2018/05/18 18:30

メロディーやフレーズが新たな理想に到達した──The Sea and Cake、6年ぶり新アルバムをハイレゾ配信

実に6年ぶりとなる新アルバム『Any Day』を完成させて、ザ・シー・アンド・ケイクが帰ってきた! 今作は、サム・プレコップ、ジョン・マッケンタイア、アーチャー・プルウィットの3ピースとなって初のリリース作であり、近年では最も“歌”にフィーチャーしたポップ・アルバムとも言えるだろう。今作には、2016年のブライアン・ウィルソン〈『ペット・サウンズ』50周年アニバーサリー・ツアー〉にて音楽監督を務めたポール・マーテンズがフルートとクラリネットで、そしてユーフォン(Euphone)名義での活動でも有名なニック・マクリがダブル・ベースで参加し、オリジナリティ溢れる傑作アルバムが完成した。OTOTOYではそんな『Any Day』を、ハイレゾ独占配信中! 細部までこだわり抜かれたそのサウンドを、ぜひハイレゾで体感してみてください。

6年ぶりの新作アルバム!
The Sea and Cake / Any Day
 
【配信形態・価格】
ALAC、FLAC、WAV、AAC(24bit/96kHz) : アルバム 1,799円(税込) / 単曲 250円(税込)

【収録曲】
1. Cover the Mountain
2. I Should Care
3. Any Day
4. Occurs
5. Starling
6. Paper Window  
7. Day Moon
8. Into Rain
9. Circle
10. These Falling Arms

INTERVIEW : The Sea and Cake

いわゆるシカゴ音響派~ポストロック勢に端を発するベテラン・バンド、ザ・シー・アンド・ケイクの、6年ぶりの新作アルバム『Any Day』が到着した。20年を超えるキャリアの中で最も長いインターバルを設けてのリリースとなる。中心人物、サム・プレコップは2015年にシンセサイザー・アルバム『The Republic』を発表し精力的にソロ活動を行い、写真家としても、彼のインスタグラムにあげられるどこか静かな街の風景のポートレイは、ザ・シー・アンド・ケイクのサウンドが聴こえてくるようでファンを喜ばせている。アーチャー・プルウィットは音楽家としてだけでなくコミック画家、作家としても活躍。ジョン・マッケンタイアはトータスを始め、ある種、USのポストロック / オルタナティヴ・ロックの顔役として、そしてレコーディング・エンジニアとしてヨ・ラ・テンゴやパステルズ、日本でもGREAT3やGotchを手掛けている。だからザ・シー・アンド・ケイクはそれぞれが活動を展開する中で常に“いつかまた集まるルーツの場所”としてあり続けたように感じる。しかし20年以上不動の4人で活動してきた中で前作以降のタイミングで、エリック・クラリッジが離脱。初めて3人での制作という彼らにとって最大の実験をもって完成した本作は、いまいちどサム・プレコップの美しい歌にフォーカスし、ヴァーチャルなものを使わずサムとアーチャーのギター・ワークで魅せる、これまでで最も自然体でありながら厳選された音の集積で仕上がった。再び共同作業を静かに進め始めた3人の生活の柄が年輪となって刻まれている作品。本作の背景をメール・インタビューで伺った。

インタヴュー&文 : 峯大貴

メロディーやフレーズが新たな理想に到達した

──みなさんそれぞれが個別にプロジェクトを抱え精力的に活動されておりますが、アルバムとなると、本作は『Runner』(2012年)以来約6年ぶりとなります。キャリア最大の期間を経て完成となりましたが、今回アルバムを制作する契機となったのはいつ、どのようなものだったのでしょうか。またこの長いスパンはみなさんにとって必然の期間でしたか?

