2021/11/04 19:00

キュートだけじゃない! さとうもかの新作『WOOLLY』が描く、リアルでちょっとビターな共感

さとうもか

甘いようで、甘くない。時には、苦しいくらいリアルな歌詞を綴るシンガー・ソング・ライター、さとうもか。弾むようなポップ・サウンドも相まって、tofubeatsやaikoらも絶賛するなど、著名人からも支持されている彼女。だが、その存在は不思議とすごく近くに感じられる。きっとそれは、さとうもかの考え方を素直に綴った歌詞に、リスナーが多くの“共感”を覚えるからだろう。例えば、リード曲“Woolly"の「“私くらいしか君のこと分かれない” それが幸せだと思ってた」や“いちごちゃん”の「何もいらないけど 何かが欲しくて 何が欲しいかは分からない」なんて言葉には、思わず「うん、うん」と頷く人も多いのではないだろうか。そんなちょっとビターな共感がぎゅっと詰まった新作アルバム『WOOLLY』について、丁寧に解説してもらった。さらに記事の後半には、“いとこだったら”にフィーチャリングとして参加しているアーティスト、Momとのメール対談も掲載。ふたりのやり取りもぜひ一緒に楽しんでもらいたい。

さとうもかの新作音源はこちら


INTERVIEW : さとうもか

5月にEP『Love Buds』でEMI Recordsからメジャー・デビューしたさとうもかが、通算4枚目のアルバム『WOOLLY』をリリースした。シングルの3曲をすべて収録し、インディーズ時代の人気曲“melt bitter”も新たにレコーディング。岡山と東京でメンバーが異なるさとうもかバンド(東京バンドは新たに結成)をはじめ、ESME MORI、Mom(曲作りと歌唱も)、森善太郎、森川祐樹、そしてさとう自身がアレンジを担当し、ヴァラエティ豊かなサウンドでリスナーを魅了している。岡山から東京への 移住と新しい暮らしのなかで「本当にいろいろあった」というさとうの現在を余すところなく詰め込んだ13曲を、1曲ずつ解説してもらった。なお筆者は 『Love Buds』のリリース時にも話を聞いたので、“Love Buds” “Destruction” “いちごちゃん“の3曲については、こちらも読んでみてください。

インタヴュー・文:高岡洋詞
カメラマン:宇佐美亮

新作はユニバーサル・スタジオ・ジャパンみたいな

──東京暮らしには慣れましたか?

さとうもか(以下:さとう) : ちょっとずつ慣れてきてますね。こないだ浅草に遊びに行きました。あ、CDできましたんでどうぞ。

──ありがとうございます。かわいいデザインですね。かわいいといえば、YouTubeでもかさんのMVを見るとコメント欄に「かわいい」という書き込みがたくさんあるのがおもしろいです。僕個人はもかさんの曲には「かわいい」では済まない感情も描かれている気がしますが、そのこと自体が「かわいい」という言葉の多義性を象徴しているのかなと。

さとう : 歌詞は決してかわいいものではないと思いますけど(笑)、自分で曲を作るときも「かわいい」は意識してるんです。どこで意識してるかっていうとわかんないけど、「かわいい」ってけっこう広い意味で使われてる感じがありますね。自分のなかだと「かわいい」には「さみしい」とかも含まれるし、人に言えない気持ちを秘密にする姿も「かわいい」に入るなとか、すごくひどいことをすることも「かわいい」に入るんじゃないかとも思ったり。ただ、どこを指して「かわいい」とコメントしてくれてるのかはわからないです。絵かな?

さとうもか - melt bitter(Official Music Video)
さとうもか - melt bitter(Official Music Video)

──絵もそうだし、曲調、声、歌い方、楽器の音色など、総合的なものなんでしょうね。

さとう : まずはそこから入ってもらえたらいいのかなって。わたしもかわいいものはすごく好きなんですけど、さらにもう一歩進んだ「かわいい」を発見してほしいなって思います。

──「かわいい」の解像度を上げていくとこのアルバムの収録曲みたいになりそうですね。僕は前作『GLINTS』がすごく好きで、当時の新境地であり集大成だと思ったんですが、今回はかなりトーンが変わりました。

さとう : わたし的には『GLINTS』はディズニーランドみたいな感じで、新作はユニバーサル・スタジオ・ジャパンみたいな(笑)。曲調も歌詞も、ちょっとクールな感じになったんじゃないかなって思います。


──そこは1年分大人になった?

さとう : 上京とかメジャー・デビューとか、1年でいろいろあったっていうのもありますね。『GLINTS』がめっちゃ陽キャな雰囲気に仕上がったから、同じ感じじゃないストック曲もたくさん出来たんですけど、実はそれはほとんど新しいアルバムには収録してなくて。リリースされてるやつを除くと、“Weekend”以外全部、最近書いた曲です。

──サーフ・ロックあり、オルタナティヴ・ロックあり、R&Bにヒップホップにジャズ・ソングにバラードに……とサウンドは今回も幅広いですね。歌詞が比較的ラヴ・ソング色が強い気がします。

さとう : “Woolly”とか先行配信してる曲はラヴ・ソング寄りですね。最近書いた曲は、岡山から東京に引っ越した理由にもなったいろんな出来事とか、そのなかで感じた葛藤とか、東京に来てから思ったこととか、その過程をそのまま曲にしたのが多いです。

──ラヴ・ソングとしても聴けるけど、実は引っ越し前後のさまざまな感情が描かれているわけですね。

さとう : ステージもちょっと大きくなって、ずっとファンの人たちと近い距離でライヴをしてきたから、会えなくなったりするのにすごく違和感があって。さみしいし、「本当にこれでよかったのか」とかも考えたんです。でも、そういう悩みをディレクターさんをはじめ、EMI(レコード会社)の人たちが一緒に考えてくれて、岡山のメンバーともまだ作りたい曲があるし、東京で新しいメンバーとも知り合って挑戦していきたい、っていうわたしの望みが全部かないました。

──さとうもかバンド from 岡山とやったサーフ・ロック調の“Weekend”は、もかさんの曲にはちょっと珍しく「つまんない男だと言われフラれた」男の子の立場で歌っていますね。

さとう : はじめて男目線で歌った曲です。学生時代に何につけてもあんまりやる気のない同級生がいて(笑)、やる気を出さないと、いまこの瞬間は楽できても、どんどん積み重なっていったらめっちゃやばいことになるんじゃないか? って思って作りました。

──「流れだけで生きてきたツケは 永遠にゆっくりついてくる」ですね。「レンタルしたビデオのケース」というのも延滞しっぱなしみたいな?

さとう : 週末にはビデオを見るぐらいしか楽しみがないし、そのビデオ屋の店員さんのことが気になってるけど、ずっと声もかけやしないみたいな(笑)。学生時代の記憶が新しかった4~5年前に、そのときの思いをバーッと書いた曲ですけど、なぜかアルバムの1番に入れたいとずっと思ってたんです。当時はフランス・ギャルの“Jazz à gogo”みたいな曲にしたかったんですけど、バンドでライヴを重ねていくうちにロック・ヴァージョンができてきました。

この記事の筆者
この記事の編集者
梶野 有希

1998年生まれ。誕生日は徳川家康と一緒です。カルチャーメディア『DIGLE MAGAZINE』でライター・編集を担当し、2021年1月よりOTOTOYに入社しました。インディーからメジャーまで邦ロックばかり聴いています。

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