“平成”が終わる、ここで生まれたマエケンの新たな“歌”──4年半ぶりの待望の新作『サクラ』ハイレゾ配信

近年ではラジオ・パーソナリティ、文筆家、役者など、さまざまな分野にも活躍の場を広げている前野健太。そんな充実した活躍のなかで、ここに彼の真骨頂たる、新作アルバムを発表する。4年半ぶりということを考えれば、やはり待望と言わざる得ない作品『サクラ』である。多彩なゲスト陣とともに作り上げた世界観は、さらに豊かな表現を携えた、新たな世界の広がりを強く感じるものだ。OTOTOYは本作をハイレゾ配信、そして岡村詩野によるインタヴューとともにお届けする。

4年半ぶりのオリジナル・アルバム、ハイレゾ配信

前野健太 / サクラ (24bit/96kHz)

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/96kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?

【配信価格】
単曲 324円(税込) / アルバム 2,160円(税込)

【収録曲】
01. 山に囲まれても
02. 今の時代がいちばんいいよ
03. アマクサマンボ・ブギ
04. 嵐〜星での暮らし〜
05. 夏が洗い流したらまた
06. マイ・スウィート・リトル・ダンサー
07. 大通りのブルース
08. SHINJUKU AVENUE
09. 虫のようなオッサン
10. 人生って
11. いのちのきらめき
12. ロマンティックにいかせて
13. 防波堤

INTERVIEW : 前野健太

たとえば「夏が洗い流したらまた」や「マイ・スウィート・リトル・ダンサー」「人生って」に現れる女性たち、「SHINJUKU AVENUE」「虫のようなオッサン」の背後に見え隠れする男たち、あるいは「防波堤」で躍動する友達たちや恋人たち…… それは歌の題材として“描かれた”登場人物ではない。そこで躍動する人々、そこで精一杯生きる人々が、自然と歌の中に入り込んできたにすぎない。あるいは、そうした情景をたまたま“この男”が掬い取ったにすぎないのである。そういう意味では、誰のものでもない、いまの時代のノンフィクションでありドキュメント。平成という時代を歌にしていこうとした…… いや、歌になっていったそのプロセスがここに刻まれただけだ。

荒内佑(cero)、岡田拓郎、石橋英子、武藤星児が曲ごとにプロデュースとアレンジを担当、その4名に加え、伊賀航、古川麦、増村和彦、ジム・オルーク、千葉広樹、Amazons、ジョー・タリアら多くのミュージシャンが参加した、この4年半ぶりのアルバムは確かにサウンド面、音像面で多くの驚きをもたらしてくれる。荒内が手がけた最初の1曲目「山に囲まれても」が耳に飛び込んできたときには耳を疑ったりもした。だが、問題はそうした変化の結果ではない。なぜ“この男”がそうした仲間に音作りを委ね、自分は歌を歌うことだけに向き合おうとしたのか。その思惑の背後にはどういうロマンティシズムが働いたのか。そこに、ひとりの日本人としての目線を預けてこそ、このアルバムは初めて甘く苦い蜜を垂らしてくるだろう。

 “この男”…… 平成の歌うたい、前野健太。この『サクラ』というアルバムの中には名の知れぬ市井の人々が生きている。抱えているものの大きさに押しつぶされそうになりながらも日々を明るく暮らし、世知辛いいまの時代を生き抜こうとする、ひたむきで健気な人々。それでも繰り返すのは、“いまの時代がいちばんいい”という主張だ。そして、歌い手である前野自身もそんな時代に生きるひとりのちっぽけな存在だということを、このアルバムは静かに問いかけている。どんな作品なのか。答えは、平成の歌。日本の歌。それだけでいい。


インタヴュー・文 : 岡村詩野
写真 : 横浪修

「新しいマエケンだね」とかは結構言われますね。

──1曲目から驚きました。まさかこれが前野健太? そう感じる人も多いと思います。

前野健太(以下、前野) : そうですね。「新しいマエケンだね」とかは結構言われますね。

──それは前野さん自身望んでいたことですか。

前野 : 良い歌を良い音で、アレンジで届けたいという思いはありました。僕自身の新しさももちろんありますね。声の出し方とか歌い方とかそういうのは新しい自分、いまの自分を出すつもりで作りました。

