2018/04/20 18:00

変化せよ、音楽のように――ヘンリー・グリーン、自然体で「変化すること」を描く1stアルバム

マッシヴ・アタックやポーティスヘッドといったアーティストを輩出し、その音楽シーンが常に世界中の注目を集めるイギリスの港湾都市・ブリストル。そんな港町のベッドルームから現れたのが、ヘンリー・グリーンという22歳の青年だ。繊細なヴォーカルと、エレクトロニクスとアコースティックを高次元で融合させたサウンド・プロデュースが魅力的な彼が注目を集めたのは2013年、彼がカヴァーしたMGMT「Electric Feel」をノルウェーの人気プロデューサー、KYGOがリミックスしたのが切っ掛けだった。その後もベッドルームから精力的にリリースを続けてきた彼が、待望の1stアルバムがリリースするにあたって本作のテーマに掲げたのは「Shift」、変化ということだ。OTOTOYでは、そんな要注目の一枚をより楽しんでいただくため、ハイレゾ配信を行うとともにレビューを掲載します。

要注目、待望の1stアルバム

Henry Green / Shift

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?

【配信価格】
単曲 288円(税込) / アルバム 2,830円(税込)

【収録曲】
1. i
2. Aiir
3. Shift
4. Another Light
5. Stay Here
6. We
7. Without You
8. Contra
9. Diversion
10. Something


Henry Green - Another Light (Official Video)/
Henry Green - Another Light (Official Video)/

REVIEW: Henry Green『Shift』

『Shift』。変化、移り変わり。時間を取り扱う芸術である音楽においては何度も取り扱われてきた普遍的なテーマである。音は空気の動きであり、動きは変化を起こすことであり、だから音楽は(たとえそれがどれだけミニマルな構造を持ったものであれ)変化を強いられている。ギターのネックの握りを変え、コードが進行する瞬間にこそ音楽理論が真価を発揮するように。

イギリスはブリストルを拠点を拠点とするアーティスト、ヘンリー・グリーンの1stアルバムである本作は、「変化」を表すタイトルを冠し、「movement」をキーワードにした、という彼の話からは意外に思えるほど、初めから終わりまで、一定のトーンが通底している。エレクトロニクスとアコースティックの融合、柔らかなアンビエント・サウンド。控えめに鳴るベースとパーカッション、ひとことずつ呟くように歌うヴォーカル、多重録音によって作られたミニマルな展開。そう、ミニマルなのである。

資料によれば、本作の主な部分は、今までいわゆるベッドルーム・プロデューサーの制作スタイルをとってきたヘンリーが自宅で作ったスケッチを、ドイツのスタジオ・ファンクハウスにて録音することで制作されたという。このスタジオは残響や音響効果に定評があり、彼の敬愛するポストクラシカルの重要人物、ニルス・フラームにもゆかりのある場所なのだが、ここでの仕事が本作や彼本人にも大きな影響を与えたという。ダンス・ミュージックのスタイルをとるM2「Aiir」やM4「Another Light」では、残響によって空間を広めに取ったことで、ベッドルーム的なパーソナルさを残しながらダンスフロアの雰囲気を取り入れることに成功しているし、M6「We」やM8「Contra」では反対に、サキソフォンの管を通り抜ける空気の音や、ニルス・フラーム的なノイジーなピアノを近くで感じることができる。ミニマルな作風の中に耳を澄ますと、ゆったりとしたダンスのムーヴメントや、奏者の息づかいを感じることができる作りだ。

あるいは、アルバム全体を俯瞰して見えてくる、深夜から早朝にかけて地球の裏側を周る太陽と、それに呼応するエモーションの動き。序盤のダンス・ミュージックのヴァイブスが、次第にオーガニックなアンビエント・サウンドにフェードしていくさまは、深夜のクラブを体験したことのある人々にはお馴染みの、薄明るい早朝の街と、あのなんとも言えぬ気だるさを思い出させてくれる。

本作で描かれる「変化」は、直前の状態を追い出して入れ替わる「Change」ではなく、やはり同一性を保ったまま移り変わる「Movement」であり、「Shift」なのだと感じる。アルバムジャケットに映る木漏れ日が、光であると同時にむしろ影の部分によって定義されるように、同一性を保った「Shift」の変化は、直前の状態の継承によって定義される。それは、自然体のままの彼が、無理やりではなく、むしろ音楽の側から要請されるようにして起こす自然体のままの「動き」であり、我々生命のもつダイナミズムそのものなのである。(Text by 井上裕樹)

RECOMMEND

Floating Points / Elaenia

ダンス・ミュージックを軸に持ちながらも、ジャズを始めとした幅広い要素を取り入れ、丹念に練られたサウンドプロデュースで世界観を展開していく作風で知られるFloating Pointsによる2015年作。妥協なき彼のサウンドの追求と思索が楽しめる一枚です。

[.que] / Sea Said

エレクトロニックとアコースティックが融合したサウンドは常に数多くのアーティストたちが挑戦し続けていますが、日本の[.que]もこの課題に取り組むアーティストのひとり。ミニマルでありながら耳を澄ますと次々に新しいものが見えてきます。

Teebs / E s t a r a

「Shift」は夜に聴きたいアルバムでしたが、昼に聞きたいのがTeebsの本作。画家でもあるという彼の鮮やかな感性と、LAの温暖な空気を存分に感じることができます。


PROFILE

Henry Green

現在22歳のヘンリー・グリーンは、イギリス西部にある港湾都市ブリストルに生まれた。このソングライター/プロデューサーであるヘンリー・グリーンの名前が注目されるようになったのは2013年10月。ノルウェーの大人気プロデューサーであるKYGO(カイゴ)が、グリーンがカバーしたMGMTの「Electric Feel」をリミックスしてSoundCloudにアップしたことから始まった。たちまち広まり、今では1000万回再生を達成している。

2015年6月にデビューEP『Slow』、続く2017年2月に2nd EP『Real』をリリースし各ストリーミングサービスでも話題に。待望のデビュー作『Shift』を2018年にリリースし、遂に日本デビューを果たす。

アーティスト公式HPはこちら

この記事の筆者

[レヴュー] HENRY GREEN

TOP