2020/05/14 10:00

【Save Our Place レポート】for the future──コロナ禍と向き合う京阪神のポップ・カルチャー 後編「映画関係者の思い」

元町映画館

関西で活動するライター石塚就一 a.k.a ヤンヤンが「京阪神のポップ・カルチャーはコロナ禍とどう向き合っているのか」をテーマにお届けしているレポート、〈for the future〉。ラッパーたちに焦点をあてた前編、クラブイベンターに焦点を当てた中編に引き続き、最終回となる今回はコロナ禍と戦う映画関係者たちのリアルな現場の声をお届けします。

前編「ラッパーたちの思い」はこちら

for the future―コロナ禍と向き合う京阪神カルチャー 前編「ラッパーたちの思い」

中編「クラブ、イベンターたちの思い」はこちら

for the future―コロナ禍と向き合う京阪神のポップカルチャー 中編「クラブ・イベンターたちの思い」

for the future──コロナ禍と向き合う京阪神カルチャー

徐々に増えてく活動拠点
周りの白い目 なんともねえ
これってあれっしょ?そう通過儀礼
行けるとこまでただ突っ走れ
(KBD a.k.a 古武道 “GO OUT GO BACK” )

前編でインタヴューさせてもらったKBD a.k.a 古武道さんの楽曲 “GO OUT GO BACK”(『PLANET OF KBD』収録)は、梅田サイファーの面々が積極的に東京のイベントにも出場するようになった時期をリリックに反映しているという。すでに大阪ではプロップスを集めていたにもかかわらず、KBDさんたちはあえてアウェイの空気に飛び込んでいった。そこで受け取った刺激、出会いが梅田サイファーでの活動へと還元されていったのだ。
それならば、この取材の最後も筆者のホーム・グラウンドに戻って締めくくりたい。関西で映画館や映画祭を運営する人々にコロナ禍の状況を率直に教えてもらった。

インタヴュー&文 : 石塚就一 a.k.a ヤンヤン

INTERVIEW : 林 未来 (元町映画館)

林 未来

反響の大きさにどうやって応えていくのかを考える機会

元町商店街は神戸市にある昔ながらの風情が印象的な場所だ。2010年、元町映画館は映画ファンたちが資金を出し合う形で開設され、商店街の一員となった。そして、独自の企画上映や名作の特集などで、着実に注目度を高めていった。2019年には地元発のインディペンデント映画『みぽりん』を盛り上げ、全国展開の後押しをしたのも記憶に新しい。

ただ、コロナの感染拡大と兵庫県からの休業要請を請けて、元町映画館は4月15日から休業に追い込まれてしまう。そして、この状況は大手映画会社のような資金力を持たない、いわゆるミニシアターにとって致命的な事態を意味した。

「3月末から4月に転げ落ちるように状況がひどくなり、そのまま休館となります。ただ、要請に従って休館にした、と説明するのは悔しい思いがあるんですよね。なんとなく意固地になってしまうんです。いつもの場所でいつものお店が開いている日常を守りたかったんですけど」

2013年から支配人を務める林未来さんは語る。補償がどうなるかも分からないままでの休業。それがいかに不安かは、自身もミニシアター勤務の経験を持つ筆者にもよくわかる。元町映画館に限らず、多くのミニシアターが政府や行政から選択肢を与えられないまま、半ば強制的に休業という道を選ばされたという思いを抱いているのだろう。もちろん、休業が結果的に正しい選択だったかどうかは別の話だ。

元町映画館

それでも嘆いてばかりではいられない。コロナ禍を乗り越えるべく、京阪神のミニシアターは4月初頭に「Save our local Cinemas」というプロジェクトをはじめる。発案者は京都みなみ会館の吉田館長だった。関西13劇場のロゴが入ったオリジナルTシャツを販売し、売上を分配する取り組みだ。SNSなどで発表されたあと、あっという間に予約が殺到してTシャツは売り切れとなった。

