2022/04/20 17:00

第1回:「ネオ・草の根BBS」Discordで未知の音楽と出会うには?

連載 : 深淵Web音楽の覗き方──インターネット“レイヴ”とDiscord Vol.1

第1回
「ネオ・草の根BBS」Discordで未知の音楽と出会うには?

インターネットの深部でつながり、増殖を繰り返す音楽のうねり

4chan、reddit、Myspace、Tumblr、BandCamp、SoundCloud、Twitter、Instagram、Spotify、etc。 インターネット上における音楽の広まりの影には、いつの日も何らかのプラットフォームがハブとして機能してきた。インターネット初期には、草の根BBS・個人チャット単位での小さな交流スペースにはじまり、現代の巨大なSNSに至るまで、音源にまつわる情報、あるいは音源そのものが伝播するにあたっては、こうしたプラットフォームの存在抜きには語り得ぬものだろう。特にアンダーグラウドな音楽は、それぞれの同好の士が結び付きとんでもない早さで、さまざまなものが生み出され、そして消えていく。しかし音楽はときに、こうしたところで数人の間で生まれたものが、メジャーな音楽シーンを揺るがすような影響をシーンに残すこともある(いや、しかし、ここではそうではないもの“も”価値はあるのだと言いたい)。

本稿は、文筆業の傍らDJとしても活動し、血眼でインターネット上の音楽を漁り続けるNordOstが、目下情報収集の核として活用するDiscordと昨今の新たな音楽群との関係性を探っていく連載企画だ。また彼も参加する好評連載『In search of lost night』と合わせて、ポストSNSとも言えそうな、現在の刺激的なインターネット上のアンダーグラウンドな音楽の回遊方法を紹介していく。

新たなレーベル / アーティストフォーラムとしてのDiscord

文 : NordOst(松島広人)

”不和”を意味するアイロニカルな名称も特徴的なDiscordは、2015年頃にゲーマー向けのサービスとして誕生して以来、ここ数年ですっかり次世代のコミュニケーションツールとして定着した。その普及ぶりには、未だ続くパンデミックが社会に与えた変化も影響しているだろう。
Discordは個人間のテキストチャット・ボイスチャットのみならず、「サーバー」と称される招待制のコミュニケーション内に「チャンネル」という話題・目的別にディレクトリを区分けするスレッドのようなものを設置し、あたかもインターネット黎明期の「草の根BBS」であったり、mixiに代表される初期のクローズドなSNSのように運用することも可能な特徴を持つ。そのため、特定多数の人々が行き交い、拡散可能性のある「オープンな」SNSとも違った、複数の同好の士とのやり取りを楽しむこともできる「半クローズド」なプラットフォームとしての役割で、昨今では利用されている。

近年リバイバル的な人気を博しているゲーム/アニメ等のマルチメディア・コンテンツとして1998年に誕生した『serial experiments lain』には"WIRED”というネットワークが登場するが、Discord上の大小さまざまな「サーバー」はこれに近しい雰囲気を持つと著者は考えている。同作が誕生して20余年が経過した今でも新たなファン層を獲得していることには何らかの繋がりも感じられはしないだろうか?

また、Discordはその性質上、特定の趣味や共通目的を持つオンライン上のユーザーが交流する場として非常に有用なことから、インディペンデントな規模のウェブ・レーベルやアーティストのファンダムとしても盛んに利用されている。 たとえばアルカがファンとの交流のために立ち上げたDiscord「サーバー」〈MUTANTS MIXTAPE〉には世界中から多数のユーザーが押しかけ、常時数百人がこの記事を執筆中の今もオンライン状態で交流している。

同サーバーからはマイノリティ支援を目的としたチャリティ・コンピレーションアルバムもリリースされており、2022年3月時点で計6枚・320曲以上の先鋭的な音源がラインナップされている。アルカの新曲が毎回必ず収録されていることはもちろん、日本からも食品まつり a.k.a foodman、CVN、emamouse、Merzbow、tamanaramen(ZAHの客演として)などの面々が参加しており、場所やシーンの垣根なく創作・交流を可能とした同ツールの自由さと可能性を感じさせる内容となっている。 他にも、たとえば他にも、たとえばYung LeanやDrain Gang(Bladee, Ecco2K, Thaiboi Digital)などのリリースで知られる〈YEAR0001〉や、HexDムーブメント(注1)の火付け役となった〈Dismiss Yourself〉といった、近年注目を浴びるウェブ・レーベルも、それぞれ自身のオフィシャル「サーバー」をDiscord上で運営している。といった近年注目を浴びるウェブ・レーベルもそれぞれ自身のオフィシャル「サーバー」をDiscord上で運営している。「サーバー」の招待リンクに辿り着きさえすれば、誰もが各アーティストのWIP(制作過程)やリリースニュース、過去のレア・グルーヴや最新ジャンルについての情報などにリーチできる土壌が育まれつつある。

なお、プラットフォームの性質上大っぴらに各サーバーの導線を紹介することは憚られるものの、多くの場合BandCampやYouTubeチャンネルのBio欄を参照したり、SNSで数度検索をかければ紹介リンクを入手することは容易である。
上記のアルカの「サーバー」は下記のbandcampをどこかを参照のこと
https://mutants1000000.bandcamp.com/music
編注1 : HexDに関しては著者によるコチラの記事を参照
REVIEWS : 035 ビットクラッシュと実験:HexD/Surge~Leftfield Hiphop(2021年10月)──松島広人