アーチャー・プルウィット(Gt,Key 以下アーチャー) : 本作は1年ほど前に、3ピース・バンドとして、シカゴでベーシック・トラックを作るところからレコーディングがスタートしました。このタイミングというのは、新たな作品を作るときが来たという感じでしょう。前作からの6年というスパン、これは側から見れば長い期間だったかもしれませんが、自分たちとしてはそこまで長いスパンだったという感覚はないですね。ここで作られたものを聴いてもらえれば、必ずそのサウンドにとって、この期間が必要であったと理解できるのではないかと思います。みなさんの情熱をいまいちど、呼び起こすものになっているかと思います。

──エリック・クラリッジさん(Ba)が引き続き休養されているなかで、はじめて3人のメンバーでのアルバム制作となりました。その上で心境や制作過程において変わった点はありますか?

アーチャー : 前作『Runner』を制作時に、エリックがベーシストとして参加することが難しい状況に直面してしまいました。これはバンドにとっても非常な残念でした。そんななかで、シー・アンド・ケイクとして予定通りにアルバムを完成させるために3人で制作を進めなければなりませんでした。なので、現在の残されたメンバーでベースラインも作っていきました。そうこうしているなかで、ミックスダウンのときには3人の作業も満足いくものができると実感したんです。

レコーディング中はいつも目の前のことにグッと集中してしまうバンドなので、ひとりのメンバーが参加できないこともいつの間にか自然に受け入れることができました。なので、今回はタイトル・トラックの「Any Day」にはアップライト・ベースにニック・マクリ、クラリネットとフルートにポール・マーテンズという友人に参加してもらったものの、収録されているそれ以外の曲はジョンとサム、そして私の3人で本作は完成させました。でも、これは良いチャレンジになったと思っています。

──本作はこれまでの作品の中でもシンプルで、サムさんのヴォーカルを支えるような、自然体なバンド・アンサンブルが素晴らしいと思いました。メンバー3人で作ることの必然性を感じます。

アーチャー : ありがとうございます。私たちの作品を聴き込んでくれていると思います。確かに本作は美しいヴォーカルが前に出ているアルバムです。私は常にサムのヴォーカルにもっと注目が集まることを信じていました。今作の制作のなかで、ある意味でこれまでより引き締まったバンド構成になったことで、サムが作るメロディーやフレーズが新たな理想に到達したように思います。本作をシカゴでジョンとレコーディングに入る前に、サムと私は3週間以上、一緒に練習しました。レコーディングに関してまずやったことは、楽曲や作品の構成を練ること。そこから2本のギターとドラムで、こうして練られた楽曲をレコーディングします。サムの方は、自分のスタジオで歌を歌い終えたらジョンと私に音源を送ってきました。その後、私は、ヴォーカル・メロディーを補完するように、その上にギターのオーバーダブして加えていく……という作業が今回のレコーディングの肝でした。これまでのシー・アンド・ケイクの、直近3〜4作のアルバムでは、私がサムの良き伴走者になれているかと思います。私の自宅スタジオにある時計はまったく音がしないので、時間を気にせず、美しいサウンドを時間をかけて作れるし、それゆえに非常に満足した仕上がりになりました。また本作は、基本的にギターとオルガンだけでアレンジをすることによって、自然なサウンドのアルバムになったんだと思います。ある種の制約を設けてることで、音の要素を絞り、アルバムをひとつの方向性にしっかりフォーカスすることができたんだと思います。

俯瞰して歌詞全体を手直ししていく作業も非常に重要

──サムさんは以前のインタビューで「ザ・シー・アンド・ケイクは、真の意味での実験的なバンド」と仰っていましたが、今回のアルバムでの実験や、新しい試みがあれば教えてください。

アーチャー : 私はこのアルバムでの実験性、ヴォーカルにあると思いっています。弱さ、怒り、楽しさ、挫折、そしてサムにしか書けないメロディー。ここでも彼の歌は非常にエキサイティングで光っていますね。またギターの音像も、自分たちにしかできないサウンドに、そしてドラムもしっかりアンサンブルを築いて、それはまったく妥協のない音になっています。これが(シー・アンド・ケイクとしての)バンド・サウンドとしての到達点ではないでしょうか。

──歌詞についてですが〈I can’t seem to go on〉(「Any Day」)、〈I’m beginning to trust I’m getting nowhere〉(「Occurs」)など、立ち止まったり、物憂げだったりする表現が印象的でした。本作の歌詞についてはどのようなことを意識しましたか?またどのようなことを描こうとしましたか?

