2019/03/01 18:30

ミュージシャンVS落語家 どうしてこの2組が戦うのか──MOROHA×立川吉笑 大衆に届ける、その表現

MOROHA

新作『MOROHA Ⅳ』を2019年5月29日(水)にリリースすることと日比谷野外大音楽堂でのワンマン・ライヴを行うことも発表し、更にその勢いを高めるMOROHA。先日行われた自主企画ライヴシリーズ〈月金でギンギン!〜職場の死神背負って来い〜〉より異種格闘技戦となった落語家・立川吉笑とのライヴの模様と、その本番前に行った対談の模様をお届けします。音楽家と落語家、異なるようで近しい価値観を持った2組がどう戦い、何を考えて舞台に立っているのでしょうか…?


INTERVIEW : MOROHA×立川吉笑

2019年2月22日、MOROHAの自主企画〈月金でギンギン!〜職場の死神背負って来い〜〉吉祥寺 キチム編が開催された。この企画は2月4日の四星球から始まり、SuiseiNoboAz、mouse on the keys、SUPER BEAVERと4組のバンドマンを迎えてきた。そしてMOROHAが最後に招いた相手は、落語家・立川吉笑。2010年に立川談笑に弟子入りをして、3年〜5年かかると言われる二つ目にわずか1年半で昇進。その才能は倉本美津留、水道橋博士などお笑い界からも高く評価されている逸材である。……しかし、どうしてミュージシャンと落語家が対バンをすることになったのか。そこを明らかにするため、本番前に対談をお願いした。

インタビュー : 真貝聡
写真 : MAYUMI-kiss it bitter-

吉笑さんのおかげで落語に興味を持つようになった

──ライブ直前にお時間をいただいたのは、この2組がどうして対バンすることになったのか知りたいと思いまして。振り返ると2014年の『第3回 吉笑ゼミ。』でMOROHAがゲスト出演したのが最初の共演ですよね。

立川吉笑(以下、吉笑) : 元々、私が一方的にMOROHAさんの音楽を好きで。自分の企画に是非お呼びしたいと。それで直接メールを送りました。

──オファーが来た時はどうでした?

アフロ : 俺ね、その時は落語に対するイメージあんまり良くなかったの。というのも“自分で作ったものをやる”っていうのが俺の中のベーシックだから、既に誰かが考えたお話しを引き継いでやる事の良さがあんまり理解できなかった。あと、俺はアホでもわかるものが好きで。食べ物もそうなんだけど、ケチャップとマヨネーズのかかってるみたいな、いわゆる大衆料理が好きなの。だから、専門的な知識がないと楽しめなかったり、繊細な舌を持っていないと楽しめないものって俺自身がそれを楽しむ感性を持ってないから、無関係の世界だと思ってた。オファーが来た時は「俺たちが一緒にやって感動できるのかな」って疑問だった。とはいえ、吉笑さんはすごく真摯な連絡を下さったし、何よりもその時はライブで飯を食わなきゃいけないから「ちゃんとギャランティをもらえるのであればやります」という感じで出演した。

アフロ

──最初はそこまで乗り気じゃなかったと。

アフロ : そうだね。だけど、ステージを観てすごく感動したの。専門的な知識がないと楽しめないもの、洗練された舌じゃないと楽しめないものを、どうにか当てはまらない人にも楽しんでもらおうとする姿勢を感じた。実はそこの部分は俺がラップに対してやっている事と一緒だと思ってて。ラップもルーツやスラングの意味がわかってないと楽しめない部分があるんだけど、俺は「そうじゃない」って自分なりにアウトプットしてきたから。そうやって沢山の人と繋がりたいと思ってるから「この人も同じだ」と感じた。だからこそ、2016年は俺らから声をかけて自主企画(『怒濤』)に出てもらったし、今回もそうで。

──UKさんは吉笑さんの高座を観て、どう思いましたか。

UK : 初めて観た時に音を使ったネタ(『だくだく・改』)をされてて、こういうの知らないなと思いました。僕は落語に対して、古典的なイメージがあったんです。だけど、自分の知らないジャンルを魅せつけられて、まずはそこにビックリしました。すごく感銘を受けたし、吉笑さんのおかげで落語に興味を持つようになりましたね。

吉笑 : 落語は伝統芸能というイメージが強いので、「古き良き」とか「難しい」と思われがちなんですけど、元はと言えば大衆芸能。要は「目の前の人に喜んでもらう」という、始まりはそっち側だったんですけど300年続いていく間に伝統性が帯びてきた。だけど、改めて考えたら漫才とかコントと同じで、笑ってもらうツールなんです。その辺をもっといろんな人にアピールしたいですね。元々、私は音楽とかお笑いが好きで、そういうカルチャー好きな奴がたまたま落語を知り「落語ってやばい!」となっただけなんです。だから3年目になった頃には、落語を広めようとチラシの裏面に自分の好きな音楽とか漫画をズラッと羅列して「ちょっとでも、こういう価値観のある奴は来い!」みたいな感じで若い人を引っ張るようになりました。その名残が2014年のMOROHAさんをお呼びした時もありましたね。