Discordで脚光を浴びる過去のアーカイブと、続々と生まれる新興ジャンル

話は変わるが、あなたは普段どのように音楽を「掘って」いるだろうか。特に新譜について。 まず思いつくのはストリーミングサービスの提供する公式プレイリストだろう。もはやジャンルとして説明すべくもないHyperpopも、元を正せばSpotifyのプレイリスト名に過ぎない。あるいは機械学習による自動提案などを起点として、新たな音楽に触れようとする動きも主流だろう。

Spotifyのサービス自体に賛否はあるものの、2020年代以降突如として火が付いたブレイクコア・リバイバルの潮流を捉えた”Planet Rave” ”glitchcore/weirdcore vibes”といったプレイリストをはじめとして、水面下で起こっている新たなトレンドを観測する上ではやはり見逃せないところ

筆者のような人間は、bandcampやSoundcloudに無数に存在するジャンルタグを片っ端からチェックしたり、数千枚以上のコレクションを抱えるディガーの紹介や購入リストを参照したりすることもあるだろう。ただこのようなスタイルは、なにかを犠牲にしている偏執的な人種以外には若干の苦痛を伴うかもしれない。新規リリースを人力で追うだけでも限度はあるし、そこに旧譜・レアグルーヴ漁りまでが組み込まれるといよいよ彼岸が視界に入る。

そんな中、新旧さまざまな音源を掘るのに役立つのがDiscordという存在だ。レーベルやアーティストが運営するサーバーには多くの場合”music”チャンネルのようなものが設置されており、不特定多数のユーザーが自身のお気に入りをリンク付きでシェアしている。幾つか広げてみるだけでも、相当な発見が得られることは間違いない。 さらには、アーティストサイドだけでなくファン(ディガー)サイドの「サーバー」に辿り着くことができれば、より一層多種多様な「知らない音」の一旦に触れることも可能だ。先述したレーベル〈dismiss yourself〉なども、元は運営者のsticki氏がYouTubeに謎のレア音源をアップロードし共有する、といった極めて私的な目的で設立されており、同じように「音源の情報交換→レーベル設立」といった流れを辿った「サーバー」も複数存在する。日本の同人音楽などのニッチな辺境ジャンルがここ1,2年の間で大きく取り沙汰される事態を招いたのも、この辺りの動きが深く関係しているのではないだろうか。

以上がDiscordというプラットフォームと音楽の関係性に何かを感じ、熱にうかされ続ける筆者の走り書きである。次回以降にはより具体的なサーバー散策の方法や音楽の見つけ方、Discordをベースに活動するアーティスト/レーベルや発展を遂げた新興ジャンルの紹介、そして2022年現在水面下で盛り上がるムーブメントの様相などについても触れていきたい。 生活をないがしろにして不得手な英語を機械翻訳で日夜読み解き、ひたすらLenovoのディスプレイからブルーライトを浴び続ける不健康な人間がこれ以上増えないよう、インターネットの深淵の歩き方を指し示すことができれば、と願って。

関連記事

本稿著者も参加するクラブやライヴハウスなどのリアルな現場をレポートする注目連載

散在する「現場」を捉える連載【In search of lost night】がスタート──参加ライターによる座談会

この記事の筆者
NordOst

フリーライター/DJ。寄稿先にOTOTOY、AVYSS magazine、FNMNL、Soundmain、ダイヤモンド・オンライン、他多数。ZINE『MISTRUST 20-21』の共同編集を担当。 2021年よりDJとしての活動も開始し、K/A/T/O MASSACREやAVYSS 3rd ANNIVERSARY等に出演。bitcrush等のFXを大量に使用する強引なスタイルを取る。

【In search of lost night】レイヴやってみました

【In search of lost night】レイヴやってみました

【In search of lost night】単純にクラブ流行ってますよね? : 2023年も夜の街へ繰り出す座談会、後編

【In search of lost night】単純にクラブ流行ってますよね? : 2023年も夜の街へ繰り出す座談会、後編

【In search of lost night】単純にクラブ流行ってますよね? : 2023年も夜の街へ繰り出す座談会、前編

【In search of lost night】単純にクラブ流行ってますよね? : 2023年も夜の街へ繰り出す座談会、前編

REVIEWS : 055 ポスト・ハイパー時代のブレインダンス(2023年3月)──NordOst

REVIEWS : 055 ポスト・ハイパー時代のブレインダンス(2023年3月)──NordOst

【In search of lost night】2022年の印象に残ったパーティ【後編】 : 〈Keep Hush Tokyo〉、〈みんなのきもち〉、〈AVYSS Circle〉、〈SLICK〉──帰ってきた!?座談会

【In search of lost night】2022年の印象に残ったパーティ【後編】 : 〈Keep Hush Tokyo〉、〈みんなのきもち〉、〈AVYSS Circle〉、〈SLICK〉──帰ってきた!?座談会

【In search of lost night】2022年の印象に残ったパーティ【前編】 : 〈Keep Hush Tokyo〉、〈みんなのきもち〉、〈AVYSS Circle〉、〈SLICK〉──帰ってきた!?座談会

【In search of lost night】2022年の印象に残ったパーティ【前編】 : 〈Keep Hush Tokyo〉、〈みんなのきもち〉、〈AVYSS Circle〉、〈SLICK〉──帰ってきた!?座談会

越境するサウンド、実験と春の気配──〈Golin x E.O.U JAPAN TOUR 2022 TOKYO〉リポート

越境するサウンド、実験と春の気配──〈Golin x E.O.U JAPAN TOUR 2022 TOKYO〉リポート

「ネオ・草の根BBS」Discordで未知の音楽と出会うには? 『連載 : 深淵Web音楽の覗き方──インターネット・レイヴとDiscord Vol.1』

「ネオ・草の根BBS」Discordで未知の音楽と出会うには? 『連載 : 深淵Web音楽の覗き方──インターネット・レイヴとDiscord Vol.1』

TOP