越境するサウンド、実験と春の気配──Golin x E.O.U JAPAN TOUR 2022 TOKYO Report
連載 : In search of lost night vol.01

連載 : In search of lost night Vol.01
クラブにライブハウス、果てはSNS上に至るまで、散在されゆく音楽の「現場」。タイムラインや喫煙所での語りのような、忘れ去られていく現場の音楽にまつわるあれこれを、パーティーレポート、ミックス・レビュー、インタビューなど、さまざまな方向からテキストとしてアーカイブするための連載【In search of lost night】。
今回はOTOTOYでの『深淵Web音楽の覗き方 Vol.1』も好調なNordOstによる、3月25日(金)に下北沢〈SPREAD & ILLAS〉で行われた「Golin x E.O.U JAPAN TOUR 2022 TOKYO」のレポートをお届け。
Golin x E.O.U JAPAN TOUR 2022 TOKYO
Text by NordOst
「レイヴって、自分に嘘ついて盛り上がるって意味があるらしいよ」 たぶん、どこかの喫煙所で聞いた話だったと思う。Wikipediaにも[要出典]付きのトリビアとして付記されていた。眉唾だろうが、一体どこからやってきたフォークロアなのだろうか? そもそも、教えてくれたのは誰だったのだろうか?
「嘘をついて盛り上がる」という後ろめたさを抱えながらも、それでもパーティの熱量を全身で浴びる体験が好きだ。気が沈んでいても、たまには外に這い出てみたい。だから春の気配と音に焦がれ、『Golin x E.O.U JAPAN TOUR 2022』の東京公演へ足を運んだ。
GOLIN x E.O.U JAPAN TOUR 2022概要
2022/3/25(Fri) 22:00 @SPREAD & ILLAS
w/ Tasho Ishi / woopheadclrms / 宇宙チンチラ / ShioriyBradshaw / SuperHotPeePoolSongs / ether radio / yoyogipaty.jp
陽気で温かい、実験の夜
アメリカと日本にルーツを持ち、現在はアムステルダムを拠点に自由な活動を行うアーティスト、Golin。バブルガム・ベース以降のトランシーなサウンドに、ルーツである日本語を解体再構築したかのような、特異な音節のフロウを載せる新時代のポップスを更新し続けているアーティストだ。
ツアーに帯同したE.O.Uは、ポジティブでアッパーな雰囲気のなかにASMR由来のアンビエンスを併せ持ち、音楽の無限の可能性を感じさせるアーティスト。こちらもジャンルという箱には収容できない、ハイブリッドな魅力を持つ稀有な表現者だ。
入場してすぐ目に入ったのは、”架空の音楽グループ”を表明するSuperHotPeePoolSongsのアクト。ILIASフロアをキュレーションした〈yoyogiparty.jp〉〈ether〉チームとも呼応する、音楽表現に留まらない総合芸術は”観る音楽”とでも表現すべきか。解説無しに体験するインスタレーションは新たな刺激と示唆に満ちていた。
続くwoopheadclrmsは、レーベル〈Ukiuki Atama〉を運営し、E.O.Uと同じく愛知・岡崎を出自に持つ実験音楽家のホープ。この日はライヴセットで鎮静と狂乱を行き来する驚異的なアクトを披露していた。重く立ち込めるスモークがその迫力を殊更に引き上げ、幻覚のような陶酔で場に一枚の膜が張られたような錯覚を覚える。
陶酔感を引き継ぎ登場した宇宙チンチラは、昨今のアンダーグラウンドを席巻する新鋭DJ。ハイエナジーなプレイスタイルで知られる彼女だが、実は極めて繊細でナイーブな側面を持ち、今回はアンビエントトランスとJ-POPを縫い合わせるようなアクトを見せた。
スモークに包まれ、若干の緊張状態にあったフロアをORANGE RANGEや安室奈美恵のeditで上下させ、シームレスな形でTasho Ishiのライヴセットへパスする。ラッパー・TYOSiNのリミックス作リリースも記憶に新しい氏のミニマルかつ挑戦的なマシンライヴによって場のボルテージは徐々に上がっていき、とうとうGolinが登場した。
DJブースに佇み静かな始まりを見せたかと思えば、増設されたばかりのウーファーユニットをステージにフロアを熱狂させ、柔らかな水のような電子音とオートチューンでギャラリーを抱きしめる。ボイスエフェクトをここまで乗りこなすシンガーは他に類を見ない。終盤には後に控えるE.O.Uと楽しげに踊る素振りを見せ、言葉の無い会話を交わしながら”Shoganaï”というデジタルなラブソングでパフォーマンスを締め括った。
そしてE.O.Uによる自由極まりない珠玉のDJセットが披露され、先々の展開を一切予測できないスリリングさと約束された多幸感によって熱気の座標軸が際限なく上昇し続けていく。地球のサウンド全てが、彼の表現の引き出しのようにすら思える。できれば毎週、毎日体感したい。そうすればこの陰鬱さも寛解する気がする。
ラストを締めくくるShioriyBradshawがごく深い時間帯にシンゲリ(タンザニアのダンス・ミュージック)等を交えた高速トライバルサウンドを次々と繰り出し、空間を次のステージへ導く。セットを終えた後も、E.O.U・宇宙チンチラを交えたB2Bが明け方まで続いた。終幕に差し掛かって尚際限なく上がり続けるバイブスにただただ驚嘆させられた。
すべてが新しく、すべてがエクスペリメンタルな気配で統一されていながら、各人が自身のありのままの色を滲ませていくような日だった。たくさんの発見があり、Golinの来訪を祝したケーキの一口も振る舞われた。陽気で温かい、実験の夜。
パーティ終わりに何気なくシェアしたGolinの動画に、普段とは明らかに異なる反響が寄せられたことも印象的だった。DMでいくつも「何という名前の曲ですか?」「どんなアーティストですか?」と、それまで存在を認識していなかった層から質問が寄せられる。GolinとE.O.U、そしてパーティの全体的なエネルギーが現場とWebを融和させるような魔法を感じた。
Samuelspaniel - B3 - Shoganaï (feat. Golin)