2018/03/27 16:00

ビート・ミュージックのルーツを探る──Dabrye、三部作の完結を記念して過去作のリマスターをリリース

Dabrye

タッド・マリニックスによるヒップホップ・プロジェクト、Dabryeによる三部作シリーズが、彼の12年ぶりとなるニュー・アルバム『Three/Three』を以てついに完結。これを記念して、三部作の一作目『One/Three』にリマスタリングとボーナス・トラック3曲を加えた復刻盤がリリースされる。2001年にリリースされた本作は、現在ではすっかりお馴染みとなっている、エレクトロニカとヒップホップの交差点に位置する「ビート」サウンドの最初期に位置する一枚として知られている。リマスタリングは「LOW END THEORY」、レーベル〈ALPHA PUP〉を主催する、ビート・サウンドにおける最大の功労者のひとり、Daddy Kevが担当。OTOTOYでは、このビート・ミュージック・シーンにおける最重要盤をより楽しんでいただくため、配信を行うとともにレヴューを掲載します。

三部作完結記念、マスタリングはDaddy Kevが担当

Dabrye / One/Three

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 201円(税込) / アルバム 1,500円(税込)

【収録曲】
1. The Lish
2. We've Got Commodity
3. With A Professional
4. I'm Missing You
5. How Many Times (With This)
6. Truffle No Shuffle
7. Hyped-Up Plus Tax
8. Smoking The Edge
9. So Scientific
10. Hot Mating Ritual
11. Making It Pay [Bonus Track]
12. Hyped-Up Plus Tax (Outputmessage RMX) [Bonus Track]
13. Dabrye 73.3 (Prefuse 73 Megamix) [Bonus Track]


Dabrye - The Lish/
Dabrye - The Lish/

REVIEW : Dabrye 『One/Three』

可愛いオバケのアイコンで知られるエレクトロニック・ミュージック・レーベル〈Ghostly International〉。ShigetoやTycho、Telefon Tel Avivなど数多くの才能を発掘し、その作品を世界中に送り出し続ける傍ら、歯ブラシやコーヒー豆など、レーベルグッズをやたらと充実させ続けているこのレーベルが設立されたのは1999年。今年で19年目を迎える老舗であるが、そんな〈Ghostly〉の記念すべき第一弾リリースこそがDabryeことタッド・マリニックス――の本名名義のアルバムであり、Dabrye名義による本作『One/Three』は第二弾である。

資料によれば、90年代後半にDTMソフト「All Sound Tracker (名前で検索をかけると丁度当時の映画「マトリックス」よろしく黒地に緑色の四角い文字が踊るたいへん味わい深いWebサイトが引っかかった) 」を駆使してジャングル、テクノ、ハウス、ヒップホップといった音楽に親しんでいたタッドが、当時働いていたミシガン州はアナーバーのレコードショップで、同じくアナーバーを拠点とする〈Ghostly〉のオーナーにDabryeの初期のデモが収録されたカセットテープを渡したことが、彼と〈Ghostly〉との契約のきっかけになったのだという。いまや「インターナショナル」をその名に掲げる世界的レーベルの第一弾アーティストとの契約のきっかけは、地元のレコードショップでのやり取りだった、というのはいかにも音声ファイルを送信するのも一苦労の低速回線が徐々に広がり始めたばかりのインターネット黎明期らしいエピソードだ。フライング・ロータスらを中心とするMySpaceでのカンブリア爆発まではまだ数年を待たなければならない。

Dabrye - Smoking The Edge/
Dabrye - Smoking The Edge/

白とグレーのアートワークが象徴するように、アルバムを通して流れ続けるある種のミニマリズムも、今から考えればパソコンのスペックによる技術的制約を、彼の美学を以て昇華したものなのかもしれない。リバーブや逆再生、ビットクラッシャーによって音の輪郭を巧みに見え隠れさせるエレピやギターの音、グリッチ・サウンドを控えめに交えながらタイトにリズムを刻み続けるドラム、ヒット・アンド・アウェイ戦法のように要所要所でグルーヴを補強するベース。決して派手でドラマチックな展開は存在しないが、その音の余白やトーンを保ちながらも緩やかに形を変え続けるリズムに耳を傾けると、デジタルなサウンドが有機的なゆらぎをもち、独特の滋味をつくり出していることに気づくだろう。

