2018/03/14 00:00

いま「ここ」から、一歩進んだ「そこ」へ──The fin.、新天地から送る2ndアルバム『There』

The fin.

神戸出身、現在はイギリスを拠点に活動するバンド、The fin.。2014年に『Days With Uncertainty』でデビューを果たして以来、精力的に活動を続けていた彼らが、ついに3年3ヶ月ぶりとなる2ndフル・アルバム『There』をリリースする。本作は、前作とは変わってロンドンに拠点を移し、プロデューサーにジャミロクワイ、 Passenger、Alt-Jのプロデュースや、レディオヘッドのミキサーで知られるBradley Spenceを、マスタリングには前作同様にBeach Fossils、Wild Nothing、Washed Out、Warpaintなどを担当したJoe Lambertを迎えて制作された1枚。OTOTOYでは、世界を見据えた彼らのサウンドを堪能できるハイレゾ配信を行うとともに、アルバムをより楽しんでいただくため、彼らにインタヴューを行いました。

3年ぶりの2ndフル・アルバム

The fin. / There

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(24bit/48kHz) / AAC
>>>ハイレゾとは?

【配信価格】
単曲 300円(税込) / アルバム 3,000円(税込)

【収録曲】
1. Chains
2. Pale Blue
3. Outskirts
4. Shedding
5. Afterglow
6. Missing
7. Height
8. Heat (It Covers Everything)
9. Vacant Sea
10. Through The Deep
11. Snow (again)
12. Late at Night
13. Alone in the Evening (1994)


The fin. - There (Album Teaser)
The fin. - There (Album Teaser)

INTERVIEW : The fin.

The fin.、3年3ヶ月ぶりの新作『There』が本当に素晴らしい。ロンドンに活動拠点を移して1年半、着々と海外での実績を積み、蓄えた知恵と知識と経験、磨き上げたセンスがこの1枚に結実している。レコーディングは東京のYuto Uchinoの自宅スタジオで行われ、ロンドンで一部のオーバーダブとミックスが行われた。これまで通りYutoがほぼひとりで制作しているが、プロデュースとミックスにブラッドリー・スペンス(ジャミロクワイ、Alt-Jなど)を迎えている。

インタヴュー&文 : 小野島大
写真 : 鳥居洋介

なるべくオーガニックに

──新作、素晴らしいアルバムでした。作り終えた手応えはいかがですか。

Yuto Uchino(以下、Yuto) : 手応えはすごいあったんですけど、できたのが結構前なんですよ。曲は2年3年ぐらい前の曲がほとんどで、完成したのが1年とか1年半ぐらい前なんですけど、海外プロモーションの関係でずっと寝かせてたんですよ。ヨーロッパの状況が整ってから出そう、ということで。なのでできた当初は「うおりゃー!」みたいな感じだったんですけど、最近は冷静に振り返って見られるようになってて。でもいま冷静に見ても、よくできたアルバムだと思います。

──じゃあ1年前に完成したものに手を加えずそのまま出すわけですか。

Yuto : マスタリングだけ変えたんです。最初グレッグ・カルビ(ニューヨークのスターリング・サウンド所属の世界的マスタリング・エンジニア)にお願いしたんですけど、彼ってすごくヴォリュームを入れる人で、ミックスのいいところが全部削られちゃってたんですね。今回のミックスはすごくローが良くて、自分の気に入ってたポイントだったんですけど、ヴォリュームを入れられてローが削られてて。それがすごい気に入らなくて、今回このリリースのタイミングで、ジョー・ランバートっていう、いつもやってくれてる人にもう1回頼み直して。

──そうですか。今回のアルバムを聴いて、録音がめちゃくちゃいいと思ったんです。音場にすごく広がりと深さがあって、奥行きも感じられて、小さい音から大きな音までキレイに出ている。前の作品と全然違う。