──良い歌と音、良いアレンジ、というのはこれまでとはやや異なるアングルですね。少なくともジム・オルークのプロデュースで制作していた頃はバンド・サウンドが軸になっていました。

前野 : ジムさんとの仕事というか、あのアルバムやツアーではバンド感が強かったので、分業制の編曲家というよりはバンドとしてその場でみんなで考えたっていうのがあったので。でも、弾き語りの音源を渡して、アレンジしたのが帰ってきた…… というのが今回なんです。井上陽水さんと星勝さんみたいな、アレンジャーと言われている人が相棒として側にいて欲しいというのはずっとあったんですね。そうすることで自分もどんどん曲が作れるというか。

──バンド・サウンドでの制作に、一定の成果や手応えがあったということですか?

前野 : 距離や一体感が強くなりすぎて疲れちゃったんですね。何でもそういうのを持たないタイプなんで。前野健太とソープランダーズ(以下、ソープランダーズ)がそうだったというわけではなくて、同じ人たちと2年、3年と続けることが、自分のタイプとしてできない。結果として思った以上に“バンド”になって行ったので、そこで自分がひとりでまたふらっと歌を作りに出かけたいなと。そういう点で少し時間が空いたのかな。もう10年も前ですけど、昔バンドをやっていたときに、バンドを維持させる方に力を使ってしまっていたことがあって。自分はただ歌を作って歌いたい。歌を作りたいということを感じたんですね。歌を作る、歌うことが好きだったんで、本末転倒になってしまっていたんですね。だからそういうのはやっぱり向いていないなと。ただ歌を作るっていう事にもう1回行かなきゃなっていうのはあったなと思いますね。

──自分対他者という関係性が「ただ歌を作って歌いたい」という自分の思いを窮屈にさせていたと。

前野 : それはもう歳を重ねるにつれて知り合いも増えていくので、そういうのはありますよね。ただ、ジムさんに関していうと、ツアーの際に同じステージで一緒に演奏して、エレキ・ギターの音が圧倒的に違うんですね、ジムさんのギターって。それで「なんでこんな音が出るんだろうな」って思って。「こういう音は出せないな」って気づいたときに、自分の武器をちゃんとやらないとってなって。で、その自分の武器っていうのは日本語の歌だった。そこからそれを反動として、日本の歌ってどういう歴史や流れがあるのか、いろいろ勉強したんです。作詞家の西條八十とかの作品を改めて読んでみたり。そういうことを考えているときに、劇作家の斎藤憐さんが書いた『ジャズで踊ってリキュールで更けて』という、あの「東京行進曲」の歌詞の一説の本をたまたま見つけて。それを読んで西條八十とかにもっとのめり込んで行ったんですよね。それがちょうど、ソープランダーズのツアーが終わった次の月とかだったんです。そこからいろんなものを掘り下げていったんですよね。だから、きっかけとしてはジムさんのエレキ・ギターの音で、それを聴いて「あぁ自分は日本語の歌をやらないといけないなあ」と感じて、そこでしか勝負にならないと思ったので…… そういう意味でも前作までの影響は強いかもしれないですね。

──斎藤燐……『昭和不良伝』や『上海バンスキング』などもそうですね。今回のアルバムの「アマクサマンボ・ブギ」などは吉田日出子さんを思い出させます。

前野 : もうその通りですね。斎藤憐さんの書いた本は結構集めましたね。オリジナル・フル・アルバムは4年半出してないんだけど、その間は日本の服部洋良一とか、ブギだったら笠置シヅ子だとか。いろんな日本の歌を聴いていました。あと、昔の(時代の)男が好きっていうのはありました。たとえば殿山泰司さんとか川島雄三監督とか荒木一郎さんとか。その時代の男の人たちに対してどこかカッコ良いなとは思ってましたね。そういうのは主に本から影響を受けていました。殿山泰司さんもエッセイ集とか抜群におもしろし、荒木一郎さんも音楽だけじゃなくて俳優としても文章も本当におもしろいし。西條八十も結局、昔の歌を聞いたわけではなくて、斎藤憐さんの目を通した西條八十っていうダンディな人に惹かれていったというか。なのでやっぱり本が大きいかもしれないですね。助監督だった今村昌平がまとめた川島雄三さんの本もおもしろかった。でも、出発点が誰だったかっていう部分がイマイチわからないくらい、数珠つなぎにいろいろ読んだりしてましたね。

