2020/02/12 18:00

カネコアヤノはなぜいまの時代に求められたのか──岡村詩野が鋭く迫る2019年のカネコアヤノ躍進のワケ

左から岡村詩野、カネコアヤノ

音楽評論家として活躍する岡村詩野を講師に、音楽への造詣を深め、音楽の表現を学ぶ「岡村詩野音楽ライター講座」。10月期では2019年にリリースされたアルバムの中からベスト・ディスクを選び、原稿を執筆してきましたが、岡村詩野のスパルタ(?)指導を受けながら完成した、講座生による原稿をここに掲載します。

さらに! 10月期のライター講座の最終回(12月14日)には、2019年代表するアーティストのひとりであるカネコアヤノがゲスト講師として登壇してくれました! 岡村詩野を司会進行に公開インタヴューを実施。今回はそのごく一部をテキストでお届けします。2019年の活動を振り返りながら、カネコアヤノに生じた変化の根源を探ります。

昨年大きな注目を集めた最新作

INTERVIEW : カネコアヤノ

カネコアヤノの作品をはじめて聴き、ライヴをはじめて観た時、なんてディフェンシヴな人だろう? と思った。自分の見られ方、聴かれ方をすごく意識するがあまり、いくつもの可能性を狭めてしまっていて窮屈そうだ。それが転じて、聴く人が限られてしまっているのではないか…… というような。その中に聴き手として自分が入っていけないことに寂しさと抵抗を感じていたのも、今更ながらここに告白しておきたい。

だが、ある時期からカネコアヤノは180度…… とは言わないまでも、こちらに見せる表情を大きく変えた。変えたというより「開いた」というべきか。活動的でカジュアルになり、曲調もブライトで展開の大きなものが増えた。大声で叫ぶように歌う姿は、まるで誰かを呼んでいるようだ。「おぉーい、私はここにいるよ。ここで好きなことをこんな感じで思い切り歌っているよ! そっちはどうだーい?」とでもいうような。

林宏敏(ギター / 元 踊ってばかりの国)、本村拓磨(ベース / Gateballers他)、Bob(ドラム / HAPPY)というメンバーと組んだバンド・アンサンブルとの相性も抜群。

聞けば、彼女自身、作り手として、パフォーマーとして、自分自身にストッパーをかけなくなったという。媚びない女性ロッカー的な強さ、天衣無縫な幼女のような自由さを纏った最新作『燦々』に至るまで、近年、彼女の思いはどのようにシフトしたのか。昨年暮れに公開企画として実現したそんなカネコアヤノとの対話の一部をここにお届けする(気取りのないそのぶっちゃけトークの全てはここではとても書けない!)。この開き直りに近い堂々たる姿勢こそが、いまの時代に求められていることなのかもしれない。

インタヴュー&文 : 岡村詩野
構成 : 西田健
写真 : 大橋祐希

常に快便がいいじゃないですか、そういう感覚です

──今日は、2019年を代表するアーティストのひとりであるカネコさんに、どういった思いで1年間活動をしてきたのかを聞かせていただければと思います。カネコさんの2019年を振り返ってみると、前半は7インチ・シングルのリリースがあり、後半にアルバムをリリースするという流れでした。かなり前から計画していた流れだったのでしょうか。

2019年は結構計画的でしたね。でも年の始まりに7インチやカセットをリリースすることが、私の体の中にできあがってきていて。それを軸にして、「こうやって動いてここらへんでアルバムを出して……」みたいなことは考えていました。

──計画を立てた上での活動というのはずっと意識的だったのでしょうか?

こんなに計画的に動いたのははじめてでした。いまの〈1994〉という事務所に入ったのが大きかったですね。「君はやらないとダメだよ!」みたいに言ってくれる、パワーのある人がいてくれたから。私自身は計画をするという脳みそが一切なくて、行き当たりばったり派なので(笑)。あと2018年の末に、ある占い師に占ってもらって。そしたら「自分で動く能力がまじでゼロ」って言われて。超当たってる! って(笑)。「君はなにがやりたいの?」って導いてくれる人がいたほうがやれるかもしれない。

──ただ『祝祭』というアルバムを出したあとくらいから、カネコさんの曲が開かれたものになってきたなという印象を持っていました。ソングライティングに関しても向き合い方が変わってきたのでしょうか?

