柳樂光隆 × 高橋健太郎 〈Nonesuch Records〉を聴く──OTOTOYハイレゾ試聴会Vol.2レポート

今回の試聴会はゲストとして柳樂光隆(右)が登壇

2019年2月20日(水)、OTOTOYにて行われた、柳樂光隆 × 高橋健太郎 〈Nonesuch Records〉 を聴くOTOTOYハイレゾ試聴会Vol.2。 メインMCに音楽評論家 / オーディオ評論家である高橋健太郎、今回はゲストに「Jazz The New Chapter」シリーズの監修もつとめ、ジャズ評論家として活躍する柳樂光隆氏が登壇。1950年に設立し、パンチ・ブラザーズ、ランディ・ニューマン、ウィルコなど数々の人気アーティストが所属する〈Nonesuch Records〉。まさに、アメリカ音楽の歴史そのものと言っても過言ではない同レーベルの魅力を、その歴史とサウンドから読み解いて行きます。

イベント協力 : 株式会社 エミライ
       : 株式会社 小柳出電気商会
       : 株式会社 メディアインテグレーション

当日プレイされた楽曲の一部をプレイリストで試聴可能

45秒の試聴ファイルがリスト順に連続再生されます

まずは高橋健太郎による使用機材の説明

高橋 : 今日は〈MYTEK Digital Digital〉というメーカーの「Brooklyn DAC+」を借りています。実は僕が自宅のデスクトップで色んな音源を聴くのときはほとんどこれです。DACのチップ・メーカー、〈ESS Technology〉の新しいチップ「ES9028PRO」を搭載しているプリアンプ機能付DACです。一世代前の「ES9018」も素晴らしいDACチップで、解像度が高く、端正なキャラクターだったのですが、「ES9028PRO」からは温度感や力強さも加わって、アナログ的な良さも兼ね備えた印象があります。それを搭載しているのが「Brooklyn DAC+」です。小さいボディですけど、内容はかなり高機能で、フォノ・プリアンプが入ってるので直接レコード・プレイヤーもつなげます。PCのファイル音源がもとより、CDプレイヤーやアナログのレコード・プレイヤーもこれ1台で切り替えて聴けるので、僕の仕事場でもとても重宝しています。音楽的なニュアンスを描き分ける能力が高いプリアンプ機能付DACなので、今回の〈Nonesuch〉の音源の試聴会にはうってつけと思いました。

〈MYTEK Digital〉「Brooklyn DAC+」

それからスピーカーは〈FOCAL〉の「SM9」というパワードスピーカーです。〈FOCAL〉はフランスのスピーカーメーカーで、「SM9」はその会社のスタジオモニターのフラッグシップ機です。ラージ・モニター的なかなり深いローまで出るスピーカーです。そしてケーブル類は「オヤイデ電気」さんです。今日はこんなセットアップ、どちらかというとスタジオ・モニター的な環境で、皆さんに〈Nonesuch〉の音源を聴いてもらいたいと思います。

〈FOCAL〉「SM9」

〈Nonesuch〉の歴史と良質なサウンドを体感

高橋 : 今日のゲストは、柳樂光隆さんです。〈Nonesuch〉の歴史を簡単にお話しておくと、もともとは〈Elektra Nonesuch〉と言いまして、1960年代から続く〈Elektra Records〉のサブ・レーベルでした。〈Elektra Records〉はジャック・ホルツマンが1950年にニューヨークに設立。設立当時は、どちらかというとフォーク系のレコードを、1960年代に後半になるとドアーズなどのサイケデリック・ロックを売り出して、大きくなりました。その〈Elektra Records〉の裏側で、〈Nonesuch〉はクラシックや民族音楽を地道に作っていくレーベルとして最初はスタートしています。なので、自分も最初に買った〈Nonesuch〉のレコードは『《ジンバブエ》ショナ族のムビラ』。当時は「民族音楽を聴くならノンサッチ」という感覚でしたね。