「吉田さんとシネ・ヌーヴォの山崎支配人、私の3人は普段からすごく仲が良いんです。いつもLINEグループでやりとりをしていて。『Save our local Cinemas』も吉田さんから『こんなことできないかなあ』という提案があったんです。それから3人で話し合い、3日くらいで形にしました。1週間限定のプロジェクトにしたのは、すぐ劇場にお金を入れないと苦しい状態だったからです。想像をはるかに超える反響があってびっくりしましたね」

時期を同じくして全国のミニシアターも連帯した。著名な映画人たちが呼びかけ人となり、劇場への休業補償の必要性を政府に訴える署名運動「ミニシアターを救え!」プロジェクトが発足、5月5日時点で5万人を超える賛同者を集めている。また、クラウド・ファンディング形式の「ミニシアター・エイド」基金にも5月5日で約2億3千万の支援がなされた。Twitter上には「#SaveTheCinema」のハッシュタグがあふれている。

「ただただありがたいですね。一方で、反響の大きさに戸惑いもなくはなくて。でも、『映画館をなくしたくない』という思いがあるのは本当で、これからどうやって応えていくのかを考える機会になっていると思います」

元町映画館は複数のオンライン上映にも参加している。

「映画館と配信の共存の道がようやく開かれたという期待もありつつ、映画館にできることを見つめ直しています。その方向性さえきちんと示せるなら、お互いに役立ててより多くの方に映画を届けられるんじゃないでしょうか」

コロナ収束後、進化した元町映画館へ通える日を心待ちにしたい。

元町映画館

元町映画館 公式サイト
http://www.motoei.com/


元町映画館が参加しているオンライン上映情報
http://www.motoei.com/post_event/motoei_online/


#SaveTheCinema 「ミニシアターを救え!」プロジェクト
SaveTheCinema署名ページ

未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援
ミニシアター・エイド (Mini-Theater AID) 基金
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid

INTERVIEW : 田勢奈央 (京都国際子ども映画祭)

田勢奈央

いまは次に向けての何かを吸収している時間

京都市にはかつて、映画館が街中にあふれていた。いまでもシネコンやミニシアターはあるものの、昭和の面影を残す昔ながらの劇場は成人映画館を除き現存していない。そのかわり、映画文化は映画祭という形で受け継がれ、さまざまな団体が独自の路線を押し出している。NPO法人のキンダーフィルムフェスト・きょうとが主催する〈京都国際子ども映画祭(以下、子ども映画祭)〉も毎年、夏休みに開催されてきた。なんと、映画祭運営から司会進行、コンペティションの審査員、外国映画の吹き替えまでを子どもたちが担当する映画祭だ。

2019年に第25回を迎えた歴史を誇るが、コロナ禍の影響により、2020年の開催はまだ不透明だ。感染拡大防止のために外出自粛をする以上、子どもスタッフと集まってミーティングすることもできない。しかし、〈子ども映画祭〉ではユニークな取り組みで子どもたちが映画と接する機会を守っている。子どもたちをサポートする、大人スタッフ代表の田勢奈央さんがインタヴューに答えてくれた

「3月の頭くらいに、〈子ども映画祭〉で上映する映像の撮影がコロナで無理になって。でも、子どもの経験を奪うのはもったいないと思って、映画の感想会をはじめたんです。オンラインで子どもたちと映画の感想を述べ合う会を定期的にやっています。なるべく配信で観られる映画を課題に選ぶようにしていますね」

オンライン映画感想会の様子

ビデオ会議ツールを使っての感想会では、大人たちが気づかされる点も多いようだ。

「『ワンダー 君は太陽』という映画で、主人公の子どもが『ペスト菌』って言われるシーンがあるんです。それをコロナと関連付けて、『そんなこと言うと悲しむ人がいる』と感じた子がいたり。あと、主人公のお姉ちゃんに感情移入している子もいました。『自分だったら弟にあれほど優しくできない』とか。大人よりも子どものほうが細かく見ていて新鮮でしたね」