〈1994〉に所属するもっと前に違う事務所に入っていたんです。そこを離れてフリーになったとき、「私って音楽で何がしたいんだろう」ってことを考えまくって。そのときに、「人に何か言われるために言葉を書いているわけじゃないし、日本のポップスの方にハマるような音楽をやりたいわけじゃないや」って思ったのが大きかったです。そういう風に思って作ったのが『hug』や『群れたち』でした。そのうえでもっと開けて作ったのが『祝祭』だった。当時は「自分ってなんだろう」ということをすごく考えてました。新しいバンドをやりだしたという感覚で、私的には『祝祭』が1stアルバムなんです。

『群れたち』収録曲“やさしい生活”
『群れたち』収録曲“やさしい生活”

『祝祭』収録曲“Home Alone”
『祝祭』収録曲“Home Alone”

──曲の作り方そのものは変えていないのですか?

変えてないけど、前の事務所の時は歌詞も直されていたから、好きな言葉を言おうと思ったくらいかな。「これ、何を言っているかよくわからないよ」「もっと起承転結があって、こういう終わり方にしないと」みたいな感じで言われて曲を作っていた。でもそれはやりたいことじゃないからやめました。

──誰からも制限されずに、好きなことを好きなように表現するようになったと? その結果、何か変化が生じましたか?

なにが変わったかといえば、思考がちょっと変わったのかなって思っています。「間違っているかも」「誰かに否定されるかも」という考えはなくしました。当時はこういう風に喋れなかったし、結局私の場合はそこが曲作りにも影響しているのかな。普段から音楽をいっぱい聴くわけじゃないから、「こういうものを取り入れてみよう」みたいなことはわからないし。

──普段、音楽を聴かない?

特別に聴きたいアルバムがあった場合は、外にイヤホンを持って行って聴くけど、日常的には聴かないですね。

──自分の音楽も?

自分のは聴きます。レコーディング直後のほやほやの音源はずっと聴いてます。でも、出来上がってからはあんまり聴かないです(笑)。

──つまり、曲を聴くより曲を作る方がより好きということですか?

生きていく中で、曲ができた瞬間がいちばんの快感かも。うんこみたいな感じなんですよねほんとに。常に快便がいいじゃないですか、そういう感覚です。

──はははは。では、どういう時に「快便」ではなくなるんですか?

リリースした直後はできなくなることが多いです。『燦々』の時も『祝祭』の時もそうでした。できちゃったと思ったら、あんまりたくさんは書けなかったかも。感情とか日常のことが蓄積しないとやっぱり出てこないというか。

──作りはじめたら早いですか? 曲作りはギターを使うんですよね?

そうです。弾きはじめたらずっと弾いてます。作るぞって気持ちとギターを手にするぞって気持ちはほとんど一緒ですね。

〈SHIBUYA全感覚祭〉でのカネコアヤノ“燦々”
〈SHIBUYA全感覚祭〉でのカネコアヤノ“燦々”

悲しくてやりきれないときに、ちょっとでも光が見えたらいいな

──どういうプロセスで曲が出来上がっていくのですか? アルバム全体のバランスをみながら曲調などを調整していく時もありますか?

“かみつきたい”とかは、アルバムの曲が大体出揃ってるときに、ラフな感じの曲を入れたいなと思って作りました。“かみつきたい”を作ったときは、前の日に友達と意見の違いがあって、それにムカついたんですよね。

──ムカついて作っても曲調はブライトに転じている。

そこで暗い曲を書きたいとはならないですね。曲調と昨日あった事件はぜんぜん関係ない。気持ちはムカつくけどテンション的には元気な曲が歌いたいみたいな感じかも。“かみつきたい”をレコーディングしているとき、私はやることを終えて睡眠をとっていたんですよ。そして気がついたらドゥーワップコーラスが入っていて、私もいいね! って。

──そうそう、あの“かみつきたい”を聴いて、「カネコさん、ドゥーワップも聴くんだ!」ってちょっとうれしかったですよ。

いや、(ドゥーワップは)ぜんぜんわかんない(笑)。

──はははは。でもなにかのヒントに基づいてはいる?