柳樂 : フィールド・レコーディングっぽい雰囲気の感じでしたね。

高橋 : そうですね。その後、90年代にロバート・ホービッツという〈ECM〉のアメリカ・オフィスを運営していた人が社長になって、それから大躍進を遂げました。現在ではジャズ・アメリカーナの最重要レーベルと言ってもいいと思います。あと今回、OTOTOYハイレゾ試聴会で〈Nonesuch〉をやろうと思った大きな理由があって、実は〈Nonesuch〉の音源は非常に音が良いんですね。オーディオ雑誌でオーディオ評論家の方たちと一緒に機材の試聴をする機会があるのですが、ここ3~4年やたらとオーディオ評論家の人がパンチ・ブラザーズとか〈Nonesuch〉のアコースティック系の音源を持ってくるんですよ。OTOTOYでも、去年から〈ワーナー〉との契約を機に〈Nonesuch〉の音源配信が始まりました。どちらかというとJ-POPとかがよく売れる会社なんで、「パンチ・ブラザーズを売ってます!」とか前面でやらないんですけど。ある日気が付いたら、パンチ・ブラザーズが結構売れてるんですよ。それもハイレゾ・オーディオ方面でパンチ・ブラザーズを試聴音源に使っている影響があるからじゃないのかなと。では、まずそんな音源を1曲聴いてみようと思います。

Punch Brothers「All Ashore」を再生


Punch Brothers - “Jumbo”

柳樂 : これは音良いですね。

高橋 : そうですね。パンチ・ブラザーズは、もともとはブルーグラスのグループでクリス・シーリというマンドリン奏者でシンガーソングライターが中心人物ですね。でも、ポップスやジャズの要素もあります。では、もう1曲、オーディオ雑誌でよく試聴用音源に使われているものがあって、それはランディ・ニューマンというシンガーソングライターの『Dark Matter』という2017年の作品。これを他のオーディオ評論家の方が持ってこられてびっくりしたこともあります。

柳樂 : オーディオ的には聴きどころはどこですか?

高橋 : オーケストラの深いところを聴いて頂ければ。

Randy Newman「Lost Without You」を再生


Randy Newman: NPR Music Tiny Desk Concert

高橋 : このランディ・ニューマンは映画音楽の歴史とも結びついたアメリカ音楽の豊かさが詰め込まれた1曲にも思います。ここからは柳楽さんに選んでもらった曲を聴いていきたいんですが、ジャズといっても、〈Nonesuch〉って普通のジャズ・レーベルとは違いますよね。

柳樂 : そうですね。意外とカタログにジャズが少ない。特徴としては1人のアーティストの作品をたくさん出していて、アーティスト自体の数はそんなに多くない。その数少ない所属アーティストにかなり自由を与えているのがすごく面白い。まずは、ブラッド・メルドーに行きますか。今ノンサッチでジャズというとブラッド・メルドーのイメージが強いので。これは『Blues & Ballads』というブルースとバラードをやっているアルバムなんですけど。ノンサッチはアメリカ的な音楽、いわゆるアメリカーナ、そういうものを独自に解釈しているレーベルな気がします。メルド―はまさにそんなアメリカ的な音楽の解釈の21世紀版みたいなのをところどころやっている気がします。この曲は、特にそういう曲かなと選んでみました。これはジョン・ブライオンという映画音楽なんかをやっている作曲家の曲のカヴァーですね。ジョン・ブライオンって結構ロック系のプロデューサーとして有名ですよね。

高橋 : そうですね。フィオナ・アップルとかね。

柳樂 : ルーファス・ウェインライトとかエリオット・スミスとか。その界隈をやっていたプロデューサーであり、作曲家なんですけど、彼の曲をメルドーは何度も取り上げていて。彼曰く「ジョン・ブライオンはアメリカの21世紀をある種代表する作曲家になるだろう」と。その中でも近年すごく良かった演奏はこの「Little Person」かなと。

Brad Mehldau「Little Person」を再生

ブラッド・メルドーはシーンを予言する?