立川吉笑

俺はね、説得力というのを信じたくない

──吉笑さんは、当時のブログで「テーマは『熱量』になるだろうなぁと思っていました」と書かれていましたが、落語と音楽における“熱量”というのは同じものでしょうか。

吉笑 : そうですね。落語家になってからポエトリー・リーディングがすごい好きになって、「これをやられたら落語は負ける」と思ったんです。トラックに乗せて言いたいことを言うみたいな。それこそTHA BLUE HERBさんの「路上」を聴いた時に、お話をトラックに込めて歌っていると無茶苦茶グッとくるし、「なんで俺はトラックを使わずに喋りだけでやっているんだろう」って。もしも、そっち側の人が落語に参入されたら負けちゃうなと、めっちゃヒヤヒヤしてて。脅威を感じていたからこそ興味があったんですよ。それで他の音楽も聴いていく中、MOROHAさんが一際エグい熱量を放っていたんです。YouTubeで「三文銭」のライブ映像を観て、最後のアウトロでめっちゃ熱量がヤバイなと思いました。

──いざ1回目の共演を果たした時はどんなことを思いました?

吉笑 : 真打クラスだなと思いましたね。落語会でいうと、前座、二つ目、真打とあって。真打の師匠方とマッチアップをすると、もう格が違うというか。舞台に出て行かれて敵わないと思う瞬間がめちゃくちゃあって。MOROHAさんも師匠と一緒になった時と同じ感覚というか、真打レベルなんだなとリハの段階から思いました。

アフロ : 何なんですかね。その真打の人が出て行った時に「敵わない」と思う感覚というのは。

吉笑 : やっぱり“説得力”だと思いますね。特に古典落語は、テキストこそ同じなのに明らかに負けてる時がある。それは説得力の差なんですよ。

UK

アフロ : 落語好きが集まって勝負したら説得力は活きてくると思うんですけど。無作為に選ばれた100人の前で勝負したらどうなると思います?

吉笑 : 無作為だとアレですけど、ちょっとでもカルチャーが好きな人なら「この人は本物だ」ってわかると思います。それこそ、立川流の(立川)志らく師匠はZAZEN BOYSと対バンされて。やっぱりZAZEN BOYSもすごいですけど、志らく師匠もすごさを見せつけてましたよね。あれは説得力ですよ。

アフロ : 俺はね、その説得力をあまり信じたくなくて。例えばギタリストで「普通のバンドマンが弾くのと、何十年もやっている人が弾くのと全然違うぜ」と言う奴がいるんですけど、ちょっと待てよと。それは本当か?と思うんですよ。もちろん、先輩でカッコイイ人もいるけど、それはカッコイイからカッコよく感じるのであって。長くやってきたからという、その人がやってきたことに対してのバックグラウンドが言葉じゃないところで表れてると思いたくないっすね。

吉笑 : なるほど。

アフロ : 技術が他の人よりも上とか、グルーヴとか、生きてきたからこそ掴めた言葉とか、そこに含まれる言葉の温度とか。それを言語化してすごいと思うのは良いんですけど、脊髄反射で「説得力」だとか「年数を重ねてやってきたからこそだ」みたいなことを言っちゃうと、その年齢の差は絶対に埋まらないわけじゃないですか。

吉笑 : 言語化しようと思えば全然できるんですよ。例えば凄腕の師匠とマッチアップをすると、自分がバーッと喋るのに対して師匠は喋り出しがめっちゃ遅いとか、グッと引きつけてお客さんに届けるとか。めちゃくちゃ小さめなトーンで喋るとか。小さめのトーンから煽ったと思いきや、また下げて、そこから少し間をおいてガーンって行くとか、そういう技術は積み重ねなんです。そういうのを含めて場数が違う。この間、柳家さん喬師匠と共演させて頂いたとき。その日は、お客さんが重たいというかあんまり反応がないような感じで。みんな苦戦していたんですけど、さん喬師匠が楽屋で「こういう場合、休憩後から空気がほぐれてくるよ」と仰って、たしかにその通りになったんですよ。それって場数を踏んでいるから、これまでのパターンとして「以前のアノ感じと似ているので、次は明るくなるだろう」と。

アフロ : データですか?