『祝祭』の頃からですけど、男性のコーラスが入ってるのが好きで。だから『燦々』は男性コーラスが結構いっぱい入っている。私がカネコアヤノって名前で女なのに、ぜんぜん誰だかわからない男の声が入ってたらおもしろいなと思って。

──そういう発想やアイデアを含めて、新しいアルバムはすごくポップな手応えを持っていると思うんです。重い聴き手を一切選んでいない包容力もある。

「暗いことを暗いまま終わらせたくないな」と思いながら作ったかもしれない。「私、今日悪いことしちゃったな、でもあいつも悪いしな」みたいな出来事ってあるじゃないですか。でも、それをそのまま曲にしても意味ないなと思いました。歌い終わったときになにも解決してないのって、聴いててもあんまり気持ちよくないなと思う。悲しくてやりきれないときに、ちょっとでも光が見えたらいいなというのは『祝祭』のときよりも意識しました。

『燦々』収録曲“光の方へ”
『燦々』収録曲“光の方へ”

──「光が見える」というのは、自分自身が? それとも聴いてくれる人にも?

曲を作ってるときは、まず自分かな。でも人に対して歌うということは、みんなの曲になるということだから、それは各自の気持ち、誰かの歌にしちゃっていいと思っています。ライヴで人に向かって歌ってるときは、目の前の“あなた”のために歌ってるかもしれない。

──ネガティヴなものをあえてブライトなものに仕上げる。自分の中に入ってきたときには暗かったものが、出ていくときには明るくなるというのは、カネコさんの中でその間に何が起こっているんですか。

私はめちゃくちゃネガティヴで、自分とは違う人の意見も引きずるしウジウジしちゃう性格なんですよね。そういう自分が嫌だから、そうしようとしてるだけ。「結局明るくなるよ、大丈夫ですよ。そういう波があるだけです」ということで自分を救いたい。結局は自分ですね。

この日初公開となるライヴ映像を見ながら

私はギャルのメンタルになりたいんです

──ということは、歌のモチーフとしてはカネコさんの身近な出来事が圧倒的に多いのでしょうか?

多いですね。たとえばテレビ見てて「青山テルマがこういうことを言ってた。なんていい思考回路なんだろう」と思ったら、それを曲にしたりとかはあるけど。世の中こういうことが起きてて許せないみたいなことから曲を作ることははないですね。

──いまは、ひとりひとりがどれだけ自分を確立させていくかが大事で、自分をどれだけ理解して表現できるか、そこにトライしていく時代なのかなと思うんです。そういう意味ではカネコさんにとって2019年はやりやすい年でしたか?

思い返してみたらやりやすかったかなあ。いいことがいっぱいあったから。いろんな人に意見を言ったりしたし、悩むこともいっぱいありましたけど、音楽で言ったら、いい1年だったなと思いますね。

──では、いまの時代性みたいなものって意識することはありますか?

ライヴに来てくれてる人たちはみんないいと思う。だけどSNSって刃物みたいだなと思う。みんな簡単に悪口とかを書くじゃないですか。そこに関しては嫌な時代だなと思いますね。まあそこに関しては、怒っても仕方ないし、会ったこともない人が書いていることだから気にはしないですけど、可哀想な人だなと思いますね。

──たとえばそういう発言を見て覚えた怒りをエネルギーに曲を作るとして、いまのカネコさんだったらどうやってそれをブライトなものにしていくんですか?

私たちにはいい友達がいるし、街にいけばうまい飯だってある──疲れて眠れたら1番幸せなんじゃない? こんな他人の悪口を言ってて可哀想だよね、私たちは幸せになろうね、って風にするかも。

──ではでは、どうやったら、幸せになれると思いますか?

精神をタフにするために心の筋肉を鍛えるしかないんじゃないですか。私はギャルのメンタルになりたいんです(笑)。ギャルって強いイメージがあって、そういう人間になりたいって願望なのかな。たくさんインタヴューを受ける中で、何度も「明るくなりたい」と言ってきたんですけど、「なんで私はそうしたいんだろう」って考えて。自分がそういう人間になれたらいいなという祈りみたいなものなのかなって、最近は思ってます。

──祈るけど、自分自身は図太くいたい?