Brad Mehldau - The Making of Highway Rider

柳樂 : ブラッド・メルドーは、ノンサッチですごい色んなことやっているんですよね。ルネ・フレミングというクラッシック、声楽のヴォーカリストとアルバム(『Love Sublime』)を作っていたり、あと現代音楽に挑戦した『Modern Music』、ピアノ・トリオ、それにバッハを解釈した『After Bach』とか。さっきのも話したロック系のプロデューサーのジョン・ブライオンと一緒にストリングスを取り入れたアルバム(『Highway Rider』)を作ってみたり。メルドーの〈Nonesuch〉の活動はただおもしろいだけじゃなくて、その後、ジャズミュージシャンたちが次になにをやるのか、シーンの予言みたいな感覚がある。

高橋 : でも〈Nonesuch〉というレーベル自体が自由で、元々フォーク・ミュージックだったり民族音楽だったりで、一方ではクラシックをリリースしたり。だから、枠を軽々と飛び越えて、時代に先駆けたものが出てくるんでしょう。

柳樂 : そうですね。ブラッド・メルドーも『Where Do You Start』でブラジル音楽の曲を取り上げてみたりもしています。ブラッド・メルドと一緒にあげたい、もうひとりのいまのジャズ・シーン的に重要な人物は、ジョシュア・レッドマンですね。セロニアス・モンク・コンペクションの最初期に優勝しためちゃくちゃ上手いサックス奏者ですね。ある種のアメリカのジャズ・シーンのエリートっぽいところを代表するようなひとですね。〈Nonesuch〉に行ってからは、いろんなフォーマットで音楽をやっていて、例えばピアノレスなアルバムを何作も作ったり。だから既存のモダン・ジャズのフォーマットとは違った変則的なバンドをずっとやっている人物でもある。あとブラッド・メルドーと被るんですけど、新しいスタンダード・ソングを探している人で、その新しいスタンダードが書かれた時代の雰囲気にふさわしい演奏を試行錯誤しているみたいなところもあって。今回用意したのはジョン・メイヤーの曲なんですね。すごく良い。他には、ブロンド・レッドヘッドとかインディー・ロックっぽいバンドのカヴァーもやってみたり。

Joshua Redman「Stop This Train」を再生


Joshua Redman, Ron Miles, Scott Colley, Brian Blade - Unanimity (Live in Marciac)

柳樂 : 演奏としてはタンギング少な目で、非常にのっぺりした感じでわざと吹くっていう感じです。色んな奏法を試しながら、新しいフィーリングを探している。ジョシュアのもう1曲は最新作から。このアルバムでの編成はサックス、トランペット、ドラム、ベースなんですね。オーネット・コールマンとかジョシュアのお父さんのデューイ・レッドマンもやっていたピアノレスで2管のフォーマットです。ここ数年、ジャズミュージシャンのインタビューの中でオーネット・コールマンの名前がよくあがるんです。オーネットの音楽に新しいことを生むためのアイデアだけじゃなくて、アメリカ性を見いだしているジャズのアーティストが多いようです。ジョシュアもそのひとりですね。ジョシュアはこれまでも自覚的にいろんなフォーマットでやっていて、例えばエラスティック・バンドというのを1990年代の終わりくらいからやっていて。その編成はキーボディストとサックスとドラムのトリオが基本です。例えばクリス・ポッターというサックス奏者も、キーボードにジェイムス・フランシスという23、24歳の天才、ドラムにはネイト・スミスかエリック・ハーランドという新しいトリオを今、やってて『Circus』ってアルバムを出しています。パット・メセニーやビッグ・ユキもこのフォーマットでやっていますね。そのフォーマットが注目を浴びるきっかけになったのがジョシュアのエラスティック・バンドのトリオじゃないかと。元々、こういった編成でピアニストが左手でベース弾くことは、1950年代からオルガン・ジャズでやっている人もいたし、1930年代のストライド・ピアノとかもそういうスタイルだと思います、でもそれを1990年代以降のコンテンポラリー・ジャズの文脈で新しい表現にしたのがエラスティック・バンドじゃないかと。ジョシュアがやっていることもブラッド・メルドー同様に予言的であったりもするんですよ。だからチェックした方が良いかなと。最新作もちょっと聴いてみますか。

Joshua Redman「Comme Il Faut (feat. Ron Miles, Scott Colley & Brian Blade) 」を再生

サム・アミドンのサウンドから感じる〈Nonesuch〉の低音


Sam Amidon - Blue Mountains (Official Video)

高橋 : なるほど。じゃあ、このへんで僕が選んだリストの中で柳樂さんが聴きたいものはありますか?