吉笑 : データですね。そういう蓄積が皆さんにあるから理屈で言ったら説得力の理由はそこにあると思います。積み重ねがやっぱり違いますね。

「何で俺はこの現代に落語をやってんだろう」みたいなことを考えて愕然としました

──それこそ吉笑さんは、1年半という驚異的なスピードで前座から二つ目に昇進されて。

吉笑 : そうですね。

──下積み期間が短い分、年数を重ねてきた人たちと比べて説得力の欠如が課題だったと思うんですよ。そこに対する対抗策はどのように考えてましたか。

吉笑 : まさにそうで。私は前座から1年半で昇進したんですけど、自分に実力があったとかじゃなくて、たまたま師匠(立川談笑)の方針が「余計な下積みより、実践でどんどん経験を積め」という考えだったんです。自分もその方が良いなと思ってました。だけど1年半しか経験がないので、周りを見たら7、8年も経験がある人と対等にやるときに正面からぶつかっても中々勝てない。そこで考えたのが「自分にしか出来ない話をする」でした。だから昇進したての頃は、尖って尖って無茶苦茶なことをやり続けてましたね。UKさんの言ってくださった音を使ったネタも、その延長線上だったと思います。

UK : なるほど。

吉笑 : 落語を最初に作った江戸時代の人が、もし現代にいたら多分ラッパーをやってたと思うんです。サンプラーで音を作って、それを流して言いたいことを言う方法を当時の人達はやったはずなんですよ。だからこそ「何で俺はこの現代に落語をやってんだろう」みたいなことを考えて愕然としましたね。七尾旅人さんの『911FANTASIA』とか、口ロロさんのフィールドレコーディングとか、あんなことをやられたら、落語はヤバイぞって。もっとシンプルなところを研ぎ澄ませないと戦えなくなっちゃうなと。

アフロ : この前、原田郁子さんと話したんですけど。クラムボンはキーボード、ベース、ドラムスの3ピースで「正直、曲を作る時に手数が足りない」と言ってたんです。でも足りないところを3人で補おうとする姿勢だったり、そこで生まれるものがクラムボンらしさだと言っていたんです。俺達は「それいけ!フライヤーマン」とか「スペシャル」という曲があるんですけど、UKはギターを弾くだけじゃなくて、肘でボディを叩く事でドラムスの役割も果たしてて。一見ドラムスを加えれば良いだけの話なんですけど、でも2人でやることによって、第三者が叩くのと違うグルーヴが生まれてるはずなんですよ。だから“足りない”というのは物を作る上で恵まれていると思うんです。それを埋めようとした時に、何か持っている人よりも別の種類の何かが生まれるのかなって。そう思うと、落語家特有の喋りだけで効果音を出して、音楽も感じさせる芸って最強だなと。「ノコッタノコッタ」も言ったらMPCですもんね。

吉笑 : ああ、確かにそうですね! 本当だ!

──ちなみにアーティストと落語家で共通点はあると思いますか。

吉笑 : 2014年にオファーをした時、当然ギャラの話になって。こっちが提示したギャラよりも、ちょっと上の金額を要求されて自分の中ですごく腑に落ちたんです。要はちゃんとライブで飯を食おうとされているというか。落語家はそこまでテレビに出る機会がないから、ライブでいかに飯を食うかという業界で。MOROHAさんも近い感じというか、ライブで転々と回ってお客さんを集めていけたら、それだけで自分たちの生活ができるのが落語家と価値観が似てるなと思いました。

アフロ : …難しいですよね。確かに2人だったら、地方をドサ廻りしていれば知名度がなくても食えちゃうんですよ。それって恵まれていると思いきや、そこで落ち着いちゃう危険もあって。そこに収まってるとスーパースターになる夢から遠のいちゃう。だってスーパースターになりたいと思って始めたわけじゃないですか。ドサ廻りをして「生活安定だね、ついに子供を大学に入れられるくらいの貯金が貯まったね」という人生を求めているわけじゃないから。そういう生活の安定以外の危機感を感じていようと思いますね。その為に心をかき立てるようなものを見なくちゃいけないし、心をかき立てるような人とステージを分け与えないといけない。

吉笑 : すごいな。ずっとギラギラしてる感じなんですか。

アフロ : 俺は性格が悪いんです。他人は多分「お世話になった人に喜んでもらうために頑張ろう」と思うじゃないですか。俺もそれはあるんですけど、それと同じだけ「俺が転んだらあいつらは笑うだろうな」と思う奴がいるんですよ。そいつらに笑ってほしくない、どうしても。俺達が世に出て、どこかで名前を見る度に嫌な顔をしてりゃいいなと思うんですよ。そのパワーの分、他人よりもエネルギーがあるんでしょうね。

吉笑 : それはすごいなぁ! 

アフロ : 俺らが売れて一生モヤモヤしてほしい。それがスタミナになっていると思います。

吉笑 : そこが衰えないのはすごいですよ。うちの師匠も若手の時の動き方を見たら尖ってて、ゴリゴリのことをやっていたんです。だけど今は年々落ち着いていって、それが成熟ということなんでしょうけど。師匠の背中を見ていると「自分もいずれは、老若男女をパーっと楽しませる芸に行くのかしら」みたいに思うんです。そうなりたい気もしますが、一方で危機感も覚えるんですよね。やっぱりMOROHAさんを見ていると、もっと攻めなきゃダメだと姿勢を正されました。

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