2021/01/25 19:00

REVIEWS : 012 国内インディ・ロック(2021年1月)──梶野有希

“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2〜3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介してもらうコーナーです(時に旧譜も)。さて今回は、OTOTOYのニュー・カマー・スタッフ、梶野がお届けします。お題は国内インディ・ロック9選です。

OTOTOY REVIEWS 012
『国内インディ・ロック(2021年1月)』
文 : 梶野有希

Half time Old『CRISP YELLOW』

名古屋発のロック・バンドHalf time Oldがミニアルバムをリリース。本作は自粛期間に制作されたこともあり、刺激のない暗闇だからこそ見つけ出したロックへの想いと、昔から歌っている「最後には必ず前を向く」という姿勢がより顕著に現れている。これまで以上に鬼頭のパーソナルな一面がより濃く写し出されている“達磨”やベース内田のルーツであるファンク要素を感じる“2020”などにも注目したいが、ギターロック色が濃いキャッチーな“OverEats”のバックも聴き逃せない。Aメロのベースから始まり、続いてドラム、サビのギターと順で見せ場が設けられているのだが、自身が目立たないセクションでは音の引き算が丁寧に行われている。Spotify上の「人気の曲」欄にアップテンポな曲が多いのは、そういう緻密な計算が故だろう。鬼頭(Vo/Gt)の人生観が反映されたリリックと、個性的な歌声を引き立てるバランスの取れたリズム隊のアレンジ力というHalf time Old最大の魅力がハッキリと示されており、初めて聴く人にも自信を持って推める作品だ。

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LAMP IN TERREN『FRAGILE』

これは陽だまりのなかの音楽だ。聴きながらそんなことを思った。ライブハウスでの力強いパフォーマンスには毎回圧倒させられるが、自宅でひっそりと聴くLAMP IN TERRENはこんなにも柔らかく暖かいのか。本作は社会と個々の向き合い方を問い、世の中の明暗を10曲に渡り、表現している。アートワークに記された不条理な時勢を表す「ONLINE」と前向きな「AMAZING REAL WORLD」の英字が対照的に並んでいることにも納得がいくだろう。歪な緊張感が漂うタイトル曲“Fragile”は、彼らの想いや希望、すなわちアルバム全体を牽引する存在を担い、シンプルな構成が“繋がることのすばらしさ”というアルバムのメッセージを際立たせている。社会に一石を投じる意欲作でもあり、いまに送る皮肉な賛美歌でもある本作は、LAMP IN TERREN (この世のわずかな光)というバンド名に敵った完成度の高い1枚に仕上がっている。

マカロニえんぴつ『愛を知らずに魔法は使えない』

今年で活動9年目を迎えるマカロニえんぴつ待望のメジャー初EP。決して早咲きとは言えないが、メンバー全員が音大出身という強みを活かしながら、ポップスとロックを融合した独自の音楽性を地道に確立してきた。キャリアの長い彼らがようやく掴んだメジャーデビューという1つの目標を達成し、そこで鳴らす音楽はどのようなものか。全曲を通して言えることは、予測できない豊かなアレンジが施されているということだ。ルーツとして公言しているユニコーン風のサウンドメイク、はたまたシティ・ポップやR&Bなどの要素も堪能できる。また収録曲で唯一、長谷川(Key)が作曲を務めた“ルート16”は、はっとり(Vo)のソウルフルな歌声を引き立てながらも、リズミカルなキーボードと脆さを包み込む自然体な“マカロック”節が混ざり合った軽快な1曲であり、アルバムにスパイスを加える存在となっている。

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Hakubi「アカツキ」

哀愁帯びたキーボードとギター、たった2つの楽器で奏でられる洗練されたイントロから始まる。そっと物語る寂しげな歌声がサビで力強いものに化けた瞬間、すべてはこのときのためだったのかと驚く。京都発のバンドHakubiの楽曲はこれまでもサビで一皮むけてきたが、聴くたび片桐(Vo/Gt)の声にはハッとさせられるのだ。そんな圧倒的な歌唱力を武器に、本作で京都発の3ピースバンドHakubiはメジャーデビューを果たした。東日本大震災を経験した福島の人間模様を映したドラマ『浜の朝日の嘘つきどもと』の主題歌に起用されており、ドラマの内容に寄り添いながらも、不器用な主人公像とメロディアスなコード進行というHakubiらしさも健在している。間奏の壮大なストリングスや緩急があるダイナミックな展開に背中を押され、少しずつ歩みを進める様子がなんとも美しい。

