平成最後の夏に放たれた「歌謡曲」──清 竜人、レーベル移籍後初シングルをリリース

シンガー・ソングライターの清 竜人がキングレコードにレーベルを移籍し、移籍後初のシングル『平成の男』をリリースした。今年4月中旬に突如発表された久々のソロ名義、コンセプトはなんと「歌謡曲」。平成最後の夏、宗像明将によるリリース・タイミング恒例インタヴューをお楽しみください。
清 竜人 / 平成の男
【配信形態】
AAC
【配信価格】
単曲 257円(税込) / アルバム 1250円(税込)
【収録曲】
01. 平成の男
02. Love Letter
03. 抱きしめたって、近過ぎて
04. 平成の男(off vocal ver.)
05. Love Letter(off vocal ver.)
06. 抱きしめたって、近過ぎて(off vocal ver.)
INTERVIEW : 清 竜人
2011年の『ボーイ・アンド・ガール・ラヴ・ソング』以来、実に約7年ぶりとなるソロ名義のシングル『平成の男』を2018年7月25日にリリースした清 竜人。2018年5月31日に渋谷duo MUSIC EXCHANGEで開催された「清 竜人 新曲発表会」で、ライヴの最後に歌われたのが「平成の男」だった。アレンジにはミッキー吉野(ゴダイゴ)を迎え、カップリング曲のアレンジも井上鑑、原田真二と大御所ぞろいだ。
2017年までは清 竜人25、清 竜人TOWNといったグループで活動し、2017年末の「KIYOSHI RYUJIN SOLO TOUR」では、MCなしでピアノの弾き語りを聴かせた清 竜人。彼がなぜ新たに「歌謡曲」というコンセプトを選んだのか話を聞いた。そこで浮かびあがったのは、清 竜人のJ-POPへの批評性、そして音楽家として考える「使命」であった。
インタビュー&文 : 宗像明将
撮影 : ペータ
しっかりとした歌ものであまり情報過多ではないものを今やるのが面白いかな
──2018年5月31日の「新曲発表会」でのひとり歌謡ショーの手ごたえはいかがでしたか?
清 竜人(以下竜人) : 年末の弾き語りのコンサートはヒリヒリしたいい緊張感がありましたけど、今回はカラオケを流して歌うぐらいなので、そこまで変な緊張感はなかったですかね。
──あの日はけっこうMCでしゃべっていましたよね。
竜人 : そうですね。昔はかたくなにMCをしたくなかったんですけど、今はMCが入ったほうが総合的にライヴの点数が上がるなら柔軟にやるつもりですね。
──新曲をいきなり歌いながら、お客さんの反応はどう受け止めましたか?

竜人 : 以前の僕を知ってる人たちからすると、1番は普通でも、2番から急にプログレやミュージカルになるとかあり得る話じゃないですか。本当に戦々恐々としている感じというか。ステージから見ていてけっこう面白かったですね。
──ソロから清 竜人25、清 竜人TOWN、ソロの弾き語りコンサートときて、さらに新たなテーマを「歌謡曲」とした理由はなんでしょうか?
竜人 : 去年の6月に清 竜人25が終幕して、7月に清 竜人TOWNが終わって、2018年の動きを決めかねていたところはあって。ソロに戻るのか、新しいプロジェクトを始めるのか漠然としていたんです。そんな中で、気分的にひとりでやりたいなって思ったんです。旅をしながらね。じゃあソロをこのタイミングでやるならどういうものがいいかを考えはじめて、最近のヒットチャートやJ-POPの流れを鑑みつつ、しっかりとした歌ものであまり情報過多ではないものを今やるのが面白いかなと思いました。
──竜人さんから見ると、今のヒットチャートは情報過多なものが多いのでしょうか?
竜人 : 僕の感覚としては、最近は停滞しているような気がしてね。どういう一手を打つのが面白いかなと思ったときに、新古典主義的な発想で、一回J-POPの王道はどういうものだったかを振り返ってみようと。美術史にたとえるとバロックやロココがあって、華美なものに嫌気がさした人たちが古典絵画から見つめ直して、もう一度そこから新しいものを練りあげていったみたいにね。そういう発想で、日本の歌謡曲や歌曲の神髄や精髄みたいなものを見つめ直して新しいものが作れたら面白いんじゃないかなっていう発想ですね。
──竜人さんは、清 竜人25にしても清 竜人TOWNにしても、そのときのJ-POPの流れに対しての批評性がありますよね?
竜人 : 最近は「はからずも」っていう部分もあるんですが、昔から心がけていた部分でもありますね。新しいものを作らないとこの仕事をやっている意味はないなって思っているので、何かしら現代に抗っていきたいですね。すごくいい曲ばかりこの世に流れていたら、自分では音楽をやってないし、やる資格もないと思うんです。何かしら不満がないと新しいものを作るエネルギーにならないと思うので。そういった気持ちで常々やっているつもりではありますね。
──あまり良くない曲もヒットチャートにあると?
竜人 : 大っ嫌いなものばっかりですよ(笑)。
──嫌いなジャンルはどれですか?
竜人 : ジャンルで嫌いなものはないです、ジャンルに罪はないと思うので。ただ、音楽の要素をJ-POPという枠組にどう落としこんでいくかが、僕たちの才能やセンスが問われるところだと思うので、そこは僕も気を引き締めて慎重にやらないといけないなとは思っています。
──音楽性の変化は、レコード会社の移籍(EVIL LINE RECORDS)も関係しているのでしょうか?
竜人 : それは関係してないですね。こういう音楽性で行こう、と楽曲も作りはじめた後だったかな。
──作詞作曲するにあたって、今までと意識的に変えた部分はありますか?

