タイの実力派SSW、プム・ヴィプリット日本デビュー──詩情豊かに織りなされる、苦く美しい過去の世界

YouTubeにおいてシングル「Long Gone」のミュージック・ヴィデオが公開から半年余りで200万回再生を数え、 アジアのみならず世界中で話題を集めてきたタイのヤング・スターがついに日本デビュー。 ニュージーランド育ちバンコク在住・若干22歳のタイ人シンガー・ソングライター、プム・ヴィプリット。その実力はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Gotch)が 2017年ベスト・アルバムに選出したり、方々からの高い評価からもうかがい知れることだろう。ぜひご一聴ください。

クラウド・ファンディングによって制作した待望のデビュー・アルバム!
Phum Viphurit / Manchild

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/44.1kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 250円(税込) / アルバム価格 2,000円(税込)

【収録曲】
01. Strangers in A Dream
02. Run
03. The Art of Detaching One's Heart(feat. Jenny & The Scallywags)
04. Trial And Error
05. Adore
06. Paper Throne
07. Beg
08. Long Gone
09. Sweet Hurricane
10. Fresh Off the Boat


【REVIEW】Phum Viphurit『Manchild』

タイのバンコクから、ふわりと懐かしさを呼び起こすようなトラックを集めたポップソング集が到着した。本作の魅力を一言で言うならば美しいメロディと、抒情的な世界観だろう。織りなされるサウンドは本当に美しく、聴き手の心をまっすぐに揺さぶる。

バンコクのフォークバンド、Jenny & The Scallywagsをフィーチャリングに迎えたM3「The Art of Detaching One's Heart」は、まさにその体現と言えるだろう。静かに歌うプムの歌声と、畳み掛けるようなジェニファーの歌が織りなすハーモニーは、淡々と、失った過去の思い出をひりひりと呼び起こす。M9「Sweet Hurricane」では、深みを持った歌声とアコースティックギターの音色に聴いているだけで泣き出しそうになってしまう。

彼の楽曲に共通するのは、青春の残り香を感じさせる気怠い空気感だと思う。郷愁を呼び起こす歌詞も、プム自身が手掛けるMVにも、描かれているのは振り返られた過去の記憶だ。切なくなるくらいに。しかし、たとえどんなことがあっても、人は皆、過去を乗り越えて生きなければならない。楽しいことも、苦しいことも。

『推定少女』という桜庭一樹の青春小説を思い出した。カフェで主人公たちを見て「あのくらいの年の子たちは何にも考えずに生きられて良いわね」と愚痴をこぼす社会人に、ヒロインはこう言い放つのだ。「お姉さん、15の時、本当に楽しかった? 違うよね? 思い悩んだり、辛かったり、することもあったよね。だったら、そんなこと言わないで。謝って。…私じゃなくて、15の時の自分に」

しかし思い出というものは時が流れるにつれ、美しくなるものなのである。痛みも、苦しみも、過去であるからこそ美しい。誰しも本当はわかっているのだ。青春時代は良かった、とこぼすその裏で、若さゆえに思い悩んだ感覚を心のどこかで憶えている。でもそんな苦しさすら美しく昇華されて蘇るから、大人は過去を美化したくなるんだよ。小説を読んだ当時は主人公たちに共感していた昔の私に、今ならきっとそう答えるだろう。

このアルバムはもしかしたら、あなたの思い出したくないものにも触れてしまうかもしれない。しかし、胸がつまるような感傷も、思い出になれば、美しく愛することができるのだ。描き出された繊細で抒情的な世界観は、きっとしっとりとした静かな時間をあなたにもたらしてくれることだろう。

(Text by 阿部文香)

レーベル Lirico / Inpartmaint  発売日 2018/03/18

※ 曲名をクリックすると試聴できます。

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the chef cooks me / 回転体(24bit/48kHz)

後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)をはじめとした超豪華ゲスト・ミュージシャンが多数参加し、各方面から高い評価を受けた2013年リリースのポップソング集。ぜひハイレゾでどうぞ。

PROFILE

Phum Viphurit

タイ生まれニュージーランド育ち、現在はバンコクを拠点に活動する22歳のシンガー・ソングライター。本名ヴィプリット・シリティップ。9歳のときに家族とともにニュージーランドのハミルトンに移住し音楽に目覚める。高校卒業後に故郷バンコクに戻るまで10代の大部分をニュージーランドで過ごし、そこでオーセンティックなアコースティック・ミュージックの影響を受けた。 18歳のころから自分の音楽を作りはじめ、程なくしてバンコクのレーベルRats Recordsと契約。2014年のおわりにシングル「Adore」でデビュー。そして、2017年にクラウド・ファンディングによって制作したデビュー・アルバム『Manchild』をリリースした。影響を受けたアーティストとしてスティーヴィー・ワンダー、フランク・シナトラからボン・イヴ ェール、マック・デマルコ、ドーターなどを挙げ、フォーク、インディー・ロック、ファンク、ジャズ、ブラック・ミュージックなど様々なジャンルのハイブリッド・ミュージックを奏でる。
 

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この記事の筆者
阿部 文香

1996年生まれの大学生。駒澤 零(こまさわ れん)って名前で絵も描いてます。Twitterは@ren_ren0824。

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