サム・プレコップ(Vo,Gt 以下サム) : どこか物憂げな感じがするというのは正しいですね。アーティストであることの困難さと不安を表現することから完全に逃れることができなかったのだと思います。私はいつも無意識の内にビター・スイートで、物憂げな音楽に惹かれてしまう傾向があります。だから、歌詞の内容が、あまりに誘導的だったり、直接的な歌詞表現で重たくなったりすることは避けていますね。究極的には歌詞の意味が私の中からリスナーに途切れず流れていって、なんとなくだけどそのまま伝わっていく、というのがベストな歌詞の表現だと思っています。私にとって歌詞を書くことは、音楽を作ることと非常に直接的な反応で、またその逆で、私にとって言葉もサウンドを探している感じなのです。サウンドと歌詞の相互関係性はおもしろいものですね。だからこそ歌詞は試行錯誤しながら、いいものが書けるチャンスを待っています。またそんなサウンドにも影響する、おもしろい言葉の繋がりを見つけようとすることだけでなく、俯瞰して歌詞全体を手直ししていく作業も非常に重要だと思っています。

新たなチャレンジを続けていく

──今回のレコーディングではこれまでのシカゴだけではなくジョンさんが移り住んだLAのスタジオでも行われたようですね。

ジョン・マッケンタイア(Dr) : 私は2016年の初めからほとんどツアーに出ていて、ずっと動き続けていました。本作の制作期間における、LAでの滞在時間は正直短かったですね。LAでやったのは仮ミックスくらいなもので、レコーディングの作業はほとんど行えませんでした。なのでこのアルバムの注目すべきところは、むしろどこかの特定のスタジオでのレコーディングといったものではなく、転々としながら仮のスタジオ環境を作ってミックス作業を進めていったことにあると思います。ちなみにいまはカリフォルニア州北部のネヴァダシティに引っ越しました。ようやく落ち着いてきたので、腰を据えて作業できる環境である新たなSOMAスタジオを作りはじめています。

──サムさんのインスタグラムには街並みを映した写真がたくさん上がっています。東京や大阪など日本で撮られた写真もありますが、インスタグラムに上がっている写真はどういうもの視点で撮られ、アップされているのでしょうか?

https://www.instagram.com/p/Bhb7KzdjFek/
サム・プレコップ instagram

サム : インスタグラムはいつの間にか私の作品の重要なアウトプットの場所になっていますね。あげている写真は日常の記録というよりも、よりアーティスティックな写真作品としてアップしています。最近の投稿は主にアーカイヴしていた過去の写真なんです。日本の風景としてあがっているのも以前の訪れたときの古い写真になります。遡ってみると、いわゆる「旅行写真」的なものとは違って見ることができると思います。またインスタグラムでは、写真家のような人たちとたくさん出会うこともできました。彼らの反応や激励はかなりの写真を撮影する上でインスピレーション源になっていて、またどんどん新しい写真を撮っていきたいですね。バンドでツアーを回っている間に元気になる1番の楽しみが、各地で写真を撮ることだと気づいたんです。色んな場所で撮れればいいなと思っています、特に日本でね。

──また今回のジャケットもサムさん自身が撮影されたものですね。インスタグラムにはジャケットと同じ部屋で撮られた別の写真も上がっていましたが、ホコリがかぶった部屋を整理している感じで、自分たちのルーツをいまいちど見直すようなイメージがわきました。ジャケットにはどのような思いを込めましたか?