竜人 : 日本っぽい哀愁や郷愁を、現代をテーマにして、4分ぐらいの尺の歌詞の世界で醸しだせたら面白いかなっていうのは意識しています。最近のポップスって、具体的な描写の楽曲が多くて、夕焼けを見てせつなくなるような楽曲が少ないなって思っていて。それを、平成30年のこの時代のイデオロギーに則って書けると面白いかなと思いました。
──イデオロギーの部分でいうと「男気など 時代錯誤でしょう」と歌ったり、女性のほうがしっかりしているという描き方ですよね。
竜人 : そうですね。男女の価値観だけではないですけど、今っぽい社会通念や価値観の中でどう人を思っているかにフォーカスを当てて書いている感じですね。
新しい形の歌謡曲を作りあげられると面白いなと思います
──「平成の男」はミッキー吉野さんのアレンジですが、どういう人選だったのでしょうか?
竜人 : いわゆるJ-POPに携わってきたクリエイターたちの中でも、自分の琴線に触れて、かつアメリカ音楽とかいろんな音楽から吸収してJ-POPに昇華した技術やセンスが素晴らしい人たちをセレクトしたつもりです。各アレンジャーさんに大筋の方向性は示しましたけど、具体的には言いすぎないほうがいいと思いました。加えて「この楽曲ならこの人」っていうのは綿密に考えてオファーを出しているので、その人の個性が出るようなサウンドなら、さらに相乗効果で良くなるんじゃないかなっていうのは想定しています。
──ミッキー吉野さんはどこがポイントでしたか?
竜人 : 今回オファーを出すときに伝えた楽曲は布施明さんの「君は薔薇より美しい」(1979年。ミッキー吉野が作編曲)っていう曲で、僕自身の好みで、とても音楽的でもあるし、なおかつすごく大衆的でもあると思うんです。そこを両立させるのって、J-POPに携わってる作家たちの永遠のテーマだと思うので、一時代を作ってきた方たちと今回ご一緒して、今回のプロジェクトで昭和と平成、そして次の時代につないでいけるような新しい形の歌謡曲を作りあげられると面白いなと思います。

──作詞家で好きな人はいますか?
竜人 : ぱっと出てこないですね。作詞家から逸れてしまうんですけど、漫画家の立原あゆみさんはすごく台詞が詩的かつ大衆的で、惹かれている理由のひとつなんです。回りくどく表現するんだけど気持ちが伝わってくるような言葉選びが、僕の考える日本っぽさというのはありますね。
──作曲家では好きな方いますか?
竜人 : 好きな方と今回一緒に仕事をしている感じかな。アレンジだけじゃなくて作詞作曲をされる方もいるので。井上鑑さんもそうですし、まだ名前が出ていない方も含めて。
──竜人さんは平成元年生まれですよね。そのことと「平成の男」は関係していますか?
竜人 : もちろん。
──そして平成はもう終わると。
竜人 : 今僕らが言う「昭和っぽさ」って漠然としつつも明確なものがあるじゃないですか。その雰囲気って大事だなと思っていて。だから、平成の代名詞みたいなものがもう少し増えてもいいなって思っているんですけど、「平成」っていうキーワードが入った楽曲がぱっと浮かばないんですよね。そういった意味で、5年後、10年後に振り返ったときに何か面白いものになるかなっていうのも含めて「平成」をテーマにしてみました。
──平成のポップスで面白かった楽曲はありますか?
竜人 : 平成っぽさって、今生きている人間からするとわからないですよね。むしろ逆に聞いてみたいですけどね。なんかあります?
──平成30年分でもまとめきれないですよね。プロデューサーで言えば小室哲哉、つんく♂、中田ヤスタカ、秋元康でしょうけれど、音楽的には漠然としていて、後世の評価を待つところはありますよね。「平成の男」は、後世で思いだされると?
竜人 : そういうところを次のアルバムで目指せたら面白いかな。
──「平成の男」のMVはフィルム撮影だそうですが、時代設定はいつなのでしょうか?
竜人 : 僕がミーティングのときに言ってたのは、よくわからない時代感にしてほしいと。もちろん昭和っぽさもありつつ平成感があってもいいし、あまりシチュエーションで世界観ができすぎるようなものにはしてほしくないというふうに伝えました。
新しい音楽を作っていくというある種の使命を帯びていると思う
──歌謡ロックな「Love Letter」のアレンジの井上鑑さんはどのような理由での人選でしょうか。
竜人 : 井上さんは百戦錬磨で、ひとつのジャンルにとらわれないオールラウンダーのイメージで、どんなものでもしっかり作りあげてくれるのは重々承知の上で、狙いたかったのは寺尾聡感です。ただ、井上さんとのコラボレーション感を少しベースに置きつつ作れたら面白いかなというのは、この曲には少しだけあって。井上さんからは、プリプロダクションを一緒にしてほしいっていう話があって、レコーディング前に井上さんのスタジオにお招きいただき、少しずつ確認しながらアレンジを詰めていきました。

