REVIEWS : 043 洋楽ロック / ポップ・ミュージック(2022年4月)──宮谷行美
"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ数ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はReal Soundなどの音楽メディアでも活躍中のライター、宮谷行美がロック、その他のポップ、さらにエレクトロニック・ミュージックまで、洋楽のいま聴くべき作品9枚をレヴュー。
OTOTOY REVIEWS 043
『洋楽ロック / ポップ・ミュージック(2022年4月)』
文 : 宮谷行美
Beach House 『Once Twice Melody』
Cocteau Twins直系のフィーリングを持った、甘美で儚げなドリーム・ポップ・サウンドを軸に、アコギやスペイシーなシンセ・サウンド、生音のストリングのアンサンブルといった多彩な音色を取り入れ、ロックにもポップにも、サイケにも転じる珠玉の16曲は、最高傑作とも評された前作『7』のハードルを見事に越え、2000年代ドリーム・ポップの代表格としての貫禄を見つける。在るべき場所に在るべき音があり、そのすべてが絶妙なタッチで溶け込んでいるのは、セルフプロデュースならではの妙だろう。持ち前の柔らかさや浮遊感だけではなく、力強さが感じられるのもまた良い。シューゲイザーから民族音楽的な要素まで取り込んだ壮大なサウンド・スケープを描く「Modern Love Stories」は圧巻!
HEALTH 『DISCO::PARTⅡ』
LAの実験的ノイズ・ロック・バンドである彼らの新作アルバムは、インダストリアル・ロックの雄Nine Inch Nails にUSメタルの最高峰Lamb of God、そして“謎の美少女”として一躍話題となったPoppyなど豪華ゲストをジャンルレスに迎えた超大作に。特異的なエクスペリメンタル・エレクトロに、ブラック・メタル、ダンス・ミュージック、シンセ・ウェイブまで飲み込んだ12曲は、凶暴さのなかにダークな美しさを放っている。このダイナミックな躍動感や地鳴りのようなノイズは、ぜひとも爆音で堪能したい。また、近年はゲーム作品との繋がりも深い彼ら。本作にある「NO ESCAPE」は、ステルスゲームの金字塔『メタル・ギア・ソリッド』から影響を受けて制作されたというのもおもしい。
Mitski 『Laurel Hell』
無期限の活動休止中にあったMitskiが、再び表舞台に舞い戻る。“リアルな人間関係を語るラブソング”を求めて製作に挑んだ本作は、暗雲を晴らすかの如く、アップテンポでダンサブルな楽曲が集う。歌謡曲の影響をダイレクトに表すキャッチーなメロディに、80年代を思わせるレトロなシンセ・ポップ、さらにはドローン・サイケやR&B的なニュアンスを取り入れて極上のポップ・ミュージックを開拓するも、どろりとした重たさを感じさせるあたりが実に彼女らしい。根深い葛藤や苦悩、深い愛、そのすべてを曝け出し、鋭利な言葉としたたかな歌声で訴える。“インディー・ロック界のスター”という壇上から降り、“どこにも属さない”という彼女の初期のマインドを再提示する一作。