理想郷は自分たちで作っていく──ひとつの“カルチャー”を目指すバンド、the McFaddinの新作EP
ミックスやマスタリングだけでなく、ジャケ写やMVなどのビジュアル面、さらにはライヴ演出までメンバー自らがほとんどを担当するthe McFaddin。本日リリースされた新作EPでも、バンド・サウンドとDTMを融合させた立体的な音像と、THE 1975などのルーツを絶妙な感覚で独自のポップスへと変換させるサウンド・メイクが際立っており、その優れたセルフ・プロデュース力を強く感じるだろう。また収録曲全てに通ずる透明感を表現した青いジャケット写真も素晴らしい。今回のインタビューでは、そんなDIY精神を重んじるバンド、the McFaddinの第一歩から現在までの軌跡を辿る。
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INTERVIEW : the McFaddin
the McFaddinが新しいEP『Something is likely to happen』を2022年1月19日(水)にデジタル・リリースし、1月29日(土)に渋谷WWW、2月12日(土)に大阪ANIMAでリリース・ライヴを行う。「バンド+バック・トラック」でもなく「DTMミュージック+生音」でもない、もっと両者が渾然一体となって新しいなにかになっているサウンド・プロダクトも、古き良きルーツ感と現在ならではの同時代性を併せ持ったメロディも、いまの現実に向き合った立ち位置から生まれてくるリリックも、メンバー内にVJがいたりしてバンドというよりクルーと呼んだ方がぴったりきそうな佇まいも、不思議な新鮮さに満ちているバンドである。で、その魅力は、まだ「じわじわと」だが、確実に世の中に浸透しつつある。改めてバンドの成り立ちから最新EPまでについて、京都在住のバンドのためリモートで話してもらった。
インタヴュー・文 : 兵庫慎司
僕の根底にあったのはポップスだった
──まず、どんなふうにはじまったバンドなのか、教えていただけますか。
Ryosei Yamada (Vo&Gt)(以下、Ryosei) : もともと大阪で、僕とTaitoが高校の同級生で、その1個下でAndo(Yu Ando/Dr&Cho)がいて。ニルヴァーナのコピー・バンドではじまりました。で、大学で、たまたまみんな京都に出て。
──曲を作りはじめたのは?
Ryosei : オリジナルの曲自体は、高2のときから作ってて。高校のときは、歪んでない音楽はクソだ、みたいな考え方があって。好きになる人は、死んでるか解散してるかで、生まれた時期を間違えた、っていう気持ちがすごいあって。ガレージっぽい曲をいっぱい作ってたんですけど。
──ニルヴァーナ以外は、たとえば?
Ryosei: THEE MICHELLE GUN ELEPHANTとか、めちゃめちゃ聴いてましたし。それぞれみんな、いろんな好きなのがあるんですけど。
Taito Katahira(Gt&Syn)(以下、Taito) : (忌野)清志郎とか。あとBO GUMBOSとか。
──たしかに誰かが亡くなってますね。っていうか、年齢のわりに、聴いてるものが古いですね。
Ryosei : 当時はそんな感じでした。
──要は、そのときに流行っているものじゃない音楽を聴いている同士で集まったってこと?
Ryosei : そうですね、完全に。
──で、京都で改めて活動を?
Ryosei: Andoが1個下だったんで、僕らの受験とAndoの受験で、2年間バンドが止まってるんですよ。それが終わって、京都でやりはじめて。ライヴハウス、MOJOとかに出はじめたんですけど、4人だったのが、高校の同級生のベースがやめちゃったりとかして。そこから、いろいろ変わっていった時期で……ガレージみたいな曲を、いまさらやってもしかたないってことに、ちょっとずつ気づいていって。
──なぜしかたないと思ったんでしょう。
Ryosei : もう、超えられないからです。時代で言うと、当時の流れ、空気みたいなものがあって、そこにはまった音楽で。いま、それをリバイバルとして好む人もいるだろうけど、僕の根底にあったのはポップスだったんで、だんだんそういう表現になっていった、っていう感じですね。
──根底がポップスというのは?
Ryosei : 僕は元々はポップスが好きです。子供のとき、親にカーペンターズをずっと聴かされていて、それがいまだに好きで。それで、聴く音楽が爆発的に増えていったのと、あと機材も変わっていったので。大学に入ったとき、メンバー全員同じパソコンを持ったんですよ。いちばんザコいMacBook Airを持って、その当時からもうGarageBandで遊んでて。それの延長でデモを作って、レコスタで録って、みたいな感じで最初のアルバムを出したんですけど。で、コロナ禍に入って、the McFaddin用のパソコンを、気合いを入れて買ったんですよ。いまはそれでTaitoが、ミックスからマスタリングまでやって完結させる、っていうところまで来ています。
Taito : 前はシンプルにロック・バンドやったんで、スタジオに入って、セッションからはじまって作ってたんですけど。元になる曲の作り方が変わりましたね。家で作るか、スタジオで作るかで。すごい時間をかけて曲を作れるようになりたかったんですよ。レコスタを1日借りて録りきるのが、お金もかかるし時間にも縛られてる感じあって。
Ryosei : 自分らで録って、ある程度まで作ったら、1回携帯で聴けるようにして、それで気になるところが出てくれば、また録り直して、気になるところがなければ次に進む、っていうのを、ひたすらくり返してます。だから、ちょっとずつブラッシュアップしていけるんですよ。あとやっぱり、音楽でメシを食いたいんで、DAWぐらい触れないと無理だろう、っていう考えもあります、根底に。
──でも、バンドの音にはするんですね。
Ryosei : まあ、僕らたまたまバンドなんで。
Taito : ライヴは絶対バンドでやりたいので。PC使って、DTMでライヴやってる人、昔と比べて圧倒的に増えてると思うんですけど。そういう人たちのライヴもいっぱい観てるんですけど、やっぱりバンド・サウンドの生音に勝てないと思うんですよ。その両方の良さを合わせられたらな、っていう考えはありますね。
Ryosei : でもほんまに、たまたまバンドやった、っていうのを、僕は最近はすごい思ってて。メンバーと会ってなかったら、ひとりでやってると思うんですよ。あと、メンバーが仲悪かったら、ひとりでやると思うんですけど、僕にはたまたまメンバーがいるから、バンドっていう。時代が時代なんで、パソコンで、DJセットでやっちゃえば簡単やし、バンドって機材もアホみたいに多いし、人数も多いし。ほんとにもう手間でしかないんですけど。