柳樂 : ジャズの流れでいくと、サム・アミドンはいいかな。新作はフリー・ジャズ・ドラマーのミルフォード・グレイヴスが入っていたり。あれ謎ですが(笑)。

高橋 : 僕も最新作はちょっと置いてある感じ。とうことで、1枚前のアルバム『Lily-O』から選んできました。

柳樂 : でも最新作もサム・ゲンデルというLAのちょっと変わり種のサックス奏者、ギタリストが入ってたり、あと結構毎回ビル・フリーゼルが参加してたり

高橋 : ビルとサム・アミドンは仲良いんですよね、2人でライヴしてたりするもんね。

柳樂 : 〈Nonesuch〉のフォークっぽいサイドとジャズのサイドが混ざる視点のひとつかなって感じがしますね。

高橋 : サム・アミドンはすっごい面白い人ですよね、バラッドみたいなのを歌うシンガーでもあるんだけど、どっかなんかブチ切れてるところもあって(笑)。突然すごいディストーション・ギター入ってたりとか。

Sam Amidon「Blue Mountains 」を再生

柳樂 : この曲、こんなローが出てたんですね。

高橋 : 音楽性はすごいトラディショナル・フォークで、伝統的な部分にも根ざしてるんだけど、音響的には現代のサウンド、すごく低音が入っている。これはこのサイズのスピーカーで聴かないとわかんないですよね。。

柳樂 : 初めて知った。

高橋 : サム・アミドンのアルバムはね、みんな音いいんですよ。サム・アミドンの流れでもう1曲、トラディショナル・フォーク的なものを。2018年に『シェルター』っていうアルバムを出したオリヴィア・チェイニーという女性シンガー。去年の年間ベストに入れようかどうしようか迷った作品。これもね、本当に素晴らしい歌唱と、素晴らしい音なんです。

Olivia Chaney「Arches」を再生

柳樂 : ヴォーカルの録音がめちゃくちゃいいですね。ここまで凄い音だとは知らなかった。

パット・メセニーが探り出したアメリカ音楽の裏あるもの

高橋 : さて、前半に少し話が出て、聴けてないブラッド・メルドーの『After Bach』も聴いてみたいです。

柳樂 : ブラッド・メルドーがバッハを自分なりに解釈したやつを交互に並べたものですね。いわゆるバッハの対位法と言われるような音楽のような、左右の手で別々のラインを並行して奏でたりするみたいなスタイルをメルドーはジャズに取り入れてやってたんです。メルドー的には、そのスタイルの元ネタは、ジャズの古いスタイルとかではなく、バッハなんだと前から言っていて。このアルバムはなにかの企画の依頼をきっかけに作ったアルバムで、メルドー以前にもバッハの曲をジャズ的に解釈したジャズピアニストっていっぱいるんですが、ここまでナチュラルに調理したものってあんまりなかったと思います。どう考えてもバッハの曲なんだけど、どう考えてもブラッド・メルドーの音楽になってたんで、すごい面白かったっすね。

Brad Mehldau「After Bach: Rondo」を再生

柳樂 : すごいですよね。最初と最後だけバッハの曲のモチーフをそのまま奏でてて、真ん中の方はもう全然自分の音楽で。

高橋 : バッハから出発して、ここまで自分の宇宙を奏でる。1曲の中で物凄い飛距離がありますね。

柳樂 : そうなんですよ。この感じはメルドーがピアノソロの時によく弾く、マッシヴ・アタック「Teardrop」とかレディオヘッド、ニック・ドレイクの曲、そのフィーリングとすごい近いんですよ。これを聴くとバッハとそういうアーティストの繋がりみたいなものを感じられたりして、すごく面白いなっていう気がしましたね。