日本語の歌の最新系をチャレンジしてみたかった

──前野さんは新宿住まい。確か西條八十は牛込出身のはずですが、昭和の時代のダンディズムのような感覚が、いまでも新宿の一部には残っていますね。そうした生活環境がさらに前野さんをそうさせたのでは? という気もします。

前野 : そうですね。新宿に住もうと思ったのはそこに気持ちはありましたね。当時新宿のそういう文化に詳しくはなかったですけど、「なんとなくあそこに何かある」というのはあったんですよね。新宿じゃなきゃいけなかった。そこから、新宿に居た人たち…… それこそ西條八十もそうかもしれないし、そういう所により深く入り込んで、何かこう引っ張られるようにそうなってきましたね。ただ、「じゃあ、そういう歌詞の曲を作ろう」という意識はあんまりなくて。(今回のアルバムに収録されている)「SHINJUKU AVENUE」の歌詞とかは自然と出てきた。喫茶店とか入って書くとやっぱり風景が新宿なんですよ。だから新宿ばっかりになってるんですね。「マイ・スウィート・リトル・ダンサー」って曲のなかには「デラカブ」…… 《デラックス歌舞伎町》っていうストリップ劇場が出てくるし、「人生って」という歌に出てくるジャズ喫茶、これは《ナルシス》っていうジャズ喫茶なんですけど…… 自然とそんなことになってしまったんですよね。そうやっていくと、日本語の歌、響かせ方みたいなのがあるんじゃないかなってことに気づいて。で、ちあきなおみさんとかを好きになったのもここ4年くらいなんですけど、圧倒的に歌が上手くて。どうしてこういうことができるんだろうとか。それを声楽の先生に教えてもらったり、声の出し方とかを自分で探してみたり……。そういうことに自分から興味を持っていったんですよね。歌ということに対してもっと。その“日本語の歌”というのを最新のサウンドと絡めてみたかったというのが、今回なんですよね。昔の歌も音楽的にチャレンジがあったので。そこで新しい人たちと、日本語の歌の最新系をチャレンジしてみたかったのが今回のアルバムなんです。

──当時の雰囲気をオマージュのようにやるのであればそれはノスタルジーにすぎないわけで。

前野 : ただのコスプレみたいになっちゃいますからね。本当は星勝さんにお願いしたいっていうのはあったんです。ただ、星勝さんももともとバンドマンからアレンジャーになっていったので、いまの若い人というか近くにいるミュージシャンのなかにすばらしいアレンジャーがいるんじゃないかって狙いはあったんですね。

──そこで今回プロデュースとアレンジで関わった4人。岡田拓郎さん荒内佑さん石橋英子さんと武藤星児さん。なぜこの4人と作業をしようと?

前野 : ceroの荒内くんは、2年前にリキッドルームでツーマン・ライヴをやったときに、ちゃんと“いまのcero”ってのを観て。ものすごくいいライヴをしてたので、それでお願いしたいなと。「このサウンドと、自分の日本語の曲が交わったらどうなるんだろう」という期待がすごいあったんですよね。岡田さんは、ウチのディレクターが「岡田さんのサウンドに、マエケンの歌が実はすごい合うんじゃないか」って。実は、これまで“森は生きている”のアルバムをちゃんと通して聴いたことはなかったんです。でもすごいよかったですね。ドラムの音とか凄い好きな感じで。

いろんな人の考えやアイデアが入ることで物語やファンタジーになる

──自分より若い人に作業を任せることに抵抗はありませんでしたか?

前野 : 抵抗はありましたね。基本的に年下とうまくできるのかなという。わりと自分が先輩に気に入られるかわいがってもらうタイプというか(笑)。イキのいい年下と一緒に音楽をつくるというのは、いままでの経験であんまりなかったので、どうなるだろうかというのはありましたね。でも、思い切ってやってみよう! と。だからMVも若い21歳くらいの監督にディレクターやってもらったんです。でも、実際レコーディングをやってみて、年齢は関係ないんだって思いました。そうなるとどんどん若い人たちとやってみたいというか。新しいものが見れるんじゃないかっていう。あと、武藤さんに関しては、4年前に漫画家の本秀康さんが立ち上げた〈雷音レコード〉から出した7インチ・シングル「あたらしい朝」(MARK2)で1度お願いしていて。それですごい手応えがあったので、お願いしたかったんです。

──いわゆるシンガー・ソングライターというイメージが強い前野さんが、そうやって外部のプロデューサー / アレンジャー…… しかも自分より若い世代と組むということで、どういう結果が手応えとして返ってきたと思っていますか?