Yuto : はい。東京の自分のスタジオで録ったんですが、自分なりに、こういう音像で録りたいというヴィジョンもはっきり決まってたんで、好みの機材を揃えてそれで録っていきました。オーディオインターフェイスはダフト・パンクが『ランダム・アクセス・メモリーズ』で使ってたのと同じものを使ったんです。あのアルバムの録り音がめちゃくちゃよくて。ああいうオーガニックな音、電子的なパキッとしたクリアな音じゃなくて、もっと深さがあってレンジが広くて、パッと聴くと柔らかいけど懐がある、みたいな音にしたくて。ミックスはロンドンでプロデューサーとオレでやったんですけど、それは常に意識してました。あまり固い音にしたくない。オーガニックで、シンセとかもアコースティック楽器のように鳴らしたい。聴いた時にその世界にスッと入っていける、まるでその世界に包まれてるみたいな音像にしたい。音が1枚の壁みたくならないように、近い音遠い音、下の音上の音、右左前後の音、すべてがサラウンド的に聞こえるようにミックスしていったんです。

──確かにそういう音になってますね。それがグレッグ・カルビのマスタリングでは、損なわれてしまった。

Yuto : そうなんですよ! それが全部ペタッとなっちゃったんですね。彼のヴァージョンだとヴォーカルがめちゃくちゃ前に出てたんです。たぶん彼はそこにポイントを当て、声はすごく気持ち良く聞こえる音になってたんです。そこは好きだったんですけど、ローがとにかく全部カットされてた。でもローがキレイに出ないと僕が意図した音にならないんですよ。でもジョー・ランバートはそこをすぐわかってくれて、ローをすごくキレイにまとめてくれたんですね。

The fin./Shedding
The fin./Shedding

──特にThe fin.みたいな音楽だと、細かい小さい音のニュアンスみたいなものが大事だから、マスタリングは重要ですね。

Yuto : そうですね。音を全部テーブルの上に並べるみたいなことはしたくなくて。立体的に配置していきたいんで。音圧を上げていくと全部がギュッと寄っていって、最終的に平面的な音楽になっちゃうんで。そうなると、音は大きいけど音量を上げれない音楽になっちゃうんですよね。奥行きのある音だと音量を上げた時の迫力が全然違うんですよ。それはずっと自分が目指していたもので、プロデューサーは、すごくそれに長けている人だった。僕はずっと独学でやってきたので。

──以前のインタヴューでは、ミックスとかエンジニアリングまで含めての自分の曲作りだから、他人には任せたくないと言ってましたよね。

Yuto : (笑)。そうです。渡したくなかったんですよ、その作業を。人を信じられなくて。でも限界は感じるんですよ、自分に。独学やし。プロのエンジニアの耳や技術、知識はやっぱりすごいから。

──The fin.のレコーディングは基本的にYutoさんひとりでやってるんですよね。リズムは打ち込みですか。

Yuto : 僕が全部打ち込んで、彼(Kaoru Nakazawa)が数曲ドラムを叩いて、それをサンプリング的に使いました。打ち込みも全部手でやりましたね。今回気をつけたのが、あまりクォンタイズしない。キックをグリッドに合わせるぐらいで、タイミングも編集しない。音程もオートチューンを使わず直さない。なるべくオーガニックに。いまのエレクトロニカとかクォンタイズがすごく進化してて、Ableton Liveでも「GROOVE」って機能があって、テンプレ的にコピー&ペーストできるんですよ。それを当てはめちゃえば、そのグルーヴになる。でもそれっておもしろくないんですよ。リスナーとしてはいいけど、オレがやる必要あるかなって思ったんです。なら全部自分が弾いて、いじらずそのまま使った方が、ヘタでも意味があるかなって。

自分たちの力不足を痛感した

──なるほど。前作から今作までの間の自分たちの変化や環境の違いなどはどうでしょう。ロンドンへの移住ということも含めて。

Yuto : 最初のアルバム(『Days With Uncertainty』)を出したのは2014年12月なんですけど、そのあたりは日本に活動を集中していたんです。まずは土台を固めて、日本の中である程度自分たちの場所を作ってから外に出ていこうと。そのアルバムを出したあと、アメリカの〈SXSW〉(2015年3月)に行って、その後アメリカ・ツアーをやったんです。僕としては海外でずっと活動したかったんで、そこでひとつ夢が叶ったんですけど、同時に、バンドがこのままでは絶対無理やなっていうのも感じたんですよね。

──何が無理?