高橋 : なるほどね。現代のロックもバッハまで遡ったクラシックもあんまり距離がないという音楽性は、〈Nonesuch〉というレーベル自体がやっぱりそういうカラーを持ってるからだという気がします。そういえば、ジャック・ホルツマンが〈Elektra〉を作った初期のフォーク・レコードの録音について調べたら、その時のエンジニアがピーター・バルトーク。あのバルトークの息子なんですよ。アメリカン・フォーク・ミュージックのバイブル的な作品にハリー・スミスの『アンソロジー・オブ・アメリカン・フォーク・ミュージック』というコンピがありますが、あれを編集、録音したのも、ピーター・バルトークなんです。クラシック音楽家の息子がフォーク・ミュージックを録音してたと、そこから〈Nonesuch〉への流れを考えると、いろいろ見えてくるような気がする。

柳樂 : なるほど。しかもバルトーク自体も東欧、中欧のヨーロッパのフォーク・ミュージックを採集してますよね。バルトークは、いわゆるメルドーとかジョシュアとかがやってるようなコンテンポラリーなジャズの影響源の一つでもあるんです。そう考えるとすごい納得いきますね。

高橋 : 次はライヒ聴きましょうか。コリン・カリン・グループっていうライヒの作品をたくさん演奏しているグループのアルバムで、ライヒの最近の作品ですね、2015年の作品。

Colin Currie Group「Steve Reich: Pulse / Quartet」を再生


Colin Currie Group - Steve Reich: Quartet at Tokyo Opera City

高橋 : こうして聴くとライヒでもすごいポップですね。

柳樂 : そうですね。今まで聴いた中で一番ポップな気がしますね。

高橋 : コーネリアスがすごいライヒに影響を受けてるから、個人的にはその影響で聴きやすくなってるような気もします。

柳樂 : ジャズと〈Nonesuch〉で言えば、パット・メセニーが熱烈なライヒ・マニアで、ライヒの曲をやるアルバム『Different Trains / Electric Counterpoint』を出してますね。〈Nonesuch〉に来てからの『The Way Up』というアルバムとか、大作っぽいアルバムにはミニマルなパートが必ずあって。そういうところも〈Nonesuch〉一貫しているなと。

高橋 : では、次はパット・メセニーを聴いてみましょう。

柳樂 : パット・メセニーもアメリカ的な音楽をずっと模索している人かなと思います。そのパットがあのベンチャーズで知られる「パイプライン」をやってるんですけど、なんか最近ビル・フリーゼルもいわゆるベンチャーズ的なギター・インストを改めてやっていたんですよ。

高橋 : でもビル・フリーゼルは、完全にそれがルーツみたいですよ。

柳樂 : 最近だったらジュリアン・ラージもライヴを観に行くとそういうフレーズが出てきたり。その辺の再評価がこれからありそうな感じがします。

Pat Metheny「Pipeline」を再生

高橋 : あの主メロは最後まで弾かないんですね。「パイプライン」をアコギ1本でやることで、隠れたスパニッシュ・ルーツみたいなものを探り出すような演奏ですね。アメリカ音楽はいろんなものが隠れているんですよね。メセニーにしても、フリゼールにしても、そういうものを探り出すのが上手い。

ウィルコを筆頭とする〈Nonesuch〉のロック


Wilco performing “If I Ever Was a Child” Live on KCRW

高橋 : さて、ちょっと違う方向にも行きましょう。〈Nonesuch〉はロック・バンドもいまして、一番人気高いのはウィルコですね。ウィルコはシカゴのロック・バンドで、2002年にジム・オルークと『Yankee Hotel Foxtrot』というアルバムを作って、ロック・バンドの音響を塗り替えた。もともとはカントリーやフォークなどの土臭い音楽をベースにしたロック・バンドなんですが、アヴァンギャルドな方向にも振れるし、音響的にも面白いことをやるバンド。今回は『SKY BLUE SKY』というアルバム。音響的には比較的、普通なんだけど、ギター・バンドとしての良さのが出ているアルバムで、大好きなんです。

