2020/02/18 19:00

REVIEWS : 001 ヒップホップ(2020年2月)──鎮目悠太

毎回、それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回はOTOTOYでも話題になった中国語圏のヒップホップ記事「熱烈的時代到来! 探索中国ラップ!」を担当した鎮目悠太が登場。そんな彼が選ぶ、洋の東西を問わないヒップホップのいまを紹介!

DJ TY-KOH & B RAND 『ただやりたいだけ THE EP』

茨城県は古河市の北関東アウトロー・ヴァイブスを武器に、昨夏の“あいつはムショにいってない”で鮮烈にシーンに現れたB RAND。そんな彼らがKOWICHIなども所属する〈FLY BOY RECORDS〉のDJ TY-KOHがフックアップ。クオリティを大幅アップデートした今作では、癖になるフローやがなり声を持つ各メンバーの特徴をさらに鋭くしたラップが、ビートメイカーであるZot on the Waveが作り出した太く鳴るビート上で炸裂している。「ショクイチ(食後の一服)」のようなピュアなヤンキー・スラングが多く飛び出す1曲目から、過去曲“傷だらけのワゴンR”のような優しいメロディーとボースティングがマッチした歌モノの4曲目まで駆け抜ける、そんなバランスのそんなバランスの良いEPだ。同じく〈FLY BOY〉がフックアップしたMerry Deloといい、地方のヤンチャなヴァイブスをキャッチーに伝えるこのレーベルの手腕はやはり見事。

Rome Fortune 『FREEK』

Rome Fortune / Favorite
Rome Fortune / Favorite

キャリア的にはもう中堅と呼んでも差し支えないアトランタのラッパー、Rome Fortuneの2ndアルバム。近年はToro y MoiやMasiweiとのコラボで、ディスコからR&Bまでこなしていくジャンルレスっぷりが目立っていた彼だが、今作では特有のザラついた声で終始トーンを抑えた気持ちの良いラップをしている。力の抜けたラフなリリックと、今作のプロデューサー、Sofa Tripsによる浮遊感のあるローファイなビートにも要注目。彼の作品は毎度ビートが素晴らしいが、2016年に〈Fool's Gold〉よりリリースされた『Jerome Raheem Fortune』はエレクトロ要素強めのオリジナリティ溢れる名盤なので是非チェックを。

MuKuRo 『BLESS』

魅力的なラッパーを多数擁する沖縄のクルー〈604〉の一員、MuKuRo。配信で聴けるのはほとんどが客演曲だったので、ここにきてのEP配信にアガったヘッズも多いはず。最大の魅力である耳に残るフックはもちろん、ドスの効いた声も良い隠し味となって抑揚のつけ方が素晴らしい1枚。今も沖縄のストリートでのロウ・ライフを続ける彼の切迫した日常が、直接的な描写は少ないものの、暗いトーンの単語による比喩により綴られていくリリックは、何度も脳内で反芻したくなる。特に“Red Sign”のアカペラ部分以降と、“God Bless”はBUPPONとMuKuRo両者の種類の違う鋭さがKojoeの手によって上手くマッチしているので要チェック。過去作では、全曲USのビートをジャックした『JACK THE RIPPER』も彼の歌心を堪能できる激推しの1枚。

Daichi Yamamoto 「Escape Remix feat. Gottz, MUD」

昨年リリースのアルバム『Andless』から、KANDYTOWNよりGottzとMUDを迎えたリミックスがリリース。原曲ブリッジ部の耳に残るフレーズ「電話でないな」を起点に“+81”コンビがヴァースを蹴る〈Ring-a-ring-a phone〉シットに変貌した1曲。

「+81 feat. MUD」からのリリックを引用している
「+81 feat. MUD」からのリリックを引用している

KANDYTOWN内随一の現場数を踏み、その安定っぷりにますます磨きがかかっている2人だが、この曲ではGrooveman Spotの落ち着いたビートの上でレイドバックしながらラップしている。Daichi Yamamotoのヴァースに入る際の仕掛けも小粋でかっこいい。

Dreamville&J.Cole 『Revenge of the Dreamers III: Director’s Cut』

J.Cole率いるレーベル、〈Dreamville〉よりリリースされた人気シリーズ第3弾のディレクターズ・カット盤。やはり追加曲も〈Dreamville〉の8人の魅力がよく現れており、JIDらの頭抜けたスキルから、Ari Lennoxの情感豊かかつ柔らかな歌声までと彼らの旨味が凝縮された内容。特に“UP UP WAY”ではJIDとDoctur Dotに加えVince Staplesが参加しており、3人のスキルがバチバチに炸裂しているフローに食らってしまう。全30曲のラストとなるのはゲストに6lackを招いた“Still Dreamin”。短調なリフ1本とドラムのループが彼の歌声に良く映えた、非常に気持ち良い1曲。