ただ、筆者は映画好きの大人として、子どもスタッフたちが映画祭運営という貴重な機会から遠のいていることに不安も覚えてしまうのだが。

「子どもスタッフのほとんどは去年から引き続き参加してくれているんです。そこに新しい子どもが加わっていて。うちの映画祭って開催中の数日間は、全国から集まった子どもたちが濃密な空間を共有するんですよ。その高揚感が残っていると、いまでも仲間がいるっていう気持ちになるんです。だから、感想会でも後ろ向きな雰囲気はなく。むしろ、次に向けての何かを吸収している時間なんだなと感じていますね」

そんな中、子どもスタッフが自分たちで映像制作を行う取り組みもはじまった。Facebookにて、個性的な作品が次々とアップされている。コロナ禍へのメッセージが詰まっていたり、趣味の裁縫を発表したり、アニメーションを作ったり…… 作風は見事に十人十色だ。

京都国際子ども映画祭

「みんな平凡な日々を楽しく生きてて、いまだからこそできることですよね。学校の勉強とも違う創造的な取り組みとして活用してほしいです」

〈子ども映画祭〉そのものの展望も気になるところだ。

「コロナが夏休みまでに収束したとしても、今年はこれまでと同じ規模の映画祭は難しいと感じています。野外上映やドライブインシアターなども検討していますね。子どもたちとのワークショップもオンラインで行う方法を模索しています。2020年、コロナの年の映画祭としてなにかしらを残したいとは思っています」

大人のフィルターを外した目に映る、コロナ禍の世界。子どもたちの経験がどのように映画祭の原動力となるのか、注目だ。

京都国際子ども映画祭/キンダーフィルムフェストきょうと
https://www.facebook.com/kinderfilmfestkyoto

京都国際子ども映画祭
https://www.kff-kyoto.com/filmfestival

INTERVIEW : 井本 修 (京まちなか映画祭総指揮)

井本 修

さて、ここまで筆者は自分にとって「外部」である人々の声を取り上げてきた。筆者は取材開始当初、自分が決して良い境遇になかったこともあり、きっと重苦しいインタヴューが続くのだろうと予想していた。そして、彼らの苦しみを広めることが自分の使命になると気負ってもいた。しかし、実際には、前を向いてコロナ禍を戦い、明るい未来へと手を延ばそうとする人々の姿に勇気づけられる瞬間ばかりだった。 この経験で得た気づきをどのように自分の活動へと生かせるのか。最後に、筆者と〈京まちなか映画祭〉総指揮のイベンター、井本修さんとの対話を掲載して、この連載を締めくくろう。毎年11月ごろに開催されてきたこの映画祭で、筆者は去年からプログラム編成を行っている。そして、井本さんは筆者の師であり、兄貴分にあたる存在だ。今年の開催については未定の部分が多い。それでも我々は前進を続けられるのだろうか?

コロナ後は恐怖を振り払うために大量のイベントが発生する

──うちの〈京まちなか映画祭〉って適材適所なところがあって、みんなで能力を補い合っていますよね。

井本:『三国志』よりも『水滸伝』の世界かな。1人の英雄がいるんじゃなく、個々の集合体で運営している。その中で石塚は企画を、俺は実務を担っているんやと思う。

──でも、俺はコロナでけっこう打撃をくらってしまって前向きな発想ができなくなっていました。

井本:俺はコロナのせいで仕事のない状況に慣れてしまったよ(笑)。でも、必ず次があると思っている。コロナが収束した後に襲ってくるのは恐怖やから。それを振り払うために、大量のイベントが発生するはず。必ず人手不足が起こるので、俺ぐらいのそこそこのポジションでも仕事が押し寄せてくる。映画祭も含めて、半年くらい無休になるかもね。それを想定して、いまは割り切ってゆっくり休んでます。

──なるほど。

小林達夫監督『合葬』上映の様子

井本:仮に収束しなかったらみんな平等に終わりやん(笑)。それならしゃあないし。

──まあ、サード・インパクトみたいなもんですよね。

井本:俺は絶対に「自分だけがしんどい」とは言わないタイプ。あと、いまは補助金申請とか動画関係の勉強したりとか。いろいろ準備してるよ。

──新型コロナウイルスが収束したあと、うちの〈京まちなか映画祭〉もそうですし、世の中全体でどんなイベントが求められると思いますか?

