2022/05/31 20:00

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2022年5月)──石角友香

「RealSound」や「Qetic」、「Skream!」など、幅広いメディアで活躍しているライター、石角友香。彼女が選んだのは、VINCE;NT『VAPID』。2020年ごろ活動をはじめた4人組バンドのファースト・アルバムであり、分厚く、強度の高い轟音が鳴り響く本作の魅力を解説します。また「VINCE;NTとあわせて聴きたい」をテーマにセレクトされた10曲入りのプレイリストには、ジョイ・ディヴィジョンや春ねむりなどを収録。こちらもあわせてお楽しみください!

REVIEW : VINCE;NT『VAPID』


文:石角友香

あらゆるギターサウンドが好きだ。スキルと粋を究めたトム・ミッシュやコリー・ウォンやスティーヴ・レイシーのギタリズムにはツボを押される愉悦がある。だが、時にはなにもかも押し流すような怒涛の轟音を欲する気持ちもある。現代ジャズやファンクやいわゆるチルい音楽が日常の背景を心地よく満たすだけでは何か必須栄養素が欠けているような感覚に陥る。だが、批評性は微かに介在している、そんな精神状態にハマったのが今回紹介するVINCE;NTのアルバム『VAPID』だった。

バイオによると2018年頃、東京で結成され、2020年に現体制での活動を本格化したとある。ジャンルではなく精神的な意味でのオルタナティヴ性が軸にあり、ネオサイケ/ゴシック/ジャンクを経由してストーナーロック/ドゥームメタル/デザートロックの片鱗もフレキシブルに混交してきたようだ。M1「ENIGMA」が流れた瞬間、ヘヴィなリフとシュアなリズムの重心の低さは特段新しいものには聴こえないのだが、ピッチもBPMもおかまいなし、だからといってポエトリーとカテゴライズすることもできないボーカルに、彼ら、特にGt/VoのYusuke Shinmaのアティチュードを見たのだ。こりゃジョン・ライドンの直系じゃないかと。セルフライナーノーツには「LOOP(UK)とFUGAZIを同時に心に留めた人の心に響くはず」とあるが、残念ながら個人的にその2巨頭に詳しくない。それより、ほぼ2〜3種類のエフェクター(と思える)とアーミングで、身体性を存分に使いながら、脳みそはどこまでも冷静に自らをモンスターへ改造したり、自然の脅威を思わせる立体的なプロダクションを構築していくしぶとさに圧倒されるのだ。

特に終盤の「DAYBREAK」と「CATHEDRAL」はおのおの8分、9分の長尺で、どこまでも澄んだ轟音が“整えて”くれる。長尺であることで自ずとトランシーになれるのだが、脳のどこかは醒めている。もしくはギターがトリップを助長しつつ、リズムが現世に足を繋いでいてくれる感覚といったらいいだろうか。英詞はシンプルなことしか歌っていないが、そのイノセンスと軽くフリーク・アウトした歌唱の融合が、結果的にこのバンドをマチズモから遠ざけているのだ。

トレンドの楽曲の音像や構成で足取りが軽くなることと同じぐらい、このバンドの音楽を聴きながら夜の道を好き勝手なフォームで歩くこともきっと愉快だ。その際は解像度の高いヘッドホンを装着したいなと思っている。

VINCE;NTと一緒に聴きたいアーティスト10組

Yves Tumor「Jackie」
THE NOVEMBERS「Ghost Rider」
パブリック・イメージ・リミテッド「Low Life(Live/2011)」
春ねむり「Bang」
Joji「Reanimator(feat. Yves Tumor)」
ジョイ・ディヴィジョン「Isolation」
D.A.N.「No Moon」
King Gizzard & The Lizard Wizard「Gaia」
METZ「Framed by the Comet’s Tail」
I Don’t Love Me Anymore「Oneohtrix Point Never」

2010年代後半〜現在のギターサウンドの在り方から、オルタナティヴなR&Bの中にゴシックやインダストリアル感を混交させた現在のYves Tumor、日本のシーンではかなり直列配置できそうなTHE NOVEMBERS、さらにボーカル表現に於いて直感的に想起したジョン・ライドンのP.I.L.、儚さや絶望感の中にある光を少々、イアン・カーティスと重なる部分も。ジャンルも音楽性も異なるが、現状をしぶとく刺し続けていく真摯な攻撃性において、春ねむりが生きている今と世代的に遠くないVINCE;NTに共時性を感じるところも。狭義のジャンルを越えて、時代も並列させることで、自在にシナプスが接続され、このバンドのユニークネスを発見できるのではないだろうか。

WRITER PROFILE:石角友香

フリーの音楽ライター、編集者。ぴあ関西版・音楽担当を経てフリーに。現在は「RealSound」「Qetic」「SPiCE」「Skream!」「encore」などで執筆。音楽以外にカルチャー系やライフスタイル系の取材・執筆も行う。
■Twitter:https://twitter.com/ishizumi_yuka

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