Yuto : うーん、レベルですよね、単純に。ミュージシャンとしての。自分が見てたような向こうのスタンダードには全然到達してない、ソングライティングの面でも。バンドの弱さ…… 演奏力とか、各々の音楽力とか──も感じました。アメリカのバンドに比べたら弱いなと。

──ふむ。

Yuto : でも曲はめちゃくちゃ褒められたんです。ユニークだって。自分的には曲が良ければ進んでいけるかなと思って、帰国してからめちゃくちゃ曲を書いたんですよ。もっと自分が満足できるような曲を書こうと思って、いろいろ実験して、できたアルバムがこれなんです。やってる最中にアジア行ったりイギリス行ったり海外の活動が本格化して。インターネットでは海外はすぐリーチできたけど、実際に自分たちのカラダを使って現地に行って、そこでライヴをするのは、また違う感覚なんです。

──でしょうね。

Yuto : 実際に行って演奏して歌いながら、自分たちの力不足を痛感した。ああもっといいライヴができるなって残念な気持ちが湧いてきて。自分たちが変わらなきゃならない。そんな気持ちで頑張ってツアーをやって曲を書いて、アジアでもだんだん土台ができてきて、Spotify UKのプレイリストに選ばれて、イギリスとかアメリカでも聴いてくれる人が増えてきた。いまやっと、この数年間のいろんな活動が実を結んできてるのかなと。

──Ryosukeさんは前作後のバンドの状態についてはどう見ていたんですか。

Ryosuke Odagaki(以下、Ryosuke) : 当時はバンドとYutoの間に距離があったんです。お互いの思ってることもすれ違う時もあって。当時はよくわかってなかったんですけど、〈SXSW〉に行って、ひとりのミュージシャンとして実力不足を強く感じたんです。自分が本当に通用するのかと。ちょっとした挫折みたいなのがあって、それに向き合うこともできない状態にもなってしまった。自分がそうやったから、メンバー間の距離もあいてしまったんです。それは自分の弱さであって。もちろんYutoの「海外でやりたい」「移住もしたい」という気持ちは知ってましたけど、それにメンバーがついていけてなかった。でもそこでいろいろ話し合ったり活動をしていくなかで、自分が逃げてたことに気づいて、もう1回やってやろうという気持ちになれました。イギリスに行くことになって自分でも覚悟ができて気持ちも前向きになれたし、弱さに負けることも絶対ないと思えるようになりましたね。

──なるほど。

Ryosuke : いまバンドメンバー3人で共同生活してるんですけど、ずっと音楽に向き合っていられる環境なんですよ。

──Nakazawaさんはいかがですか。

Nakazawa : 事務所と契約して東京に来たとき、変な話、ひとつの目標が達成されたような気になって、完全に気が緩んでしまったんですよ。そこからアメリカに行って、いろんなバンドを見て、すごいな、巧いなと思ったんですけど、なんか…… それだけで止まっちゃう自分がいて。イギリスに行くって話が出たときも、それまで自分で道を決めて行くというよりも、ずっと誰かについていく感じで生きてきたんで、自分で前向きに何かをするのでもなく、といって反対するのでもなく、なんとなくイギリスに行ったわけです。実際にみんなで暮らしてみると、最初の3ヶ月は全員ほとんど何もしてなくて(笑)。

Yuto : (笑)。

Nakazawa : 遊んでるだけだったんですけど、そこから1人いなくなって(メンバーが1人抜けて)弾く楽器も変わって、その頃から真摯に音楽に向かえるようになってきたかなと思います。

──何が変わったんですか?

Nakazawa : なんですかね…… 単純なところで言うと、楽器を触ってる時間がすごく長くなりましたね。なんか…… 最近は前よりもバンドがひとつになってきた気がします。

Yuto : かっこええな!