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ユレニワ「Birthday」

昨年2月に初の全国流通盤をリリースしたユレニワ。3年ほど前からバンドの行末を見ているが、彼らはずっと泥臭い。トレンドに流されることもなく、なにかに抗うような不完全なロックをずっと鳴らしている。その“なにか”は現実なのかもしれないし、はたまた自分自身なのかもしれないが、多方面にハングリー精神を抱えるユレニワだからこその全国進出だろう。さて作詞作曲を務めるシロナカムラ(Vo/Gt)の誕生日3日前にリリースされた「Birthday」は、内省的なシューゲイザーと終始不安定なピッチが不穏を演出しているが、どうしてか夢心地になる。後半の波打つベースラインと続く神秘的なコーラス、ノイジーなエレキとクリアなアコギの軽やかなコンビネーションに無意識に癒されているのだろうか。経年変化の切なさが綴られたリリックは鬱屈としているが、終盤に繰り返される英詞はどこからか解放感を連れてくる。不均衡なようで、均整のとれた本作は、まさにユレニワの矜持だ。

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秋山黄色「サーチライト」

絶え間なく鳴り響くエレキギターや単純明快なドラムなど聴こえてくる音は鋭利でシンプルだが、普段隠している傷を癒してくれるハートフルソング。土曜ナイト・ドラマ『先生を消す方程式。』の主題歌としてリリースされ、MVはYouTuberである水溜りボンドのカンタが手掛けている。作詞作曲に止まらず、映像制作やアートワークなども自身で手掛けるというDIY精神をもつ秋山黄色に、複数の外部的な要素が加わり、新たな化学反応が楽しめるシングル曲である。日々生じる汚れや葛藤を生々しく叫んだ歌声とネット発のアーティストらしいキャッチーなサウンドの融和が素晴らしく、「生きるのが上手いってのは傷つけるのも上手いんだよ 自分のことすら」「弱さと生きる事は楽じゃない 強さもきっとロクなもんじゃないよ」というフレーズには思わず心を掴まれた。

reGretGirl “グッドバイ”

ポップなサウンドと女々しい歌詞が共感を呼ぶreGretGirl。幅広いテーマを歌うバンドも多いが、彼らは今日まで一貫して“失恋”だけをひたすら音楽にしてきた。しかし本作で描くのは、これまでと異なり、失った恋ではなく、いまも隣にいる恋人への心情だ。と聞くと、思わず幸せなふたりを想像してしまうが、そこはさすがのreGretGirl。シングルベット、いつか冷めてしまう食後の珈琲など独りを連想させるものたちから日常に転がっている不安を次々と掬い上げ、離れてしまう気がする恋人へ送る捻くれたラヴソングに仕上げている。Cメロのエコーは、胸の内を尋ねることを我慢している気持ちを引き立て、軽やかなカッティングやスラップは雑念をうまく誤魔化す材料となっている。恋々とした想いを和らげるのはいつだって音楽なのかもしれない。

キタニタツヤ「白無垢」

ボカロPから始まり、現在ではヨルシカのベーシストとしても活躍するキタニタツヤは、ダークな世界観をストーリーテリングで表現するソロシンガー。彼の曲には、“悪魔の踊り方”や“悪夢”と人気曲のタイトルに止まらず、他曲のリリック中にも度々“悪”という文字が並ぶ。キタニタツヤと聞いて、希望など輝かしいなにかを思い浮かべる人は少ないだろう。そう考えると、「白無垢」と題された柔らかな本曲は、メロウな異色作と言える。触れたら溶けてしまう儚ない想いが抽象的に綴られており、これまでのアダルトな人物像から一変し、心の内をポツリと明かしていく無垢な子供みたいだ。徐々にコーラスやキーボードなどが雪のように積もっていく飽きのない展開が印象的であり、ビート・ミュージックやジャズ的要素を含ませつつ、ゴスペル的なコーラスも取り入れられている。YouTubeに投稿されているインスト版では、表情豊かなバックサウンドが堪能できるのでぜひ聴いてみてほしい。

神はサイコロを振らない 『文化的特異点』

“夜永唄”が大ヒットし、昨年で一躍名を馳せた神はサイコロを振らないのメジャー初EP。止まらぬ勢いを見せ続けている彼らを引っ張る柳田(Vo)がギターを握り始めた頃の姿を初々しく描写した“パーフェクト・ルーキーズ”から幕を開ける。続いて惰性を拭うストイックな精神論が綴られた“導火線”が続き、最後は焦燥感と安らぎの間を彷徨い続けるバラード“目蓋”で締めくくる、まるで下積み時代から現在までの足取りを記録したようなアルバムである。さらにさまざまなアーティストが一発録りで自身の楽曲を披露するYouTubeチャンネル〈FIRST TAKE〉で披露された“夜永唄”と“泡沫花火”の2曲が収録されており、神はサイコロを振らないの強みである至極のバラード曲が臨場感ある音質で楽しめるため、こちらも注目していただきたい。

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