2022/06/02 17:00

バンドとか音楽サークルとかが苦手な人種による集団だった

『stars in video game』リリース時のライヴより

その後、当時ART UNIONに在籍していたA&R、中井寛樹からのオファーのもと、彼の主宰するレーベル、kitiからファースト・アルバムをリリースすることが決定。実は、当時のoonoには喫茶店の店長になるという予定がすでにあり、ミュージシャンとして生きていくという気持ちはいったん薄れていたそう。だが、oonoは喫茶店の経営ではなく、アルバムを作ることを選んだ。中井からの声かけは、oono yuukiにとって人生の岐路となる出来事だった。

oono : 友達が死んだ段階で、僕の人生はもう余生になっているんですよ。一回もう終わったんです。ボーナストラックみたいに思えたし、あとはどうなってもいいかなと思った。だから、おもしろそうなほうに行くことにしたんです。

そして制作された『stars in video game』は、『Leonids』のリリース・パーティーに来ていたミュージシャンを中心に、7人編成のバンドで録音された。oonoは、王舟もメンバーに入れたかったそうだが、「彼も彼で人を集めそうだから」という理由で断念した。この第一期oono yuuki bandのメンバーは、oono、麓健一(キーボード、フルート)、 mmm/ミーマイモー(フルート)、マリアハトのたかはしようせい(ドラム)、フジワラサトシ(ギター)、浜重真平(ベース)、shibacoji(チェロ)。大所帯ではあるが、狙ったものではなく、自然と集まっていったという。

oono : たぶんずっと1人だった反動がすごくあったんです。人と一緒にやれている時点で嬉しいというか、ひとつ叶っていて。

『stars in video game』の音楽的な特徴については後述するが、本作のなによりの魅力は多人数のアンサンブルならではの闇雲な熱量、やけっぱちな疾走感。ここには、7人の若者たちが青春の魂を燃やしている瞬間がパッケージされている。

oono : そこがおもしろいところで、oono yuuki bandに集まった人たちは、たぶんみんな一回、人とやることに挫折しているんです。バンドとか音楽サークルとかが苦手な人種による集団だった。あのアルバムを作ったとき、豊田道倫さんが「あいつらは音楽サークルみたいでイヤだ」と言っていたんです。楽しそうだったみたいで。でも言っていることはわかったし、そうかーって(笑)。

『stars in video game』リリース当時のライヴより

では、oonoは『stars in video game』で、どんな音楽を鳴らそうとしていたのだろう。

oono : パンク・ロック、ポストロック、ミニマル・ミュージック、フォークトロニカとかいろいろあると思うんですけど、そのどれとも言われたくないというのはありました。では何がやりたかったのか?と言われると、うーん……パンク的なこととミニマル・ミュージック、室内楽的なことを自分のバランスで一緒にやりたかったんです。

チェンバー・ポップ的な編成が、パンク・バンドに勝るとも劣らない激しい演奏をするという点で、当時の音楽シーンを見渡すと、oono yuuki band のサウンドは、アーケイド・ファイアやブロークン・ソーシャル・シーンに代表されるカナダ産インディ勢と近かった。その一方で、いまこのアルバムを聴いておもしろく感じられるのは、トラッドなフォークやポストパンク、エレクトロニック・ミュージックといった多様な音楽性を混ぜ合わせている近年のUKバンドたちと並べて聴くべき音楽のようにも思えることだ。2022年において、oono yuukiの『stars in video game』は、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのセカンド・アルバム『Ants From Up There』(2022年)の年の離れた兄弟作のようにも響く。バンドというよりコレクティブ的な集団のありかたもふくめて。

oono : 初期のアーケイド・ファイアにオーウェン・パレットがいたりとか、その感じへの憧れはあったように思います。彼らの『Funeral』(2004年)は大好きでしたし。あの頃の自分は、同じ旋律をみんなで演奏してそれが束になることに快感を覚えていた。あんまり和声とかを気にしていなかったし、ただデカくて速いものが好きだったんです。とにかくずっと爆音だったんですよ。だから、何もわかっていなかった(笑)。

『stars in video game』レコーディング中のGOK SOUND

そうしたバンドの勢いを、いきなり伝えてくれるのが、アルバムの冒頭に据えられた“haruno”だ。2009年にリリースされたbijin recordのコンピレーション『bijin record compilation #1』に宅録ヴァージョンが収録されたこの曲は、コンピでの8-bit的なサウンドから一点、マンドリン、エレクトリック・ギター、チェロ、フルートが混然一体となって主旋律を奏でている。実にパワフルで疾走感に溢れた名曲だ。

oono : 宅録ヴァージョンで昔のキーボードを使って弾いていたメロディーを複数人でドカンと奏でると、外国の大所帯のバンドみたいになった……。そこはさほど意図していないものでしたね。でも、CD音源だとちょっと大人しくなっちゃったなと思います。ライヴではもっと混沌としていたな。自分の作品はあまり聴き直すことができなくて、今日久しぶりにこのアルバムの“haruno”を聴いてみたら、チェロとフルートとマンドリンによるブレイクがキレイだなと思いました。あと、この曲は人力でテクノ……ダンス・ミュージックをやりたかったんだと思います。アルバムであの曲だけじゃないかな、16ビート的なものは。

harunoのアバンギルドでのライヴ
harunoのアバンギルドでのライヴ

[連載] oono yuuki

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