今回新たに収録されたボーナス・トラックにも注目だ。これらの3曲はいずれもこのアルバムの2年後である2003年にリリースされたものだが、わずかながら音の質感やリズム展開に変化が見られ、『One/Three』から2006年の『Two/Three』への助走を見て取る事ができる。

2001年。現在活躍する若いビートメーカーたちは物心もついていなかった時代。YouTubeもSoundcloudもなく、「ビート・ミュージック」などという言い方を誰もしていなかった時代。ミシガンのレコードショップ店員が駆け出しのレーベルオーナーに手渡したカセットテープが、〈Ghostly〉というレーベルと、後のビート・ミュージックの発展の礎となったのだった。改めてDaddy Kevとともに、三部作の完結を祝福しよう。(Text by 井上裕樹)

RECOMMEND

Flying Lotus / You're Dead!

現在のビート・ミュージック・シーンにおける象徴的存在といえばご存知フライング・ロータスでしょう。ジャズをルーツに持ち、Dabryeのミニマリズムとは対極に位置する目まぐるしい展開がスリル満点、というよりも死後の地獄めぐりと言ったほうがふさわしい一枚。


Shigeto / The New Monday

〈Ghostly〉所属、日本人の祖父を持つアメリカ人シゲトによる3rdアルバム。Dabryeの新譜『Three/Three』にも参加しています。ドラマーでもある彼のグルーヴ感が、ヒップホップ、ハウス、ジャングルと様々な形で楽しめます。2013年リリースの『No Better Time Than Now』も素晴らしいので、ご一緒にどうぞ。


V.A. / Low End Theory Japan Compilation 2012

『One / Three』の復刻盤ではマスタリングを担当したDaddy Kevが主催する「LOW END THEORY」のレジデントによる作品を中心に収録した2012年のコンピレーション。2012年周辺は、トラップの台頭とともにビートの潮流が変化する直前の独特のフィーリングがある時期で、いま聴き返すと興味深い曲が多いです。

PROFILE

Dabrye

ミシガン州はトロイで育ち、アナーバーを拠点に活動しているTadd Mullinixによるソロ・プロジェクト。幼少期はWhite Zombieや7 Secondsにインスパイアされ、高校時代はSpacemen 3の影響を感じさせるシューゲイザー系バンド、Battery 3を組んでいた。 90年代後半に自身のヒップホップのオルターエゴとしてDabrye名義を始動。アナーバーのレコードショップ、Dubplate Pressureで働いていた時にGhostlyのオーナーであるSam Valenti IVと知り合い、Ghostlyと契約することとなる。まずは本名名義 Tadd Mullinix で『 Winking Makes A Face』をリリース。これはGhostlyのレーベルとしての最初のアルバム(カタログ番号GI-01)であった。そしてその次のカタログ(カタログ番号GI-02)としてDabrye名義のファースト・アルバム『One/Three』(Ghostly三部作の第一弾)がリリースされる。そのサウンドはエレクトロニカとヒップホップの架け橋となるものとして、各所で高い評価を受け、シーンの中心へと躍り出る。2002年には盟友Prefuse 73のレーベルEastern DevelopmentsからGhostly三部作から派生した番外編的な作品として『Instrmntl』を発表。そして2005年に未発表曲と過去のリミックス・ワークをコンパイルしたEP『Additional Productions Vol.1」を出した後、2006年に三部作の第二弾となる『Two/Three』を完成。MF Doom、Wildchild、元Anti Pop ConsortiumのBeans、Cannival OxのVast Aire、元Slum Villageのメンバー、Jay Dee(J Dilla)、Waajee等、多数の豪華ゲスト/MCが参加し、ネクスト・レヴェルに達した先進的なヒップホップをみせる。その後しばらくリリースはなかったが、2018年、遂に三部作の最終章となる『Three/Three」を発表。前作に続くDOOM(MF Doom)をはじめ、Wu TangのGhostface Killah、Jonwayne、Roc Marciano等のMCの他、デトロイト・シーンの Guilty Simpson、Phat Kat、Kadence、Quelle Chris、Danny Brown、Shigeto、Clear Soul Forces等が参加し、傑作最終章に彩りを添えている。同時に前述したアルバム3作が全てDaddy Kevによってリマスター復刻され、ボックス・セットもリリースされた。

この記事の筆者

[レヴュー] Dabrye

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