Wilco「Either Way」を再生

柳樂 : ウィルコはめっちゃ好きですね。もともと土臭いロックが好きだったのもあって。ウィルコがそんなに格好良くなる前からアンクル・テュペロとかサン・ヴォルトとかも聴いてました。ウィルコにはネルス・クラインがいるので、ジャズ的にも聴きどころがあるバンドかなと思いますね。

高橋 : 〈Nonesuch〉で消化していないテーマがまだまだたくさんあります。例えばワールド・ミュージック……と言っていいのかわかりませんが、世界的な広がりというのはつねにあって、南米、イスラエル、アルメニア、アフリカとかいろんな出自のアーティストがいますよね。次はロキア・トラオレ、伝承的なアフリカの歌唱もするんだけど、ギタリストとしても音響的な部分でも素晴らしくて。

柳樂 : ロキア・トラオレは僕もすごい好きですね。 過去に年間ベストに選んだことがあります。

Rokia Traoré「Amour」を再生

高橋 : 次はイスラエルのアーティストを聴いて行きましょう。シャイ・ベン・ツルですね。イスラエル出身なんだけど、インドでも暮らしてたことあるのかな。インドとかパキスタンとかのカヴァッリという音楽をやっている人ですね。

柳樂 : イスラエルは本当に色んな国の人が住んでいるらしくて。ものすごいメルティングポッドな状態らしいんです。僕が知ってるのはジャズに割と近いところなんですけど、そういう人たちの中でもインド音楽をやってたり勉強したりするひとが結構多いらしいんですよね。原雅明さんがやっている〈rings〉からアルバムを出しているバターリング・トリオというネオソウルとか現代ジャズを混ぜたイスラエルのフューチャーソウル系のグループがいて。そのグループもインドっぽい要素が混ざっているんですけど、バンドのベーシストがこのシャイ・ベン・ツルと一緒にやっているみたいな繋がりがあるんです。他にイスラエルのジャズ・ミュージシャンでラーガだけひたすらやってるオデット・ツールってサックス奏者とか謎の人がいたりするんですよ(笑)。

Shye Ben Tzur「Junun」を再生

高橋 : カッコ良いですよね、これね。他には何を聴きましょうか。

柳樂 : じゃあフリート・フォクシーズを聴きましょうか。

高橋 : おっ、意外なところに。

Fleet Foxes「Crack-Up」を再生

高橋 : 2017年のアルバムのタイトル曲ですね。これもおもしろいサウンドしてますね。そういえば、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotchのOTOTOYでのインタヴュー で「今のロックバンドは実はものすごく低音が入っている」という話をしています。このフリート・フォクシーズ聴いても、やっぱりそういう風に思いますね。

柳樂 : いわゆる、ビートが効いててバスドラとかベースが重いっていう話ではなくても低音が出ているってことですよね。こういうバンドでもジェームズ・ブレイクみたいな低音の感覚があるですね。

アメリカ音楽の歴史とカナダ。そして〈Nonesuch〉の哲学。

高橋 : こうやって聴いてみると、レーベルのラインナップには凄くバリエーションありますよね。けど何かひとつ〈Nonesuch〉のテイストというのがある。

柳樂 : 〈ECM〉と通じるところもあるんだけど、でも全然違う。〈ECM〉はどちらかというとやっぱりヨーロッパの感じがあって。ノンサッチはもっとアメリカっぽい、土臭さもあるし生々しさもあるし。けど〈ECM〉がもってる透明感みたいなものも感じるので共通点も多いですよね。

高橋 : でも〈ECM〉も実はアメリカーナがルーツじゃないですか。西海岸のサイケデリックの影響から発しているところもあって、〈ECM〉は幻想のアメリカみたいな。そのテイストをアメリカ本土で展開してるのがノンサッチみたいな気もしますね。