Nakazawa : (笑)。昔は結構バラバラで、ただ4人が集まって生活してるって感じやったけど。

Yuto : 2人の話からもわかる通り、オレは結構ひとりで突っ走っちゃう気質なんですよ。それでオレと他のメンバーの距離が開いていく、みたいなことになって。でもいまイギリスで一緒に住んでいて、もう1回友達としてのオレたちと、プロのミュージシャンとしてのオレたちの融合を果たした、みたいな(笑)。いままでは両方が中途半端やったんですよ。プロに徹するなら友達としてはいれないと思ったし、友達でおるんやったら、プロフェッショナルとしてはいれないと思ってたんですよ。なのでいっときオレは自分の音楽を突き詰めるんやったら、このバンドは辞めたほうがいいと思ってて。でもいまはもう、その2つがちゃんと両立できてるなと思う。友達でもあるし、プロのミュージシャンとしてもぶつかれる。その土台をイギリスで築けたのは、このバンドにとって大事なことやったんかなと思います。

──そうなることでバンドの音は変わってきたんですか。

Yuto : いまはオレはバンドの中で自由に音楽を作らせてもらってて、制作はひとりでやってるんですけど、そのおかげで、何も遠慮することなく出来てて。昔はわりとメンバーに気を遣ってたんですよ。簡単にしないとライヴができないからって、すごいシンプルなものをシンプルに仕上げるみたいな。遠慮しながら作ってた。でもいまは全部1人でやらせてもらってる分、フルに自分の力を使ってできてるんで、すごい自由に出来てる。

──ふむ。そうなるとバンドであることの必然性がよくわからなくなりますね。ひとりで全部できて、実際に音源もひとりで作ってるなら、それでいいじゃないか。ライヴは臨時のメンバーを連れてきてやっても、成り立ちますよね。でもそうはしたくないってことですか?

Yuto : うーん……それは僕が彼らに強いコネクションがあるから。彼らと一緒にやりたいと思ってるからやれてるし、2人もそう思ってると思う。いまドラマーがいなくて、イギリス人のドラマーと一緒にやってるんです。それでもライヴはできるなと思ったけど、オレらじゃないとできないものもあるとも思ったんです。2人は僕の音楽のことを誰よりもわかってくれてる。ただ譜面通りに弾くんじゃなく、自分のモノにしてから弾いてくれるのは2人なんかなあ、と。

──なるほど。

Yuto : なんかこう……腐れ縁じゃないですかね(笑)。だって4歳と6歳のころからずっと一緒ですからね。ずっと友達で。よく言われるんですよ。ひとりでやってるんだからソロでやればいいじゃんて。確かにそうだけど、でもみんなとバンドやりたいしなって(笑)。

気持ちを引っ張り出せるのは音楽

──現在The fin.の活動は海外が主になっています。すごくざっくりとしたことを訊きますが、日本でやるのと海外でやるのって何が違うんですか。

Yuto : うーん…… (観客が)日本人であることとそうでないこと、ですかね(笑)。それ結構大きいんですよ。このバンドは最初から日本よりも海外の方が受けいられてたんですね。いまもその差はどんどん広がってる。圧倒的に外でやった方が受け入れられるし、ライヴも盛り上がる。日本に帰ってくると盛り上がらない。日本の人はシャイだから、「すごくいい!」みたいなことを伝えてくれないじゃないですか。自信がなくなるんですよ。みんなこの曲のこと好きなんかな、とか本気で思うことがあって。

──なるほど。そうすると今作を聴かせる対象も、どこの国とは限定しない。

Yuto : そうですね。最初のEPの時とか、海外に発信してるつもりでも、日本人に向けて作ってるようなところがあったかもしれない。でも最近は全然そんなこと気にしないで作ってますね。それが日本にどう響くかは不安ですけどね。わからないから。