サム : ジャケットは10年ほど前の古い写真を使いました。インスタグラムにあげるための写真を自分のアーカイヴから探しているときにこの写真を見つけて。この写真には、どこか突出しているものがあって、おもしろいアルバム・カヴァーになるだろうと思いましたね。そこに収録される音楽よりも先に、写真にアルバムのイメージを感じてしまうというようなことは、かなり珍しいんじゃないかと思います。この写真は、個人的なターニングポイントになるんですが、新しい家に引っ越すタイミングの光景なんです。その作業途中の一瞬の風景で、ホコリもかぶったそのままを捉えているところが興味深いですね。また、この少し褪せていて、最近撮ったという感覚でもないのが好きなんです。とはいえそれが歴史的に価値があるというほど古くもない。この写真を撮影した頃、本当に楽しい時期でしたが、あれからどれくらいの時間が経ったのかもこの写真は思い出させてくれます。

──3人それぞれが音楽やアート、さまざまに関わる中でザ・シー・アンド・ケイクはマイペースに楽しみながら気負いなく活動を続けているように思います。皆さんにとってザ・シー・アンド・ケイクはどんなプロジェクトですか?

アーチャー : このバンドは、ある種の精神の拠り所のような、非常に特別な共同体ではないかとつねに考えています。それはとてもユニークな関係性で成り立っていますね、なにせエリックの不在でもバンドが前進しました。それは奇妙な心地すらします。それでも新たなチャレンジを続けていく。それがシー・アンド・ケイクがよりおもしろいこと、より心の中に残っていくもの、より美しいものを探し続けるバンドであり続ける理由ですね。

──本作を作り終えてザ・シー・アンド・ケイクの今後の予定や、展望などあれば教えてください。

アーチャー : まずこのアルバムが完成させることができて、ツアーができることが本当に幸せです。とてもワクワクしています。個人的にはすぐにでも新しいレコードを作るレコーディング作業に入りたいと思っていますし、このバンドはやはりまだまだ大きな可能性を残しています。そんなシー・アンド・ケイクの音楽に取り組めること改めてうれしくおもっていますね。

PROFILE

The Sea and Cake(ザ・シー・アンド・ケイク)

ザ・シー・アンド・ケイク(The Sea and Cake)は、1993年に、シュリンプ・ボート(Shrimp Boat)のヴォーカル・ギターだったサム・プレコップ(Sam Prekop)とベースのエリック・クラリッジ(Eric Claridge)、ザ・カクテルズ(The Coctails)でギターをはじめ、さまざまな楽器を演奏していたアーチャー・プルウィット(Archer Prewitt)、バストロ(Bastro)他でキャリアを重ね、ちょうど同時期にトータス(Tortoise)を結成したばかりのドラマー、ジョン・マッケンタイア(John McEntire)の4人で結成された。

1994年にバンド名をタイトルに冠した1stアルバムをシカゴのインディー・レーベル〈Thrill Jockey〉からリリースし(UKは〈Rough Trade〉より)、以降現在までに〈Thrill Jokcey〉より10枚のフル・アルバムを発表している(フィジカルとしては、他にEPを2枚、ミニ・アルバムを1枚をリリース)。2012年のアルバム『Runner』発表後、エリックが手根管症候群によりライブへの参加が困難となり(ツアーでは、トータスのダグ・マッコームズがサポートを務める)、今作『Any Day』のリリースに合わせ、エリックの脱退と、サム、アーチャー、ジョンの3人組としての活動を正式に発表した。

>>The Sea and Cake official site

この記事の筆者
峯 大貴

1991年生まれ、音楽ライター兼新宿勤務会社員兼大阪人。京都のカルチャーを発信するウェブマガジンアンテナ在籍。CDジャーナル、OTOTOY、Mikikiなどで執筆。過去執筆履歴などはnoteにまとめております。
Twitter:@mine_cism

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[インタヴュー] The Sea and Cake

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