柳樂 : そうですね。そして傾向は違うけど、ノンサッチもECMも音が良いですよね。

高橋 : そういえば、告知でジョニ・ミッチェルの名前を出したんですけど、調べてみたらジョニ・ミッチェルの〈Nonesuch〉からの作品はなぜかハイレゾがないんですよね。〈リプリーズ〉時代のものは全てハイレゾになっていて、OTOTOYで配信してます。『Blue』とか『ドンファンのじゃじゃ馬娘』とかは本当に音が良いです。が、〈Nonesuch〉からのアルバム、とりわけ、『Travelogue』っていうセルフ・カヴァーのアルバムがCDで聴いても素晴らしく音が良いんですが、あの作品のハイレゾはなぜか、まだ聴けないんです。なので、今日はk.d.ラングの歌うジョニの曲を最後に聴きたいと思います。

柳樂 : 僕、これが〈Nonesuch〉で一番すきなアルバムなんですよ。k.d.ラング『Hymns of the 49th Parallel』ですよね。カナダ人の曲だけをk.d.ラングがカヴァーしたというアルバムで。

高橋 : このアルバムもオーディオ評論家に凄く評判が良いです。和田博巳さんのコンピレーション(「BEST SOUND SELECTION ノンサッチ編」)とかあるんですけど、その1曲目がこのアルバムからの選曲でした。

柳樂 : アメリカのジャズ、ロックに関して、カナダは凄い大きい国なんですよね。ジャズだったら、オスカー・ピーターソン、ギル・エヴァンス、ポール・ブレイとか、アメリカのジャズの歴史を変えるような特異な人たちがカナダから出てきている。だから何か大きな変化があるときってカナダが間に挟まっていることが多いという感じもあって。

高橋 : そういえば、ジャズ・ヴォーカルの世界でもグレッチェン・パーラト以降、歌唱法的に、それまでのアメリカのジャズ・ヴォーカリストというよりはジョニ・ミッチェルだったり、k.d.ラングだったり、そういったカナダの女性シンガーソングライターの系譜にあるような人達が増えてきましたよね。


k.d. lang - Sleeping Alone (Live From the Majestic Theatre)

柳樂 : そうなんですよ。現代のジャズにはジョニの影響も大きいですよね。だから、アメリカ音楽のことをカナダから考えるって意味があると考えると、このアルバムってすごく地味ですけど、非常に〈Nonesuch〉っぽいというか、〈Nonesuch〉の哲学に沿ってる感じがして好きなんですよ。

高橋 : 最後にとても良い話が出ましたね。ありがとうございました。

k.d. lang「A Case of You 」を再生

試聴会には前回と同じく多くの参加者が集まった

今回使用したセッティングの詳細

今回の試聴会では〈MYTEK Digital〉の「Brooklyn DAC+」をDACに、〈FOCAL〉のパワード・モニター・スピーカー「SM9」を〈オヤイデ電気〉の「TUNAMI TERZO V2」でXLR接続。ハイレゾ音源の再生にはPCソフト「Audirvana Plus」を使用し、PCとDACは〈オヤイデ電気〉の「Continental 5s」でUSB接続している。

再生ソフトウェア : Audirvana Plus
PC : MacBookAir
DAC : MYTEK Digital Brooklyn DAC+
パワード・モニター・スピーカー : FOCAL SM9
下記ケーブル類は全て : オヤイデ電気
電源BOX : MTS-6 + BLACK MAMBA V2
SP電源ケーブル : AXIS-303 GX
DAC用電源ケーブル : AP/AC-004 + TUNAMI V2
スピーカーケーブル : TUNAMI TERZO V2
USBケーブル : Continental 5s

当日に使用された機材を紹介

〈MYTEK Digital〉「Brooklyn DAC+」

〈MYTEK Digital〉「Brooklyn DAC+」 こちらは背面。

DACは〈MYTEK Digital〉の「Brooklyn DAC+」を使用。32bit/384kHzまでのPCMデータのほか、11.2MHz(DSD256)までのDSDデータのネイティブ再生に対応しており、ハイレゾ音源の再生にはほぼ全て対応している。また、「Brooklyn DAC」+はライン入力とフォノ入力の接続が可能。今回はUSB DACとして使用したが、アナログプリアンプ兼バランス駆動対応ヘッドホンアンプとしても高い品質を誇るため、この1台があればさまざまなシーンで活躍ができるのも魅力。

