2021/11/02 18:00

REVIEWS : 035 ビットクラッシュと実験:HexD/Surge~Leftfield Hiphop(2021年9月)──NordOst(松島広人)

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(約3ヶ月以内にリリースされたもの)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は松島広人による9枚。なにやらインターネットの奥底で分裂と増殖を繰り返しつつある新たなジャンルを紹介します。(編)

OTOTOY REVIEWS 035
『ビットクラッシュと実験:HexD/Surge~Leftfield Hiphop(2021年10月)』
文 : NordOst(松島広人)

HexDあるいはSurgeとは……
2019年頃にSoundCloudの奥底で誕生した新興ジャンル。
明確な定義は未だ存在しないものの、ナイトコアやブレイクコア、ハイパーポップなどの影響を引き継ぎつつ、過剰なビットクラッシュ(サンプルレートを意図的に下げるエフェクト)を共通項としている(hexが「悪魔」の意で、悪魔崇拝との結びつきがあるとも………)。
アーティストのほとんどがDIYに活動し、インターネット・ミームと密接に繋がるシニカルさを内包したスタイルはヴェイパーウェイヴ以降の感性を思わせ、クラウドラップなどを強引に取り込む雑食感は「2020s」という時代の混乱を象徴するかのようにも見える。
ヒップホップの世界においてもPlayboi Carti『Whole Lotta Red』(2020)やTrippie Redd『Miss The Rage』(2021)以降"レイジ"と称される破壊的なサウンドが注目を集める昨今、ポスト・ニューエイジ~アンビエントなムードと二極化する過剰な「闇のトレンド」を追いかけたい。

Fax Gang 『Flatline』

今年1月に“HexD”の代表作となる1stアルバムをリリースした2021年最注目コレクティブが8月にリリースした最新シングル。「叙情的なメロディラインとエモーショナルなフック」というテンプレートをビットクラッシャーが完膚なきまでに破壊する、シューゲイザーのような雰囲気すら漂うアンセムだ。 Fax Gangはラップとリリックを担当するマニラ出身のPK Shellboyを筆頭に、maknaeslayer、Blacklight、NAIOKI、GLACIERbabyのプロデューサー4名を加えたグループで、4大陸・5ヶ国の壁を超えWeb上で制作を完結させるスタイルを取る。フッドや性別、年齢といった要素を一切共通項とせず、コミュニケーションアプリ「Discord」のサーバーを拠点とする活動スタイルには『serial experiments lain』に登場したハッカー集団「ナイツ」の姿が重なる。新型コロナウイルスの脅威がこのまま終わろうが(あるいは再び危機に晒されようが)、どんな形であってもフレキシブルに動ける彼らのさらなる飛躍に期待せざるを得ない。

Xxtarlit⚸ 『FRENZY』

2017年に「Dismiss Youself」というアカウントがYouTubeに登場して以降、ジャンルを問わず歴史に埋もれた名盤が再発見される機会が大きく増加したように思われる。その代表例がPANCHIKO『D>E>A>T>H>M>E>T>A>L』だが、それと双璧を成す存在が“HexD”誕生のきっかけとなる『Rare RCB hexD.mp3』https://www.youtube.com/watch?v=0JstyqsNBDkだ。
トラップを異常な低ビットレートで繋いだ15分ほどのDJミックスには同じく荒々しい画質の「To Loveる」のヒロイン、ララ・サタリン・デビルークのファンアートがジャケットとして採用され、ジョークともシリアスともつかない魅力を演出している。ヴェイパーウェイヴをはじめとするネットミーム的な文脈を持つ音楽群と比較すると、やはり“HexD”は「低ビットレート」であることが共通項であるようにも思われる。
そんな〈Dismiss Youself〉は現在ネットレーベルとしても勢力的に活動を続けている。中でも本作、Xxtarlit⚸『FRENZY』は派生したサブレーベルの〈care〉から10月にリリースされたばかりの24曲入アルバムだ。その内容はダークなトラップからインダストリアルなビート、激しいブレイクコアと多岐にわたり、アルバムというよりプレイリストに近しいテンションを感じさせる。 意味性を放棄するようなアーティスト名とトラックタイトル、破壊的な音像、著作権無視のアートワーク、ジャンルの大胆な横断、そしてハーシュノイズのように響き渡るビットクラッシュ。“HexD”を理解する上でぜひ一聴しておきたい1枚と言っても過言ではないだろう。

Rat Jesu 『Emo Girl Ex Machina』

近年のWebムーブメントで存在感を増す“エモ/ゴス”的な意匠を取り入れた活動スタイルが注目を集めるアーティスト、Rat Jesuの最新作。本作にてRat Jesuはボーカルのほかギターも担当し、世界各地で沸き起こるロック・リバイバルの空気が詰まった1枚となる。 こちらも前述したネットレーベル〈care〉からのリリースとなり、エクスペリメンタルな雰囲気とオーバーグラウンドな陽気さが同居する不思議な仕上がりにパッケージングされている。 日本のインディシーンをジャンルレスに彩る〈SPEED〉や〈HEAVEN〉といったコレクティヴとも近しいバイブスを感じる作風で、そのポップセンスをビットクラッシャーが上書きする破天荒さがひたすら痛快だ。タイトルの由来となった「デウス・エクス・マキナ(機械仕掛けの神)」とは、演劇や物語作品を終幕に導くための存在を指すが、そこにEmo Girlを代入するセンスには「AIR」「CLANNAD」といったアニメ・ゲーム作品が持つ超展開のダイナミズムも想起される。

この記事の筆者
NordOst

フリーライター/DJ。寄稿先にOTOTOY、AVYSS magazine、FNMNL、Soundmain、ダイヤモンド・オンライン、他多数。ZINE『MISTRUST 20-21』の共同編集を担当。 2021年よりDJとしての活動も開始し、K/A/T/O MASSACREやAVYSS 3rd ANNIVERSARY等に出演。bitcrush等のFXを大量に使用する強引なスタイルを取る。

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