J.I. the Prince of NY 『Hood Life Krisis Vol. 2』

J.I. - Love Scars (Official Music Video)
J.I. - Love Scars (Official Music Video)

今ノリに乗っているブルックリンのラッパー、J.I. the Prince of NYのメジャー2nd。15歳にしてバトル・ラッパーとしてのプロップスを獲得していた彼であったが、18歳となった現在はスキルの魅せ方を変えている。歌モノのフローに巧みな早口でラップを乗せ、スローダウンしたかと思えばやたらと節を回し歌い上げる絶妙な緩急。そんなスタイルとフッドの痛みを歌い上げるリリックかつ、客演なしで粛々とリリースをする様も小気味よい。また、前作同様の気鋭のAlmighty NateやPalazeらのプロデューサー陣によるビートがしっかりかっこいいのもミソ。特に“On Me(prod.Alzee)”はバウンス系のキック連打と浮遊感のあるシンセが特徴的なビートなので、上述の彼の節回しとの相性が新鮮で面白い1曲。ちなみに上記のプロデューサーはほぼ全員タイプビートを売っているタイプの若手プロデューサー。夢がある。

Tee Grizzley 「Red Light」

大御所プロデューサー、Hit-Boyのビート上で、デトロイトの若手筆頭ラッパーの容赦ないヴァーズが炸裂。808の重たいキックの連打とともに、彼らしい強い発声で、矢継ぎ早にリリックを詰め込むお馴染みのラップが繰り広げられる。固い韻、比喩とウィットに富んだ無駄のないストーリー、攻撃性の3拍子揃った彼のラップの良さは今作でも健在。曲中で繰り返される〈40 with a red light〉とはおそらくレーザー・サイト付きの40口径のハンドガンのことで、昨年リリースされた銃殺された叔母の死についての曲“Satish”も併せて聴くとこの曲での彼の怒りの理由がわかるはず。銃を片手に事件の犯人の元へカチ込むとアウトロでひたすら示唆する彼の気迫に、胸がギュッとなってしまう。ちなみにビートのタグの声は、同郷のラッパーBig Seanによるもの。

M Huncho 『Huncholini The 1st』

グライムでもなければ、UKドリルでもない。“Trap Wave”の担い手を自称する北西ロンドンのラッパー、M Huncho。前作同様、暗いトーンのトラップのビート上で、ストリート・ライフをスマートにこなす彼が描写されている。シーンに参入する意志を強く持ちながら、アフロビーツの潮流に乗らず独自性を高めることに注力してきた彼。今作では特に、成功の途上にある彼の小粋なボースティングと哲学が炸裂。“Trap Wave”というスタイルの外観が、彼のリリシズムの深化と共に明瞭になる。常にマスクを被り、独自のセルフ・プロデュースを展開するもイロモノにならないのは、やはり実力の賜物か。チャートでも派手な結果(TOP5!)を残した今作、ロングヒットの予感大!

BRIZA 『BRIZA Ⅲ』

群馬県大泉町から全国にその名を轟かせるコレクティヴ、BRIZAの3枚目。前作では、右肩あがりのFuji Taitoの知名度に依存することなく、Sawaki(GoAntenna)やRaffy Rayをプッシュし、彼らの魅力の幅をシーンに知らしめた。そして今作はFuji TaitoとKensei(ラッパー/ビートメイカー)を中心に据えた、彼らの新しいスタイルが多く見られる内容となっている。特にFuji Taitoのラップはリリースのたびに高音域の使い方が魅力的になり、尋常ではない向上心と美しいナルシズムに富んだリリックとの相性が抜群に。新しいテイストを感じさせるKensei、GoAntennaのビートも嬉しいポイントで、ギターやストリングスが特徴的な“MALANDRA”、“TOBACCO”で特にそれを感じることが出来る。

この記事の筆者
この記事の編集者
高木 理太 (Rita Takaki)

1993年5月生まれ、志田未来とは同じ生年月日。10代の悶々とした時代にハードコア・パンクを聴いて、グッと音楽にのめり込み、今も悶々としながら日々音楽を掘る日々。お酒はほどほどにしたい。

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