〈FOCAL〉「SM9」

スピーカーは、〈FOCAL〉社のスタジオ用パワード・モニター・スピーカー「SM9」を使用。リバースドームツィーターと呼ばれる、〈FOCAL〉独自開発のツィーターデザインが採用されており、カバーする帯域は5オクターブ(1,000~40,000Hz)にも亘る。今回〈Nonesuch〉の多岐にわたるジャンルの音像をより忠実に会場へ届けるため、高橋健太郎より推薦されたスピーカーだ。〈FOCAL〉の製品は、その忠実な再現度によって国内外の様々な有名アーティストも使用している。

〈オヤイデ電気〉「AXIS-303GX」

そして、スピーカー用の電源ケーブルには〈オヤイデ電気〉が音響機器専用のケーブルとして、2018年12月7日に発売された新商品「AXIS-303GX」を使用。このケーブルの最大の特徴として、オヤイデ電気が自社で開発した音響機器専用導体と謳われる精密導体“102 SSC”が挙げられる。この導体は、今回電源ケーブルでも使用した“BLACKMAMBA-α V2”をはじめ、数々のオヤイデ電気の製品で採用されており「高解像度、広レンジ、且つフラット」な表現が可能となる。SM9との組み合わせによってより高解像度に、そしてナチュラルに再現された〈Nonesuch〉の音の魅力を会場へ届けてくれた。

DAC用に使用したのは、電源ケーブル「AP/AC-004 + TUNAMI V2」。AP/AC-004は、オヤイデ電気の〈ARMORED〉シリーズの中でも最上位のモデル。「TUNAMI V2」にも、「AXIS-303GX」と同じく、“102 SSC”が採用されている。耐電圧600V最大30アンペアというハイパワー伝送も特徴のひとつ。

スピーカーケーブルは「TUNAMI TERZO V2」を使用。こちらにも“102SSC”が採用。世界初の高密度異径導体“3E 撚り構造”を採用したインターコネクトケーブル。3種類の異なる素線径を配置する事で撚り線配列をより緻密化させ、素線間の空隙を最小限に抑えている。

USBケーブルに使用したのは、「Continental 5s」。伝送速度480Mbpsの高速通信USB2.0(HI-SPEEDモード)に完全対応。精密導体"102 SSC"を採用ししており、DAC、オーディオインターフェイス、PCオーディオのさらなる音質グレードアップやハイレゾ音源の高品位な再生にも推奨されるUSBケーブルとなっている。

電源BOXは「MTS-6 + BLACK MAMBA V2」を使用。電源コードが着脱式となっており、電源コードをユーザーの好みに合わせて交換ができる。今回の試聴会では、前回と同じく「BLACK MAMBA V2」を採用。オヤイデ電気のケーブルの中でもフラット、高解像度、な特徴をもつケーブルを組み合わせている。

〈MYTEK Digital〉Brooklyn DAC+の詳細はこちらから

〈FOCAL〉SM9 の詳細はこちらから

〈オヤイデ電気〉 の詳細はこちらから

この記事の編集者
伊達 恭平

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【REVIEW】冴え渡るアレンジが斬りふせる先入観!ーSuara『理燃-コトワリ-』& AQUAPLUS『うたわれるもの Piano Collection Vol.2』

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MONACA岡部啓一の音楽が彩った作品たち

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UN.a、5曲連続リリース最終作『INDUSTRIA』ハイレゾ配信スタート

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tacica「煌々/ホワイトランド」ハイレゾ試聴会レポート&公開インタヴュー

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“音そのもの”を考えた音楽会──ハイレゾ音源+記録映像という配信形態に凝縮された、アルプの試みとは?

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楠田亜衣奈が歌う、7つの『愛』のかたち──『アイナンダ!』ハイレゾ配信開始!

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“暦”が宿るピアノの調べ、季節が巡るイマジネーションの発露──スガダイロー『季節はただ流れて行く』ハイレゾ独占配信!

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