──歌詞は自分の内面にあるものを歌っているわけですよね。

Yuto : そうですね。すごくプライベートというか、一種セラピー的なところもあるので、自分にとって。自分を残していくというか。「日記」というと軽すぎるんですけど。自分の思ってるものを探して言葉にしていく作業で、それを全部サウンドと結びつけていくっていうのが、自分にとっての作曲なんで。曲にもよるんですけど、全部のパートが自分を説明している曲もあれば、メロディと歌詞が自分で、ほかのパートは自分の周りの環境を表している曲もあったり、あるいは全然自分はなくて、自分の周りを表現してるだけの曲もある。“You”とか“I”とか“Me”と言ってても、実際自分じゃなく何か別のことを言ってたりとか。いろいろですね。1番多いパターンは、歌詞とメロディが自分の中から出てきて、そこからだんだん外に向かって音がついていく、みたいな。それが最終的に1個のシーンとして出来上がっていく、みたいなイメージで作ってることが多いですね。

──つまり自分は基本的にシンガー・ソングライターであるという意識が強い?

Yuto : あっ、そうですね。たぶんそうですね。確かに。

──じゃあ曲が出来る時はメロディや歌詞が最初に?

Yuto : 僕はコードなんですよ。キーボードを触りながらコードを探していく。自分にとってコードの流れって「自分の気持ち」なんですよね。コードの流れでいま自分が感じてるフィーリングを探す。そのフィーリングがバチッとハマったら、そこから曲を構成していく。軽いリズムとベースを入れたら、もうその時点でメロディと、この曲はこういうことを歌うことになるだろうっていうのは、自分の中にあるんです。そこに仮歌を入れてアレンジを決めて、その歌に沿った音像を作っていく。

──ギターじゃなくキーボードで作る。

Yuto : そうですね。僕はもともとギタリストになりたくて、ジミ・ヘンドリックスとかジョン・フルシアンテが大好きだったんです。ブルーズとか古いロックとか。ギターを持っちゃうとああいう感じになっちゃう。手癖が出ちゃうんです。ミュージシャン過ぎるんですよ、ギターを持っちゃうと。アーティストじゃなくて。もちろんそれは楽しいんだけど、作る曲がテンプレ的な、ありがちなものになってしまう。自分じゃなくなっちゃうんですよ。でもキーボードはまっさらに自分を出せるんで。

──なるほど。

Yuto : 自分を表現するのに、言葉1個じゃ絶対足りないじゃないですか、だから小説家は本を書いて、すごい文字量の中で表現する。オレは歌詞もあるし音もあるし声もある。そういうのを全部使ってなんとか説明しようとしてる。人って成長するにつれ、いろんな感情を知ると思うんです。赤ちゃんの時の感情と、小学生の時の感情と、いま持ってる感情では、全然量も質も違うし、もっと複雑に折り重なって絡み合ったりしてる。そういう中で自分と誰かを繋げることが難しくなってくる。最初はシンプルな感情で繋がってたものが、どんどん複雑になってもっと難しくなって、でももっと深くなってもっと良くなって。それを伝えるのって、自分には音楽しかない。作曲はそれを見つける作業ですね。この感じ! この感情! みたいな。そこにどれだけ近づけるものを作れるか。それができれば、聴いた人は理解してくれると思うんです。その曲を聴けば、パッとはじけるようにわかる。聴き手として、そういう経験を何度もしてきたから。この曲のこの感じ! みたいな。それは人生の喜びだと思うんですよ。

──インタヴューでは自分の思ってることや感じてることをすごく明晰に説明しますよね。でもその割に音楽はいい意味で曖昧で、想像力が働く余地を一杯残している。

Yuto : そうですね。音楽はそれがいいところで。言葉で説明するとどうしても細かくなっちゃうし、それじゃおもしろくないじゃないですか(笑)。気持ちを引っ張り出せるのは音楽なんですよね。言葉で説明はできるけど、オレの気持ちはきっと届かないじゃないですか。オレは小説家じゃないから。気持ちは音楽でしか引っ張り出せない。

──アルバム・タイトルの意味は?