──井上さんとプリプロと聞いて思ったのですが、竜人さんは自分で編曲できるじゃないですか。それを今回あえてやらないで、いろんな人に任せたのはどういう意図だったのでしょうか?
竜人 : アルバムでは何曲かアレンジしようと思っていますけど、僕はJ-POPに限っていうと、シンガーソングライターがアレンジまで全部しないほうがいい気がしているんです。ひとりの人間ができる仕事の幅って限界があって、すごくJ-POPにとってマイナスな気がするんですよ。そういった意味でアルバムを考えたときに、大衆音楽として人が飽きずに聴けるものを意識して、清 竜人25のときもアレンジャーはつけるようにしていました。それもひとりではなく、何人かでバランスを取って作るようにはしていましたね。
──竜人さんが作詞や作曲だけ誰かに任せるという選択肢はありましたか?
竜人 : ほぼないですね。食っていけなくなるので。それだけの理由です(笑)。ただ、スタッフィングを何十年もまったく変えずにやる方もいて、それがその人のカラーになることはわかるんですけど、若い世代からすると何の刺激もない音楽になるので、下の世代のことを考えたりもしますね。ちょっと大げさな話をすると、せっかくこの仕事をしてるからには、新しい音楽を作っていくというある種の使命を帯びていると思うんです。そう考えると、自分ができることとできないこと、したほうがいいことしないほうがいいことをしっかり区別して作品の総合点を上げていくことが大事かなと僕は思っています。
──下の世代のことまで考えているミュージシャンは、同世代にもなかなかいないのでは?
竜人 : 僕自身のデビューが早かったから、っていうのもあるかもしれないですね。自分より10歳、20歳、30歳上のアーティストが出す新譜って退屈なものが多くて、過去の刷り直しみたいなものが多くなっているのが現状だと思うんですよ。そうじゃない人もいるとは思うんですけど。僕はそうなりたくないなっていうのは常に心がけています。
──「抱きしめたって、近過ぎて」のアレンジの原田真二さんは、どのような理由での人選でしょうか?
竜人 : 原田さんは、ブラック・ミュージックをうまくジャパニーズ・ポップスに取り入れたパイオニア的な人だと思うんですよね。その辺のセンスはすごく琴線に触れるところがあったので、僕のメロディーと歌詞に彼のサウンドが付くと面白い歌謡曲になるんじゃないかなっていう判断からオファーしました。
──「抱きしめたって、近過ぎて」では、原田真二さんにどんなイメージのサウンドをオーダーしたのでしょうか?
竜人 : 基本的には丸投げで下駄を預けました。僕が聴いて想像していた原田真二さんの個性がすごく出ていると思うので、うまくコラボレーションができたかなと思っています。松田聖子さんをプロデュースされていたようなアプローチもあるので、その辺もうまく引きだしてくれたのかなという気はしますね。
──アレンジャーのみなさんが年代的にかなり上のかたですが、やってみていかがでしたか?

竜人 : みなさんちゃんと今も現役でやられている方ばかりで、第一線で活躍し続ける人っていうのは、その時代にうまく適応してさらに自分の個性を出せる人たちばかりなので、そういった意味でもすごく刺激を受けましたね。
──「清 竜人ツアー 2018 夏」では過去曲を歌うことも予告されていますが、過去の楽曲と新曲の間のギャップは感じていませんか?
竜人 : 楽曲によっては混じりあわないものもあるので、使えないものもたくさんありますけど、うまくセットリスト組めば大丈夫かなと思っています。この間、イベントで「痛いよ」と「All My Life」も入れてセットリストを組みましたけど、悪くなかったなという気はしたので。
──握手会の開催も楽しみですね。清 竜人25の解散コンサートのパンフレットを作らせてもらったときに、ファンとの過剰なコミュニケーションはあまりいらないかなと言っていましたが、どういう心情の変化で握手会を?
竜人 : 歳を取ったのかな……(笑)。今回のこの感じだと悪くないかなと。音楽性とのバランスですね。グッズにもその雰囲気を少し醸しだしています。
LIVE INFORMATION
清 竜人ツアー 2018 夏
2018年7月25日(水)@渋谷 WWW X
2018年7月30日(月)@渋谷 WWW X
2018年8月1日(水)@名古屋 BOTTOMLINE
2018年8月2日(木)@大阪 味園ユニバース
清 竜人 歌謡祭
2018年8月26日(日)@東京キネマ倶楽部
出演者:清 竜人 / 吉澤嘉代子