前野 : 歌がなんかこう…… いろんな人の考えやアイデアが入ることで物語やファンタジーになるんですよ。内容がしんみりしてたりするけど、歌がちゃんと物語になっているというか。そういうのが好きなんでしょうね。ひとりでそういうことをできる人もいるんですけど、自分はそうではない。そこは“よそ行きの歌”にしたいなってのはあったんですよね。俺、『ライブテープ』(主演のドキュメンタリー映画)なんかもあって、何かと自分がフィーチャーされがちなんですけど、本来はそういうタイプじゃないんですよ。、歌が立って欲しいので、1stアルバム『ロマンスカー』(2007年)のように、イラストとかをジャケットにしたいタイプなんです。だけど周りがすごく自分をフィーチャーしたがるんですよね。自分はそんな出たがりではないのに(笑)。


動画には1940年代前半の映像も

──放っておくとポップ・アイコンにされてしまう。

前野 : そう。でも、そうじゃなくてちゃんと歌を中心にしたかった。だからそういう分業システムが重要だったんですよ。僕自身は、歌だけを歌ったりとか、歌い方をちょっと研究したりとかするという。だからそういうのもあって、今回のアルバムのヴォーカルは初めて「良いじゃん、良い声してんじゃん」と思えたアルバムですね。自分の声がやっと納得行くようになってきたというか。

──今回、曲のキーが全体的に低めですよね。初期の作品は普段の声のトーンよりもキーが高めの曲が多かったと思うんですけど。

前野 : それはあるでしょうね。今までは喋り声より高かった。でも喋り声みたいに歌う人が好きなんですよ。それでなんかそういうのはやりたいなと思ってたので、キーを低めにした訳ではないですけど自然とそうなっていったのかもしれないですね。ああ出してるこの声の感じが良いなとか下げて見て、とかそういうのはありますね。

平成を描いているって言ってもらえたのはすごくうれしいですね

──ヴォイス・トレーニングにも行きました?

前野 : いままで言っていなかったんですけど、3年前くらいから行きはじめて。そこで声の出し方を教えてもらったのですが、それはすごく大きかったですね。ちあきなおみさんとか本当に歌が上手い人たちの歌を聴いて、歌を歌っている身としてもう1回チャレンジしてみたくなったというか。自分の好みが変わって、だんだん“歌”というモノを聞く量が増えていったというのがあるかもしれないですね。実際、声も変わっていったんですよ。たとえば最後の「防波堤」という曲では、すごい奥行きのある声というか、広く使えていて、1番成果が出たな。スタジオでひとりで練習しているときやライヴでもわかるんですけど、レコーディングって1番正直で。こんなに変わるんだって、本当にビックリしましたね。もうなんか人間の身体のメタモルフォーゼという観点からもすごいおもしろかったです。人体実験みたいな。そういう楽しみもすごいありましたね。そもそも、歌って若い間の方がいいって感覚が、まだあるじゃないですか。でも全然そう思わなくなってきて。

──キャリアを重ねてきてからの歌の方がいい、という人も多いじゃないですか。

前野 : そうなんですけど、世の中に流れている歌って、歌っている人が年を重ねても、割と若者に向かっていると言うか。そんな印象があったんです。だけど歌って年を重ねれば重ねるほどおもしろいジャンルだなって。僕、小沢昭一の童謡のCDとか、アタウアルパ・ユパンキとかの、晩年の声を聞いているだけで歌を感じるというか。そういうものを聴いていて、歌はどんどん面白くなるぞって思ったんです。最後はもうボソボソ喋っているだけで良いんじゃないかなって。だから…… 長生きしたくなりました(笑)。前は、なにかを切り刻んでこそ歌、声という風に思っていたのですが、そうではなくて、見たものや聞いたもの、飲んだものとか、そういうものが全部声に変わっていくなら、その声に連れられて出会う音楽やサウンドがあるだろうし。ギターだと20歳と70歳の人が弾いても違いがわからないかもしれないですけど、声は違いがハッキリわかる。そういう変化にこの4年半の間で、気づけたのは大きいですね。