Yuto : いろんな意味があります。「There」ってオレにとってイマジネーションの感覚なんです。子供の時ってちっちゃな世界で育つじゃないですか。学校であったり家庭であったり。いっつもそういう中で閉塞感を感じてたし、いつも逃げ出したい、自由になりたいと思ってた。それでロックにすごく感化された。ロックの世界はすごい自由やったし、そういうので夢を見させられて、自分もバンドをはじめた。いろんな世界をみていろんなことを経験して、ミュージシャンになって夢は叶ったんです。すごい自由になったけど、でもそれしか思い描いてなかったから、自由になった先に何もなくて、それですごく苦しんでたんです、1stアルバムを出したあとあたりにね。

──なるほど。

Yuto : そこから海外に行ったりしながら、いろんなものを見て、いろんな人に会って経験して、自分を作っていける時間がしっかりあって、表現したいことも見つけたんです。自分のイマジネーションを飛ばして、自分の頭の中のスペースにリーチする感覚。それをフワッと「There」と呼んだんです。抑圧されたものが弾けて、その先にいろんなものが見えて、さらにそこからもう一歩向こうにイマジネーションの手を伸ばそうとしている。常にどこかには向かってて。常に自分も変わってて。常に前を見て、常にどっかにリーチしようとしてる感覚。それは決してバンド的なサクセスじゃなくて、もっと表現的な意味なんですけど。

過去作もチェック!

古→新

【過去のインタヴューはこちら】
・『Days With Uncertainty』リリース時のインタヴュー
https://ototoy.jp/feature/2014122500

・『Through The Deep』リリース時のインタヴュー
https://ototoy.jp/feature/2016032000

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LIVE SCHEDULE

〈The fin. Tour 2018〉

3月8日(木)@中国 Chendu - Little Bar Space
3月9日(金)@中国 Beijing - YugongYishan
3月10日(土)@中国 Shanghai - Mao Livehouse
3月11日(日)@中国 Hangzhou - Mao Livehouse
3月13日(火)@中国 Nanjing - Ola Space
3月14日(水)@中国 Wuhan - VOX
3月15日(木)@中国 Guangzhou - T-Union
3月16日(金)@中国 Shenzhen - B10 Live
3月18日(日)@香港 Eaton Workshop
3月21日(水・祝)@熊谷 HEAVEN’ S ROCK VJ-1
3月24日(土)@タイ Khon Kaen - TOEY Freshtival 2
3月25日(日)@タイ Bangkok - Voice Space
3月31日(土)@台湾 Taipei - Legacy
4月2日(月)@フィリピン Manila - 19 EAST
4月4日(水)@福岡 The Voodoo Lounge
4月6日(金)@梅田 Shangri-La
4月7日(土)@名古屋 Jammin’
4月13日(金)@渋谷 WWW X
4月14日(土)@札幌 SPIRITUAL LOUNGE
5月3日(木・祝)@埼玉 さいたまスーパーアリーナ 〈VIVA LA ROCK 2018〉

PROFILE

The fin.

神戸出身、3人組ロック・バンド。80~90年代のシンセ・ポップ、シューゲイザー・サウンドや、リアルタイムなUSインディー・ポップ、チルウェーヴなどを経由したサウンド・スケープは、ネット上を中心に話題を呼び、日本のみならず海外からの問い合わせも殺到。FUJI ROCK FESTIVAL、The Great Escape、SXSW など国内外の大型フェスティバルへの出演や、The Last Shadow Puppets、Circa Waves、MEWのツアーのサポート・アクトへの抜擢、そして自身のイギリス、アメリカ、アジアでのツアーも成功させるなど、新世代バンドの中心的存在となっている。昨年よりロンドンに拠点を移して活動しており、2018年3月14日に3年3ヶ月ぶりの2ndフル・アルバム『There』をリリースする。

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この記事の筆者
小野島 大

 主に音楽関係の文筆業をやっています。オーディオ、映画方面も少し。 https://www.facebook.com/dai.onojima

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[インタヴュー] The fin.

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