図太くいたいです。最近思うんですけど、みんな他の人の目とかファッションをすごく気にしてるなと思ってます。「誰々がこう言ってるからこの音楽はすばらしい」みたいに見える。そこには抗いたい。

──誰がなんと言おうと、自分が良いと思うものを積極的に良いと言いたい?

言いたいし、そういう風に言える人が増えるといいし、もっと言うと私の音楽がそうであったらいいなあと思ってます。

──カネコさんのポリシーのひとつは心臓に毛が生えるぐらいのメンタルで、というところ。もうひとつは、人から何を言われようと自分がいいと思ったことをやるんだ、ということ。どちらもいい意味で開き直ってる感覚が重要だと思うんです。で、その強さはカネコさんのパフォーマンスにより強く現れてる気がするのですが、人前に立って歌うときにその辺の自信はメキメキ出てくるものですか?

自信は無理やり持つようにしてます。カネコアヤノをやるときはかなり開き直ってます。人前に出ることとかアルバムを出すことって、中途半端にやるのが1番恥ずかしいんですよ。だからやるならやる。できなくてもいまできることを無茶苦茶にやるしかない。そういう開き直りが私にはあります。

2019年3月16日、渋谷WWW、WWW Xにて開催されたイベント〈Alternative Tokyo〉出演時の映像
2019年3月16日、渋谷WWW、WWW Xにて開催されたイベント〈Alternative Tokyo〉出演時の映像

──「昔、誰かがこれをやったかもしれない」的なことは気にしない。結果として、それはカネコさんより上の世代がやってきたことをある意味継承するってことでもあると思います。音楽の歴史の中で、自分がいまそれを受け継いでやっているんだっていう感覚はありますか?

1番好きなのが音楽だからやってるだけですね。私はみんなみたいに超絶に歌が上手いわけでもないから、でっかい声で歌おう、それが楽しいからそれでいいやって。私にはささやかに歌うみたいなことはできない。私は正直そこにコンプレックスを抱いていたし。そこに対する違和感に対して、自分が見つけた突破口はでかい声で歌うしかねえってことでした。言ってる歌詞もボヤッとしてない、はっきり言ってやろうと思って出したのが『hug』だったんです。ジョン・レノンもヒロトもYUKIちゃんも、そういうレジェンドを思い出したときに、みんなすごい大きい声ではっきりした言葉で高らかに明るく歌ってるんですよ。そう思ったら私もそれでいいやって思いますね。

編集 : 鈴木雄希

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LIVE SCHEDULE

カネコアヤノ TOUR 2020 “燦々”
2020年2月15日(土)@宮城・仙台MACANA
2020年2月20日(木)@愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2020年2月23日(日)@北海道・札幌Sound lab mole
2020年2月27日(木)@石川・⾦沢21世紀美術館 シアター21
2020年3月14日(土)@沖縄・桜坂セントラル

カネコアヤノ ワンマンショー 2020春
2020年4月5日(日)@大阪・大阪市中央公会堂
2020年4月24日(金)@東京・中野サンプラザ

【詳しいライヴ情報はこちら】
https://kanekoayano.net/live/

PROFILE

カネコアヤノ

弾き語りとバンド形態でライヴ活動を行っている。

2016年4月に初の弾き語り作品『hug』、2017年9月には初のアナログレコード作品『群れたち』を発表。

2018年に発表したアルバム『祝祭』は第11回CDショップ大賞2019入賞作品に選出。

2019年には最新アルバム『燦々』と弾き語りによる再録アルバム『燦々 ひとりでに』を発表。そしてアルバム『燦々』も第12回CDショップ大賞2020入賞作品に選出されている。

〈TOUR 2019/2020 “ 燦々 ”〉は全公演ソールドアウト。4月には大阪市中央公会堂、中野サンプラザでのワンマン・ライヴを控えている。

【公式HP】
https://kanekoayano.net/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/kanekoayano

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