──たとえば、小沢昭一は日本の昭和の大衆史を伝え残してきた語り部みたいな人でもありますよね。それを今回の前野さんのアルバムに置き換えてみると、いまの新宿暮らしの目線からみた、「平成に生きる大衆の人々の暮らしの歴史」みたいなものとしても読める、聴ける作品になってるのかなという気がします。自分の歌でもあるけど、この時代に生きている人々の歌という。

前野 : もう本当にありがとうございます! おお!すごい!今回、帯のコピーが《平成よ、ありがとう》なんですよ。小沢昭一さんって、放浪芸みたいなものを採取したり、ストリッパーに歌を歌わせたり、いろんなことをやっていたと思うんですけど、僕も今回「マイ・スウィート・リトル・ダンサー」というストリッパーの歌を入れました。これは何かありますね。自分がはじめてこういう時代について意識したというか。だから、この曲には〈2017年2月の~〉ってフレーズをあえて入れたかったんですよね。客観的に見たときに、ストリップなんかは昭和のものだけどいまの平成の時代にも数は少ないけどあることが、このフレーズがあることでわかる。だから、平成を描いているって言ってもらえたのはすごくうれしいですね。

──だからこそ、「今の時代がいちばんいいよ」という曲がこのアルバムのなかにあることの意味の大きさを感じますね。2015年に出た同名のCDと歌詞集の時よりも、はるかにこの曲の持つ意味の大きさがハッキリしている。昭和の時代は良かった、じゃなくて、いまのこの平成の時代の良さをしっかり切り取った作品となるために、「今の時代がいちばんいいよ」という曲をいまいちど新たなアレンジで収録したことはすごく大きかったのではないかと。

前野 : それはうれしいです。ありがとうございます。光の当たる部分を割と多く描いたアルバムになったなと。それは不思議なんですよね。時代が僕にそうさせていると思うんですけど、物事の良い部分を描きたいというか。たとえば「防波堤」という曲は、震災後にスーパー防波堤、防潮堤とかができるじゃないですか。これにはもちろん住民の方から反対の意見とかもあって。だけどそこにまた子供達とか若い人達が、「めぐみ、さちよ、これからも友達でね」みたいに何か刻んだりして遊ぶと思うんですよ。そのときに新しい物語が生まれると思うんです。そういう物事の良い部分を歌いたい、感じたいのかなと。「大通りのブルース」という曲では、車がなくなる街でも、また新しい別の乗り物や移動手段に光が当たって物語が生まれるだろうっていうことを歌っています。「アマクサマンボ・ブギ」っていうのも、誰も知らない競走馬のことですし、「マイ・スウィート・リトル・ダンサー」も引退しちゃったストリップ嬢の歌だし。

──なるほど。そうした昭和で言えば小沢昭一的な語り部のようなリリック、歌に専念するためにも、演奏やアレンジ、プロデュースを他者に委ねる必要があったということですね。

前野 : そうなんです。「ロマンティックにいかせて」っていう曲にある〈俺は本当は歌なんかもってないのさ 歌を持っているのはお前さ〉っていう歌詞が、割と本音というか。僕はどちらかと言ったら“歌屋”なんですよね。小沢昭一さんが採集していたように、歌心を持っている人の歌を歌っていきたい。だから本当は作詞の著作権は僕にないはずで、そこにいる人たちにあるんですよ(笑)。まぁ、僕が曲として組み立ててはいるんですけど、そんな感じさえしますよ。僕はだから割と空洞というか…… そこのスペースは空けておかないといけないと思っていて。いつ歌が入ってくるかわからないので。「あ、こいつは歌持ってるみたいな」ということをキャッチするのが、人よりもちょっと得意だから“歌屋”になってるんですよね、きっと。誰も言ってないし、俺が“歌屋”でいいんじゃないかっていうことにしたんですよ、最近。

大事にしていた「歌の心」みたいなものが、実は「サクラ」って一言ですごい言い表せていた

──ギタリスト、ギター弾きとしてのアイデンティティはいまもある?

