾやロスレスのストリーミングに乗り出すサブスクリプションサービスも多くなってきました。回線スピードの向上が及ぼした影響とも言えますが、とはいえスマフォなどモバイル通信を考えると、そこまで普及しているとは思えません。

しかし、現在でも再生の度に随時通信するわけではないダウンロードの領域においてはCD並の音質=ロスレス(16bit/44.1kHzデータ)がスタンダードになることは充分に実用可能なスペックだとOTOTOYは考えています。音楽を簡単に聴くという利便性ももちろん重要ですが、一方で選択肢としてロスレス以上の音質の販売は、音楽は文化だと考えるOTOTOYにとっては、アーティストやエンジニアへの敬意、そしてあえて悪いものしか売らないという状態から脱するというユーザーへの敬意も含めて当然のことではないかと考えています。

「ロスレス以上」音源配信を一般的に

前述のように、OTOTOYは2010年より他のダウンロード・ストアに先立ち、ハイレゾ音源(当時はHQDとOTOTOYでは呼んでいました)を販売しています。すでに当時、スタジオでのDAW上でのデジタル・レコーディングの作業は、24bit音源、いわゆるハイレゾ音質での作業が一般的となっていた頃です。そのなかで一部のアーティストやエンジニアにとって、スタジオで彼らがジャッジしている基準とする音質で、自らの作品を聴いて欲しいという要望のもとハイレゾ音質の配信をスタートさせました。より広範囲のロスレス配信を目指し、より良い音を、より簡単にというOTOTOYのこれまでの姿勢は当時から現在まで変わっていません。

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そして現在でもCDのロスレス音質をひとつ基準に音楽制作が行われている実情があります。さらに過去のCDとして制作された膨大な音源の配信も含めて、やはりロスレス以上というのがOTOTOYがひとつデジタル・ダウンロードの販売で目指している基準の音質になっています。現在レコード会社によって、いまだ圧縮音源のみのダウンロード販売を行っている会社も少なくありません。現在圧縮音源のみの流通を行っているレコード会社にもロスレス以上の音源配信を行えるように、交渉を続けています。

ある種のプラットフォーマーの都合にできるだけ左右されないリスナーとアーティストの自由、現在のアーティストやエンジニアたちが、最良の音質で世の中に音楽を流通できる自由、そしてさまざまな多様なキャリアを支える選択肢の自由。こうしたことを持ってして、音楽のシーンや文化に貢献できること、OTOTOYではこうした理由からダウンロード・ストアという業態にこだわっています。

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