井本:良い意味でぬるいやつ。優しくてふわふわした感じ。コロナの反動で、人と人の距離を近くするものが絶対に来る。そんなものが量産されたあとで、質の低いものから置き去りにされていくやろうね。

──結局は本物が残っていく。

井本:Youtubeとかでも、いつの間にかみんな動画をアップしはじめて質の低い投稿も増えたやん? でも、そうなるとトップのレベルが上がっていくわけよ。下と明確な差をつけなあかんから。コロナ収束後のイベントはそういう戦いになっていくかな。

飯塚貴士&宇治茶監督ワークショップ

──僕は今回の取材で、ヒップホップの人たちとたくさん話したんですけど。あの人たちって、風営法問題のとき槍玉に挙げられたりとかして、戦うことへの経験値がものすごく高いんですよね。戦う相手も手段もはっきりしているから、闇雲に他者を攻撃したりしない。むしろ、すごくピースフルなんです。

井本:負のエネルギーがパワーに変わればいいんやけど、「なんでも怒るおじさん」になるのは良くないね。いまコロナがあるのは仕方ないとして、「コロナに支配されている世界」と「されていない世界」があると思う。どっちの世界の割合が多くなってほしいか、イベントをやる側は問われているよな。

京まちなか映画祭
https://www.kyomachinaka.com/day/

あとがき

井本さんとの会話は延々と続いたのだが、ひとまずここで区切りをつけたい。ここまでお伝えしてきたように、コロナ禍がカルチャーに影響を及ぼしたのは紛れもない事実だ。しかし、読者のみなさんに期待してほしいのは、文化とは打ちのめされたまま終わるか弱い存在ではないということ。繰り返しになるが、筆者は4月の大半を絶望的な気分で過ごしていた。しかし、今回の取材の過程で筆者は励まされ、鼓舞されていった。この連載に登場してもらった9名のアーティスト、経営者、イベンターの言葉にはそれだけの力がある。そして、彼ら、彼女らがコロナという逆境を克服した先に提示する風景は、関西を飛び越えて日本中に勇気を運んでくれるはずだ。

雨上がりの夜空の向こうへ
ゆっくりでいい 少しずつ前へ
(KBD a.k.a 古武道 “GO OUT GO BACK” )

編集 : 西田 健

前編「ラッパーたちの思い」はこちら

for the future―コロナ禍と向き合う京阪神カルチャー 前編「ラッパーたちの思い」

中編「クラブ、イベンターたちの思い」はこちら

for the future―コロナ禍と向き合う京阪神のポップカルチャー 中編「クラブ・イベンターたちの思い」

『Save Our Place』

OTOTOYは、音源配信でライヴハウスを救うべく、支援企画『Save Our Place』をスタートさせました。『Save Our Place』では、企画に賛同していただいたミュージシャン / レーベルが未リリースの音源をOTOTOYにて配信します。その音源売り上げは、クレジット決済手数料、(著作権登録がある場合のみ)著作権使用料を除いた全額を、ミュージシャンが希望する施設(ライヴハウス、クラブ、劇場など)へ送金します。

詳細はこちら
https://ototoy.jp/feature/saveourplace/

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この記事の編集者
西田 健

1990年生まれ。熊本出身の九州男児。2019年までイベント業界で働きながら、福岡親不孝通りにてJ-POP、アニソンのDJ活動を行う。その後上京し、OTOTOY編集部にてアイドル、アニメ関連を中心に担当。映画、深夜ラジオが好き。

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