前野 : あ、でも今回はそういう意味ではピアノで作ったデモが、3曲も入ってますね。「山に囲まれても」「大通りのブルース」「いのちのきらめき」はピアノで作りました。でもピアノで作ってしまうと、僕が弾けるピアノのリズムって限られてるので、それをギターに変換できないんですよ。その結果、弾き語りでライヴができないから、すごい困ってます(笑)。だから「山に囲まれても」で荒内さんが弾いている部分は、ライヴでは石橋(英子)さんに弾いてもらいます。

──こういう作品を作ったいま、粋な大人の先輩、音楽家としてお手本にしている存在はどういう人ですか?

前野 : 誰だろう…… まあ、荒木一郎さんとか、そうですよね。

──そう言えば、2年前にカエターノ・ヴェローゾの大阪公演の会場でバッタリ会いましたよね。カエターノってすごく色気がある人じゃないですか。歌にも佇まいにも色気がある。あの感じがいまの前野さんのお手本になっているのかなと思いました。

前野 : あぁ、大阪で会いましたね! いや、もう、あれも勉強しに行ったわけですよ。「カエターノはやっぱり見ておかないと」と思って。ギターと歌だけで、あそこまでとんでもない色気を出す人って…… すごかったですねえ。粋な大人の先輩とかカッコ良いなと思う人たちに憧れを持ち続けるというか、憧れの対象が常にいるということは、やっぱりありがたいことですよ。でもやっぱり小沢昭一さんがカッコ良いかな。“歌うたい”として、歌というものに対しての解釈が抜群ですよね。

──アルバム・タイトルの『サクラ』というのも、そういう意味で、本来は「洒落た粋な大人の男が愛でるもの」という意味がこめられているのかなと感じます。桜を歌った歌は腐るほどあるし、春になったら花見で各地大騒ぎになるけれど、本当はもっと静かに愛でるものではないかなと感じるので。前野さんの解釈をおしえてください。

前野 : いやもうそこは詩野さんの思う“サクラ”を書いてくださいよ(笑)。

──いやいやいや(笑)。

前野 : 実はこれは、僕が考えたんじゃなくて。とある人とお酒飲んでて、僕がタイトルの候補を書いたメモをバーっといくつか並べているのを見せていたんです。それで、その人が「この中じゃ『歌泥棒』っていうのがいいね。でも、なんか違うな」とか言っていて。それで「サクラってどう?」って言ったんですよ。候補にサクラは入ってないし、曲のタイトルも何も見てないし、曲を聴いてもないのに。「サクラってマエケン絶対付けないでしょ、それがいいんじゃないの」って言われて。たしかにいろんなアレンジが入って、いろんな日本語の歌が入っているし、実は『サクラ』ってタイトルにすごくしっくりきたんです。自分がいままでやってきたなかで大事にしていた「歌の心」みたいなものが、実は「サクラ」って一言ですごい言い表せていた。自分の中で、「日本語の歌」と「日本の花」がすごくシンクロしたんです。桜って毎年咲くじゃないですか。街中で桜のポスターとかサディスティックにすごい攻め込んでくるというか、無理やり入り込んでくることもありますよね。でも実際に咲いた桜を見ると、やっぱり何か感じるというか。自分の取り組んでいることってそういうことだなって。だからこれからは、アルバムのタイトルは『サクラ2』、『サクラ3』でいいかなって。ケツメイシみたいな(笑)。

──ちなみにそのタイトルを付けたのは誰なんですか?

前野 : それは言えないです(笑)。10年間は内緒にしとこうって話だったんです。10年後に発表します。大発表。

──男? 女?

前野 : それも秘密です(笑)。いや、飲んだ時にふっと言っちゃうかもしれませんけど(笑)。

──じゃ今度飲もう(笑)!

前野 : 言わないように気をつけます(笑)。

前野健太『サクラ (24bit/96kHz)』のご購入はこちらから

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/96kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 324円(税込) / アルバム 2,160円(税込)
【配信ページ】
https://ototoy.jp/_/default/p/101646

LIVE SCHEDULE

前野健太 ニュー・アルバム『サクラ』発売記念ツアー ~開花宣言~

2018年5月20日(日)@渋谷WWWX
2018年5月31日(木)@福岡BEAT STATION (Guest : ハンバートハンバート)
2018年6月1日(金)@広島クラブクアトロ (Guest : ハンバートハンバート)
2018年6月2日(土)@大阪シャングリラ (Guest : シャムキャッツ)
2018年6月3日(日)@名古屋JAMMIN' (Guest : シャムキャッツ)

前野健太 ニュー・アルバム『サクラ』発売記念ツアー ~開花宣言2~ 〈ソロ対バン篇〉

2018年6月7日(木)@仙台Rensa (Guest : 竹原ピストル)
2018年6月22日(金)@北海道BFHホール (Guest : スカート)
2018年7月7日(土)@沖縄桜坂劇場ホールA (Guest : 大森靖子)
2018年7月12日(木)@京都磔磔 (Guest : 吉澤嘉代子)

前野健太 ニュー・アルバム『サクラ』発売記念インストア・ライヴ

2018年5月11日(金)@タワーレコード新宿店 7Fイベントスペース
2018年5月16日(水)@タワーレコード梅田NU茶屋町店
2018年5月17日(木)@タワーレコード名古屋パルコ店

PROFILE

前野健太

1979年埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。
2007年に自ら立ち上げたレーベル“romance records” より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。
2009年全パートをひとりで演奏、多重録音したアルバム『さみしいだけ』を“DIW” よりリリース。
2009年元日に東京・吉祥寺の街中で74分1シーン1カットでゲリラ撮影された、ライ・ドキュメント映画『ライブテープ』(松江哲明監督) に主演として出演。
第22回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞し全国の劇場で公開された。
2010年9月“Victor Entertainment” より発売された『新・人間万葉歌~阿久悠作詞』へ参加。
桂銀淑(ケイ・ウンスク) の「花のように鳥のように」をカヴァーした音源を発表。
のちに同作は上村一夫の絵(『同棲時代』) を使用した新ジャケットによりiTunse などで配信限定リリースされる。
2011年2月“romance records” より3枚目のオリジナル・アルバムとなる『ファックミー』をリリース。
同年、松江哲明監督の新作映画『トーキョードリフター』に再び主演として出演。全国劇場で公開される。
また主題歌をリレコーディングしたコンセプト・アルバム『トーキョードリフター』を“felicity” よりリリース。
2011年末には第14回みうらじゅん賞を受賞。
2012年auの新CM「あたらしい自由」篇に出演。
2013年1月、ジム・オルークをプロデューサーに迎え制作された4枚目のアルバム『オレらは肉の歩く朝』を発売。
同年7月「FUJI ROCK FESTIVAL’ 13」へ出演。12月、5枚目のアルバム『ハッピーランチ』を発売。
2014年8月「SUMMER SONIC 2014」へ出演。10月、初のライヴ・アルバム『LIVE with SOAPLANDERS 2013-2014』を発売。月刊「すばる」にてエッセイの連載を開始。
2015年7月、KAATキッズ・プログラム2015おいしいおかしいおしばい『わかったさんのクッキー』(台本・演出:岡田利規)の劇中歌を作曲。12月NHK番組「ジドリ」の音楽を担当。雑誌『Number Do』に初小説を寄稿。CDブック『今の時代がいちばんいいよ』を“エランド・プレス” より発売。
2016年10月、初のラジオレギュラー番組「前野健太のラジオ100年後」が1422ラジオ日本で放送開始。
同年12月、主演映画『変態だ』(みうらじゅん原作、安斎肇監督) が新宿ピカデリーを皮切りに全国公開。
2017年2月、初舞台となる『なむはむだはむ』(つくってでる人:岩井秀人、森山未來、前野健太) に参加。東京芸術劇場にて2月18日〜3月12日まで上演。
同作の滞在制作の模様を密着したドキュメント映像「コドモのひらめき オトナの冒険~ “なむはむだはむ” の世界~」がNHK Eテレで放映された。
同年3月3日初のエッセイ集『百年後』を“STAND!BOOKS” より刊行。

【公式HPはこちら】
https://maenokenta.com/
【公式ツイッターはこちら
https://twitter.com/maenokenta_info

この記事の筆者
岡村 詩野 (ms.KITTEN)

ライターをやりながら、3ヶ月に1冊ペースで自主制作の音楽雑誌『KITTEN』なんかも作っています。 KITTEN web http://www.kittenmagazine.net/

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ムーンライダーズ 活動休止前のラスト・アルバム『Ciao』リリース

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ムーンライダーズ 無期限活動休止を発表

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全曲フル試聴『EVERYBODY LISTEN!』vol.2 ツチヤニボンド

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在日ファンク『爆弾こわい』配信開始!

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